「エロ広告規制法案」の条文の曖昧さが招く危険性
書店の「自主規制」が区分陳列・包装・流通排除へ硬化した歴史を、ネット広告で繰り返すな
子どもへの露骨な性的広告の無差別配信は止めるべきだ。
だからこそ、曖昧な「有害情報」概念と、救済のない過剰規制をそのまま法律にしてはならない。
※本稿は、2026年7月18日までに公開された法案、行政資料、業界資料、各団体の発信をもとにした論考です。
※法案に直接義務を負うのは、指定を受けた大規模デジタルプラットフォーム提供者です。漫画家やイラストレーターを直接処罰する法案ではありません。本稿が問題にするのは、法的圧力を受けたプラットフォームによる広告拒否、配信停止、アカウント停止などの間接的な影響です。
※公開記録で確認できる政策要望、似た提言、別テーマでの議連接触、法案起草への関与は、それぞれ別の事実です。本稿は、公開資料のない関係を断定しません。
※小林さやか議員への党内の発信指示や、伊藤孝恵議員との広報上の役割分担を示す公開資料は確認できません。本稿は、SNS上で小林議員が説明の前面に立ったという外形から、発議者の説明責任について疑問を提示するものです。
※後半の修正文案は、国会法制局や内閣法制局による審査を経た完成条文ではなく、制度設計を具体化するための政策上のたたき台です。
はじめに――子どもを守るという目的は、曖昧な法律を免責しない
国民民主党は2026年7月15日、「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律の一部を改正する法律案」を参議院に提出した。
党はこれを「エロ広告規制法案」と呼んでいる。参議院の議案情報では参法第19号、発議者は伊藤孝恵参議院議員である。[1][2]
最初に立場を明確にしておきたい。
子ども向けのゲーム攻略サイト、学校で使う端末、一般的なニュースサイトなどに、性行為を連想させる動画や露骨な性的表現を含む広告が、閲覧者の意思と関係なく表示される状況は放置すべきではない。
問題のある広告が、誰に、どこで、どのような文脈で表示されたのかを管理する必要はある。
しかし、目的が正しいことと、法案の設計が正しいことは別である。
今回の法案には「エロ広告」という定義がない。条文が使うのは、犯罪・自殺、性的表現、残虐表現などを含む既存法上の広い「青少年有害情報」である。
さらに法案は、それに「準ずる程度に青少年の健全な成長を著しく阻害するおそれが大きいと認められる情報」まで、プラットフォームの自主的な対応対象に加える。
その判断を実際に行うのは、行政ではなく広告流通を握るプラットフォームである。
法律はプラットフォームに対し、基準の作成、国民からの通報受付、対応状況の公表を求める。政府や自治体が支援する第三者評価団体も制度に加える。
その一方で、誤って広告を止められた広告主、出版社、漫画家、イラストレーターに対する理由説明、人による再審査、復旧期限、違反記録の取消しは法案に書かれていない。
今回の法案を一文で表すなら、こうなる。
ラベルは「エロ広告」。
規制の入口は「青少年有害情報全般」と、その「準ずる情報」。
実際の線引きはプラットフォームへ委ねる。
通報と公表と第三者評価によって、規制を強める圧力を作る。
しかし、誤判定された表現者の救済は定めない。
このまま通すべきではない。
いったん立ち止まり、広告業界、出版社、漫画家、イラストレーター、広告技術事業者、憲法・情報法の研究者、子ども、保護者を含む公開ヒアリングを行い、対象を絞った法案へ作り直すべきである。
その理由を理解するには、過去に「ゾーニング」がどのように制度化され、どのように流通へ影響したかを見る必要がある。
書店における成人向けゾーニングの歴史である。
第1部 書店の成人向けゾーニングは、どう始まり、どう硬化したのか
1.全国法によって一夜で始まったのではない
現在、書店では成人向けの雑誌や書籍が一般書から区分され、包装され、「18歳未満販売禁止」などと表示されている。
しかし、この仕組みは、国がある日突然、全国の書店へ「成人コーナーを設置せよ」と命じて始まったものではない。
大まかな経路は、次のようなものだった。
保護者、PTA、青少年育成関係者などからの要望
↓
地方自治体による有害・不健全図書指定
↓
出版業界による自主規制
↓
取次による送品制限
↓
書店やコンビニによる取扱拒否
↓
区分陳列の条例上の義務化
↓
包装、識別マーク、第三者審査、店舗調査
最初から強い全国規制だったのではない。
「法律を作らせないための自主規制」として導入された措置が、行政、出版団体、取次、小売の間で積み重なり、実質的な強制力を持つようになった。
そして、守られていないという苦情や調査結果が、さらに強い条例規制の根拠となった。
以下の経緯は、主として出版業界がまとめた年史を用いている。これは当事者側の資料であり、その評価を無条件に受け入れるべきではない。一方、措置の導入時期、取次や小売の対応、休廃刊などの影響を追ううえでは重要な一次的資料である。[3]
2.1949年から1964年――「悪書追放」と青少年条例
政府は1949年に青少年対策協議会を設け、全国的な青少年保護育成運動を開始した。
1955年、中央青少年問題協議会は、各都道府県に青少年条例の制定を、出版などの関係業界には自粛を要請した。出版業界の年史は、この時期の動きを「読まない・見せない・売らない運動」、いわゆる悪書追放運動として記録している。[3]
東京都でも、PTAや青少年育成関係者などから条例制定を求める請願が相次いだ。
出版側は、雑誌、書籍、取次、小売の4団体による出版倫理協議会を1963年に設けた。自主規制を強化し、行政による出版物規制を回避しようとしたのである。
しかし東京都は1964年、「東京都青少年の健全な育成に関する条例」を制定した。同年11月には、最初の8誌が不健全図書に指定された。[3]
ここで起きたのは、行政規制と自主規制の単純な対立ではない。
行政は「自主規制だけでは足りない」と規制を進める。
業界は「さらに強い行政規制を避けるため」に自主規制を強化する。
強化された自主規制が新しい最低基準になる。
その最低基準が守られていないと評価されると、再び行政規制が強化される。
この循環が、その後何十年も続いた。
3.1965年から1967年――販売制限が、送品制限と成人コーナーへ変わった
1965年、出版倫理協議会は「帯紙措置」を導入した。
東京都から連続3回、または年間5回、不健全図書として指定された雑誌には、18歳未満へ販売できない旨の帯紙を付ける。取次は、帯紙の付いた雑誌を、申し込みのあった小売店にだけ送る。
出版業界の年史は、この措置の対象となった雑誌の多くが休刊または廃刊になったと記録している。[3]
1967年には「要注意取扱誌」という自主規制が始まった。
対象誌について、取次は定期送品を見直し、申し込みのない書店には送らない。書店には、青少年へ販売しないよう注意し、「成人コーナー」などへ区分陳列することが求められた。[3]
ここが重要である。
「青少年には販売しない」というルールが、流通段階を通ることで、
注文しなければ書店へ届かない
一般の棚には置けない
成人コーナーを用意できない店舗は扱いにくい
取扱量が減り、刊行継続が難しくなる
という市場アクセスの制限へ変わった。
法律が成人への販売を禁止しなくても、流通の入口を握る取次が送らず、販売の入口を握る小売が扱わなければ、本は読者へ届かない。
これは、現在のデジタルプラットフォームとよく似た構造である。
法律が漫画やイラストを直接禁止しなくても、広告審査を通らず、広告アカウントを止められ、推薦や検索から外れれば、作品が市場へ届く機会は失われる。
4.1984年――国会での誌名提示が、発売中止と自主規制強化へつながった
1984年、衆議院予算委員会で、少女向け雑誌の性に関する記事が、具体的な誌名とともに取り上げられた。
出版業界の年史によれば、国会で指摘された雑誌のうち2誌は翌日に休刊し、別の出版物は複数県で有害図書に指定された後、発売中止となった。
自民党内では、全国規制を想定した「少年の健全な育成を阻害する図書類販売等規制法案要綱」の試案もまとめられた。
最終的に国の法律は成立しなかったが、出版業界は各社へ自主規制を要請した。[3]
この経緯が示すのは、「法案が成立しなければ影響はない」という理解の危うさである。
政治家が個別媒体を名指しし、立法の可能性を示す。
出版社、取次、小売は、法案成立を待たずに安全側へ動く。
公的規制の予告そのものが、民間による先回り規制を生む。
5.1990年――一つの作品への批判が、コミック全体の規制問題へ拡大した
1990年、和歌山県の「コミック本から子どもを守る会」が、漫画作品『ANGEL』を「ポルノコミック」として問題視した。
その後、福岡県が複数のコミックを有害図書に指定し、指定は他の都道府県へ広がった。同年10月、『ANGEL』は連載中止、単行本も発売中止となったと記録されている。[3]
出版業界では、指定本について、
回収
補充出荷の停止
重版時の修正
成年コミックマークの表示
18歳未満販売禁止の表示
成人コーナーへの区分
などを進めた。
政治側でも全国的な規制が検討され、漫画家側は「コミック表現の自由を守る会」を結成した。
ここで問題なのは、最初に声を上げた市民団体だけではない。
一作品への批判が、個別作品の文脈や対象年齢を検討する作業ではなく、
コミックという媒体
若者向け雑誌
性的な表現を含む出版物
それを扱う出版社
に対する一般的な疑念へ拡張されたことにある。
その結果、出版社、取次、小売が、批判や指定を避けるために先回りして対象を広げた。
6.1996年から2005年――自主マークが、取扱拒否、区分陳列義務、包装へ硬化した
1996年、出版倫理協議会は「成年向け雑誌」マークを導入した。
だが、正直にマークを付ければ問題が解決するわけではなかった。
出版業界の年史は、コンビニがマーク付き雑誌を扱わなかったため、コンビニ流通へ依存する出版社には「マークを付けると主要販路から外れる」という圧力が生じたと記録している。[3]
2000年、東京都はコンビニでの区分陳列を調査し、一般誌との混在を確認した。都民からの苦情も、区分陳列が不十分だとする根拠となった。
2001年、東京都は条例を改正し、不健全指定図書の区分陳列を義務化した。
出版側は、さらに強い行政規制を避けるため、第三者機関として「出版ゾーニング委員会」を設置した。委員会が対象誌を審査し、出版社へ識別マークの表示を要請する仕組みである。[3]
2004年には包装義務が導入され、コンビニ業界からも包装や帯封を求める圧力が加わった。
2005年の時点で、約170誌、約1,800万冊の雑誌が「小口シール止め」を実施していたと、出版業界の年史は記録している。[3]
現在の東京都でも、不健全指定図書を18歳未満へ販売することは禁止され、包装と区分陳列が必要である。
区分陳列には、間仕切り、他の棚から60センチ以上離す方法、左右の仕切り板、150センチ以上の高さへの配架などが示されている。成人への販売自体は可能である。[4]
形式上は、あくまで「青少年への販売制限」と「ゾーニング」である。
しかし、市場で実際に起きたのは、
取次が送らない
小売が扱わない
一般棚から外れる
包装、審査、返品対応のコストが増える
指定や批判を恐れて編集・刊行を変更する
連載や発売そのものが中止される
という影響だった。
「成人へは売れる」という形式的な説明だけでは、流通上の排除を捉えられない。
第2部 「お気持ち規制」とは何か
7.不快感を軽視するのではなく、不快感を法的基準へ直結させない
「子どもに見せたくない」という保護者の不安を嘲笑するべきではない。
突然、露骨な性的広告を見せられて不快だった。
怖かった。
子どもが見てしまった。
説明に困った。
こうした経験と感情は、問題を発見するための重要な信号である。
本稿でいう「お気持ち規制」とは、感情そのものを否定する言葉ではない。
ここで批判するのは、
「不快だ」
「気持ち悪い」
「子どもに悪そうだ」
「社会にふさわしくない」
という主観を、対象の定義、実害との因果関係、年齢別の影響、必要性、比例性、より制限の小さい代替手段を検証しないまま、一般的な規制基準へ昇格させることである。
不安は調査を始める理由になる。
しかし、不安そのものは、「青少年の健全な成長を著しく阻害する」という法的判断の証明ではない。
苦情件数は、問題が存在する可能性を示す。
しかし、苦情の多さだけで、個別の広告が違法または有害だと確定するわけではない。
書店ゾーニングの歴史では、請願、特定作品への批判、都民からの苦情、政治家による誌名提示が、制度を動かす契機になった。
その声に正当な問題提起が含まれていたとしても、制度化の過程では、個別の問題とジャンル全体への評価が混同された。
そして流通側は、批判を避けるために対象を安全側へ広げた。
不快感は政策課題を発見するセンサーであって、法的な線引きを行う物差しではない。
第3部 憲法21条は、なぜ存在するのか
8.表現者を特別扱いするためではなく、国家と多数派を縛るためにある
日本国憲法21条は、集会、結社、言論、出版その他一切の表現の自由を保障し、検閲を禁止している。
これは、漫画家や出版社を特別扱いするための条文ではない。
不快な広告を無制限に表示する権利を認める条文でもない。
憲法21条は、国家や多数派が「有害」「不道徳」「秩序を乱す」と評価した表現を、曖昧な基準で排除してきた歴史への反省から存在している。[5][6]
9.戦前の憲法にも「言論の自由」は書かれていた
大日本帝国憲法29条にも、言論、著作、出版、集会、結社の自由に関する規定はあった。
しかし、それには「法律ノ範囲内ニ於テ」という条件が付いていた。
自由は認める。
ただし、法律を作れば、その法律の範囲内で制限できる。
この「法律の留保」の下で、出版、新聞、集会、結社、政治運動、思想活動は広く統制された。
国立国会図書館には、戦前期の検閲で発売頒布禁止処分を受けた多数の発禁本が保存されている。[7]
重要なのは、当時の規制も、常に「思想弾圧を行う」と名乗ったわけではないことである。
規制を正当化したのは、
安寧秩序
風俗
治安
青少年保護
国家の安全
といった、表面上は反対しにくい目的だった。
問題は目的の名称ではない。
誰が、どのような基準で「秩序を害する」「風俗を乱す」と判断するのか。
その判断を誰が検証し、誤りを誰が救済するのか。
曖昧な概念を行政や警察が広く解釈できる制度では、規制対象は当初の説明にとどまらない。
政治的言論、少数派の思想、文学、芸術、性に関する表現へと拡張される。
戦前の経験は、憲法に「自由」と書くだけでは足りず、通常の法律によって自由を簡単に空洞化できない構造が必要だと示した。
10.現行憲法から「法律の範囲内」が消えた意味
日本国憲法21条には、大日本帝国憲法にあった「法律の範囲内」という条件がない。
これは偶然ではない。
衆議院の憲法調査資料によれば、憲法制定過程で日本側が作成した1946年3月2日案は、表現の自由に「安寧秩序を妨げない限り」という条件を付け、検閲についても、法律が特に定めた場合には可能とする例外を残そうとしていた。
しかし、その条件と例外は最終条文から削除された。現在の憲法21条は、表現の自由を保障し、検閲を禁止する形になった。[5]
この違いが示すのは、
「秩序」「風俗」「安全」と法律に書けば、立法府や行政が自由に表現を制限できる
という戦前型の構造を残さない、という選択である。
表現の自由は、平穏な時代に政府から与えられた便宜ではない。
権力によって言論、出版、結社、通信が統制された歴史と、その統制に抗した人々の犠牲の上に置かれた権利である。
11.多数派が好む表現だけなら、強い憲法保障は要らない
多数の人が好み、行政も企業も問題視しない表現は、憲法による強い保護がなくても流通しやすい。
憲法保障が本当に必要になるのは、
多数者が不快だと感じる表現
政府に批判的な表現
社会の道徳観と衝突する表現
少数者の文化や価値観を示す表現
新しく、まだ理解されていない表現
性、身体、政治、宗教など強い感情を引き起こす表現
である。
もちろん、不快な表現なら何をしてもよい、という意味ではない。
児童性的虐待記録物、わいせつ物、詐欺広告、違法な勧誘、名誉毀損、プライバシー侵害などは、それぞれ明確な法益と要件に基づいて規制され得る。
子ども向けの場所へ露骨な性的広告を表示しないという配信先の制御も可能である。
憲法21条が求めるのは「一切規制するな」ではない。
規制するなら、
対象を明確に定義する
重要な目的に直接関係する範囲へ絞る
より制限の小さい手段を優先する
成人の適法なアクセスを不必要に奪わない
行政や民間団体へ無限定の裁量を渡さない
誤判定に対する異議申立てと救済を用意する
ということである。
12.今回の法案が直ちに憲法上の「検閲」となるとは限らない
法的な用語は正確に使う必要がある。
最高裁判所は、憲法21条2項の「検閲」を、行政権が主体となり、表現物を対象として、発表前に一般的・網羅的に審査し、不適当と判断したものの発表を禁止する仕組みとして、比較的狭く捉えている。[8]
今回の法案は、行政機関がすべての広告を事前審査し、個別に掲載許可を与える制度ではない。
実際の審査主体は民間プラットフォームである。
したがって、法案が成立すれば直ちに最高裁判例上の「検閲」に当たり、当然に違憲になると断定するのは正確ではない。
しかし、憲法21条の問題が消えるわけではない。
法律が民間プラットフォームへ、
表現内容を審査する基準を作らせる
国民からの通報を受け付けさせる
対応状況を公表させる
第三者団体の評価対象にする
曖昧な「準ずる情報」にも同様の対応を促す
のであれば、国家が作った制度的圧力によって、合法的な表現まで先回りして排除されないかを検討しなければならない。
直接的な行政検閲ではなくても、間接的な表現制約と萎縮効果は起こり得る。
13.萎縮効果は、削除件数には現れない
表現規制の影響は、実際に削除された広告の数だけでは測れない。
漫画家、出版社、広告主が、
この絵は通報されるかもしれない。
広告だけでなくアカウントを止められるかもしれない。
一般向け作品まで広告を出せなくなるかもしれない。
審査理由を教えてもらえないかもしれない。
と考え、合法的な表現を出す前に諦める。
これが萎縮効果である。
広告申込み自体が行われなければ、削除件数には記録されない。
企画が変更され、出版社が扱いを避け、作家が表現を弱めても、統計には表れにくい。
書店の歴史でも、法律上の販売禁止だけが表現を狭めたのではない。
取次が送らない。
小売が扱わない。
識別マークを付けると販路から外れる。
こうした「法律の外側」の先回り規制が、出版と流通を縮小させた。
憲法21条の歴史が教えるのは、善意の説明ではなく、裁量を制限する条文を残せ、ということである。
第4部 法案の条文を読む
14.この法案は、漫画家を直接処罰する法律ではない
今回の法案が直接義務を課すのは、総務大臣と経済産業大臣から指定される「大規模デジタルプラットフォーム提供者」である。
提出法案は、指定事業者に主として次の措置を求める。[9]
青少年閲覧防止措置の実施要領を作成し、公表する
特定広告に含まれる青少年有害情報について、国民からの連絡を受け付ける体制を整備する
閲覧防止措置と連絡受付の状況を毎年公表する
「青少年有害情報に準ずる情報」についても、同様の措置を講じるよう努める
第三者評価や調査研究を行う民間団体を、国・自治体の支援対象に加える
罰則も、漫画やイラストの内容そのものに科されるものではない。
指定事業者が必要な届出をしない、虚偽の届出をする場合は50万円以下の罰金、指定に必要な報告をしない、虚偽の報告をする場合は30万円以下の過料とされている。[9]
したがって、
性的な漫画を描いた作家が、この法律で直接処罰される
通常のイラスト投稿が直ちに違法になる
第三者団体が法的権限で作品を削除できる
という法案ではない。
問題は、直接処罰ではないからこそ見えにくい。
国家がコンプライアンス圧力を作り、民間プラットフォームが過剰に拒否、削除、停止しても、その責任と救済が曖昧になることである。
15.「エロ広告」という狭いラベルに、広い規制対象を包んでいる
条文に「エロ広告」という言葉はない。
法案が利用するのは、既存法の「青少年有害情報」である。
現行法は、その例として、
犯罪や自殺を直接的・明示的に誘引する情報
性行為や性器等のわいせつな描写など、著しく性欲を刺激する情報
殺人、処刑、虐待などを著しく残虐に描写する情報
を挙げている。[10]
つまり対象は性的広告だけではない。
犯罪、自殺、暴力、残虐表現まで含む概念である。
さらに提出法案の第23条の7は、
青少年有害情報に準ずる程度に、青少年の健全な成長を著しく阻害するおそれが大きいと認められる情報
についても、基準作成、通報受付、実績公表と同様の措置を講じる努力義務を置く。[9]
何に「準ずる」のか。
誰が「認める」のか。
どのような証拠が必要なのか。
該当する具体例と、該当しない具体例は何か。
条文には書かれていない。
努力義務だから軽い、という説明も十分ではない。
通報件数、公表、第三者評価、企業評判が組み合わされれば、法的強制命令がなくても、事業者には安全側へ広く規制する誘因が生じるからである。
16.自主的な配慮のための柔らかい定義を、法的圧力の入口へ転用している
現行法の「青少年有害情報」が広く、個別具体的な線引きを置いていないことには理由がある。
政府の条文解説は、表現の自由に配慮し、行政が個別情報の該当性を判断する制度ではないと説明している。
何が青少年有害情報に当たるか、その具体的判断と基準策定は、事業者や保護者など民間主体の自主的な取組へ委ねられている。
解説は、現行定義について、規制対象の範囲を画定する具体的基準を示すものではなく、民間へ基本的な指針を示すものにすぎないとも明記している。[10]
性的表現についても、「わいせつな」「著しく」という限定は、性行為や身体を描写しただけで当然に有害情報とならないために置かれたと説明されている。
つまり、この定義はもともと、
行政が個別作品を規制せず、民間が自主的に配慮するための柔らかい指針
として設計された。
今回の法案は、その柔らかい定義を、
法律上の事業者義務
国民通報
年次公表
第三者評価
公的支援を受ける民間団体
の制度的な入口へ転用する。
自主的配慮のために許容された曖昧さと、法的な圧力が作動する要件に必要な明確さは、同じでよいはずがない。
17.「自主規制も業界団体もない」という説明は、公開事実と整合しない
伊藤孝恵議員は法案提出時、ネット広告について「自主規制がない」「業界団体も存在しない」と説明した。[1]
しかし、一般社団法人日本インタラクティブ広告協会、JIAAが存在する。
JIAAは、媒体社、広告会社、広告技術事業者などで構成され、ガイドライン、標準的ルール、調査研究、啓発活動を行っている。[11]
JIAAの広告掲載基準ガイドラインは、
子どもへの配慮を欠く広告
青少年の心身を害する行為を誘発する広告
露骨、過激な性表現
過度な肌の露出
性行為を連想させる表現
を、掲載・配信すべきでない例として挙げている。[12]
JAROによる広告苦情の受付もある。
デジタル広告の品質認証を行うJICDAQもある。
もちろん、既存の自主規制が十分だという意味ではない。
非加盟事業者に及ばない
ガイドライン自体に法的強制力がない
広告主、代理店、DSP、SSP、媒体社へ責任が分散する
海外事業者や匿名の悪質広告主を追いにくい
自動取引の規模へ審査が追いつかない
被害を受けた利用者が流通経路を把握しにくい
という限界はある。
正確な説明は、
自主規制と業界団体は存在するが、非加盟事業者、海外事業者、悪質広告主、広告流通経路全体に対する実効性が不足している
である。
原因の診断を誤れば、処方箋も誤る。
18.通常のPR投稿と有償広告の境界が明文化されていない
JIAAは、インターネット広告を、媒体が用意した有償の広告枠へ掲載されるものと整理している。
企業や個人が、自分のサイトやSNSで行う広報、販売促進、口コミなどは、JIAAの標準的な範囲から外されている。[11][12]
この考え方なら、漫画家やイラストレーターが自分のアカウントで、
新刊が出ました
イベントに参加します
通販を開始しました
新作を公開しました
と無償で告知する行為は、有償広告枠ではない。
提出法案も、プラットフォームの役務提供によって表示される「広告」を対象としており、普通の無償投稿を直接対象にすると明記してはいない。
したがって、通常の作品投稿や無償告知が直ちにこの法律の直接対象になる、と断定するのは適切ではない。
しかし、次の境界は不明確なままである。
通常投稿を有料でブーストした場合
出版社が作家の投稿を広告として配信した場合
スポンサード投稿
ネイティブ広告
アフィリエイト形式の作品紹介
広告からリンクされた販売ページ
広告自体は穏当だが、リンク先で成人向け作品を扱う場合
一般作品と成人向け作品を同じアカウントで扱う場合
一件の広告違反を理由に、通常投稿やアカウント全体へ措置が拡張される場合
法案を理由にプラットフォーム規約が改定され、広告単体の審査がアカウント全体へ波及する可能性は残る。
書店で成人向けマークが主要販路から外す印になったように、広告審査上のラベルが、作者や作品群全体を扱わない理由へ転化する危険がある。
19.プラットフォームは「見逃し」より「誤判定」を選びやすい
今回の制度では、プラットフォームは通報を受け、措置状況を公表し、第三者評価の対象になる。
すると、見逃しと誤判定のコストは非対称になる。
露骨な広告を一件見逃せば、苦情、報道、議会質問、第三者評価によって強く批判される。
一方、問題のない漫画広告を百件拒否しても、損失は広告主や作家へ分散し、社会的には見えにくい。
その結果、事業者にとって安全な行動は、
少しでも怪しければ落とす
になる。
自動審査では、
肌色の面積
胸部や臀部に見える形状
水着や下着
衣服のしわ
人物が接近する構図
特定の単語
漫画特有のデフォルメ
医療、授乳、性教育に関する画像
が、文脈を無視して検知される可能性がある。
これは想像上の問題ではない。
経済産業省のデジタル広告取引相談窓口には、アカウントの強制停止、違反理由の不明確さ、何度修正しても通らない審査、異議を申し立てても解除されない広告利用制限などの相談例が掲載されている。行政の仲介後にアカウントが復旧した事例もある。[13]
さらに、デジタルプラットフォーム取引透明化法は、提供拒絶、アカウント停止、審査却下などについて、内容と理由の開示を求めている。[14]
既に不透明な広告停止が問題となり、理由開示制度まで存在する。
それにもかかわらず、今回の法案は、青少年閲覧防止措置によって不利益を受ける広告主の権利を明文化していない。
共同規制を強めるなら、既存の透明化法と接続し、理由説明、異議申立て、人による再審査、復旧を同時に強化すべきである。
20.苦情件数は、有害性の判定ではない
性的な広告への苦情が多いことは事実である。
JAROによれば、2025年度上半期の広告苦情は7,088件で、性的広告に関する苦情は1,355件だった。
一方、JAROは、性的広告に関する報道後に苦情が急増したこと、「気持ち悪い」「汚い」といった不快感に関する苦情が増えたこと、一部の広告主へ苦情が集中したことも示している。
7,088件の苦情に対し、広告主等への苦情情報提供は29回、正式な「見解」は9件だった。[15]
ここから分かるのは、
苦情件数は報道やキャンペーンの影響を受ける
同一広告や一部広告主へ集中し得る
不快、違法、有害、配信場所の問題が混在する
苦情受付と、問題性を審査して判断することは別である
ということである。
JIAAのガイドラインも、クレームには、権利者でない者による主張や権利の誤解が含まれ得るため、内容を冷静に確認する必要があるとしている。[12]
通報制度を作るなら、少なくとも次が必要である。
広告ID、表示日時、表示場所の記録
同一広告への重複通報の集約
組織的な大量通報の判別
通報件数だけで措置しない原則
広告内容と配信先を分けた審査
広告主による反論
虚偽通報、嫌がらせ通報への対策
通報者の個人情報保護
苦情はセンサーであって、判決ではない。
21.第三者評価団体は削除権を持たない。しかし、選定と利益相反が不透明である
今回の法案は、特定の民間団体を「認定広告審査機関」として指定し、直接の削除権限を与えるものではない。
第30条で、国や地方自治体が支援に努める対象へ、
プラットフォームの措置を第三者として評価する民間団体
青少年のインターネット環境を調査研究・検証する民間団体
を加えるものである。[9]
したがって、「民間団体が法律上の削除命令を出せる」と説明するのは正確ではない。
問題は、次のルールがないことである。
支援対象をどう選ぶのか
公募するのか
支援額と使途を公開するのか
役員、主要寄付者、資金源を公開するのか
利益相反をどう管理するのか
評価方法、データ、誤判定率を公開するのか
評価を受けた側の反論・訂正手続を設けるのか
規制運動を行う団体と中立的評価機関をどう区別するのか
表現者、広告技術者、法律家を含む複数の立場をどう参加させるのか
第三者であることと、中立であることは同じではない。
政府や自治体の支援を受け、「第三者評価団体」として社会的権威を持てば、法的拘束力がなくてもプラットフォームの規約に影響し得る。
書店の歴史でも、出版ゾーニング委員会の審査と識別マークは、流通上の取扱いへ接続された。
同じ構造を繰り返さないためには、選定、資金、評価、反論の透明性が不可欠である。
22.悪質広告主ではなく、真面目な事業者ほど萎縮する設計になりかねない
提出法案は、広告主の本人確認、広告流通経路の追跡、広告アーカイブ、停止後の再出稿防止について、具体的な義務を置いていない。
プラットフォームへ、
基準を作れ
通報を受けろ
対応状況を公表せよ
と求める一方で、匿名の悪質広告主、海外事業者、複数アカウントを使う出稿者を特定する仕組みは弱いままである。
その結果、
国内出版社は審査を恐れて表現を弱める
個人作家は再審査の負担に耐えられず広告を諦める
小規模事業者はアカウント停止を恐れて撤退する
プラットフォームは大量拒否で責任を回避する
悪質広告主はアカウントやドメインを変えて再出稿する
という逆転が起こり得る。
本当に規制すべきなのは、漫画やイラストというジャンルではない。
子ども向けの場所へ露骨な広告を配信する行為と、身元を隠しながら違反広告を繰り返す広告主である。
第5部 法案の説明責任は、誰が負うのか
23.正式な発議者は伊藤孝恵議員である
参議院の議案情報では、この法案の発議者は伊藤孝恵議員である。
伊藤議員は当選2回で、国民民主党の子ども・子育て・若者政策調査会長、超党派ママパパ議員連盟の事務局長を務めている。[2][16]
国民民主党の法案提出時の発表でも、伊藤議員は記者団へ法案を説明している。
したがって、「伊藤議員が一切説明していない」と述べるのは正確ではない。
しかし、SNS上で法案への批判と疑問が広がった際、「表現そのものではなく、子どもの目に触れないための表示上の工夫を求める」と説明したのは、小林さやか議員のアカウントだった。
小林議員は2025年に初当選した当選1回の議員であり、党の同調査会事務局次長として法案提出に同席している。[1][17][18]
24.「小林議員に発信させた」とは断定できない。しかし、外形上の疑問は残る
誰かが小林議員へ投稿を指示したのか。
党内で広報上の役割分担があったのか。
小林議員自身の判断で発信したのか。
公開資料からは分からない。
したがって、
伊藤議員が批判を避けるため、小林議員を盾にした
と断定することはできない。
しかし、結果として、
正式な発議者であり、2期目の政策調査会長である伊藤議員ではなく、1期目の事務局次長である小林議員が、SNS上の批判に対する説明の前面に立った
という構図には疑問が残る。
議員経験の長短だけで説明能力が決まるわけではない。
小林議員が説明すること自体も問題ではない。
問題は、条文の最終的な説明責任を誰が負うのかが見えないことである。
「表現そのものを規制しない」というなら、発議者自身が次を説明すべきだ。
なぜ条文を性的広告だけに限定しなかったのか
「準ずる情報」の具体例と非該当例は何か
通常投稿、有料ブースト、リンク先の境界はどこか
過剰な広告拒否をどう防ぐのか
誤判定された表現者をどう救済するのか
第三者評価団体の選定と利益相反をどう管理するのか
SNS上の説明と広い条文をどう整合させるのか
これは、事務局次長による短いSNS投稿だけで済む問題ではない。
伊藤議員が、条文ごとの根拠を自らの名前と責任で説明し、クリエイター、広告事業者、法律家、技術者からの質問に答えるべきである。
また、小林議員についても、法案のヒアリング、制度設計、条文起草にどの段階から関与し、どの規定について説明責任を負うのかを明らかにすべきである。
第6部 誰が政策形成に働きかけたのか
25.「関係団体」と「似た提言をする団体」を混同してはならない
ロビー活動を検証するとき、同じ問題を扱う団体をすべて「法案のヒアリング先」や「法案を作らせた団体」と扱うべきではない。
公開記録から確認できる関係は、少なくとも次に分ける必要がある。
性的広告について、行政や業界へ直接的な要望活動を行った
同じ問題について、似た調査や提言を行った
子どもと広告について、一般的に似た提言を行った
性表現に関する別テーマで、ママパパ議連へ説明した
法案の正式なヒアリングまたは起草へ関与した
1から4の事実があっても、5が証明されたことにはならない。
必要なのは、憶測による「黒幕探し」ではない。
法案作成者に、ヒアリング先、資料、議事要旨を公開させることである。
26.性的広告について直接的な要望活動をした団体
「性的なネット広告のゾーニングを目指す会」
同会は2025年4月、JIAAへ署名と要望書を提出し、性的なインターネット広告への対応強化を求めた。
同会は、JIAAという業界団体とガイドラインの存在を認識したうえで、自主規制の強化を求めている。[19]
同年6月には、こども家庭庁にも要望書を提出した。
同会は、広告主、アドネットワーク、掲載サイト、JIAA、JAROなどへ働きかけた経緯を公開しており、その要望書は、こども家庭庁の関連会議でも参考資料として扱われた。[20]
したがって、性的広告問題を政策課題として可視化し、行政と業界へ直接働きかけた団体の一つであることは確認できる。
一方、同会が、
国民民主党から正式な法案ヒアリングを受けた
法案の条文作成に関与した
第23条の7の広い努力義務を要求した
という公開証拠は確認できない。
むしろ同会の公開文書には、法規制が表現の自由と衝突し得るため慎重であるべきだという説明や、法規制に頼らない自主的改善を理想とする記述もある。[20][21]
直接的な政策要望を行ったことと、今回の法案を起草したことは分けなければならない。
27.同じ問題設定で、似た調査・提言を行った団体
みらい子育て全国ネットワーク、miraco
miracoは、性的広告を見たことのある成人を対象にアンケートを実施し、表示場所、内容、利用者の対策、望ましい対応を調査した。
調査目的として、結果を広告業界や行政へ共有し、改善に役立ててもらうことを掲げている。[22]
回答は1,970件で、30代・40代が約7割、女性が8割以上だった。
ただし、同団体自身が説明しているとおり、この調査は「エロ広告を問題だと感じる人」を対象としたものであり、日本の成人全体や保護者全体の意識を推定する無作為抽出調査ではない。[23]
問題意識を持つ人の経験と要望を集める資料としては有用である。
しかし、「国民全体の何割が規制を求めている」という立法事実には使えない。
同団体は、業界による自主規制や国による対応を含む、今回の法案と似た方向の提言を行っている。
一方、国民民主党やママパパ議連から今回の法案について正式なヒアリングを受けた、または条文作成に関与したという公開記録は確認できない。
28.子どもに配慮した広告について、一般的に似た提言を行う団体
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、子どもの権利という観点から、広告とマーケティングのあり方を見直すガイドラインを公表している。
対象には、テレビ、新聞、雑誌だけでなく、ウェブサイト、SNS、アプリ、動画、ゲーム、インフルエンサー施策なども含まれる。[24]
これは、子どもへの広告・マーケティングの影響を問題にする一般的な提言であり、今回の法案と一部の問題意識を共有する。
しかし、同団体が今回の性的広告規制法案のヒアリング先であったこと、国民民主党の法案作成へ関与したことを示す資料ではない。
したがって、同団体は、
今回の法案の関係団体
ではなく、
子どもへの広告について、一般的に似た提言を行っている団体
と位置付けるべきである。
29.ママパパ議連への説明は確認できるが、テーマが異なる団体
チャイルド・ファンド・ジャパン/「CSAMを無くすWG」
2025年3月、超党派ママパパ議員連盟で、「CSAMを無くすWG」が説明と提言を行ったことは公開記録で確認できる。同WGの事務局はチャイルド・ファンド・ジャパンとされている。[25]
ただし、その主題は、生成AIによる性的な疑似画像、児童性的虐待コンテンツ、ディープフェイクなどである。
インターネット広告のゾーニングとは隣接するが、同一の問題ではない。
確認できるのは、
性表現に関係する別のテーマで、ママパパ議連へ直接説明した
という事実までである。
今回の広告法案のヒアリング先だった、法案を要望した、条文作成へ関与した、と断定する根拠にはならない。
30.業界側の当事者へのヒアリングこそ不可欠である
法案を作るのであれば、少なくとも次の当事者から意見を聴く必要がある。
JIAA
JARO
JICDAQ
広告主
広告代理店
DSP、SSP、アドネットワーク
ウェブ媒体、アプリ媒体
出版社、電子書店
漫画家、イラストレーター
小規模広告主
プラットフォームで異議申立てを経験した事業者
憲法・情報法・消費者法の研究者
子どもと保護者
国民民主党の法案提出時発表、参議院の議案情報、提出法案からは、ヒアリング先、開催日、提出資料、議事要旨、採用・不採用の理由を確認できない。
これは、ヒアリングが行われなかったことを意味しない。
公開資料からは分からない、ということである。
だからこそ、審議前に立法過程を公開すべきである。
第7部 本来の目的を達成するための修正案
31.修正の基本原則
規制すべきなのは、漫画やイラストという表現ジャンルではない。
規制すべきなのは、
子どもであると分かっている利用者、または子ども向けの場所へ、露骨な性的広告を無差別に配信する行為
である。
法案を単に廃案にして問題を放置すべきではない。
対象を狭く、義務を強く、救済を明確にする方向で作り直すべきである。
以下は、法制審査前の政策上の条文案である。
修正案1 対象を「プラットフォームが配信する有償広告」に限定する
条文案
この法律において「特定有償広告」とは、デジタルプラットフォーム提供者またはその広告配信を受託する者が対価を得て、広告配信機能を用い、表示先、表示時期、表示順位その他の配信条件を決定し、または最適化して表示する情報をいう。
狙い
漫画家による新刊告知
イラストレーターの作品紹介
同人イベントの参加告知
ポートフォリオ投稿
無償の通販開始告知
を明確に除外する。
「PR」と書かれているかではなく、プラットフォームの有償広告配信機能が使われたかで判断する。
修正案2 「青少年向け配信」を定義する
条文案
この法律において「青少年向け配信」とは、登録年齢、保護者設定その他既に保有する情報により青少年であることが確認されている利用者、またはサービス、ページ、コンテンツもしくは端末の主たる対象が青少年であると客観的に認められる場所へ、特定有償広告を表示することをいう。
狙い
成人が適法な広告を見ることではなく、子どもへ意図せず表示されることを規制する。
ただし、年齢確認を口実として、すべての利用者へ身分証提出を一律に要求してはならない。
既に登録された年齢、保護者設定、子ども向けページ、学校管理端末など、プライバシー負担の小さい情報を優先する。
修正案3 対象となる性的広告を限定列挙する
条文案
この法律において「露骨な性的広告情報」とは、次のいずれかを広告の主要な訴求手段として用いる情報をいう。
二 性交、性交類似行為または自慰行為の具体的な描写、もしくはこれらを明確に模した動作
三 性的暴力または性的強制を、性的興奮を目的として描写する表現
四 売買春その他の成人向け性的サービスへの勧誘
五 前各号と同程度に、性行為を直接かつ具体的に表現するものとして法律で定める情報
同時に除外規定を置く。
水着または下着を着用していること、身体の輪郭、接吻、恋愛表現、作品の画風、登場人物の容姿、または性的事項への言及のみをもって、露骨な性的広告情報に該当するとしてはならない。
狙い
肌色、画風、ジャンル名、作者の過去作品だけで一括排除されることを防ぐ。
広告審査の対象は、原則として広告素材そのものと、クリック直後に自動表示される最初の画面までに限定する。
作者の過去作品、同一アカウントの別作品まで遡って不利益を広げない。
修正案4 第23条の7の「準ずる情報」を削除する
条文案
第23条の7を削除する。
残す場合は、少なくとも次を置く。
第23条の7に該当すると評価されたことのみを理由として、広告の拒否、削除、配信停止、アカウント停止その他の不利益措置を講じてはならない。ただし、当該情報が他の法令に違反する場合を除く。
狙い
「有害かもしれない」という抽象的な疑念だけで広告やアカウントを止めない。
研究、統計、将来の制度検討と、個別広告への措置を分離する。
修正案5 ゾーニングを優先し、削除を最後の手段にする
条文案
青少年閲覧防止措置は、その目的を達成するため必要かつ相当な最小限のものでなければならない。
狙い
優先順位を次のようにする。
青少年アカウントには表示しない
子ども向けページには表示しない
センシティブ広告枠へ振り分ける
利用者が非表示設定を選べるようにする
成人向けの適法な配信を維持する
明白な違反を故意に繰り返した場合に限り、削除やアカウント停止を検討する
修正案6 理由説明と異議申立てを法律上の権利にする
条文案
プラットフォームが広告を拒否、停止または削除する場合、広告主へ次を通知する。
対象となった広告素材
違反した基準の条項
問題と判断した画像、文章、動画の具体的部分
措置の内容と期間
自動判定か、人による判定か
アカウント全体への影響
異議申立ての方法と期限
異議申立てについて、次を義務付ける。
14日以上の申立期間
人による再審査
原則7日以内の回答
誤判定時の速やかな復旧
違反履歴、警告、スコアの取消し
広告単体の問題をアカウント全体へ拡張しない比例原則
緊急措置を除き、申立て中の不可逆的措置を避けること
修正案7 通報件数だけで措置することを禁止する
条文案
大規模デジタルプラットフォーム提供者は、同一または実質的に同一の連絡の件数のみを理由として、広告の拒否、削除、配信停止その他の措置を講じてはならない。
狙い
大量通報キャンペーン、競合事業者による嫌がらせ、作家への攻撃を防ぐ。
通報件数ではなく、広告内容、配信先、閲覧者の年齢、文脈、反復性に基づいて判断する。
修正案8 第三者評価団体の選定と利益相反を公開する
条文案
国および地方公共団体は、支援対象となる民間団体について、選定基準、支援の内容と金額、役員、主要な資金源、利益相反、評価方法、使用データおよび評価結果を公表しなければならない。
さらに、
公募による選定
単独団体への独占的支援の禁止
主要寄付者と運動上の立場の開示
子どもの権利、憲法、情報法、広告技術、出版、創作、プライバシー、消費者保護の専門家による合議
評価モデルと誤判定率の公開
定期的な資格見直し
を求める。
修正案9 削除件数ではなく、表示率と誤判定率を測る
年次報告で公表させるべきなのは、単純な削除数ではない。
青少年アカウントへの露骨な性的広告の表示率
子ども向けページでの表示率
広告拒否、削除、アカウント停止の件数
重複を除いた通報件数
異議申立て件数
異議申立てで判断が覆った割合
自動審査と人による審査の割合
漫画、ゲーム、医療、教育など分野別の誤判定率
個人、小規模事業者への影響
再審査の平均時間
出稿断念や表現変更に関する調査
本来の成果指標は、
子どもの意図しない露出がどれだけ減ったか
である。
削除件数が多いほど優秀、という評価にしてはならない。
修正案10 悪質広告主と広告流通経路を追跡する
曖昧な表現審査を広げる前に、広告流通の透明化を進める。
広告主の本人・法人確認
広告主、代理店、DSP、SSP、媒体社を追跡できる広告ID
誰が、いつ、どの素材を出稿したかを確認できる広告アーカイブ
停止された広告主による別アカウントでの再出稿防止
海外広告主の国内代理人または連絡先
子ども向けページを配信先から除外する設定
学校端末や青少年アカウントでのセンシティブ広告非表示
明白な違反を繰り返す広告主への段階的制裁
なりすまし広告、詐欺広告との横断的な情報共有
これなら、漫画やイラストというジャンルを警戒するのではなく、実際に問題のある配信行為と反復違反者を狙える。
修正案11 広告単体の問題を、作者やアカウント全体へ拡張しない
条文案
特定広告に関する措置は、当該広告および当該広告の配信に必要な範囲に限られる。
狙い
書店の識別マークが、主要販路から外すラベルへ変わった歴史を繰り返さない。
一件の広告審査を、作者や出版社全体の信用スコアにしない。
修正案12 憲法21条と必要最小限性を明記する
条文案
この法律の解釈および適用に当たっては、日本国憲法第21条が保障する表現の自由を不当に侵害してはならない。
「表現の自由に配慮する」という抽象的な宣言だけでは足りない。
ゾーニング優先、成人への適法な流通、ジャンル単位の一括排除禁止、通報件数だけによる措置禁止を、具体的な権利として書く必要がある。
修正案13 対象拡張を政省令だけで行わせない
条文案
規制対象となる情報類型の追加、通常投稿への適用、広告リンク先の審査範囲の拡大その他表現の自由に重大な影響を与える変更は、法律の改正によらなければ行うことができない。
狙い
重要な境界を政令、省令、ガイドライン、プラットフォーム規約だけで拡張しない。
国会審議を経ずに「準ずる情報」が広がることを防ぐ。
修正案14 施行前評価、サンセット、定期見直しを置く
政省令案について60日以上の意見募集を行う
クリエイター、小規模広告主、広告技術者を含む公開ヒアリングを行う
施行前にプライバシー影響評価と表現影響評価を行う
施行後3年以内に国会で効果と誤判定を検証する
第三者評価制度は一定期間で失効し、国会審議を経て更新する
青少年への表示率が改善しない場合、広告主確認と流通追跡を優先的に強化する
萎縮効果が大きい場合、対象を縮小する
第8部 修正案のメリットと課題
32.メリット
規制対象が予測可能になる
普通の投稿、有償広告、成人向け広告、青少年向け配信を分けることで、作家、出版社、広告主が事前に判断しやすくなる。
子どもへの表示を直接減らせる
作品そのものを排除するのではなく、配信先を制御するため、立法目的に直接対応できる。
誤判定を可視化できる
異議申立ての逆転率、分野別誤判定率、再審査時間を公開させれば、プラットフォームが「とりあえず拒否する」対応を取りにくくなる。
悪質広告主を追跡できる
本人確認、広告ID、広告アーカイブを重視するため、国内の真面目な出版社や個人作家だけが従い、悪質業者が逃げる構造を抑えられる。
憲法21条と子どもの保護を両立できる
成人の適法なアクセスを維持しつつ、子ども向け配信を狭く強く止める。
33.課題と対策
年齢判定がプライバシー侵害になり得る
対策として、政府発行身分証の一律提出を避け、既存の登録年齢、保護者設定、子ども向けページなどを優先する。
人による再審査にはコストがかかる
大規模事業者へ義務を限定し、緊急性、影響範囲、広告主規模に応じた審査期限を設ける。
悪質広告主が通常投稿や海外サービスへ移動する
表現の定義を広げるのではなく、決済経路、ドメイン、広告素材のハッシュ、広告主確認を用いて再出稿を防ぐ。
限定列挙では新しい手口に追いつかない
対象拡張を行政だけで行わず、公開された事例、専門家審査、国会審議を経た法改正で対応する。
第三者評価が形式化する可能性がある
複数団体、複数分野の合議、資金源の開示、評価データの公開、被評価者の反論権を設ける。
第9部 国民民主党・伊藤孝恵議員への公開質問
以下の質問は、特定の団体が法案を作らせた、あるいは不当な働きかけを行ったと前提にするものではない。
市民団体、業界団体、当事者団体が議員や議員連盟へ意見を伝えることは、民主政治における通常の政策提言活動である。
問題となるのは、その活動の存在そのものではない。
誰から、どのような説明や資料提供を受けたのか。
どの情報を立法事実として採用したのか。
どの提言を条文へ反映したのか。
反対または慎重な立場の当事者からも意見を聴いたのか。
その過程を、国民が検証できる形で公開しているかである。
回答に当たっては、可能な限り各質問について、次の形式で示していただきたい。
「はい」「いいえ」「該当なし」のいずれか
該当する場合は、日時、相手方、会合名
提出または使用された資料名
公開資料がある場合は、その掲載先
公開できない場合は、その理由
立法体制とヒアリングについて
1.法案の起草体制を公表できるか
本法案の制度設計と条文起草を主に担当した議員、党内機関、法務担当者、外部専門家は誰か。
また、法案の内容を最終的に承認した党内機関はどこか。
2.外部から意見を聴いた相手を公表できるか
法案作成に当たり、ヒアリング、意見交換、資料提供、要望書の受領を行った団体、事業者、研究者、専門家、個人の一覧を公表できるか。
3.ヒアリングの記録を公表できるか
各ヒアリングまたは意見交換について、次の情報を公表できるか。
開催日
開催形式
出席者
議題
提出資料
議事要旨
全文公開が難しい場合、個人情報や非公開情報を除いた概要を公開できるか。
4.広告業界の当事者から意見を聴いたか
次の団体または事業者から、本法案について意見を聴いたか。
JIAA
JARO
JICDAQ
広告主
広告代理店
DSP
SSP
アドネットワーク
ウェブ媒体
アプリ媒体
大規模デジタルプラットフォーム事業者
意見を聴いた場合、各者から示された主な懸念と、それを法案へ反映したかを公表できるか。
5.規制による影響を受ける側から意見を聴いたか
次の当事者から、本法案について意見を聴いたか。
出版社
電子書店
漫画家
イラストレーター
ゲーム事業者
個人クリエイター
小規模広告主
広告審査やアカウント停止に対する異議申立てを経験した事業者
意見を聴いていない場合、今後、公開ヒアリングを行う予定はあるか。
6.法律と権利保障の専門家から意見を聴いたか
次の分野の専門家から、法案の明確性、必要性、比例性、表現の自由との関係について意見を聴いたか。
憲法
情報法
プラットフォーム法
消費者法
広告法務
子どもの権利
プライバシー
意見を聴いた場合、その検討結果を公表できるか。
7.子どもと保護者から、どのように意見を聴いたか
子ども本人または保護者から、本法案について直接意見を聴いたか。
調査やアンケートを立法事実として使用した場合、次の情報を公表できるか。
募集方法
回答者数
年齢構成
性別その他の属性
回答対象者の選定方法
重複回答への対策
質問文
集計方法
調査の限界
ママパパ議連と外部団体からの政策提言について
8.ママパパ議連で、性的広告または本法案を議題としたか
超党派ママパパ議員連盟において、次のいずれかを正式な議題として扱った会合はあったか。
インターネット上の性的広告
広告のゾーニング
青少年有害情報を含むデジタル広告
本法案の制度設計または条文
本法案と共通する規制手法
会合があった場合、開催日、出席者、提出資料、議事要旨を公表できるか。
9.ママパパ議連で受けた説明や資料を、法案作成に使用したか
ママパパ議連が民間団体、研究者、事業者などから受け取った要望、提言、調査結果、説明資料が、国民民主党または伊藤孝恵議員の法案作成チームへ共有された事実はあるか。
共有された場合、どの資料が、どのような経路で共有されたのかを公表できるか。
10.次の団体から要望、説明または資料提供を受けたか
次の団体について、伊藤孝恵議員、国民民主党、またはママパパ議連のいずれかが、本法案、性的広告、広告ゾーニング、青少年有害情報の規制に関する要望、説明、資料提供を受けた事実があるか。
各団体について、「あり」「なし」「別の政策課題についてのみあり」のいずれかで回答できるか。
接触があった場合、次の事項を公表できるか。
接触または会合の日付
対応した議員または党職員
要望または説明の主題
提出された資料
本法案との関係
条文または制度設計への反映の有無
なお、別の政策課題について説明を受けただけで、本法案とは関係がない場合は、その旨を明確に示していただきたい。
11.このほかに政策提言を行った団体はあるか
前項に挙げた団体以外に、本法案、性的広告、青少年有害情報、広告ゾーニングについて、伊藤孝恵議員、国民民主党、またはママパパ議連へ要望、説明、資料提供を行った民間団体はあるか。
ある場合、その団体名と提言内容を公表できるか。
12.外部団体の調査や提言を、立法事実として使用したか
民間団体が実施したアンケート、相談記録、署名、苦情件数、事例収集などを、本法案の必要性または規制対象を説明する立法事実として使用したか。
使用した場合、次の事項を公表できるか。
調査または資料の名称
作成団体
調査方法
回答者または対象者の属性
法案のどの部分の根拠としたか
調査の偏りや限界をどのように評価したか
他の資料によって検証したか
13.外部団体の提言が、具体的な条文へ反映されたか
外部団体からの提言、要望、説明または資料提供が、次の規定の作成に影響したか。
第23条の5の「国民からの連絡の受付体制」
第23条の7の「青少年有害情報に準ずる情報」
第30条の第三者評価団体
第30条の調査研究・検証を行う民間団体への支援
附則の技術開発その他の方策の検討
反映された提言がある場合、次の項目を対応させて公表できるか。
団体名
提言内容
反映先の条文
反映した理由
14.外部団体から条文案や法的意見書の提供を受けたか
民間団体、研究者、事業者その他の外部関係者から、次の資料の提供を受けたか。
法案の条文案
条文修正案
法的意見書
制度設計案
海外法制の比較資料
第三者評価制度の提案
支援対象団体に関する提案
提供を受けた場合、提供者と資料を公表できるか。
15.法案作成に影響した団体名を公表するか
法案の必要性、規制対象、通報制度、第三者評価、民間団体支援などの制度設計に、実質的な影響を与えた外部団体がある場合、その団体名を公表するか。
公表できない団体がある場合、非公表とする理由を示せるか。
また、団体名を公表できない場合でも、次の事項を匿名化して公表できるか。
団体の種類
提言の概要
接触時期
条文への反映内容
16.継続的に助言を受けている外部団体はあるか
法案提出後も、運用、政省令、ガイドライン、第三者評価制度などについて継続的に助言を受ける予定の団体はあるか。
ある場合、団体名、助言の範囲、選定理由を公表できるか。
17.政策提言を行った団体が、将来の支援対象や評価主体になる可能性はあるか
本法案について要望や政策提言を行った団体、または本法案の立法事実となる調査を実施した団体が、将来、第30条に基づく次の立場となる可能性はあるか。
国または地方公共団体の支援対象
第三者評価を行う団体
調査研究・検証を行う団体
可能性がある場合、政策提言者、調査実施者、評価者、公的支援の受給者が重なることによる利益相反を、どのように管理するか。
法案の対象と条文について
18.「業界団体が存在しない」という説明の意味を明らかにできるか
伊藤孝恵議員は、ネット広告について「自主規制がない」「業界団体も存在しない」と説明している。
この説明でいう「業界団体」とは、どの範囲または機能を備えた団体を意味しているのか。
JIAA、JARO、JICDAQなどの存在を把握したうえで、
業界横断的で実効性のある規制主体が存在しない
という趣旨で述べたものか。
それとも、既存団体の存在を把握していなかったのか。
説明が不正確だった場合、補足または訂正を行う予定はあるか。
19.なぜ対象を性的広告に限定しなかったのか
党は本法案を「エロ広告規制法案」と説明している。
一方、条文は性的広告だけでなく、犯罪、自殺、残虐表現などを含む「青少年有害情報」を対象としている。
性的広告だけを規制対象とする独自の定義を置かず、既存の広い「青少年有害情報」を使用した理由は何か。
20.「青少年有害情報に準ずる情報」を具体化できるか
第23条の7について、次の事項を公表できるか。
該当すると想定している具体例
該当しない具体例
判断主体
判断に必要な資料または根拠
判断手順
広告主への説明方法
判断に対する異議申立て方法
また、具体例や判断基準を示せない場合、この規定を削除または限定する考えはあるか。
21.「広告」の範囲を明らかにできるか
次の情報が本法案の対象となるか、それぞれ明確に回答できるか。
漫画家やイラストレーターの無償の作品告知
通常投稿を有料でブーストしたもの
出版社が作家の投稿を広告として配信する場合
スポンサード投稿
ネイティブ広告
アフィリエイト投稿
広告からリンクされた販売ページ
広告自体は一般向けだが、リンク先で成人向け作品も扱う場合
一般向け作品と成人向け作品を同じアカウントで扱う場合
法案または逐条解説で、対象と対象外を明文化する予定はあるか。
過剰規制の防止と救済について
22.誤判定された広告主の救済を設けるか
プラットフォームが広告を拒否、削除または停止した場合、次の手続を義務付ける考えはあるか。
具体的な理由の通知
違反した基準の明示
問題と判断した画像または文章の特定
自動判定か人による判定かの通知
人による再審査
回答期限
誤判定時の速やかな復旧
違反履歴や警告の取消し
広告単体の問題をアカウント全体へ拡張しない原則
義務付けない場合、その理由は何か。
23.通報件数だけで措置されない仕組みを設けるか
同一広告に対する大量通報、組織的通報、競合事業者による嫌がらせ通報などを防ぐため、
通報件数のみを理由として広告の拒否、削除、配信停止を行ってはならない
という原則を設ける考えはあるか。
24.第三者評価団体の選定方法を公表するか
第30条に基づく第三者評価団体または調査研究団体について、次の事項を公表する制度を設けるか。
公募の有無
選定基準
選定理由
役員
主な資金源
公的支援額
主要な寄付者
利益相反
評価方法
使用するデータ
評価結果
誤判定率
評価対象者の反論・訂正手続
25.悪質広告主の特定と再出稿防止をどう行うか
本法案に、広告主の本人・法人確認、広告アーカイブ、広告流通経路の記録、停止後の再出稿防止が含まれていない理由は何か。
これらについて、本法案の修正または別の制度によって対応する予定はあるか。
憲法21条と今後の法案修正について
26.憲法21条との関係をどのように検討したか
法案作成に当たり、憲法21条が保障する表現の自由との関係について、国会法制局、憲法研究者、情報法研究者などから意見を聴いたか。
検討した場合、次の資料を公表できるか。
憲法適合性の検討資料
過剰規制と萎縮効果の評価
より制限の小さい代替手段の検討
成人への適法な配信を守る方法
通常投稿を除外する方法
誤判定を救済する方法
27.公開ヒアリングを行うか
法案の審議または政省令の策定前に、次の当事者が参加する公開ヒアリングを行うか。
子ども
保護者
広告業界
プラットフォーム事業者
出版社
漫画家
イラストレーター
小規模広告主
憲法・情報法の研究者
規制に賛成する団体
規制による萎縮を懸念する団体
28.逐条解説と修正案を公表するか
伊藤孝恵議員または国民民主党として、少なくとも次の事項を説明する逐条解説を公表するか。
各条文の目的
対象となる広告
対象外となる情報
「準ずる情報」の具体例
通報後の審査手順
広告主の異議申立て
第三者評価団体の選定
憲法21条との関係
過剰規制を防ぐ仕組み
また、寄せられた意見を踏まえ、法案を修正する考えはあるか。
まとめ――子どもを守るなら、曖昧に広くではなく、狭く明確に強く規制せよ
書店の成人向けゾーニングは、最初から全面禁止として導入されたわけではない。
青少年へ販売しないという目的と、強い法律を避けるための自主規制から始まった。
しかし、そこへ、
取次の送品制限
小売の取扱拒否
識別マーク
第三者委員会
区分陳列義務
包装義務
店舗調査
が積み重なった。
その結果、成人へは適法に販売できる本でも、市場へ届きにくくなる現象が起きた。
今回の法案も、
作品を禁止するものではない
プラットフォームを規制するだけ
広告の表示先を工夫するだけ
と説明されている。
しかし、条文は性的広告を限定的に定義していない。
犯罪、自殺、性的表現、残虐表現を含む広い「青少年有害情報」と、「準ずる情報」まで対象にする。
具体的な線引きはプラットフォームへ委ねられる。
国民通報、年次公表、第三者評価による圧力は加えられる。
それにもかかわらず、誤判定への理由説明、異議申立て、人による再審査、復旧期限、誤判定率の公表は定められていない。
この法案の最大の問題は、国が漫画家を直接処罰することではない。
有害性の判断を民間の流通事業者へ外注し、その事業者が過剰に規制しても、誰も十分な責任を負わず、表現者を救済する制度もないことである。
憲法21条は、何も規制するなと命じる条文ではない。
規制するなら、
対象を明確にせよ。
子どもへの配信という問題へ絞れ。
不快感と通報件数を有害性の証明にするな。
行政、企業、第三者団体へ無限定の裁量を渡すな。
成人の適法なアクセスを守れ。
誤判定された者を必ず救済せよ。
と求める条文である。
子どもを守ることと、漫画家やイラストレーターの表現を守ることは対立しない。
必要なのは、
有償広告に対象を限定する
青少年向け配信を定義する
露骨な性的広告を限定列挙する
「準ずる情報」を削除する
通常投稿を明確に除外する
ゾーニングを削除より優先する
成人への適法な配信を保障する
通報件数だけで措置しない
理由説明、異議申立て、人による再審査を義務化する
第三者評価団体の選定、資金、利益相反を公開する
誤判定率と萎縮効果を測る
悪質広告主と広告流通経路を追跡する
憲法21条に基づく必要最小限性を条文に書く
ことである。
「子どもを守る」という目的を掲げるなら、曖昧に広く規制するのではなく、問題のある配信行為を狭く、明確に、強く規制すべきだ。
子どもを守るなら、表現を曖昧に取り締まるのではなく、子どもへの無差別配信を止めよ。
そして、誤って止められた表現を、必ず救済できる法律にせよ。
おわりに――「中道」とは、熟議を尽くすことではなかったのか
2018年の国民民主党結党時、当時共同代表だった大塚耕平氏は、「中道」を単なる真ん中や中間ではなく、次のように説明した。
「異なる意見を否定せず、熟議を尽くして合意に至る思考論理、思考方法、議論の作法」[27]
大塚氏は別のインタビューでも、中道とは「自分の考え方や価値観だけで物事を裁かない」ことであり、異なる意見を認めたうえで、熟議によって結論を見いだす方法論だと語っている。[28]
この言葉を、今回の法案を提出した国民民主党へ、そのまま問い返したい。
「露骨な性的広告を子どもへ見せるべきではない」と考える人がいる。
「曖昧な規制は漫画、イラスト、ゲーム、性教育、医療、芸術まで巻き込み、合法的な表現を萎縮させる」と懸念する人がいる。
「まず業界の自主規制を改善すべきだ」と考える人がいる。
「自主規制では悪質業者を止められないため、法律が必要だ」と考える人もいる。
どれか一つの立場だけを「正義」と決め、ほかの立場を笑い、切り捨てることは簡単である。
しかし、それは大塚氏が語った「中道」ではないはずだ。
表現の自由への懸念を持ち出す人を、
「エロを守りたいだけだ」
「子どもの安全を軽視している」
と笑うことは、熟議ではない。
一方で、規制の必要性を訴える保護者や市民を、最初から検閲者や表現の敵だと決めつけることも、熟議ではない。
表現の自由を笑う人も、表現規制が必要だと考えた人も、規制による萎縮を恐れる人も、子どもの安全を最優先したい人も、同じ資料と同じ条文を前にして、互いの懸念を聞き合う。
何が実際に子どもへ表示されているのか。
どの広告が、どの年齢に、どの場所で表示されることを防ぐべきなのか。
どの表現まで対象にする必要があるのか。
より制限の小さい配信制御では目的を達成できないのか。
誤判定された広告主や表現者を、どのように救済するのか。
第三者評価団体の中立性と利益相反を、どのように担保するのか。
こうした問いを一つずつ検証し、その答えを条文へ落とし込むことこそ、本来の熟議ではなかったのか。
熟議とは、結論を先に決め、賛同する声だけを集めることではない。
反対意見を「誤解」で片付けることでもない。
SNSで「表現規制ではない」と短く説明し、実際の条文にある広い定義や救済手続の欠如へ答えないことでもない。
熟議とは、議論の前提となる事実を公開することだ。
誰から意見を聴いたのかを明らかにすることだ。
反対する当事者も同じテーブルへ招くことだ。
自分たちの案に欠陥があれば、撤回や修正をためらわないことだ。
そして、子どもの安全と表現の自由のどちらかを犠牲にするのではなく、両方を可能な限り守る条文を探し続けることだ。
この法案に疑問を呈する人の多くは、子どもへの露骨な広告を放置しろと言っているのではない。
必要な規制を、必要な対象へ、必要な限度で行えと言っている。
悪質な広告主と無差別配信を狭く、明確に、強く規制すること。
適法な創作、通常投稿、成人への流通を広く、確実に守ること。
誤った判断が起きたとき、必ず理由を示し、再審査し、復旧できるようにすること。
それは規制への反対ではない。
本来の目的を達成できる法律へ作り直すための提案である。
国民民主党が、大塚耕平氏の語った「中道」を今も自らの政治姿勢として掲げるのであれば、成立を急ぐ前に、公開の場で熟議を尽くすべきだ。
発議者が自ら条文を説明する。
ヒアリング先と立法事実を公開する。
クリエイター、広告事業者、法律家、技術者、保護者、子ども本人の意見を聴く。
そして、批判を受けて法案を修正する。
それこそが、中道を掲げる政党に求められる態度ではないだろうか。
表現の自由を笑うのではなく、規制を求める声を敵視するのでもなく、互いの懸念が条文へ反映されるまで熟議を尽くす。
この法案に今必要なのは、さらなるレッテルではない。熟議である。
参考資料
[2]参議院「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律の一部を改正する法律案」
[3]日本書籍出版協会・日本雑誌協会編年史「青少年条例と自主規制」
[4]東京都「不健全な図書類の指定について――不健全図書類の取扱い」
[5]衆議院憲法調査会事務局「基本的人権の保障に関する調査小委員会参考資料――表現の自由」
[6]国立国会図書館「日本国憲法における『表現の自由』の意義」
[7]国立国会図書館リサーチ・ナビ「国立国会図書館所蔵の発禁本」
[8]最高裁判所昭和59年12月12日大法廷判決(税関検査事件)
[9]提出法案「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律の一部を改正する法律案」概要・要綱・条文。参議院議案情報ページ[2]から閲覧可能。
[10]こども家庭庁「青少年インターネット環境整備法 関係法令条文解説」
[11]日本インタラクティブ広告協会(JIAA)「協会概要」
[12]JIAA「広告掲載基準の策定及び運用に関するガイドライン」
[13]経済産業省「デジタルプラットフォーム取引相談窓口――デジタル広告利用事業者向け」
[14]経済産業省「デジタルプラットフォーム取引透明化法のポイント」
[15]日本広告審査機構(JARO)「2025年度上半期の苦情受付状況」
[18]ITmedia NEWS「『エロ広告規制法案』国民民主党が提出 『表現規制では』との懸念も」
[19]性的なネット広告のゾーニングを目指す会「署名提出のご報告:JIAA」
[20]性的なネット広告のゾーニングを目指す会「署名提出のご報告:こども家庭庁」
[21]性的なネット広告のゾーニングを目指す会「性的なネット広告の現状と定義、ゾーニングとその基準について」
[22]みらい子育て全国ネットワーク「性的な広告の現状と今後の対策に関するアンケート」
[23]miraco「いわゆるエロ広告の実態と今後の対策に関するアンケート結果」
[24]セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン「子どもに影響のある広告およびマーケティングに関するガイドライン 2023年増補版」
[25]山田太郎参議院議員「CSAMを無くすWGからの超党派議員への説明と提言」
[26]伊藤孝恵議員「超党派ママパパ議員連盟を知ってほしい」
