見出し画像

ときめきトゥーシューズ【毎週ショートショートnote】


「時子ばあば、90歳のお誕生日おめでとう!」

曾孫たちの笑顔に囲まれて、時子ばあばは幸せそうに目を細めた。
けれど、胸の奥にひとつだけ、ずっと叶えられなかった夢があった。

「一度でいいから、少女歌劇団をこの目で見てみたいねぇ。」

子どもたちはその願いを聞いて、すぐにチケットを用意してくれた。
前から二列目、真正面の特等席。
幕が上がると、時子ばあばは息をのんだ。
歌、踊り、きらめくライト。
目を輝かせながら、少女のように拍手を送った。

その光景は、遠い記憶を呼び覚ます。
まだ幼いころ、一度だけ母に連れられて見た少女歌劇団。
その日から夢見た。
自分も、あの舞台に立ちたいと。
けれど、戦争の影が忍び寄り、すべてが焼かれた。
夢も、街も、あの日の笑顔も。

幕が下り
観客が席を立つ中、時子ばあばはそのまま静かに座っていた。
微笑みながら、やさしく目を閉じて。

夢の中で、時子は少女に戻っていた。
淡いピンクのトゥーシューズを履き、
まばゆいライトの中で踊っている。
満場の拍手が降りそそぐ。

「お客様、大丈夫ですか?」

支配人がそっと声をかけた。
時子ばあばはうっとりとした顔で、静かに答えた。

「おかげで……夢が叶いました。」

終わり


田原にかさんの毎週ショートショートnote
今回のお題は私の夢でもありました。憧れのトゥーシューズでもあります。



いいなと思ったら応援しよう!