ふたりだけの追いコン
最初の彼女と別れて、
いくつかの季節が過ぎていた。
僕は大学で実習とレポートに追われ、
毎日をただ、消化しているだけだった。
部活やバイトに本気で打ち込むわけでもなく、新しい恋に踏み出すわけでもなく──心のどこかが、ぽっかり空いたままだった。
ある日、
当時所属していた部活の追いコンがあった。
場所は都内の大衆的な居酒屋だった。
そこには、
僕の元カノ─最初の彼女─も来ていた。
僕と別れたあと、彼女には新しい彼氏がいたらしい。でもそれも、もう終わっていると噂で聞いていた。
彼女は一次会で明らかに飲みすぎていた。ガヤガヤとした店内で、耳まで赤くなった彼女はよく分からないテンションで誰かと何かを話している。
離れた席から、それが目についた。一次会がお開きになる頃には、青白い顔で立って歩くのも怪しくなっていた。
僕はコンビニでグリーンダカラや水を買ってきて彼女に渡したり、袋を持ってあげたりした。
後輩たちは僕らの様子をちらっと見て、
「…大丈夫ですか?」とだけ言ってきた。
でもそれ以上は何も言わずに、
二次会のほうへ流れるように去っていった。
足早にどこかへ帰る人たちが、僕たちの前を次々と通り過ぎていく。店先にずっと居るわけにはいかないので、駅前広場のベンチに二人で座った。
僕は無心で見守っていた。春先の夜、ベンチでじっとしていると、どんどん冷えてくる。
彼女が持っていたひざ掛けを、二人で共有した。
温かいお茶を自販機で買って、一緒に飲んだ。
ふと携帯の待受画面に目を落とすと、だいぶいい時間になっていた。僕は彼女に声をかけた。
「大丈夫?そろそろ終電近いよ」
「……大丈夫、ネカフェ行くから」
──まあ、たまには、こういうのもいいか。
……大学を卒業したら、こういう夜もなくなるだろうし。僕は見守り続けることにした。
しばらくして、彼女はすっと立ち上がった。
表情は、いつもどおりに見えた。
終電はとっくに過ぎていた。
僕も立ち上がって、適当な方向へ歩き出した。
すると、彼女がついてきた。
「どうしたの?」
「……わかんない」
──どうしてわからない?なんて聞くのは野暮だ。僕の元カノは、そういう子だった。
夜の街を、二人でただ歩いた。
さっきまでの喧騒が嘘みたいに薄くなっていた。
酔いの残った笑い声だけが、遠くで跳ねている。肩を組んだままフラつく学生のグループ。
タクシーをなかなか拾えずにいる会社員。
路上で座り込んでいる男。
ビルの陰では、知らない男女が寄り添っている。
僕と彼女の足音だけが、はっきり聞こえていた。
彼女はしっかりとした足取りでついてきた。
コンビニの前を通り過ぎ、閉まった店の前を通り過ぎ…
歩いて、歩いて、それでも何も話さないまま──目の前に、ホテルの明かりがあった。
──ここまでついてきたのなら。
僕たちの目の前で腕を組んだ別の男女が、
吸い込まれるように入っていった。
……僕は彼女の手をとり、前に進んだ。
彼女は、最後までついてきてくれた。
──懐かしい体温と香りの中で、朝になった。
「……ねぇ」
「ん?」
僕のほうを見て、彼女はこう言った。
「なんか、変わったね」
……変わったのは、彼女の方だと思った。
あの頃の彼女が、ほんの少し、遠くなっていた──そんな感じだった。
「…いや、俺は、何も変わってないよ」
僕はそう答えるしかなかった。
二度目、はなかった。
──僕らは、前に進むしかなかった。
あの夜、僕らの追いコンは、
ひっそりと終わった。
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