永遠に続きますように。
あれは、大学一年の晩秋のことだ。
その頃、僕には──
初めての彼女ができたばかりだった。
彼女は同じ運動部で、前から好意を寄せていた。密かに…のつもりだったが、同期や先輩、コーチにまでバレバレだった。
つい先週、告白した。彼女は小さく頷いた。
それだけで僕の世界は一変した。
でも、まだ、ぎこちない。
ガラケーのメールやSkypeのチャットなら楽しく話せるのに……どう話せばいいのか、分からない。
そんな、微妙な “間” があった。
翌週末、部活の大会の手伝いを終えて、東京駅八重洲口から高速バスで帰ることになった。
冷たい風が吹き抜けていた。
街の色が、少しずつ夕方から夜へ変わっていく。
こっそり隣同士の席を予約していたのを同期に見つかり、「おい、お前ら──」と冷やかされる前に、逃げるようにバスに乗り込んだ。
彼女は窓側に座った。
「寒くない?」
「うん。たぶん、大丈夫」
最初は他愛のない話をしていたが、
徐々に沈黙が増えていく。
初めて二人だけの時間を過ごせた。
僕は、それだけで幸せだった。
そのとき、
彼女が急に頭を僕の左肩に寄せてきた。
……一瞬、身体が固まった。
触れた部分から鼓動が伝わる。
髪からほんのり甘い匂い。
「……寒くない?」
僕がそう言った瞬間、カーディガンを脱いで、
そっと膝の上に掛けてくれた。
暖かい。彼女の温もりが、まだ残っている。
でも、気を遣わせてしまった──
……いや、本当は、そんな余裕なんてなかった。
──大学生にもなって何やってるんだ、僕は。
……身体が言うことを聞いてくれない。
動いたら、彼女にバレてしまう気がした。
高速バスの揺れが、ふたりの“間”さえ曖昧にしていく。窓の外、街灯が次々と流れていく。
自分だけ、止まっている。
永遠に続きますように──。
僕は目を閉じた。
やがて、バスが目的地に近づき、
「間もなく、到着します」
というアナウンスが流れた。
彼女は、ゆっくりと、身体を起こした。
…窓の外には、見慣れた景色が広がっていた。
ほんの数十分だったのに。
バスを降りてもまだ、どこかに彼女の髪の匂いが残っている気がした。
──あのとき、僕は本気で祈っていた。
あの瞬間は、たしかに永遠だった。
「今日ちょっと帰るの遅くなる」
仕事中の妻からラインが来た。
その夜、いつもより少し遅く帰宅した妻は、
ソファに座る僕の隣にストンと腰掛け、
そのまま肩に寄りかかってきた。
「あー疲れた、外ほんと寒すぎる。そういえば今日さ、めちゃくちゃ面白いことがあって──」
すると急に4歳の長女が、
「わたしもー!」
ニコニコしながら間に入ってきた。
一瞬で終わった。
「…じゃあ、みんなでぎゅーしよっか!」
──それはそれで幸せだ。
……さっきの話の続き、
あとでちゃんと聞きたいな。
「永遠」を探しに、5分でも10分でも早く子どもの寝かしつけをする日々だ。
ただ、正直に言うと──
……たまに、
あの頃の「永遠」が、ふと、懐かしくなる。
(了)
(1185字)
※モノカキングダム2025 応募作
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