10万円分のアルバムと紙切れ(後編)
「……あの、すみません」
声をかけられた。
振り返ると、
「もしかして、〇〇くん求めてますか?」
と。
「え、はい!」
元気に返事した。
すると、
「よかったら、2万円で買いませんか?」
と。
……。
一瞬、悩んだ。
電卓を叩いた。
アルバムの元値。
今の財布の中身。
今までのチェキの値段。
そして、今日買った大量の紙切れたち。
全部が走馬灯みたいに一瞬で頭を駆け巡った。
そして気づいたら。
私の手元には、推しのチェキ券。
声をかけてくださった方の手には、
私の元から去っていった渋沢さんが2人。
成立。
現場に行くと、メンカラの服やグッズ、推しのチェキ、小物を持っているオタクって少なくない。
私もそう。
だからこそ、その人が何を求めているのかなんて、見ただけでわかる。
後から友達に聞いた。
「さっきの人、ちょっと有名な人だよ」
「え?」
どうやら、私の推しのアンチ……というか、まぁ、そういう感じの人だったらしい。
私の推しは良くも悪くも素直なので、熱狂的なファンができやすい。
その反面、アンチも多い。
そしてどうやらその方。
死んでも私の推しとはチェキを撮りたくなかったらしい。
ランダムだから。
推しを選べないから。
その結果、
「この人と撮りたい人」のお金と「この人とは絶対撮りたくない人」のチェキ券が、現場で交換される。
なんとも皮肉なシステムである。
そんなこんなで、私はチェキ列へ。
すると、先に終わっていた友達たちに囲まれた。
そりゃそうだ。
さっきまで私が持っていたのは、チェキ券じゃない。
10万円分のアルバムと紙きれだった。
それが今。
推しとのチェキ券になっている。
買い取りの経緯を説明すると、
「よかったねぇ……」
と、友達が泣き出した。
待って。
私は今からチェキなんだけど。
泣くの早くない?
「終わったら話聞くから!」
そう言って友達を振りほどき、チェキを撮った。
……正直。
推しの反応は、あんまり覚えていない。
本当にごめん。
せっかく10万円+2万円という、とんでもないお金を使って撮ったチェキなのに。
私の記憶に残っているのは、
チェキを撮った私より、外で泣きながら待っている友達たち。
全部そっちに持っていかれた。
そんなこんなで。
私はこの日。
12万円のお金を失った。
いや。
失ったというと語弊がある。
10万円でアルバムを買い、
さらに2万円でチェキ券を買い取り、
結果として推しとのチェキを手に入れた。
……でも。
12万円。
数字だけ見ると普通に怖い。
そして7月の収支は散々だった。
今月、一番お金を使ったのはもちろん、このアルバムの現場。
2番目は推しのサイン会。
これもメンバーがランダムだった。
ランダム、怖い。もうやだ。
もはや3位はない。
強いて言えば、普段のチェキ。
今月は現場が少なかった。
週1〜2回。
ループもしていない。
だから大丈夫だと思っていた。
なのに。
まさかの月初で12万円。
オタクの出費って、
「現場の回数」だけでは測れない。
むしろ一回の現場に何が待っているか。
それが一番怖い。
来月は……。
もう少し平和に推し活できますように。
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