「スタチン、一生飲むの?」——循環器内科医が本音で答える
外来で、いちばんよく聞かれる質問のひとつです。
「先生、この薬、いつまで飲むんですか」
そう聞かれるとき、その後ろにはたいてい、口には出しにくい気持ちがあります。
「数値はもう正常になった。それなのに、まだ飲むのか」
「一生と言われても、納得できない」
その気持ちは、よく分かります。
毎日飲むものですから、抵抗がないほうが不自然だと思います。
今日は、私が診察室で実際に見てきたことを書きます。
数値が正常なのは、「治った」からではありません
以前の記事で、動脈硬化は蓄積する病気だと書きました。
LDLコレステロールの高さと、その状態が続いた年数。
その掛け算が、血管への負担として積み上がっていきます。
ですから、薬でLDL-Cが下がっている状態は、「治った」のではありません。
薬が、積み上がるスピードを抑えている状態です。
やめれば、数週間かけて元の値に戻ります。
そして、積み立てがまた再開します。
数値が良いのは、薬が守ってくれているからです。
いちばん多いのは、「もう大丈夫」と思ってやめてしまうケースです
ここからが、いちばん書きたかったことです。
心筋梗塞を起こしてステント治療を受けた方が、その後かかりつけの先生のもとで通院を続ける。
しばらくして採血の結果を見ながら、こう言われる。
「LDLコレステロール、正常値になっていますね。もうお薬はいいでしょう」
こうして薬をやめたあと、心筋梗塞を再発して戻ってこられた方を、私は何人も見てきました。
誤解しないでいただきたいのですが、これはかかりつけの先生を責める話ではありません。
問題は、二次予防の目標値が、健診票の「正常値」よりずっと低いところにあるということです。
そして近年、特に急性冠症候群では、その目標をさらに厳しくする動きがあります。
一度でも心臓の血管に病気が起きた人にとって、健診票の正常範囲は、安全圏ではありません。
ですから私たちは、お返しする診療情報提供書に、具体的な数字を書くようにしています。
「LDL-Cは◯◯mg/dL未満を目標にお願いします」と。
それでも、伝わりきらないことがあります。
外来の時間は短く、薬は年々増えていき、数字は正常に見える。
だからこそ、お願いがあります。
ご自分の目標値を、ご自分で知っておいてください。
あなたの目標値は、いくつですか
ここは少し数字が続きます。ご自分に当てはまるところだけ拾ってください。
まだ心筋梗塞・脳梗塞を起こしていない方(一次予防)
低リスク(若く、ほかに危険因子がない)……160mg/dL未満
中リスク(高血圧がある、高齢など)……140mg/dL未満
高リスク(糖尿病・慢性腎臓病・喫煙など)……120mg/dL未満
最高リスク(糖尿病に臓器の合併症がある、家族性高コレステロール血症)……100mg/dL未満
すでに冠動脈疾患を起こしたことがある方(二次予防)
日本動脈硬化学会の2022年版ガイドラインでは、冠動脈疾患の二次予防は原則として100mg/dL未満が目標です。
そのうち、急性冠症候群・家族性高コレステロール血症・糖尿病・アテローム血栓性脳梗塞のいずれかを合併する高リスクの方では、70mg/dL未満を考慮します。
さらに急性冠症候群については、日本動脈硬化学会のワーキンググループが55mg/dL未満を目標にすることを提言しています。第56回日本動脈硬化学会総会・学術集会で示され、日本循環器協会からも2025年に紹介されたものです。
ここは誤解されやすいので、はっきり書いておきます。
「日本の正式なガイドラインが、一律で55mg/dL未満に改訂された」という意味ではありません。
病気の種類、発症からの時期、糖尿病などの合併によって、目標値は変わります。
健診票の「基準値内」と、この数字は別物です。
一度でも心臓や脳の血管の病気をされた方は、次の外来で聞いてみてください。
「私の目標値は、いくつですか」と。
「やめたい」と言われたら、私はこうしています
まず、やめたい理由を必ず聞きます。
ここを飛ばして「続けてください」とだけ言っても、たいてい伝わりません。
そして理由によって、答えが変わるからです。
副作用ではない場合。
「数値が良いから」「薬が多いから」「なんとなく不安だから」。
このときは、続けることの意味を時間をかけて説明します。再発のリスクは、できるだけ具体的に伝えます。
副作用がある場合。
これはまったく別の話です。我慢して飲み続けてもらう必要はありません。
打つ手は、思っているより残っています。
筋肉痛が出たときに、私が考えていること
スタチンでいちばん多い訴えが、筋肉の痛みやだるさです。
頻度は報告によって幅があります。臨床試験では数%とされますが、日常診療での調査ではもっと高く出ます。実感としても、決してまれではありません。
痛みが出たとき、私がまず考えるのは、どの程度の筋障害なのかです。
症状の強さや出方を確認し、必要に応じて、血液検査でCK(クレアチンキナーゼ)という筋肉が壊れると上がる値を測ります。
そのうえで、
いったん薬を止めて、症状が本当に薬のせいか確かめる
量を減らす
別の種類のスタチンに切り替える
このあたりを検討していきます。
スタチンは同じ系統でも種類によって性質が違うので、変えたら平気になる方は、少なくありません。
「合わなかった=もうスタチンは無理」ではないのです。
なお、筋肉の症状には、甲状腺の働きの低下や、ほかの薬との飲み合わせなど、別の原因が隠れていることもあります。そこも一緒に確認します。
ただし、これだけは急いでください。
激しい筋肉痛と、コーラのように濃い色の尿。
この2つが揃ったら、すぐに受診してください。
横紋筋融解症といって、筋肉の細胞が大量に壊れ、腎臓に負担がかかる状態の可能性があります。
頻度は0.001%程度と極めてまれで、ほとんどの方には起こりません。
それでも見逃すと危険なので、ここだけは覚えて帰ってください。
フィブラート系の薬、一部の抗真菌薬や免疫抑制剤との併用、腎臓や肝臓の働きが落ちているときは、特に注意が必要です。
どうしても飲めない方へ
副作用でスタチンが続けられない。
最大量まで使っても目標値に届かない。
そういう方には、PCSK9阻害薬という注射の選択肢があります。
少しだけ仕組みの話をします。
肝臓には、血液中のLDLを取り込む「LDL受容体」という入口があります。PCSK9という物質は、この入口を壊してしまう働きを持っています。
そこを邪魔してあげると、入口が壊されずに残り、LDLがよく取り込まれるようになります。
レパーサ(エボロクマブ)……2週間ごと、または月1回の皮下注射。FOURIER試験で、心血管イベントを15%減らしました(NEJM 2017)
レクビオ(インクリシラン)……初回、3か月後、その後は6か月ごとの皮下注射。通院の負担が軽いのが特徴です。LDL-Cを約50%下げます。心血管イベントを減らせるかどうかは、現在も試験が進行中です
いずれも、誰でもすぐ使える薬ではありません。使うための条件があります。
ただ、「スタチンが飲めないから、もう打つ手がない」ということはない。
それだけは知っておいてください。
私自身は、どうしているか
最後に、本音を書きます。
私は、自分がスタチンを必要とする状態になったら、飲み続けます。
そして実際に、私の家族にも飲んでもらっています。
まだ心筋梗塞を起こしていない、一次予防の段階です。それでも必要だと判断しました。もちろん、その家族の主治医と相談したうえでです。
毎日カテーテル治療をしていると、どうしてもそうなります。
運ばれてくる方の血管を見ていると、あれは一晩でできたものではないと分かるからです。
もちろん、これは私の考え方です。
リスクの低い方、妊娠の可能性がある方、副作用のある方、ご高齢で全身の状態が複雑な方では、判断は変わります。
まとめ
薬をやめれば、LDL-Cは数週間で元に戻ります。「治った」わけではありません
健診票の「正常値」と、あなたの目標値は別物です。一度でも心臓や脳の血管の病気をされた方は、目標値を主治医に確認してください
やめたい理由が副作用でないなら、続ける意味があります。副作用なら、別の手があります
激しい筋肉痛とコーラ色の尿が揃ったら、すぐ受診
スタチンが飲めなくても、PCSK9阻害薬という選択肢があります
自分の体を守れるのは、最終的には自分です。
薬を自己判断でやめる前に、一度だけ、聞いてみてください。
「私の目標値は、いくつですか」と。
参考資料
日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版
日本循環器協会:「ACS患者手帳」のご紹介(2025年9月1日)。日本動脈硬化学会ワーキンググループによるACSのLDL-C 55mg/dL未満の提言を紹介
日本動脈硬化学会:脂質異常症診療のQ&A
日本動脈硬化学会:スタチン不耐に関する診療指針2018(2022年12月改訂)
Sabatine MS, et al. Evolocumab and Clinical Outcomes in Patients with Cardiovascular Disease. N Engl J Med. 2017.(FOURIER試験)
※この記事は一般的な情報提供であり、個別の診断・治療を目的とするものではありません。お薬の調整は、必ず主治医とご相談ください。
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