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邪道作家第四巻 生死は取材の為にあり 分割版その1 続話リンク付


新規用一巻横書き記事

テーマ 非人間讃歌
ジャンル 近未来社会風刺ミステリ(心などという、鬱陶しい謎を解くという意味で)

縦書きファイル(グーグルプレイブックス対応・栞機能付き)全巻及びまとめ記事(推奨)


簡易あらすじ

死んだ筈のものが動いている? ならば取材だ。
思うに、生死なんぞどうでもいい!! あの世なんてあるか知らないが、あったらあったで作品が売れるのか? 否だ。であれば、その程度の瑣末事知ったことか。
だが、人間は気にする───それも、異常なほどに。
毎回死にかけている私には意味不明な話だが、ちょいとばかり死を超越しただのとほざくインチキ霊能者に縋るのだ。であれば、学んでおいて損はあるまい。
そう考えていつものように取材(法的にどうかは知らん)を行う毎日だが、今回は武器の秘密に迫る羽目に。
正体なんて、なんでもいいのだが••••••これも取材の一環か。
そう考えて私は武器を取り、メモを忘れ、感覚で今日も動いたというわけだ。
言ってしまえばそれだけの噺だが、それがどうして骨折り損の話になるのか、それを私に聞くんじゃない。
私だって、楽して儲ける安易な噺が良いんだよ!!
苦労して介錯を頼まれるなんて、やれやれ。一体、何の巡り合わせだ?
私は「作家」だ。書く以外を頼むんじゃない!!
さて、死んでる筈のものを殺しに行こう。これはそういう物語だ。
生きてようが死んでいようが、どちらでもやることにかわりはない気もするが••••••死人を殺すのは初めてだからな。
無論、違っても責任は取らないが。





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 死は平等に訪れる。
 それは聖者であっても・・・・・・問題はその結末に「納得」行くかどうかだろう。無論、家庭も重要だ、何せあの世があるのなら、だが神だか仏だかが偉そうに上から目線で「君は天国に行くのにふさわしい」だとか「貴様のような奴は地獄行きだ」だとか、判別されるだろうから。ルビーの鑑別っじゃああるまいし、勘弁して欲しいものだ。「俺が現役だった頃は」
 どの傭兵もそう言う。ここが工業の鳴かんな雑多な惑星の、その酒場でなければ、もうすこし真実味もあっただろうが・・・・・・酒場で男が語る噺は真実かどうか、当人に美化されすぎてわかりにくいものだ。
 男はジョンと言った。
 本名かどうかは分からない・・・・・・まぁ、傭兵に名など、意味があるまい。
 彼らは死に向かうものだ。
 名前ではなく、生き様で語られる。
 それは作家のようだと思ったが、しかし私は得意なだけであって、争いは苦手だ。余計なストレスを生活に持ち込みたくはないからだ。
 男はがっしりとした体型で、筋肉の付きはそれは凄く、空を支えた巨人はこんな感じでしたと言わんばかりの、背中で語れる身体をしていた。
「こんな風に、生身の人間が、酒を飲み、仲間内で語らったもんさ」
「今は違うのかい?」
 私は聞いた。
 カウンター席なので、私以外に座っている者がいない以上、私しかいないが、しかしここは店主が人間ではあるが、他は違う。アンドロイドばかりのこの世界、機械便りのこの世界、ほとんどの人間がバイオ・チップを脳内に埋め込み、その利便性を活用しながら生きるこの「電子電脳世界が世界を覆い尽くす」世界の中では、ただ生身で処理もされていない、どころか普通の人間が入れた酒を飲む人間たちの宴は、ここだけ違う世界が広がっているようで居て、神秘的ですらあった。
「ああ、頭にネジの埋め込まれた機械など、居なかったなぁ」
 世界を変える力。
 これを聞いて君は何を思うだろうか? 強大な権力か? 強大な暴力か? それとも、数の圧力か・・・・・・・・・・・・どれも違う。
 人間の祈りの数だけ、世界は変わる。
 世界が貧困と飢餓と暴力と戦争と、格差と貧富と虚実と偽善に満ちているのは、何と言うことはない、つまりそれを望む人間が多いだけだ。
 人間がそれを祈るだけだ。
 世界が残虐なのは、ただそれだけの理由だ。
 金で善意ある人間は買えないが、悪意合る人間との縁をを切る事は出来るように、人間lyつて奴は即物的に出来ている。即物的であるが故に、おおよそはそういう、欲の絡んだ理由だ。
 当たり前のこと。
 人間はそれを見ないで生きている。
 銀行に金を預けることの危うさを知ろうともせず、「安心」を買っているつもりの大衆のように・・・・・・銀行が金をもらうのは預金や手数料からであって、善意でも何でもなく、エリートどころか拝金主義者のなれの果てなのだが、世間的な立派さ・・・・・・学歴だとか堅い商売だとか、そういうもので判断して、違ったら理不尽だと嘆く。
 楽そうで羨ましい噺だ。
 科学が進んでも、変わらない。
「しかし、私はこう思う」
 そう言って、私は会話の主導権を握る。
「私は、消費社会、科学全盛社会、なんでもいいがこの世界は、世界って生き物は、精神的に進歩しないまま、ここまで来たのだと」
「なるほどな、つまり人間は、進化はしても進歩しなかったと、そう言いたいのか?」
 興味深そうにジョンは聞いてきた。
「ああ、そうだ。精神の成長は、資本主義社会ではむしろ、不必要なものだ。率先してそれらをしてる人間こそが、「立派な社会人」になるのだから、自分のない、ロボットみたいなイエスマンが増えて、欲深な人間が豊かになり、道徳の善し悪しを決めるのだから、当然だろう」
「お前さんは、金が嫌いなようだな」
「まさか! 唯一信じるものだ」
 そうは言ったが、私は金すらも信じてはいないだろう。作家の信じる事柄など、己の作品の出来映えだけだ。
 そして私の買いた作品は全て世紀の傑作だ。
 何の問題も生じない。
「ただ、そうであるくせに、「倫理観」だとか「理性のある一般市民」ぶるなという噺だ。金のためならば人を殺すくせに、直接的でないからだとか、自分には責任がないだとか、なら最初から善人ぶるなという噺だ」
「成る程な。嘘が許せないと?」
「いや、ご大層な噺を聞かされることに、うんざりしているだけだ」
 資本主義に支配される人間たち。
 人間は未だに、金を支配できていない。
 それは勝手だが、押しつけられる方はたまったものではない。迷惑極まる噺だ。
 噺は変わるが、君たちは「運命」を信じるだろうか? 思うのだが、運命があったとして、結果を見なければ我々にそれは知覚できない・・・・・・・・・・・・先が見えることはない。我々に未来は見えないのだから。
 もし、全てをやり尽くした人間が、運命を克服するために人間の限界を超えて成し遂げた人間がいたとして、何をすればいいのだろうか?
 私は最近、そればかり考えている。
 私自身がそうだからだ。
 結論として・・・・・・無い。
 未来が見えない以上出来ることはあるまい・・・・・・・・・・・・己を信じる、それくらいだろう。
 もっとも、作家である私は自信の作り上げた物語に関しては「絶対の自信」があるので、見る目がある奴が読むのだろうか? という不安くらいのモノだ。意外でも何でもなく、成し遂げた人間はそう言うことしか考えないらしい。
 つまり審判する側に回れば、こちらのモノ、運命ですら口出しは出来ないと言うことらしい。
 そも、成し遂げた人間にあれこれやることがあるわけがないではないか。精々、作家だとすれば売れると決め込んで、作品を次々書くことくらいのモノだ。
 読者共もそうしろ。
 私はそうしてきた。
 世の中とは、そう言うモノらしいからな。
「全く、未来が見えればいいのだが」
「なぜだ?」
 突然噺が変わったので、ジョンは驚いたように聞いてきた。まぁ当然だろう。作家でもなければ普段から、このようなことを考えまい。
 まったくな。
「不安が無くなるからさ」
「不安は嫌いか?」
「その結末が当然だと信じていても、断言できないのはむずがゆいものだ」
 すると、ジョンは高笑いをしながらこう言うのだった。
「何を言う、結末が分からんから楽しいのではないか。貴様の書く物語とて、そうだろう?」
「だが、報われるかどうか分からなければ、誰だってそう願ううだろう」
「確かにな」
 ビールを一気のみ(今時、人間の造ったビールは希少だ。味わうつもりが無いのか?)して、グラスを大きな音を立てて置き、彼は言った。
「成る程確かに、結末は分からんかもしれん。しかしな、若造。お主は分からないからこそ、その物語を書けたのではないのか?」
「どういうことだ?」
「いやな。だってそりゃ、贅沢ってものだ。あれだけ面白い噺を書いておいて、「売れるかどうか分からない」など。売れるかどうかわからんからこそ、あんな面白い物語を書けたのだろうに」
「世辞は必要ない」
「そう言うな。面白かったぞ、あれ。タイトルは忘れたが・・・・・・とにかくだ。もしあれがメガヒットするとして、だ。お前さん。同じ物語を書けたとでも言うのか?」
「当然」
 いや無理か。
 その苦悩があったからこそ、形に出来たのだろうしな」
「無理であろう? なら、構うまい。なぁに、結末は良いものだと信じておけ。やれることをやったんなら、人間はあれこれ動くもんじゃない。どっしり構えて吉報を待っておれ」
「やれやれ、参った。非現実的な声援ありがとうよ、全く」
 幸福に生きたいだけの私からすれば、勘弁願いたいとしか言いようがない。横から口だけを出すうすらバカ共の妄言を聞く身にもなって欲しい。 そんなことが出来るわけ無い、といった類のことを、人生で一度も自分の脳味噌で考えたことのない人種がホザき、それを黙って聞く。
 こんな地獄が他にあるか?
 もう勘弁して欲しい。無論、お願いでなく命令だ。これ以上下らない妄言を聞く気もないし、金を払うわけでもない人間のカスに、良いように言われる覚えもない。
 そんなバカ共の道理が通るなら、私は人間を辞めて良い。人間がそこまで価値のないモノなら、物語を語り聞かせる頭も、無いだろうからな。
 当然ながら皮肉だ。
 皮肉を皮肉として受け取る脳味噌が、そういうバカ共に理解できるのかは、知らないが。
 気分を変えよう。
 話題を変えるのが良い。
「・・・・・・いずれにしても、口だけが立派な人間が信念に準じた人間をあざ笑う風潮を、いい加減何とかして欲しいものだ。目障り耳障りで仕方ないからな」
 しまった、愚痴になってしまった。
 まぁいいか。
「それこそ貴様が気にするようなことではないだろうに。そう言う馬鹿者はどの時代にもいるモノだ。俺もそうだった。そして肝心なことだが、人間は、今まで生きたその総決算、所謂「報い」とうのは良かれ悪しかれ、受けるものさ」
「本当か?」
 もし、なければ馬鹿馬鹿しいことこの上ない。 カスでもクズでも良いが、そういう生き方がこの上なく「正しく」なる。生きることがこの上なく馬鹿馬鹿しくなるだろう。誰だってそうだ。
「それが分からないから「運命」だろう?」
「いいや、生き方は返って来るものだ。自分自身にな・・・・・・・・・・・・お前さんをあざ笑っている連中だって、そうだろう? 連中は人をあざ笑う自由は手に入れているが、どいつもこいつも幸福そうな面はしていまい?」
「確かに、そうだがな・・・・・・」
「安心せい。見たところ、お前さんの信念は間違っちゃおらん。この儂が保証してやるわい!」
「・・・・・・ま、気休めにはなったよ」
 便宜的に「ありがとう」とだけ言った。
 私にしては珍しい行動だ。
「ところで、そろそろ本題に入ろうか。このまま酒を浴びるほど飲むのも、それはそれで面白いが・・・・・・何でも、討ち取る標的がいるからこそ、ここに集まったのだろう?」
「ああ、そうだ」
「なら、早うせんかい」
「それこそ落ち着け。急いだところでどうにもならないさ」
「ふむ、成る程な、貴様の気持ちもわからんでもないわ。気持ちが勝手に焦りよるわい」
「ふん」
 そんなことを会話しながら、我々はバーのカウンター席で盛り上がるのだった。時には政治、時には女、時には酒の噺だ。
 作家が噺を語られるのは、珍しいことだ。
 精々、作品の参考にするとしよう。
「なに、人間やり遂げたなら、胸張って生きていけるもんだ。貴様はやり遂げたのであろう? ならそれを誇りに生きればよい」
 などと、古くさい考えを示すのだった。
 嫌いではないが、現実性に欠ける。
 金で幸福は買えないかもしれないが、金で平穏は買える。安い買いものだ。だが、それも現実に実利あってこそのモノだ。
 ここで正しておきたいのは、私という人間は誰よりも効率や損得を重要視していないが、誰よりも現実における金の力を、軽視していないと言うだけなのだ。
 ただのそれだけだ。
 盗みを働いてでも金を手に入れるだけならば簡単だ。しかしそうすると金を使う意味が無くなり何がなんだか・・・・・・それに悪意には悪意が、法という強大な悪意が向かってくる。
 平穏であり、敵のいない世界。
 金があれば創れなくもない。後は当人の意志の問題なのだから。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、ジョンは美味そうに酒を飲んだ。成る程・・・・・・環境がどうであれ、酒の味は変わらないらしかった。
 私は飲めないので分からないが。
 味が苦手なのだ。アルコールは良いがその味が不味くてたまらない。何より私は酔えないのだ。 ウォッカを飲んでも、私は酔わない。
 そういう人間なのだ。
 人生の絶頂、成功による愉悦、そういったものを生まれながらにして「感じ取れない」以上、私に望める幸福は、「充実感と恒久的な平穏」が主体となるからだ。まぁ仕方あるまい。そう言う意味では、酒の味が分からないのは、当然だろう。 私はそう言う人間だ。
 そして、それを否定する気は毛頭無い。
 人間性など、どうでも良い噺だ。善人か悪人かなど、どうでもいい。子供を殺すことに喜びを覚える人間も、聖人ぶって信徒を導こうとする聖人君子も、やっていることは同じなのだから当然だと言えよう。
 何かを殺して生きている。それは動物であり植物であり、あるいは自分はフルーティアン(果物しか食さない人種)だから何も殺していないなどと言う人間もいるだろうが、しかし、そんなわけがないだろう。生きていれば争いがあり、争いがあれば順序があり、順序があれば優先されるモノがあり、そして選ばれなかった存在・・・・・・・・・・・・才能でも境遇でもなんでもいいが、とにかく完全な平等も完全な平和も、事実としてあり得ないものでしかない。そも争い、殺し、犯すのはあらゆる生物の本能であり、それが悪だと道徳があるように振る舞って、定義しているだけだ。
 時代によっていくらでも変わる。
 そんなモノに価値はない。
 例えば、私の隣でビールを飲んでいるこの男、ジョンと言っただろうか? この男の古き良き時代には「正義」だとか「テロリズムの抑制」だとかいかにもそれらしい理由、にもなっていないがとにかく、そういうお題目で合法的に人殺しが出来ていたらしい。基準が楽で羨ましい。
 しかし、平和になってからはすぐに、戦争はいけないことだ、とか人を殺すような奴は気が狂っているだとか、叫び出すわけだ。
 人を殺して首を取り、それを栄誉だの栄光だのもてはやしてきた、殺すことで領土を拡大し続けてきた「人間」という虐殺の得意な人種の言うこととは、思えない噺だ。
 当然皮肉である。
「お前さんは細かく考えすぎのきらいがあるな」 そんなことを美味そうにビールを飲み干して、ジョンは言うのだった。
「もっとシンプルに考えればよかろう」
「どんなふうに?」
 ここでこの男が落ち込むまで事実をたたきつけるのも良いのだが、しかしまぁ、参考ついでに聞くとしよう。
「そうさな、我々は所詮、この宇宙に産まれたちっぽけな生命体にすぎぬだろう? なら、豆粒は豆粒らしく、胸を張って生き、成し遂げ、やり遂げたのであれば・・・・・・それは良き行いであろう」「自己満足だな」
「おうとも。しかしそういうもんだろう? 儂もお前も自己満足でしか満足できん。人間とはそう言うものだ。だがな物書きよ、どうせなら大きい法螺を吹いて、それを実現すると触れ回った方が面白いではないか」
 英雄的な考えだ。
 つまり現実的ではないと言うことだ。
「そりゃ構わないが、生憎自己満足で「妥協」は出来ても、それで満足は出来ない質でな。まぁもっとも、私のような破綻者は、自信が望むモノに限って手に入らない宿命がある。まずはそれを克服してからの話だろうな」
「そりゃいい。だがな物書きよ、見たところ、お主はもう克服しているように見えるぞ」
「どういうことだ?」
「だって、お前さん、宿命も運命も知った事ではないと、そう言う顔をしている。つまりお前さんは既に答えを得ているんだ。それがどういうモノかはどうでもいい。いずれにせよお前さんはいずれその「手に入らないはずのモノ」を手に入れるだろう。儂から言わせれば、そこからが本当の戦いよ。失うモノを一つも持たなかった物書きとしての貴様は無敵だったかもしれぬが、しかしそこから先はそうではない」
 一見の価値はある物語になろうよ、と予言じみたことを言うのだった。まぁ、言うだけなら誰にでも出来ることだ。別段、驚くには値しない。
「儂から言わせれば、何のストレスも無い平穏な生活など、つまらんがなぁ」
「それはお前の基準だろう。争いごとは好まない質でな、無いに越したことは無い」
「そうかのぅ、儂は艱難辛苦、波があれば嵐もある大航海の方が、心躍るがな」
「私は、その「心が躍る」体験が出来ないと言っているだろう。つまり私には無意味で無価値だ」「そうなるのかね。しかしな、物書き。やはり物語も人生も、揺れ動くからこそ、這い上がるからこそ人間の意志は光り輝くのだと思うぞ」
 などと、また知ったようなことを言った。
 どうやら、この男は天高くを見渡す大人物であるらしいが、しかし私は作家であり、絶対に手に入らぬ「人並みの幸福」を望む傍観者、いや生還者である。この世の道理に溶け込めぬ身として、正直、相容れない相手だ。
 彼は天高くを望み、それに挑む姿勢を良しとして、胸の高鳴りを優先した。
 だが、私は平穏でありきたりなモノを望み、望むモノに限って入らない矛盾に苛まされた。
 この矛盾。 
 世が平等ではない証のようなものか。
 公正さは世界に必要だ。しかし公正さとは、公正に感じるものであれば良いのだ。現実に公正であり公平である必要は無く、また世界はそうだ。 公平で平等に見えれば良いという、矛盾を解決しないまま世界は回り続けた。その結果、こうして彼と私の間には、目に見えぬ「不平等」とでも言えばいいのか、持つ者と持たざる者には、埋められない差があると痛感させられる。
 それは強者の理屈だ。
 そう言ったところでこの男には通じまい。弱者が強者になれないように、強者もまた、弱者になることはできないのだから。
 私は中立ではなく、ただ、最初から外れていただけだ。不満はないが、それに対する見返りくらいは欲しいものだ。いや、私はそんなに謙虚ではないだろう。
 いままで散々だった。
 だから利子付きで返して貰う。
 ただの、それだけだ。
 とはいえ、私が望むのは「平穏」であって「平凡」ではないのだ。そう言う意味では、こういう類の英雄的気質の持ち主、あるいはただ単に「時代に置いて行かれた古い人間」とでも言うべき、男の存在は、私にとっては福音だ。
 男の道。
 価値観としては古いが、しかし廃れることのない文化であり思想だろう。少なくとも、この世が男と女で説明できる内は。双方ともそうだが神話時代から、男は男の、女は女の生き方が、さながら宿命づけられているかのように、固まっているものだ。
 男は理想と信念に生きる。
 女は家庭と愛に生きる。
 普遍の法則だ。
 しかし、男の生き方は古いと通じなくなってきた・・・・・・・・・・・・資本主義社会が台頭してきてからは、男は実利あっての生き方、金の伴ういかがわしいビジネスが権威の象徴であり、それが正しいという風潮が出来たのだ。
 そこに信念は無い。
 理想も夢も、希望もない。それは資本主義社会において、金と引き替えに失うものだ。私のように要領よく失わない人間は、かなりの少数だ。
 殆どは、信念のない抜け殻だろう。
 あれば良いわけではないが、ある方が面白いということだ。
 そしてそれがある人間は面白い。
 善悪ではない、私は作家だ。そんなモノに興味を持つようでは作家失格も良いところだろう。だから問題なのは、その面白い生き方をしている古い生き方の化石人間のサンプルが、今まさに私の目の前にあるという「事実」だ。
 私は作家だ。
 作品以外、傑作を書く以外は、どうでも良い。 人が死のうが生きようが、だ。
 それが、少なくとも私の作家としての在り方だ・・・・・・・・・・・・倫理的に正しいかどうかはどうでもいいのだ。言われたところで知ったことではないしな。故に、作家としての私がする事はただ一つと言ってもいい。
 すなわち、作者取材である。
「這い上がるからこそ輝くだと? 確かにそれは事実だろうさ・・・・・・だが、這い上がって成功し、それで運命に打ち勝った人間にだけ許された、真実でもあるがな」
「やれやれ、そう穿って世の中を見る必要も、ないだろうに」
「馬鹿を言うな、私は作家だぞ・・・・・・穿った目線でみれない作家など、作家ではない。儲けているから作家というわけでもあるまい。作家というのは言わば、背負った業の名前だ。その業の示す道でしか生きられない、そんな人間を「作家」だと民衆が呼んでいるだけにすぎん」
「ほぅ、つまり、お主の生き様は穿っているからこそ作家足り得るのか? 酔狂なことだな」
「酔狂でなければ、作家などできんさ」
 事実すらも疑って、それでいてこの世で最もこの世の真理に肉薄し、真理を通して自己を再現することで、物語を描く。
 そんな人間が、酔狂でなくて何だというのか。 作家はすべからくそうであるべきだが、しかし資本主義社会においては、金が儲かりそれが売れれば誰でも「作家」になれるというのだから、随分と人間の誇りも尊厳も、安くなったものだ。
 作家はどの時代でも、扱いは荒いがな。
 私はビールが飲めない(あの、ぶつぶつした泡が口の中を爆撃するような不快感に、なぜ耐えられるのか、それを快感と受け取れるのか、不思議でならない。マゾヒストなのだろうか?)ので、カプチーノを一つ、モッツァレラチーズとトマトソースのパスタを一つ頼むことにした。
 カウンターにそれが運ばれてくるまで、我々はさらに話し込むのだった。
「どこかその辺に、良い儲け話は無いものか」
 そんなことをジョンが言うので、私は「教師になればいい」と進めた。
「何故だ? 教師ってあの、生徒に文学やら理数やらを教える仕事であろう? 儂に務まるとは思えんが・・・・・・」
「それは理想であって、現実にある事実では無いだろう? 現実には教師という仕事は、教え子を殴り躾だと思いこんで、女に手を出しても咎められず、それでいて「権威のようなもの」を疑似的に体感できる、言わば「合法的な犯罪者」だからな。楽だとは思うぞ」
「あー、何か嫌な思い出でもあるのか? お主」「いや、ただの事実だろう。確かに、私にはおよそ人並みらしい思い出など無いが、それとは関係なくただの事実だ」
 お前は事実を見ていないだけだ、と私は指摘してやるのだった。
「そうかもしれん。だがなぁ、物書きよ、世の中という奴は往々にして上手くは運ばぬ。なら胸に大望を抱き、それに身を任せ、見果てぬ夢を見ることで楽しむ。それのどこがいけない?」
「夢を見るだけなら、枕でも買えばいい。誇りや人生観、あるいは生きる上での在り方すらも、金があって、現実に力を持つことで初めて、当人の自己満足という意味を持つのだ」
「やれやれ、楽しいか? そんな生き方で」
「楽しいさ。金があり、平穏な暮らしをして、本を書いている限りは、コーヒーでも楽しみながら私はいくらでも人生を満喫できる」
「そうかぁ。ま、それも一つの在り方よな」
 がっはっは、と傭兵らしく、乱雑で描写に苦しみそうな笑い方をするのだった。
「そも、人に教える、などというのは人生を賭けて行うものだ。その生き様から、先人の在り方から学ぶことで、ようやく学び、教えることができるものだろう」
「意外と、ロマンチストなのか? 物書きよ」
「いや、人間のような魂と思考回路の汚い生き物には、「教える」などという大層なことはできないと言うだけの噺だ」
 何せ、現実には善人でも悪人でもなく、人間のクズこそがおいしい思いをするのが世の常だ。現実はそんなものだ。私も、一体何度人に夢を見せるなどという「作家」という生き方を馬鹿馬鹿しいと思い、いっそそういうクズの生き方を見習ってやろうかと思ったかしれない。
 綺麗事を吐くだけなら必要ない。現実に人間の意志が結果を伴わないことがあるのだとすれば、そんなことはあってはならないことなのだろうがしかし、その場合事実として、この世の摂理はそういう「クズ」よりも価値がないと、まぁそういうことなのだろう。
 もしそうだとすれば、私は筆を捨てて作家を辞めて、適当に生きることを「辞める」だろう。
 そんなモノ、こちらから願い下げだ。
 それが人生だと言うのなら、だが。
 私とて、一夜にして成るものなど無いと言うことは流石に分かっている。だが、1年で形にならないは必然だ。10年で人並みにはなる。そして15年で誇りを持って物語を描ける。
 そこからさらに1年で形を仕上げれば、これはもう、吉報を待つほかあるまい。私は全てをやり遂げた、だからこそ、作家として自身に還るモノが無いのは、我慢ならない。
 そんな生き方が、この思考回路を産むのだ。
 息を吐いて、ジョンは言った。
「確かにな、こと、教育とは難解なものよ。儂も経験がある」
「そうなのか?」
「ああ、世代の壁を越えるのに苦労したわい」
 どんな教え方をしたのだ、貴様は。
 と、そこでニュースが入ってきた。
 緊急着信機能のある店の電子デバイスから、速報が入ったのだ。私は編集者から連絡がきたのかと思い、反応しかねた。何事にも言えることだが「信用」とは何にでも優先できる。信用できる相手ならばどんな条件であれ、任せられるモノだ。 つまり培っている途中というわけだ。
 私はスライド式の印税なので、あまり深く売り方に指示したり面倒なことはしないが、やはり根底から本を「売るもの」と考えている人間と、本を「物語であり、綴るもの」と考えている私とでは、なかなか難しいものだ。
 脳波パターンのコピーを使うことで、技術や才能を他人にコピーする技術がある以上、アンドロイド作家のように自身のインスピレーションを「人任せ」にすることで、どこかの誰かに自身の代わりに作品を書いて貰う。そんな方法を使う作家も少なくはないのだが、私の脳波パターンをコピーした人間は、ことごとくが廃人になってしまい、ゴーストライターには成り得なかった。
 つくづく、異質であり鬼才であることは、世の中に馴染みづらいのだな、と変に納得せざるを得なかった。
 と、緊急着信の内容について触れよう。
 当然ながら、内容はテロリズム、だ。
 押しつけがましい思想を、自身が正しいことを疑わずに、図々しく行うことをテロリズムというならば、所謂「立派な文明人」や「立派な社会人」という人間たちも、そうだろう。ただ、分かりやすく暴力行為に訴えているかどうか、ただそれだけの違いでしかない。図々しい馬鹿はどこにでもいるが、それを集団で、暴力で実現しようとすると、テロリズムになる。まぁ、彼等からすれば、政府も似たようなモノなのだろうが。
 民主主義、などという嘘まるだしの厚かましい思想を持って、暴力で押さえつける部分は、あまり変わるまい。「文明人ぶって」いるかどうかの違いでしかないのだ。そして、所謂「文明人」だって、余裕が無くなればあっさりと殺し合うし、モラルを捨てる。都合が悪くなれば、彼等は簡単にそれらの装飾を、捨てるものだ。
 それは歴史が証明している。
 それを認めようと言う為政者は、未だかつていたことがないが。
「それで、貴様はどうするつもりだ? 喚いたところで始まるまい」
「だろうな」
「だろうなって」
 ぐび、とビールを飲むジョン。飲み過ぎたおかげで、彼は顔を赤くしていた。
「それがわかっていて、何故自問する」
「自分に言い聞かせる為さ」
 あの連中だってそうだろう、と私は例のニュースを指さすのだった。
「ああ、あれな。ああいうのは、なんだ、自由とか革命とか、まぁそういうのを求めて行うモノらしいが、何故連中は暴力に頼るのか・・・・・・なぁ物書きよ、何か知っているか?」
「安易だからだろう」
「安易?」
「ああ、時間をかけて何かを成すよりも、暴力に訴え出た方が簡単だ。要は買って貰えないゲームを前に、駄々コネる子供ってことさ」
「成る程、珍妙な例えよ」
 物事には境界があって、そしてこのバーはその「境界」をいったり来たりしている連中が集う場所だ。当然、私もここへ来たのは所謂「文明人」とは違った、「原始的」なお仕事をこなすためにここへと来ている。
 原始的な。
 まぁ、人間の本質・・・・・・あらゆる欲望、殺し犯し奪うという、そういった類は実に原始的で、それでいて科学が進んでも無くなることは無いのだ・・・・・・それが人間だ。
 社会問題は解決しないためにある。
 そうした方が、儲かる連中が居て、現実にはそういった連中が世界を仕切っている。無論、そういったことは教科書ではあまり、教えてくれないし教えようともしない。暗黙のうちに、ことは行われるモノだ。
 ここに女はいない。
 女が男を認められないように、男も女を認められないからだ・・・・・・男は身勝手で女の気持ちを考えないが、女は我が儘で役に立たない。どちらが良いのかはこの際だ、どうでも良い。問題なのは女という生き物は、現実には役に立たないと言うところだろう。勿論、例外はいるし、それについて議論するつもりはないが、少なくとも科学が進歩して世界が平和になってからというもの、強い女は姿を消してしまったのも事実だ。
 強い女。
 最近はあまり見ない。
 最近は腰を振るくらいしか脳のない女が増えていると同時に、子供を殴るしか脳の無い男も増えてきている。要はどちらも末期ってことだ
 無論、男にだけ、女にだけ問題があるわけでは無い・・・・・・男に関して言えば、最早彼等に「男らしさのようなもの」は無い。至極残念だが、しかし社会的な正しさが「金の有る無し」ぬ向いている世界では、むしろそういったモノは足かせにしか成らないのだ・・・・・・誇りや執念が世界を変えてきたが、ここにきて男の価値観、そういったモノは「ズレた古い考え」になり、大半の男は腰の抜けた、労働に身をやつし酒に溺れて博打に走り、それでいて家の中の小さな権力に固執する、そんな矮小な生き物に変えてしまった。
 女も男も由々しき社会問題になっているのは事実だ。女に関しては、ただでさえ大きい声で横から偉そうなことを言うくらいしか役に立たないのに、家に引きこもって「家事の真似事」をするのがブームになっている。女は家を守るから、仕事は必要ない、と。道理だが、最新鋭のレトルト製品に頼る女ばかりのこの世界で、彼女たちの言い分は悲しいくらい説得力が無い。どんな時代でも女という生き物は、現実的な能力、金を稼いだり現実に役立つことをするよりも、感情で感じてコミュニティーを作り子孫を残す、それに特化している以上、女が役に立たないのは必然だ。大昔から女はこうらしいが・・・・・・無論、男も同じようなものだ。
 要は大多数に流される馬鹿が増えたおかげで、男は仕事に対する「誇り」をなくし、奴隷のように働くことが美徳となって、家族を「誰が金を入れていると思ってるんだ」と叫んで殴ることが社会的な正しさに成ってしまった。最早ただの暴漢なのか分からない位に。子供に背中でモノを教えるのが男の務めだと聞くが、最近は賭博にふける背中を見せる男が、多くなってしまった。
 そんなモノを見て子供が尊敬するわけがない。 大抵は年を取り、死にかけてから後悔するらしいが・・・・・・つまり未来の子供に見捨てられて「合法的に」始末される父親は多くなった。
女は女で美徳を無くしきり、子を産んだら後はドラマを見ながら旦那に文句を言い、それでいて家事も次第にせず子育ても適当になり、家でごろごろするのが日常になって、何の役にも立たないがストレスだけは貯めていき、家の金を使い込むのだ。無論、ロクな人間にはならない。人の金、人の権威、そういったモノを自身の力だと思いこんでいながら、それを自覚しない女は沢山いる。つまり女に魅力はなくなったということだ。
 そんな世の中で、我々には居場所がない。
 ジョンも、そうなのだろうが・・・・・・我々にある思想は、実に古い。簡単に言えば世間に、時代に置いて行かれた男たち、とでも言えばいいのか・・・・・・古い価値観で生きる人間には、苦労しかないと、分かっているはずなのだが。
 私は器用に要領よく生きてきたはずなのだが、どうもこと「作家業」にだけ言えば、気に入らないことに古い考え、男の生き方にこだわってしまうだった。この考えさえなければ、作家にはなれなかったかもしれないが、金持ちにはなれたかもしれない。上手い具合に、両方得たいが、しかし何か一つに集中することでしか、人間は大した結果を出せないものだ。
 必然的に作家になったのかと言えば、まぁ否定はできないが・・・・・・いずれにせよ、金があって豊かで、突然銃で自殺するナイーブな作家には絶対成らず、比較的平穏で幸せになりたいモノだ。
 作家は大抵非業に終わるが、私には冗談でもない噺だ。そんな生き方は御免被る。
「それで、このあとどうするね?」
 ジョンはそう私に話しかけ、つまみのレバー肉を口に放り込んだ。最近では、合成肉以外はかなり珍しい。私も頂くことにした。
 実に奇妙な味である。
 味わいながら考える・・・・・・私にとって金は「生きるため」の道具でしかない。だが、道具がなければ前へ進むこともままならない。道具だけでも当然無意味だが、志だけでも無意味だ。
 今回の依頼は、その両立を求められている。
 過程と結果、両立するのは「運」が必要だ・・・・・・・・・・・・人間は、どれだけ積み重ね、執念で目へと進んでも、人間だけの力だけでは勝てない。
 理不尽だ。
 理不尽だろう。
 しかし事実だ。我々は勝つべくして勝つことを許されてはいないのだ。横暴すぎる気もするが、現実には「何か」が味方しなければ、勝てない。 その何か、は運不運なのだろうか?
 その可能性は高い。
 そして「天運」とでもいうべきか、それを味方に付けない限りは、どれだけ足掻こうが何の価値あるものも作り出せず、報われないと言うのだから、人間の意志には、意味がない。
 あってもなくても、まるで等価だ。
 私の描く人間たちは、案外、何の価値もない無意味なものでしかないのだろうか・・・・・・「神」がいたとして「天」が味方しなければ勝てないと言うのならば、我々は空高くどこか遠くにいる奴らの「おべっか」をするためにいるのだろうか?
 だとすれば、私は。
 私は。
「おい、大丈夫か?」
 顔色は良くなかったらしく、ジョンはいぶかしんで私を見た。
「大丈夫かどうか、なんてどうでも良い噺だ」
「んなこたぁないだろう。健康は大事だぞ」
 物書き、と少年のように笑って言うのだった。 こんな、人への優しさだとか思いやりだとか、あるいは人情とでも言うべきものに、何の価値もなく、現実にはクズ共が良いように生きている。 結果が出せない以上、人間の意志、その誇りだとかに、私はどうしても意味も価値もあるとは、到底思えない。綺麗事はどうでもいい。
 私は勝ちたいのだ。
 だが、勝つために必要なモノが、それはどのような状況でも同じなのだろうが・・・・・・運不運ならどうしろというのか?
 私は私自身の依頼で動いた。私自身に対して依頼をし、それを引き受け、成し遂げた。 
 プロの条件は依頼を受けたら「結果を出す」ということだ・・・・・・「世紀の傑作を書く」という
私から私への依頼は成し遂げた。だが、だからといって金にならなくて良いわけがない。
 いつぞやの精神の内面への旅を思い出す。

 依頼を成し遂げたのなら堂々としていろ

 プロなら、きっとそういう答えを出すのだろう・・・・・・納得はできないが、仕方あるまい。
 黙って苦境に耐えるのも、プロの役目か・・・・・・・・・・・・作家のプロというのは、いや、プロという生き方になって分かったことは、正当な報酬がないとやる気を削がれるということだ。
 やれやれ、参った。
 一流足らんとすることは、こうも報われないことなのか。しかし、私はそんな在り方では納得できないし、するつもりもない。
 報酬をもらって、ようやくプロだ。
 金にならなければ、私は認めない。
 結局のところ人間に許された在り方は、愚直に前へ進むことだけなのかもしれない・・・・・・運不運だというならば、私にできることは無い。
 私が断言できるのは、「結果」がともなわなければどのような仕事であれ、遊んでいるのと変わらない。どれだけ美徳を並べようが、何の意味も価値も無い、ただそれだけだ。
 現実は、そういうものだ。
 この世は金という名前の「結果」で回っているのだから。
 今回の依頼は、さて、どうでるか。
 今回は多くの「死」が絡んでいる。
 そうでなくては面白くもない・・・・・・大量虐殺はよくあることだ。自分達には関係ないのだから誰一人として気にはしないし、する奴もいないが、そういう意味では世の人間はとっくに情のあふれる人間らしさを、生きるために手放しているのかもしれない。
 いずれにせよ人間は「運命」の奴隷でしかないのだ。努力も信念も意味は無い。何をしようが我々は運命に従って、それが自分の力、人間の石の行いの結果だと、そう「思いこんで」運命に支配されている人生を送る以外に道はない。人間の信念は美しいが、力はない。人間は無力だ。
 少なくとも「運命」が死ねと言えば死ぬ。人間の執念や意志には、その程度の価値しかない。
 人間賛歌など、その程度のモノだ。
 人間はその程度だ。
 だから、精々妥協して、適当に楽な道を探すとしよう。人生とは。持っているか持っていないかで、その「運命」で善し悪しが決まり、足りなければ妥協して我慢して、それでも不満があれば苦しんで死ぬしかない。その程度の、ただの苦行なのだ。何か、人間の意志だの誇りだの、そういう「美しいもの」を求めることが間違っている。
 この世界にはゴミしかない。
 人間の意志も理想も、同じことだ。
 無論、願を求めて人間は旅をするが・・・・・・・・・・・・それは「愛」だとか「富」だとか、私のように己自身の欲望であったり、いや、私の場合己自身の「足りない何か」を埋めるために、願いを叶えようとするのだが、しかし、あらゆる願いは、叶ったとたん、輝きを失うものだ。
 夢のある人間は多い。
 しかし、夢が叶い願を叶えて、未来へと歩み出した人間の行き先は、悲惨なものだ。
 夢を叶えたところで、その先にあるのは絶望でしかないのだ。金を求めて手にしたところで、愛を求めて手にしたところで、人間は、決して幸福になど、なりはしない。
「お前に夢はあるのか?」
「どうした、急に」
 ジョンは、面食らったようだった。当然だ。とはいえ、わかりやすい男であるが故に、答えは想定内のモノでつまらなかった。
「無論、あるともさ。美人と酒だ」
「美人には飽きるし、酒も同様だ。人間は願いを叶えても、いや、叶えたからこそ、自身を地獄へと叩き込む」
「・・・・・・また、極端な噺を」
 するな、と彼は呆れたようだった。
 しかし事実だ。
 現実は、そういうものだ。
「夢とは見るものだ。叶えれば日常になる。そして日常とは大抵が、苦痛であり苦悩でしかない、頭痛の種でしかないただの地獄だ」
「夢を叶えることは、地獄だと?」
「ああ、人間はどうやったって救われない。夢に届かなければ絶望し、夢に届いたならば地獄を歩み続ける。人間は、苦しむために生きている」
「まぁそう言うな。その分、この世界には娯楽が溢れているではないか」
「いや、娯楽など、本質的には存在しない」
「何?」
「現実には苦痛しかない。娯楽というのはな、その地獄より非道なこの世界にも、何か素晴らしいことがあるはずだと、有りもしない希望を胸に抱いて、自身を誤魔化すためのモノでしかない。現実のみを見ていては、人を食い物にする外道になるしか道はないからな。だから」
「だから自身を騙して、つらい現実に目を向けないためのモノだとでも?」
「物語など、その典型だろう。噺をどれだけ綴ろうとも、世界は何も変わりはしない」
 この世界は、絶望で出来ている。
 希望は対義語ではない。ただ、そういうモノがなければ理不尽だと、人間が思い描いた都合の良い空想でしかないものだ。
 この世界において、希望は何の力も、影響も、持ちはしない。
 希望は、強いて言うなら無力を指す言葉だ。
 人間が本来届かない「勝利」を掴むには、誰かの後押しが必要だ・・・・・・あらゆる噺、あらゆる物語で「仲間との協力」という美談が語られるのはそのためだ。しかし
 私のような破綻者には、その「誰か」は存在し得ない、だからこその破綻者だ。
 問題があるとすればそれは「運命」にあるのだ・・・・・・人間の運命は、産まれる前から決定づけられている。成功も不幸も失敗も幸福も、全て。
 だが、運命を「克服」したり「打ち破る」方法は存在しないのだ・・・・・・映画のフィルムが予定通り流れるように、変えることは出来ない。
 喜びも。
 絶望も。
 全て「運命」の枠の内だ。
 絶望しかない「運命」を持つ人間の方が多いだろうが、それは「仕方がない」くじのようなものだ、外れを引いたら、どうにも成らないだろう? 我々は運命の完全なる「奴隷」だ。
 他に道はない。
 出来ることは精々、後に自身の意志を伝えることくらいのモノだ。最も、そんなことに意味はないし、無駄と言えば無駄だ。
 人間の意志にすら、意味も価値も無い。
 そういう意味では、私の人生は、運命を克服しようとし、運命の流れに逆らうだけの人生だった・・・・・・結局のところ、作家業もその「絶望のみが記された運命」を覆すことが出来るのではと、すがりついただけかもしれない。その結果私は傑作を作り上げ、成し遂げたが、それによって「運命に対する勝利」を手にすることは、決して無い。 私は運命に敗北したのだ。
 あるいは、最初から勝敗は決まっていたのかもしれない。
 しかし、それでも。
 人間の幸福を求める在り方が、美しいと、そうであって欲しいと、願う。無論、現実には何の意味もなさないが、それくらいしかこの世界には、見るべきモノがないと、まぁそういうことだ。
「お前は人生に何を見る? ジョン」
「無論、楽しむことだ」
 これである。まぁ、細かい部分を見て見ぬ振りをして生きてきた人間と、細かい部分があろうが無かろうが居に介さぬ人間とでは、もとより相容れるものではないのだろう。
 無論。私は居に介さない。
 そんなわけがない。
 何人死のうが、この世界が絶望でどれだけ染め上げられようが、私には関係あるまい。とはいえ私自身があまり、おいしい思いを出来ていないと言うのだから、笑えない噺だ。
 人を食い物にすることを良しとも悪しとも、文字通り、因果応報とか言う、天罰だとかといった馬鹿げた行いくらいしか、警戒するには値しないものでしかない。まぁ、そういった「因果応報」だとか「良い行いをしている人間が救われる」みたいな下らない精神論が、何の意味もないゴミだということを、私は身を持って証明してしまっている。
 どれだけの信念も、奇跡は起こさない。
 何人殺そうが、罰を与えるのは人間の法だ。
 ばれなきゃ、別に、どちらも構わないものでしかないのだ・・・・・・神が人間を救うモノだったとして、実在するのだとしても、同じことだ。
 神の眼鏡に叶った奴だけが、救われる。
 法の目に叶った奴だけが、裁かれる。
 つまり、この世界は如何にばれないように、人を殺して人を食い物にして、表面上は善人として振る舞えるのかどうか? それだけだ。
 運不運こそが全て。
 運命には逆らえない。
 神話を見れば分かりそうなものだが、神でさえそうなのだ。悲劇の運命には逆らえない。言ってしまえば人間を救うと豪語している神々ですら、運命を克服してはいない。
 彼等もまた、運命の奴隷なのだ。
 精々、手を抜いて生きるしかない。
 それが人生だ。
「ふん、教科書通りのつまらない回答ありがとうよ。実につまらなかった」
「やれやれ、物書きってのは皆こうなのか?」
「そりゃそうだろう。基本的に差別され、迫害されて作家を目指し、失敗して絶望し、思いのままに筆を動かし、成功すれば搾取され、失敗すれば何も得るモノすら無い。人間に格差を付けるのならば、ヘタを押し付けられた最低低の奴隷だよ」「おいおい、いくらなんでも言い過ぎだろう」
「そうでもない。物語を読んで希望を貰えるのは読者だけだ。作家そのものは悲惨な、貧困や病や迫害や、少し調べれば分かるものだが、大抵ロクな末路は辿らない。苦しむことだけが、作家という生き物に神様とやらが押し付けた義務だ」
「・・・・・・まぁ、一杯飲め」
「私は下戸でな、遠慮する」
 酒を飲んで連帯感を錯覚し、現実から逃避する趣味は、今のところ無い。
 私はやり遂げたが、それに対して結果が伴わないことに「落ち込めない」自身に苛立っているのかもしれない。人間は普通、そうやって心の平穏を保つものだからだ。
 私にはそれがない。
 つらいときも悲しいときも、それをそうだと感じ取れず、絶望して考えることを止めることも、開き直って考えないことも出来ない。
 そう、出来ている。
 産まれた瞬間から。
 それに関しては断言できる・・・・・・私は「心」を持たずに生まれ出た、「最悪」の人間だ。
 心が無く、それに悲観もせず、本来そう言った運命を持つ人間が、人並み以上に何か、秀でている「つじつまを合わせるための才能」も無い。
 物語とて、書き上げるのに随分と時間がかかった・・・・・・まぁ、あまり金になっていない以上、別に何の採算も取れてはいないのだが。
「お前はどうなんだ、ジョン。軍人なんて使い捨ての駒でしかないだろう?」
「戦う意義はあるさ」
「思いこみだ」
「嘘じゃない」
 馬鹿馬鹿しい。
 人を殺すためにある集団に、それ以上の価値はあるまい。
 だが彼は言った。
「違うんだ。この胸の中にあるものだとかではない、後に託す人間たちのために、俺は戦う。だから無意味じゃない」
 お前の物語もそうだ、ともっともらしいことを言うのだった。
「それこそ当人の思いこみでしかあるまい?」
「違うさ、「後に託す」という意志がある。その意志は決して、消えはせん」
「ただの陶酔だな」
 くだらない。
 人間の意志が奇跡を起こすなら、もう少し世界はマシになっている。この世界は、何千年何万年続けようが、現実には地獄のままだ。
 誰かが笑うために、他の大勢は泣け。
 それが世界の法則だ。
「物語など、どうせ言うほど心の中には残らないものだ。何か教訓を受けたフリをして、次の朝には忘れて、何も成長しないまま人間は前に進むものだ」
「違う、そうじゃないだろう?」
 私を見据えて、彼は言った。
 大男なので威圧感があり、ともすれば自衛のためにうっかり「始末」しそうだったが、しかし真摯なまなざしで私を見るのだった。
「意味はある、無駄ではないさ・・・・・・人間の意志は受け継がれて行くものだ。そこに受け継ぐ人間がいる限り、俺たちは無駄じゃない」
「生憎、私にはそんな人間はいない」
「お前の物語は全く、誰にも読まれなかったわけではあるまい? なら、少なかれ受け継いだ人間はいるさ」
 金銭の多寡など、それが多いか少ないかだと、適当なことを言うのだった。そんな理屈で私は納得するつもりは無かったが、とりあえず答えを出してやることにした。
「それは詭弁でしかない。本当に「人間の意志」に真の価値があるならば、金になってしかるべきだ。尊いとか受け継いでいる人間がいればだとかそういう「言い訳」でおまえたちは、この世界の理不尽から目を背け、「尊いモノは他にあるからいいんだよ」と、妥協の言葉を投げかけているだけにすぎん」
 安っぽい偽善でしかない。君には君だけの個性があるなどと、そんなことは自身の活かせる個性が何なのかさえ、対して考えなかった連中が下らない連帯感を産むためだけに作り出した実に壮大で愚か者らしい言い訳を考えただけだ。
「仮に、受け継がれることが尊いものだとして、だからといって「人間の意志」が安売りしているブランドモノの値段より、金にならないという事実は曲げられるモノではない」
 現実問題、事実として、人間のそういう尊い意志だとか受け継がれるべき本物だとか、そういう執念と意志の産物に限って、大した金にはならないものだ。
 それが偽善でないなら私は悪人でいい。
 その方がマシだ。少なくとも、薄っぺらい偽善者共よりは。
「大昔から人間の意志には大した値札が付いた試しがあるまい。例えどれだけ美しかろうが、現実に人間を満たさない以上、詭弁でしかない」
「愛は心を満たすだろう?」
「それも思いこみの自己満足にすぎん。麻薬と変わらないさ。あるいは、電脳世界のゲームと同じようなものだ。プロセスが違うだけで、欲望を満たすための道具という点に関して言えば、全くの同義だ」
「おいおい、愛はゲームじゃないだろうし、欲望でもあるまい?」
「同じだよ。「満たされたい」という願望を愛で叶えるか麻薬で叶えるか、ゲームの達成感で叶えるのか、いずれにせよ、「結果」は同じだ」
 最も、健康に悪い麻薬をやって、死んでもしらないがね。だが、手段をゲームにしたところで、多少目が悪くなる以外は、何一つ「結果」は変わるまい。
 愛など存在しない。
 ただそれを尊いと信じる人間が、そう「信じたい」だけの人間が、いつも多いだけだ。
「そんなんで良く生きてこれたな」
「亡霊と変わらんさ。私は死んでいないから、さまよっているだけだ」
「そうかい」
 ビールを一気に飲み干し、ジョンは言った。
「それじゃあ、そろそろ、仕事に移るかね」
 ロクでもない人間同士で、ともう一人の協力者の方を向いて、やれやれと肩を竦めるのだった。





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邪道作家 例の記事通り「悪運」だけは天下一だ!! サポートした分、非人間の強さが手に入ると思っておけ!! 差別も迫害も孤立も生死も、全て瑣末な「些事」と知れ!!!