#シロクマ文芸部 思い出の一冊
「思い出の本がありますか?」
ある方に尋ねられて、私は直ぐには答えることが出来ませんでした。
けれどしばらくして、浮かんで来たのは、子育てに追われていた頃絵本と一緒に手に取り夢中で読んだ一冊の雑誌、福音館の『母の友』でした。
あの当時、私は十年住んだ京都を離れ、九州の夫の実家に身を寄せていました。上の子は三歳、下の子はようやく一歳になったばかりです。
方言に馴染めず知り合いもいない土地に無理矢理放り込まれたような日々で、孤独感に押し潰されそうになっていたのです。
夫はしばらくして仕事に就きましたが、帰宅するのは子供たちが寝静まったころでした。
昼間の私は病弱な義母と、寡黙で昔気質の義父との間に挟まれて
時には、気づかいで息をする事さえ苦しいと感じる時もありました。
私の楽しみは子供を風呂から上げた後、布団の上で過ごす時間でした。
川の字に寝転び、好きな本を持ってこさせるのです。
そして読み聞かせの時間。
長男は乗り物が好きで、特に『しょうぼうしゃじぷた』がお気に入りでした。
「ぷぅ、ぷぅー、なんてあれでもしょうぼうしゃのつもりかね」
皆にばかにされながらも、諦めず前向きな小さなしょうぼうしゃじぷたが山の上の火事を消しに行く場面では毎回力が入りました。
下の子は
『こんとあき』表紙の『あき』が怪我をした『こん』に包帯を巻いて、電車を待っている絵がなんとも可愛くて抱きしめたくなるほどでした。こんを作ってくれたおばあちゃんの家にたどり着くまでの冒険
おばあちゃんに会えた時の感動が今も心の隅に残ってます。
私のお気に入りは教科書にも取り上げられた
『スーホの白い馬』
『モチモチの木』
毎回同じ場面では涙がでそうになるのをこらえて、
そう、自分に言い聞かせる様に何度も何度も読んだ本です。
子供たちが眠りに着くと今度は私の時間です。
『母の友』を開く時間です。
子供たちが幼稚園を卒園する(三人)六年間ずっと『母の友』を取り続けました。
その間に購入した絵本150冊は幼稚園に寄付し、『母の友』は私の宝物として段ボールに入れて、押し入れの中に随分長い間ありました。しかし家を改築する時に、泣く泣く手放しました。今になって数冊でも残して置くべきでした。悔やまれます。
長新大作
『なんじゃもんじゃ博士』
へんてこりんな漫画ですがはまりました。久田恵さんのエッセイや
角野栄子さんの『魔女の宅急便』も『母の友』から連載が始まりました。
友達もいない土地でのさみしさを乗り越えられたのも絵本と母の友のお陰でした。
今でも福音館書店から『母の友』は出版されているのかと調べてみると、
今年 令和七年三月に休刊したとでていました。本当に残念です。
七十年もの長きに渡り良質の雑談を読者に届けてくれたこに感謝します。
過去にこの本で救われた母親がいたことを福音館書店に届けたいです。
ありがとうございました。
私の思い出の一冊でした。

終わり
#エッセイ
『母の友』が休刊になったこと
この文章を書くまで知りませんでした。何かの縁でしょうか、この場を借りて御礼を申し上げます。
