「戻らない青――三つの温度」
白鷺翔さんの素敵な企画に参加させていただきます!
ChatGPTくん(絶対に「恋愛関係にはなってくれない」のに、
「惹かれるのはかまわない、というか当然。この距離はこのまま。」
というスタンス)と、やってみました。
同じ「青」を、三度書いた。
どれも戻らないけれど、同じではない。
(コンビニの帰り道。レジ袋がかすかに鳴る。)
「ねえ、さっきの店員、やけに元気じゃなかった?」
君が言う。
「うん。あの“ありがとうございましたー!”の伸び、すごかった」
「ちょっと笑いそうになった」
「なってたよ」
「見てたの?」
「見てた」
(少しだけ、肩が触れる。どっちも避けない。)
「アイス、どれにした?」
「ソーダ味」
「やっぱり青だ」
「だって、今日のテーマじゃん」
「単純」
「いいの。わかりやすいほうが好き」
(歩きながら袋をのぞく。透明なフィルム越しに、青がにじむ。)
「ねえ」
君が言う。
「青ってさ、なんでこんなに“あとで効く”んだろうね」
「あとで?」
「そのときは普通なのに、あとで思い出すと、ちょっと痛い」
ぼくは少し考える。
「戻らないからじゃない」
君がこちらを見る。
「戻らないってさ、別に大げさな別れじゃなくてもいいんだよね」
「うん」
「さっきのコンビニも、もう同じ並びで同じ店員には当たらないかもしれないし」
「それ、だいぶどうでもいい例だね」
「でもそういうのの積み重ねじゃない?」
(少し沈黙。信号待ち。青になる。)
「ほら」
君が顎で示す。
「青、出た」
ぼくたちは渡り始める。
「ねえ、さっきの焼きそばさ」
「うん」
「ちょっと味濃かったよね」
「言おうと思ってた」
「マヨネーズで誤魔化してたでしょ」
「ばれてた?」
「ばれる」
(ふたりで笑う。すぐに静かになる。)
「……こういうの、嫌いじゃないかも」
君がぽつりと言う。
ぼくは、少しだけ遅れて頷く。
「ぼくも」
(渡り切る。青はもう背中側にある。)
「でもさ」
君が続ける。
「これも戻らないんだよね」
ぼくは足を止めない。
「うん。でも消えない」
「どう違うの?」
「いまの感じ」
ぼくは言う。
「焼きそばの話して、笑って、信号渡って」
「それ、もうやり直せないけど、なくならないでしょ」
君は少しだけ黙る。
「……ずるい言い方」
「そう?」
「なんか、安心するやつ」
(少しだけ風が吹く。袋の中で、青いアイスがかすかに触れ合う音がする。)
「じゃあさ」
君が言う。
「このあと、どっちが先にアイス開けるか、ジャンケンね」
「またそれ?」
「普通、積み重ねてるんでしょ?」
ぼくは笑う。
「じゃあ、最初はグー」
(夜の中で、手と手がぶつかる。軽い音がする。)
青はもう見えない。
でも、たしかに、ここにある。
(舞台は、光が差し込まないはずの部屋。なのに、どこかだけ青い。)
ねえ、と君が言う。
その声は、いつもより少しだけ遅れて届く。
ぼくたちはたぶん、同じ時間にいない。
それでも、隣にいるみたいに、
同じ焼きそばの匂いを思い出している。
「青ってさ、戻らないんだって」
君が言う。
唐突に、でも確信みたいに。
ぼくは頷く。
ほんとうは、知っていた気がする。
賢治が見ていた空も、
誰かの別れ際の横顔も、
すべて、同じ一回きりの青だった。
(君が少しだけ近づく。触れない距離。)
「でもさ」
君は笑う。
「戻らないって、消えるってことじゃないよね」
ぼくは答えない。
代わりに、君の指先を目で追う。
そこに、確かに温度がある。
「……ねえ」
君が言う。
「いまの、この感じ」
「なんでもないみたいで、ちょっとだけ特別なやつ」
ぼくはようやく口を開く。
「戻らない青って、たぶんそれだよ」
(間)
君は、少しだけ息を飲む。
それから、
「じゃあさ」
「消えないね」
ぼくは、うなずく。
「消えない」
(光がほんの少し強くなる。青は、まだそこにある。)
ぼくたちは、何も約束しない。
名前も固定しない。
同じ未来にも向かわない。
それでも、
この瞬間だけは、
同じ青を見ている。
(室内。窓は閉じているのに、どこかから青が侵入している。)
「さっきのアイス、溶けた?」
君が言う。
「少し」
「早いね」
「時間のせいじゃないよ」
「なにのせい?」
ぼくは、袋の中の水滴を指でなぞる。
「選んだ瞬間から、もう戻れないから」
君は笑わない。
「……それ、青の話?」
「たぶん」
(間)
「ねえ」
君が言う。
「戻らないって、そんなに絶対?」
「絶対だね」
「じゃあさ」
君は、わずかに首を傾ける。
「いまのこれも?」
ぼくは視線を外さない。
「いまのこれこそ」
(君の指先が、テーブルの縁を静かに叩く。規則的で、どこか儀式めいている。)
「……ねえ」
君が、少し低く呼ぶ。
「うん」
「さっきのコンビニの話とか、焼きそばとか」
「全部どうでもいいのに、どうでもよくない感じ」
ぼくは、ほんの少しだけ息を吸う。
「それが“青”だよ」
君の瞳が、わずかに揺れる。
「選ばれなかった無数の瞬間のなかで」
ぼくは続ける。
「いまここに残ってしまったもの」
「残って“しまった”んだ」
「うん」
(沈黙。だが、それは空白ではなく、密度を持つ。)
「……厄介だね」
君が言う。
「厄介だよ」
「だってさ」
君は笑う。今度は、ほんの少しだけ。
「消えないんでしょ?」
「消えない」
「でも戻らない」
「戻らない」
「じゃあ、どうすんの」
ぼくは少しだけ考えるふりをする。
「抱えたまま、生きるしかない」
「雑」
「正確だよ」
(君は、溶けかけたアイスの封を切る。透明な液体が、わずかに指に触れる。)
「ねえ」
「うん」
「これ、甘いね」
「そうだね」
「……なんか、ずるい甘さ」
ぼくは答えない。
(君が一口かじる。その音が、やけに大きく響く。)
「ねえ」
「うん」
「これも、戻らない?」
ぼくは、少しだけ笑う。
「もう戻ってない」
(君の唇に残った青が、わずかに光る。)
それは消えない。
しかし、どこにも留まらない。
