推しが流出した
私は降りられなかった。
昔。
推しに繋がりの噂が出たことがある。
噂だけなら何度もあった。
繋がりをライブに呼んでいるらしい。
あのファンは繋がっているらしい。
急に来なくなったあの子と実は。
そういう話。
地下の噂なんて。
正直いくらでもある。
だから聞いても。
ふーん。
くらいだった。
でも。
その時は違った。
写真が出た。
飲み屋で。
何人かで飲んでいる写真。
別に決定的な何かが写っていたわけじゃない。
でも。
写真だった。
初めてだった。
だからショックだった。
今思えば不思議だ。
何がそんなにショックだったんだろう。
嫉妬だったのか。
裏切られた気持ちだったのか。
分からない。
ただ。
しんどかった。
現場も変な空気だった。
担降りした人もいた。
実際。
きっぱり来なくなった人も少なくなかった。
私も降りる理由は十分あったと思う。
でも。
できなかった。
正直。
写真だけで離れるオタクだと思われたくなかった。
そんな意地も少しあった。
でもそれは誰にだろう。
推し本人だろうか
他のファンだろうか。
それだけじゃない。
他メンバーのファンから。
なんとなく向けられる視線。
大変だね。
みたいな空気。
推し本人の少し気まずそうな空気。
全部しんどかった。
それでも。
私は現場に行った。
正直。
どんな顔をして会えばいいのか分からなかった。
何を話したのかも覚えていない。
でも。
忘れられないことがある。
特典会で。
推しが静かに言った。
「ありがとう」
たったそれだけ。
本当にそれだけ。
でも。
あの時の表情を覚えている。
言葉も覚えている。
頭から離れない。
たぶん。
向こうもしんどかった。
色んなものを見ていたと思う。
だからだったのかもしれない。
気のせいだったのかもしれない。
今でも分からない。
でも。
あの時の「ありがとう」は。
私が知っているどのありがとうとも違った。
だから。
降りられなかった。
写真が出ても。
噂が出ても。
周りが離れても。
私は降りられなかった。
私は推しを信じていたわけじゃない。
疑っていなかったわけでもない。
ただ。
好きだった。
結局。
最後まで勝ったのは。
好きだった気持ちの方だった。
そしてそれが。
一番厄介だった。
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