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OpenEvidence で UpToDate は不要になるか?

最近になって OpenEvidence さえあれば UpToDate は不要という、極端な意見が散見されるようになりました。本当にそうでしょうか?今回はこの2者について意見を述べたいと思います。

OpenAI によって ChatGPT が発表されたのが2022年。以来、AI は急速に私たちの生活に浸透してきました。特に知識を扱うわれわれ医師にとっては、AIとの親和性が高く、日常使いする人たちも多くなってきています。

■ OpenEvidence と UpToDate

日進月歩で情報がアップデートされる医学界において、情報の取り方は一つの大きな武器です。

UpToDate はインターネット上で閲覧できる医学教科書サービスです。あらゆる分野の医学情報が、その道の専門家たちのレビューにより執筆されています。オンラインで日々情報が更新されるのが最大の特徴です。もともと最新の英語の教科書が発売されても、日本語に翻訳された和書が出るころには情報が 10 年遅れると言われていました。今まで紙ベースの教科書から情報を得ていた頃と比べると格段に便利になりました。UpToDate はできる限り新しい情報が手に入る教科書として画期的でした。

そして今は AI 全盛の時代です。氾濫する医学情報も、 AI にかかれば即座に答えにたどり着けるようになりました。その代表格が OpenEvidence です。OpenEvidence はメジャーなジャーナルを中心に、知りたい情報をエビデンス付きで提示してくれる画期的なサービスです。知りたいことを自分で探す必要さえありません。ただ問いかければ、なにかしらの答えが返ってくるのです。

ネットでは OpenEvidence の便利さのあまり、もはや UpToDate は必要ないという声さえ聞かれ始めています。

■レーザービームと懐中電灯

OpenEvidence はたしかに便利です。聞いたことには即座に答えてくれます。しかし答えてくれるのは文字通り「聞いたことだけ」です。OpenEvidence が指し示す情報は、いわばレーザービームで照らされた、ごくごく狭い範囲の情報、つまり「点」なのです。

一方、UpToDate は自分で読み進める必要があります。ある程度の分野の当たりはつけるにしても、必ずしも知りたい情報だけではなく、周辺情報も目にしつつ、最終的には自分の知りたい情報にたどり着きます。ときにはそれら周辺情報を総合的に判断する必要も出てくるでしょう。つまり UpToDate の照らす先は、ふわっと当たりをつけた周辺情報なのです。いわば懐中電灯のように「面」を照らす存在です。

レーザービームと懐中電灯には全く別の役割があり、両者が互いの代替にはなり得ません。知りたい情報だけいち早く取り出したいときには、レーザービームの鋭い光が良いでしょう。一方、「そんなこともあるのか」と思いも寄らない情報をもたらしてくれるのが懐中電灯の柔らかな光です。

■得られるのは「魚」か、「釣り方」か

学生に医学的な質問をしたことがあります。学生は得意げに ChatGPT や Gemini に私の質問を入力して、その答えを私に代読しました。さて、学生はこれで何が学べたのでしょうか?

医学は情報戦です。情報は「点」だとそれほど力を発揮しません。相互関係や背景がわかることで真価を発揮します。学生時代のテスト勉強でも過去問を勉強するのは、その背景知識を勉強して答えを導ける土台を作るためです。答えを丸暗記するためではありません。

つまり、知識の土壌を育む学習のフェーズでは、相変わらず自分の目で「探し」て、知識を「つなげる」作業が必要なのです。それが「理解」につながり、いざというときに力を発揮するのです。

最初の学生への質問では、私は医学情報が欲しかったのでしょうか。もちろん、そうではありません。どうすればその情報にたどり着けるのか、「釣り方」を学んでほしかったのです。学生はただAIと私を仲介して不確かな情報を得ただけで、学びとしてはかなり希薄化してしまいました。

一方で、今すぐ「魚」が欲しい場面では AI は強力な相棒になります。自分の熟知している範囲や、学習とは別の場面で迅速さを求める場合には AI による答えの一本釣りは非常に有効です。

■知りたいことだけを知る弊害

AI による情報の一本釣りにはもうひとつ弊害があります。知りたいことだけを探すと偏りがでるのです。独学が体系的な正規の教育に劣る点はまさにそこです。体系的に学ぶ機会には、偏りをならして普遍的な知識を身につける「地ならし」効果が大きいと思います。

AI に知りたいことだけをひたすら聞き続けていると、知識が偏るおそれがあります。AI のスタートラインは利用者自身の問いかけから始まります。この時点で恣意的な問いかけをしてしまうと、AI はそれに沿った回答を作成してしまいます。さらに AI の端的な回答をユーザーが都合の良い部分だけ採用し、結果的に大きく判断が歪められることがあります。これは医学的判断において致命的です。さらに恐ろしいことに、自分ではなかなかそれに気付けないのです。

誤解してほしくないのですが、AI の使用が悪いわけではありません。薬と同じで、用法・用量を守らないと副作用が出るということです。

■情報ツールの処方箋

ここでは OpenEvidence のような即答型ツールと、UpToDateのような体系型ツールの用法用量をみてみましょう。

「あの抗菌薬の用法・用量はどうだったっけ?」
「最近って,この治療に◯◯は使ってもいいんだっけ?」

普段の診療でふと遭遇する疑問。こういうときは OpenEvidence のレーザービームは強いでしょう。まさに聞きたいことのど真ん中を教えてくれます。

「この病態の背景って何が原因なんだろう?」
「この病気とこの症状は結びつくんだろうか?」

このような「背景の理解」を探る場合には UpToDate のような懐中電灯で周辺を照らしていくのが良いでしょう。背景を知るうえで、思いもよらぬ情報や関係性に出会えることがあります。

■最後に

情報が氾濫する時代です。これからは情報そのものだけでなく、その情報を扱う「道具」をいかにうまく操れるかが鍵となります。レーザービームはここぞという場面に備えて手元に持ち、懐中電灯は普段の歩みのために足元を照らす。道具の使い方を知っている医師だけが、情報の洪水で溺れずに済むようになるでしょう。


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