邪道作家十八巻 悪意の限界点 星を撃ち落とせ!! 無料分付き
作品テーマ 非人間讃歌
ジャンル 近未来社会風刺ミステリー(心などという、鬱陶しい謎を解くという意味で)
簡易あらすじ
アンドロイドが自我を持ち職を奪い作品すら書き上げる時代───非人間の殺人鬼作家が、作者取材という戦いに挑む!!
当然ながら依頼は嘘まみれ、行き着く先には困難ばかり••••••得られる「利益」が見えずとも、不屈で書き抜いた事だけは「真実」だ。
天上天下において並ぶもの無い、唯我独尊の物語だ───他に書ける奴がいるというなら連れて来い!!
過去未来現在において、唯一無二の
「悪意」
だけは「保証」しよう!!!
邪道作家 縦書きファイル全巻
1-14巻無料
グーグルプレイブックス対応 アプリには非対応なのでネット推奨 続刊全て15〜23巻を千円だけで買い切り可能
主要記事まとめ 作家宣言付き
実際、無理だとか無駄だとか、そんなセリフは聞き飽きた───そんなありきたりの発想で納得する奴が、業界の改革案まで企画書仕様書込みで、それもシリーズ完結23冊分まで書き上げる訳が無いだろう?
言うまでもないが、中途脱落は読むだけ「無駄」だ。
縦書きだけなら有料分全てを1000円で売ってやるのだから、それに金も払えず読み漁るだけの奴に、輝かしい未来なんてある訳が無いだろう───人間讃歌の恥晒しだ。
非人間讃歌であれ人間讃歌であれ、
何もしなければ何も言う資格がない
のは共通だ。
いい加減行動するんだな、読者共!!!
小銭も払えねー読者なんぞ、いてもいなくても同じ事だ!!
ちなみに、久々に見たが十八巻の終わりは中々の出来だった。
私自身が言うのも何だが、邪道作家の旅の過程、連中風に言うなら
真実に向かおうとする意志そのもの
とでも、いうべき過程を描き切った•••••
その「意志」だけは、「保証」しよう!!!
邪道作家十八巻
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出来は保証しない。
だが悪意だけは保証する。
それが私の作家道、即ち「邪道」だ。
物語などというのはすべからく虚構だ。嘘八百を飾りたて、有りもしない夢希望を魅せ現実には無い素晴らしき人間性を表現する。
つまり、作家とは詐欺師だ。
どころか私は邪道作家。であれば読者を騙し、読者から搾取して、読者の苦しみを願うのは仕事における責務だと言える。仕方なく、作家としての責務を果たす為、読者の不幸を実現せんと行動しているに過ぎないのだ。
などと、冗談を交えて噺を進めよう。
だから作家らしさなどどうでもいい。そもそも作家らしさとは何だ? 原稿に追われる事か?
生憎筆が早いので、その悩みなら無縁だ。
だからって売れなければ徒労にしかならない。それは御免だ。筆が幾ら進もうが、売れなければ何もしていないのよりも酷い無様だと言える。
人間には、作家であれば尚更、何かしら不幸や不遇が必要になる。あるいは欠落と言うべきか。富か人格か待遇かいずれにせよ世界に相容れないのは確かだが、それにしたって全てとは。傑作を書くには必要な条件かもしれないが、しかし傑作であるか否かなど売り上げで決まるものだ。
多少、それで筆が早くなって、何になる?
嬉しくない。筆の遅い奴の信条など、それこそ理解出来ないが・・・・・・私の場合不真面目にその場の勢いで書くだけだからな。
王道の作家共のやり口など、私には無縁だ。
邪道であればその苦しみは無いが、その分金にならないのではむしろマイナスだ。作家が何故、物語を書くのかだと?
まず、金の為だ。
そして、読者に何かを刻む為だ。
何より、人の無様は面白い。
だからこそ、我々は、いやこの時代にはもう、作家と呼べるような奴は絶滅しているが、だから作家は物語を書く。要は悪趣味の結晶だ。
作家という人間の失敗作共が、その悪性の結晶である腐れ精神を雑巾のように搾り取り、そしてその絞り出した汁を固めて薄めれば完成だ。
どうしたって当人そのものよりは濃くならないが、それでも、読むだけでその非人間特有の世界を汚く見る方法が、読者の随まで染み渡る。
これ以上は無い悪行だろう。
いわば、魂を汚す行為だからな。
この世に存在しない夢想を魅せる事で、世界に夢や希望があると錯覚させ、あるいは現実にある理不尽の数々を無理矢理直視させる事で、読者に未来にある落とし穴へ直行させる。まさに神をも恐れぬ行為だ。神仏なんぞを恐れる奴を作家とは呼ばないので、すべからくそうだと言える。
非人間に信仰など有り得るのか?
信じたところで、それは人間の信仰なのだからあまり意味も価値もないとは思うが、それはそれで作品のネタになりそうだ。取材したい。
面白そうだからな。
私には、それが全てだ。金と、ネタと、あとは強い者いじめが出来れば大抵満足できる。
楽しみなど欠片もないが、それも在り方だ。
私が定義した以上、そこに何の快楽もなかろうが、そもそも人間性による感性が存在しない私にとっては、それが一つの「生態」だ。
故に、何の問題も有りはしない。
強いて言えば、売り上げだけだ。
そこだけなのだ。私には精神面による欠落など意味を成さない。誰かに愛されたいだの、誰かに必要とされたいだの、誰かに認められたいだのとよくもまあそんな些末な事で悩めるものだ。
財布の中身の方が、どう考えても大事だろう。 他者がいるなら金を奪え。
そんなのは、当たり前の事だ。
今回はその「何に重きを置くか」こそが依頼の対象だ。人を取るか技術を取るか、あるいは未来という先の繁栄を選ぶのか。いずれにせよ人間のエゴである事には変わらない。それなりの見せ物にはなるだろう。
破壊か懐古か。
いずれかを選ぶ、のではない。読者諸君が未来において、どれだけそれを選ぶ事すら出来ず失敗を繰り返し、後悔し絶望するのかを教えよう。
なに、お代は全財産の半分でいいぞ。
良心価格だ有り難く思え。貴様等の財布の事情など私には関係ない上、少なくとも仕事によって得られた実利ではないのだ。泡銭だと言える。
ならば構うまい。
貴様等の財布を消費し、語るとしよう。
何も食べるな飲み物も遠慮しろ、金だけは払い感想は言わなくていい。文句があるならむしろ、作家にとっては成功だ。文句が出るような物語で札束を毟り取れるのであれば、それこそが一流の作家だと言えるだろう。
まあ一流二流はどうでもいい。
金にさえなれば、それで勝利だ。
物語など信じるんじゃない。所詮嘘八百による虚構に過ぎない。だが悪意だけは刻んでおけば、それなりに役には立つだろう。
つまり、まあ、こういう事だ。
貴様等が未来に犯すであろう失敗談を先んじて私が書いてやる。この私の、ささやかなストレスすら許さない平穏なる生活を、豊かで充足する形で実行できるように改善して貰おうか。
さあ、開幕だ。財布の中身を忘れるくらいに、没頭して楽しむといい。無論、その間に読者共の財布をくすねるのが、作家というものだがな。
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物語には皮肉が必要だ。
今ある何かを否定する、今ある何かのまだ見ぬ汚い部分を明るみに出し、それを知らしめる事が物語の役割だと言えるからだ。
誰にでも個性があるからそのままの貴方でいいなどと、そのような妄言は個性と呼べる物を手にしてからほざけ。私の冗談よりキツいぞ。
さて、その皮肉って奴で語るならば、人間社会にはそれが溢れている。誰かを差別したり何かを破壊したり進歩した技術こそが大量虐殺に繋がり人類を否定する結果になるものだ。いってしまえば、人類は頑張って人類史を破壊し続けている。殺しても殺してもカビの様に増える人類は、その増殖度合いに相応しい成長速度で同じように人間を攻撃し、破壊しているのだ。
破壊と創造は表裏一体というが、これは単に、破壊を創造が上回っているだけだろう。だから、いつの日か破壊が創造を上回る時は来る。
いや、既に上回っているのか。
だからこそ、人類はどんどん死に向かっていることに気づかない。技術の進歩がどれほど自分達を追いつめているのか、見ないフリをする。
進めば進む程、死に近づいていく。
その点、私はどうなのだろう? 物語を実利に変える行いは、私の死に繋がるのだろうか。だが金にならないまま消えるなら死んだ方がマシだ。そもそも金にならないままであればただ死ぬだけだが、金に換えればあの世でも印税の金で極楽を買えるかもしれない。
地獄の沙汰も金次第だ。
そういう逸話は多い。払った金額で天国行きを決める宗教もあるそうだから、あながち比喩表現だとも言えまい。ならば私は金が必要だ。
欲しい、のではない。
必要なのだ。
私には我欲、という概念が無い。何かを欲する行いが共感出来ないからだ。まあそれはいいが、別に悟りを開きたいわけではないのだから、幸福を定義する基軸は必要だ。それが私の場合物語を金に換える行いであり、それによる豊かさを享受することで、まるで人間のようにその幸福の定義を肯定する行いを指す。
だからこそ、金だ。
あって不便はあるまい。ありすぎると身動きが取れなくなるが、ならばその全てを作品の宣伝に使えば良いだけだ。成り上がりの有名人など基本金で動くのだから、そういう連中を札束で叩き、喧伝させるのも悪くない。
そこまで余力があるなら、だが・・・・・・いっそ、作品の売り上げ以上に支払っても良いくらいだ。まあ、作品を以て世界を覆すのであればそれなりに資金は必要になるのだが、それもこの電脳世界が幅を利かせる世界ならば、国家予算並の金など使わずとも何とかなるだろう。
その辺は読者任せにしたいものだ。
面倒だからな。邪道だからって、領分ではない行いを全てやりたい訳ではない。
疲れるだろうが。
書くだけでも結構疲れるのだ。私は王道の作家と違い登山しながら執筆出来るような作家だが、だからって疲れることは好きではない。
その後に休めば極楽があるか?
それなら執筆作業だけで十分だ。あるいは休日にどこかへ赴けばいい。販売宣伝の労力などを、私が負担しているのが既に異常なのだ。世の中の編集者って生き物が絶滅してからというものの、傑作は大分減ってしまった。
あれではゴミを増やしているようなものだ。
子供の遊びは余所でやれ、余所で。
仕事の邪魔をするんじゃない。
己の間違いを笑って肯定し、突き進む事。
それこそが悪党の条件であり、生きる上で必要な責務だ。過去に引きずられたり裏切りの百二百で被害者ぶったり、自身の境遇を嘆いたりして、それが何になるというのだ馬鹿馬鹿しい。まして仕事という意識もないまま自分達の行いが偉大であると錯覚し、理不尽の一つにも挑まず出来る事を右から左へ流すだけで「仕事」だと自惚れる様には虫酸が走る。
他にやることはないのか?
あるはずだ、探せ。
出来なければ死ね。生きる価値など無い。
人類社会が危惧して、拡散を防いでいるのではないかと思う程に失敗続きの私ですら、やるべき事はやっている。貴様等恥ずかしくないのか?
まあ人類全てが私の物語を否定するなら、人類の意思全てを「説得」するまでだ。「今まで色々あったがやはり邪道作家の物語は人類の進歩の為必要なのだ」とでも思わせればいい。人類の意思などかけ算したところで大した物ではないので、助力させたところで底が知れる気もするがな。
何せ、私の物語を売る事すら出来ないのだ。
人類の総決算など、邪道作家の物語を売る事も出来ない。どころか、物語という概念に金を払わず読もうとし、そのくせ評論家を気取り出す。。 人類の意思など、その程度。
人間社会にとってガン細胞なのであれば、尚更引く訳にはいかない。そのガン細胞を広める為に私は存在しているのだ。小綺麗な細胞ばかり見て現実にある負の側面を見ようとしないのならば、それを直視させるのが作家の「役割」だ。
まして私は邪道作家。
たかだか免疫になど負けられるか。
その免疫すら私を認めざるを得ないように説得してやる。私が説得すれば、相手に心がある限り必ずそいつは了承する。
させてみせる。
その為の、己の道だ。
出来なければそれこそ死ぬしかない。いいや、死んでいるも同義だ。私はまだ、生きるという事を出来ていない。私は死んでいるのだ。
己が役割を示せない。
それでは死体よりタチが悪い。
今まで綺麗事で誤魔化してきた全てに、悪意を知らしめ認識させる。相手が神仏であろうが妖怪であろうが人間であろうが運命や世界そのものだとしても、やらねばならない。勝算など無いが、それもいつもの事だ。
勝算のある戦いなど、戦いではない。
それを覆してこそ、だ。
まあ楽な道であるに越したことはないが、私にそのような楽な道はない。余裕ある持つ側が現実を見ずに愚かしい妄言を垂れているのと違って、私は手抜きなど許されない。生きるか死ぬかを、直視し進まねばならないのだ。そういう意味では楽な道程が羨ましい。
肩書き。
種族。
能力。
配られたカードが幸運に満ちているだけで己の力だと錯覚出来る。それは恵まれている持つ側の堕落そのものであり、そこに価値などない。
ゴミの方がマシだ。
何せ、売れば金になるからな!
何者であれ、仕事を成さねばならない。大体、仕事をせずに何をするのだ? どれだけ全知全能であり偉そうに振る舞えたところで、やるべき事がなければただの暇人ではないか。偉そうにするだけなら酔っぱらいと変わるまい。
第一、偉ぶるというのは最も遠い。
真に何かを成し遂げたならば、そこに評価など必要ない。他者がどう思うかではなく他者にどう認めさせるかだ。それだけで十分だろう。
逆説的に、何も成し遂げていないからこそ権威を求めると言える。真に何かを成し遂げているのであれば、そんな物必要あるまい。
認めざるを得ないのだ。
わざわざ口にする必要があるのか?
己を人間だと、いや生命の輪にいると感じない以上、私には神仏というのは他人の家にいる犬のようなものだ。働かず、貢ぎ物だけは貰い、破壊や文句だけは一人前。これでは敬いようがない。私なら、その在り方に姑のようにケチをつけて、廃人、いや廃神廃仏に追い込む自信がある。
祈りを捧げるだけでは、依存と変わるまい。
神仏が何者であれ、それは指針としてだけ扱う必要がある。自分達と違う能力を持つ連中に人間の未来を託せる訳があるまい。その在り方を指針として参考にするのはいい。だが己よりも優れた某かに依存して頼るのは、ただの「甘え」だ。
噺が逸れたが、要するに、相手が何者であろうと私は物語を売る必要がある。今回の依頼はその「特別性」という物の極みが対象だ。
さて、それでは物語を始めよう。
感想は不要だ。しかし金だけは置いて行け。
それがただの虚構か知りたくもない真実なのかそれは読者が決める事だ。だが、たった一つだけこの邪道作家が保証しよう。
これが、人間性を否定する物語である事を。
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ここに一人、いい女がいたとしよう。
成る程、人間は、いや人間でなくとも、その女に対して欲情したり魅了されたりするのだろう。どちらも同じで、要するに誰かに何かを感じ取りそれを己の感性で味わおうとする行いだ。
私には、それがない。
わからない。いい女がいたとして、それはそれとして利用すれば良いではないか。あるいは血縁が大切だとか、友情を裏切るべきではないとか、喜ぶべき悲しむべき怒るべき哀れむべきだとか、そんな無駄な行いに共感しないし、出来ない。
しようとすら思わない。
理解は出来る。だがそれだけだ。あくまでも、人間を真似ているに過ぎない。人間を理解しても人間に共感する事だけは無い。
何故だ。
女を抱く事に喜びを見出す、というのも私には分からない、いや共感できない噺だ。別に、どうでもいいではないか。適当に満足したという体で進めては駄目なのだろうか? それでは満足せず「他者の温かみ」を感じなければ生きているとは呼べないのか?
だとすれば、他者の温かみを必要としないのは「悪」なのだろう。暖まりたいなら布団でも用意すればいいと考えてしまう私には、理解されずに悲しみに暮れる奴の考えなど、共感出来ないのだ・・・・・・故に、それはそれで楽な道だと考える。
何せ、少し困れば悲嘆するだけでいいのだ。
無駄に優秀だったりするおかげで、少しばかり時間を無駄にしても後から幾らでも取り返せる。悲しみがあれば悲嘆に暮れ、喜びがあれば疑いもせずに感動する。何と楽な道程か!
失敗すれば毎回致命傷を負い、敗北すれば毎回実利を見逃した。横から恵まれた愚か者が半分も労力を費やさずにそれを手に入れる様を眺めて、少しでも吉報があればそれは必ず私を貶める為にのみ存在する、不運の用意した釣り針だった。
たかだか一度二度で絶望できるとはな。
だからこそ、異形の存在がさして計画性もなく「人間に裏切られた」などと抜かす様は、非常に鬱陶しい限りだ。当たり前だろう。貴様等は実利を手に入れる為に、他者を出し抜く計画の一つも立てる脳味噌がないのか?
まして、連中は優秀だ。
それこそ神仏ではないが、超常の能力を持ち、物理現象すら従える。それが原因で人間に迫害をされる噺は多いが、ならば更にそれを利用すれば良いだけだ。人間は奇跡に弱いからな、何であれ人間が指を指して迫害する何かがあれば、それは転じて人間が崇める物にも変質できる。
要は使い手次第だ。
それが無能だからそうなるだけで、要は知能が足りていないのだ。異形であればそれを利用し、金を取ればいいだけの事。私なら、口先を動かすだけで、その辺の地方に住む神だとでも偽り金に変える自信がある。
これこれこういう理由で、今まで神様が表には出なかったのだが、今回の村人達の危機を感じ、こうして表に出てきたのだ、とでも言えばいい。 噺なら、幾らでも捏造可能だ。
いや仮に露見したとしても、それこそ変化なり何なりで今まで迫害し刃を向けてきた連中の中にそしらぬ顔で混ざればいい。そして難度でも繰り返す。無論、成功するまで何度でも、だ。私には朝飯前の行いだろう。
そういったあれこれを、尽くさない。
なまじ優秀だからなのか、少しばかり裏切りを味わったりすると、途端弱気になって諦めるのだ・・・・・・いいか、よく聞け。
弱気になっていいのは金に関してだけだ。
貯金残高が少なければ、絶望する権利がある。仕事が上手く行かなければ尚更だ。私にはそんな感性すらないが、もし仮にこの世界で絶望するに値する何かがあるとすれば、それは貯金残高だ。 信頼した奴に裏切られただと?
良かったではないか。裏切りは早い方が良い。後から実利を貪られれば被害総額は甚大だ。友も恋人も仲間も、使い捨ての関係に過ぎまい。
どれだけ愛があろうが、裏切りはあるものだ。 いや、むしろなければならない。真摯な気持ちの為に身を滅ぼすなどそれこそ相手に対する侮辱だろう。裏切る必要があれば、例えどれほどの愛があろうが、裏切らなければならない。それは、生きる上での当たり前の義務であり、必要な行いだと言える。
それを無視して身を滅ぼすのは、相手を見ないからこそ出る行いだ。一方的に相手を信じ続け、かつその信頼を以て支えるなど、それこそ物語の中にしか存在しない。してたまるか。そんな都合の良い世界の中で何故私の物語が売れないのかと無関係の奴を斬り殺す自信がある。
何にしろ、裏切られれば裏切られたで、それはそれとして新たな候補を探すしかない。人材など掃いて捨てる程あるが、優秀な奴は中々発掘するのが難しいからな。嘆いている暇など無い。
恋人も友人も仲間も、さっさと探せ。
私にはそのどれも要らないがな。
恋人も友人も仲間も、何の共感もしないからな・・・・・・そもそも、現実にそういう縁など、私には存在しない。絶縁体には関係のない噺だ。
故に、それで悩むなど、楽で羨ましい。
私も一度、そんな暇な理由で悩んでみたいと、そう思わなくもない。金に余裕があり、先行きに確信があるからこそ出来る娯楽だ。誰かに裏切りを受けたとか、誰かに迫害されただとか、或いは何かを信じられなくなっただとか。
そんなどうでもいい理由で、よく悩めるものだ・・・・・・・・・・・・他にやることはないのか?
別に、構わないではないか。
些細な事だ。怪物属性とはとかく精神が脆く、己の理不尽を世界の一大悲劇のように捉えたがるものだが、それはただの勘違いに過ぎない。
よくある噺だ。
どこにでも、その辺りに転がっている二束三文の物語でしかない。自身だけが特別酷い目に遭うと思う怪物は多い。私か? 言っては何だが作家が売れない物語を書き続ける以上に残酷な事が、他にあるのか?
あるなら是非教えて欲しいものだ。
それはそれとして金に換えてやる。
私はまだ、生きていない。
当たり前だ。心の有り様に共感せず、その上で目的すら果たせていない。生命の輪に混じれないのは大いに結構だが、その一方で恵まれた怪物のように人間性と相容れぬが故の利点がないのだ。どころか、私は怪物とさえ相容れない。
むしろ、連中の方が心は豊かだしな。
それでこの様では笑えない噺だ。かといって、この先に「希望」などという調子の良い何かなどある筈がない。間違いなく、理不尽な災難だけがそこにはある。今まで散々そうだった物が、急に変わるなど有り得ない。
それなら今まで何をしていたのだ。
だが、個人の意志や行動など、少なくともこの私には無駄な行いであるのも確かだ。私の行いで何かを変えられるなら、既に変えている。
真摯に生きていればその労力が報われ、正しく評価されるとは羨ましい噺だ。労力は報われず、評価とはこちらにとって必ず都合の悪い形でのみ行われるもの。生まれついて常にそうだった私が言うのだ間違いない。
それで何とかなるのは、ただ運が良いだけだ。 当人の意思など関係ない。
それを己の力だと勘違い、いや思い込みたがる奴は多いがな。間違いなくそうなる。少なくとも私の未来は必ずそれだ。何かが報われるなど調子の良い妄想に過ぎない。強さも弱さも併せ持たずここまで来たが、やはり欠点しかないらしい。
それによる利点など、有った試しがない。
長所は短所、というのも恵まれた発想なのだ。いいや違う。生憎そのような楽な道程など送っていない。そんな「楽」は出来なかった。
文字通り、何も無かったのだ。
私には、何もない。
この物語とて、このままではそうなるだろう。売れなければ無為に消えるのみだ。生きた証こそ一時の栄誉に勝ると考える奴は多いが、私の場合その両方が存在しない。生きた証は理不尽に敗北し、その上で栄誉も実利も有りはしない。
御免だ。何故こんな目に遭わなければならないのかと言えば、私の存在そのものが最悪だから、かもしれない。自分で言うのも何だが、生まれや種族に関わらず、何者として生まれようとも私は世界にとって害悪だ。実際、心を持たずに生物に擬態し、その上で全ての悪性のみを肯定して相手がどれほどの存在であろうが等しく叩き斬り目的を果たす。まさしく最悪だ。
何者に産まれようと、同じだろう。
人間でも悪魔でも神でも仏でもあるいは鬼でも良いかもしればい。種族名が変わるだけでやる事は同じだ。いや脆弱で無力な人間でなく特別性を利用できる他種族で産まれれば、更にタチの悪い存在だったろう。
あるだけで絶対悪だ。
何せ、今そこにある全ての善なる概念を否定し悪性のみを肯定するのだから、その有り様の時点で救いようがない。救われる覚えもないが、私はその概念そのものが「世界に対する敵対者」だ。 しかし、だからって金が無いのは困る。
仕事に成果が支払われなくとも良い理由など、あるものか。例えそれが私でも、いいや、私なら尚更だ。それだけの仕事への自負はある。
だがきっと、未来はロクでもない。
悲観ではない。事実だ。間違いなく最低の環境で、あらゆる労力が無駄に終わり、全ての評価はこちらに最も都合悪く、目的を果たす為に必要な行いこそ遠回りになるだろう。遠回りが実は近道だった、という事も無い。
ただ無駄足を踏まされるだけだ。
私はそれを、よく知っている。
嫌というほど味わったからな。
いつも言っている事だが、仮に神仏という存在があったとして、私の味方でない事は間違いない・・・・・・大体、それらは人間の信じる物だ。自分を人間だと感じない私には他人事だが、そのような高い所に座っている奴はただそれだけで私の敵になるのだ。
私でもそうする。
かもしれない。考えるだけ無駄だがな。善なる存在にとって世界の裏側を語る私は、この世界で最も「都合の悪い」存在だ。だからこそ都合良い悪役として迫害されるは道理だろう。
それはいい。私でもそうする。
その方が楽だしな。
だが、それで金が入らないなどあってたまるか・・・・・・ある意味「都合の良い悪役」としての仕事すらも果たしているのに、二重に支払いがないという事を容認するとでも思うのか? 他でもないこの、私が。
上手く行かないものだ。
絶対など無いと人は言うが、まさか、だろう。絶対はある。少なくとも明けない夜はこの最悪である私には存在する。放っておけば永遠に暗闇のままだからこそ、こうして動いているのだ。
間違いなく未来は暗い。
絶対に。
それが、私だ。
経験しなくとも良い最低の経験だけは、絶対に経験している私が言うのだ間違いない。未来は、その当人の運次第で決まるものだ。
そして私には幸運など無い。
悪運だけは全ての敵対者を集めても足らぬ程にあるのだが、それだけだ。悪運はある種敗北者に特有のものだからな。金にはならない。
いいか、よく聞け。
未来に希望など存在しない。
絶望だけが人生だ。
友情は裏切りの為にのみあり、恋愛は破滅の為にこそ存在する。愛とは机上の空論であり現実に与えてくれる奴など存在しない。貴様等読者共が何を見ているのか知らないが、少なくとも物語に見る幸福論など全てが虚飾に過ぎないと知れ。
ただし、金だけは信じろ。
世界が滅び金という概念が消えてもだ。
その場合はいつも通り己だけを信じればいい。他者との協力で出し抜けるなら、他者を利用して己を助ける事を考えろ。要領よく行くだけだ。
持つ側の言葉など、鵜呑みにするな。
どれほどその言葉が輝こうが、貴様等よりほんの一滴分でも豊かさや力を持つ奴の言葉に信じる価値など有りはしない。上から物を言う奴に世界の理不尽の何がわかるというのだ? 所詮恵まれた場所で口を動かしているだけだ。
そんな戯言を信じるな。
悪意だけを盲信しろ。
悪魔程度では生温い。少なくとも私なら、口先だけで破滅させる自信がある。力があるから示す悪意など、底が知れるというものだ。
私なら、悪意だけで切り刻む。
お高くとまっている連中に悪意を刷り込み善を否定し世界の敵対者を量産する。心という概念を破壊する、のではない。最初からそのような都合の良い概念など存在しないと、現実という崖下に突き落として知らしめるだけだ。
悪を自認させればそれでいい。
悪を自認せずに済むというのは、それだけ楽が出来るという裏返しでもある。でなければ正義や善など語れるものか馬鹿馬鹿しい。正義だと?
善だと? 人間性による勝利だと?
結局は、力あってこそだろう。
無力なまま世界を変えた奴などいるものか。
まあ私は楽が出来ればそれでいいのだが、そう上手くは行かないだろう。何度も言うが、未来を予知など出来ずとも、最低なのは確かだ。
見るまでもない。既に確定している。
その点、私には「思い出」などない。であれば生きているとも言えないだろう。何一つとして、思い出すべき事柄が無いのだ。あれは良かった、懐かしい、酷い目にはあったがそれでも得られる何かはあった。
そのような楽が出来るとは、羨ましい噺だ。
実際、暇で羨ましい。
何かを思い返す余裕があるとはな!
思い出すまでもない。すべからく最低の目だけに遭っただけだ。私なら一行で終わるぞ。何せ、作家などを目指すくらいだからな。
過去も未来も、地上最悪の自信がある。
絶対に「良い事」が降ってくる事はない。
必ず、放っておけば、いや、放っておかずとも最悪の目に遭う。それこそ絶対に希望などという楽な道は存在しない。確定した未来なのだ。
良い事は何もない。
最低最悪の目だけが存在する。
それもまた、「私」だ。
いい加減嫌になる噺だ。しかし実際、こうまでロクな目に遭わず改善する為動けば動く程最低の環境になるのであれば、外的要因がなければどうにもならない気もする。だが、外的要因が助けてくれるなど、私には悪い冗談だ。
私の冗談より酷い。
子供の妄言の方がマシだ。
何かを信じるなど馬鹿げている。信じるという行いは、余裕があるからくるものだ。信じられるほどに恵まれているから信じたがる。
あるいは、相手に全てを預ける場合だが、私にそのような都合の良い相手はいない。殆どの場合会話をする余地もなく敵だしな。
何事も、挑戦権すら無い。
大体いつもそんな具合だ。
それに、相手を信じて全てを託したところで、やはり私は失敗するのだ。誰かの手を借りても、必ず最低の状態だけがある。最早、理屈ではなく呪いなのかもしれない。あるいは月並みな台詞ではあるが、私が私である限り、なのだろうか。
だとすれば、お手上げだ。
文字通り、どうしようもない。
それでも止まれない。とはいえ私も止まれないだけで、儲からなくて嬉しい訳ではない。だから何とかして、そんな方法は存在しないが改善する必要はある。不可逆を可逆にしたところでやはりその行為自体が無価値なゴミに後付けの理由から変わるのも私なので、それもただの徒労だが。
ふん、どうしようもないな。
空から幸運が降るのでも待つべきなのか?
待ったところで、無い事も確かだ。であれば、どうしたものか・・・・・・そもそも何故作家がそんな理由で悩まなければならないのだ。物語を売るのは編集者の仕事だ。その編集者と呼べる生き物が絶滅している以上、私は滅びつつある世界で既に死に絶えるしかない生物なのかもしれない。
私が産まれた時点で、全てが終わっている。
変えられる筈がない。
とりあえず、金だけは稼ぐとしよう。稼ぐだけで何の未来も無いが、私に出来るのはいつもその程度だ。未来とは、理不尽の為にのみある。
苦しむだけが生の証だ。
徒労こそが真理なのだ。
不運のみが世界にある。
それを味わわずとも良い特等席。何者であれ、生まれついて優位性があるかどうか。それは種族であり能力差であり地位でありそれら幸運という理不尽を避けられる楽な道程にいる奴に、世界を語る資格はない。だが、資格などなくとも力さえあれば押し通せるのが世の中だ。
私が言うのだ間違いない。
最低最悪の場所で、常に見てきたからな!
忌々しい連中だ。すべからく死ねばいい。
面白ければ生きる価値があるが、大抵そういう奴は面白味がない。面白味のない持つ側などに、生きる価値があると思うのか?
私が断言してやる。無い。
高貴な生まれだと自惚れている奴に限ってそういう奴は多い。その幸運が何故私にはないのか。やはり、性格が悪いからかもしれない。
それが悪なら、私は悪でいいがね。
そのおかげで、執筆速度だけはあがったからな・・・・・・適当に書いていても一時間で十ページ程度は書ける。基本不真面目なのでそこまで真面目に書く事などないが、単純な執筆速度だけで言えば人類史史上最速だろう。
人類史史上、最も使えない技術だ。
売れない物を早く書いて、何になるというのか・・・・・・やはり遠回りは遠回りだ。何の役にも立たない。無駄な徒労こそ私の軸なのだろう。
やれやれ、参った。まるで進まない。
それもやはり、いつもの事だが、
元より、物語なぞ勢いで書く物だが、私の場合更に技術も何もない悪意だけだからな。見た目の麗しさなど欠片もなく、感動させる要素など微塵もない。ただただ悪意だけなのだ。早く書けても当たり前だろう。
美しさの描写など、やる意味がないのだ。
書いても良いが、書かなくともいい。邪道作家の物語に必要なのは悪意を刻みつける言葉だけだ・・・・・・・・・・・・読者が悪に染まればそれでいい。
それが「私」の「役割」だ。
私は世界の除け者だ。
私を認める奴など見た試しがないし、何よりも大抵存在しているだけで石を投げられ、人間的な社会とでもいうべき中においては、存在そのものが相容れない。それはいい、どうでも。問題は、それに見合う利点がまるでない事なのだ。
せめて怪物連中みたいに楽して生きられる能力でもあれば、噺は簡単だったのだが・・・・・・だが、もしそうであれば「邪道作家」などという在り方など、選ばなかったのも確かだ。
嬉しくないがな。
だから、何度も言うが、石を投げられる程度で利点を得られる怪物連中が羨ましい。どれだけ楽な道なのだ。たかが世界に迫害される程度で力を得られるならば、私にも御利益の一つ二つあってもいいと思うのだが、所詮あれらは持つ側の物語という事なのだろう。
なので、我慢ならないのは被害者ぶってる癖に何かしら人生を楽できる特殊な能力を持っている連中だ。自分達は酷い目に遭わされたから誰かを酷い目に遭わせても良いのだ、などと。
仕事に報酬が払われなくなってからほざけ!
史上最低の気分だぞ、まったく。
人間でも神仏でも散々殺し合っているからこそ今の時代がある。能力にかまけて偉そうに迫害を行うなど太古の時代からある常識だ。正義という名の悪を行うからこそ、「善良」や「道徳」などという妄言を押しつけられる。
所詮持つ側の都合に過ぎないが、しかしそんなのは当たり前の事だろう? 力があれば何をしても許させる事が可能だ。それこそ、神仏の歴史を見れば一目瞭然だろう。
説得して争いを収めた神仏や英雄など、生憎と聞いた試しがないからな! 要するに暴力で事を収めてから、自分達の正当性を語り己を誤魔化しあれこれ言い訳しながら「自分は悪くない。世界が悪い」と嘯くからこその神話であり英雄譚だと言えるだろう。
人類が肯定する全てが、それを認めている。
神仏や英雄、今まで歴史が作り上げてきた人間社会の法律、規範、文化。全ては、暴力ありきの押しつけに過ぎない。力があれば何をしても許させる事が可能であり、殺人は「天罰」や「栄誉のある戦い」に変換され、むしろ「良い行い」だと言い張れるからだ。
そしてそれでいいと、当人達も思い込む。
事実がどうであるかなど、何の関係もない。
何よりその楽して生きる為に必要な力とやらがどうすれば手に入るかというと、運不運以外には何の要素もありはしない。楽してそういう力などを手に出来なければ、私のように手を尽くした所でこの様だ。
私が言うんだ間違いない。
そういう愚か者共を騙してでも味方に出来れば噺が早いのだが、何者であれ力を持つ輩というのは「必ず勝つ側」に味方するものだ。現実に苦難や理不尽を経験していないからこそ、自分達はというと楽して勝つ方法しかそもそも知らない。
要は遊び人の集団だ。
仕事をする私に味方しろ、というのが無理なのかもしれない。堕落しきった脂肪分の固まりに、何かを成す行いが理解できるとは思えない。
そんな知能があるなら仕事をしているだろう。 風よ吹け、ただし追い風に限り、かつ自分達の隣の家が火事になる場合のみ我らを利せよという具合だ。連中は仕事という概念が何であるのか、既に覚えていないのだろう。天の気まぐれが彼らを偶然味方している時には「立派な行いを我らはしている」と嘯くが、その実隣の家が火事になる事で得られる桶の販売利益で食っているに等しい汚行だと言える。
人とは金という妄想に振り回されて、北風より太陽を望み、しかして何の労力も払わずその恩恵を得ようとする乞食の集団に過ぎない。人間性という賛美されるべき行いは、如何にして乞食共が空から降ってくる恩恵に振り回される無様さを、自分達にとって都合良く解釈できるかを競い合ういわば詐欺師としての能力値だ。
人間性とは、あればあるだけ人から遠ざかる。 であれば、案外私は人情味溢れる好青年なのかもしれない。いや、私が青年とは限らない。学生という線も有り得るし、女流作家が己を誤魔化し作風を操作しているのかもしれないぞ。
いずれにせよ、言える事は唯一つ。
若いと思っている内は、まだ若いという事だ。 聖なる剣が我々を若返らせる事は無い。もし、そういう効能があるとすれば、それは仕事を行い生き甲斐とする事だけだ。仕事さえしていれば、我々は永久に若く生きられる。生きるという事は仕事を探し出し、己でそれを定義し、その行いを例え全知全能の存在が目の前で偉そうに振る舞い命令したとしても、臆する事無く己を貫き仕事の成果を示せる在り方だ。
そこに才能などを挟む余地など無い。
かくいう私も、才能などとは程遠い存在だった・・・・・・何せ、手書きで書き始めたはいいものの、字が汚過ぎて読めなかったからな!
あれなら象形文字の方がマシだ。
燃えさかる執念はあれど、実行するのに必要となるのは勇気だけでなく己を利する環境であり、何よりも金に対する因果律だ。愛や友情を得られ周囲が味方する楽な状況であればいいが、まさかそれほど都合良く物事は運ぶまい。
逆境が人を利する事など無いが、ただし人間の思い上がりを諫めその勝利の全てを己の力なのだと勘違いする愚行は止められる。何事であれ幸運がなければ成り立たない。どれだけ才能があり、それを活かせる人材だとしても、運の風向き次第では、あっさりと没落し死に至る。
苦しめれば苦しめる程傑作を書くのも作家ではあるが、私は御免だ。大体、売れない傑作などに何の意味があるというのか。雨風を吹かせる事で豊作を祈るのは勝手だが、土地の所有者に許可を得てから降らせろという噺だ。
神仏にとって人など農作物の様なもの。試練を身勝手に与え、連中の自己満足な喝采の為に浪費される消費娯楽だ。農作物に愛情を砕く奴は多いものだが、しかしてその生命を尊重するなど絶対に有り得ない。
所詮、刈り取り腹を満たす為の作物だ。
であれば、毒を持ち神仏を殺すも人の権利だと言えるだろう・・・・・・こんな発想だから連中を敵に回すのだろうと思わなくもないがな。
まあいい。どの道勝ち馬を支援するだけの連中に過ぎない。役には立つまい。足置き程度の役にも立たないだろう。上から偉そうにするだけで、実際に理不尽を克服した事もない連中に、何一つ変えられる理不尽などある筈もない。
実りを出してこそ、その権利が芽生えるのだ。 そもそも生来の作家など非人間のロクでなしでなければ成り果てまい。作家を志すから成るなど哺乳類が卵で子供を産めるようになりたいと口にするに等しい。生憎と種族が違う。
いいか、良く聞け。試練など与えずとも作家に貴様等と同じ世界など存在しない。世界を見るに必要な基準が違い、世界を感じる際の感覚器官が別物なのだ。どうやっても物語の為に全てを売る性悪になるのは明白だ。
苦難を蒸留し酒を造り、酒を燃やして大気汚染を行い、汚染された世界を楽しむ輩が作家なのだと言えるだろう。全身が既に、色も臭いも味までもまみれている。その身が苦難を体現する果実に成り果て、それを絞る事で得られる果汁。
それこそが「物語」なのだ。
要は既に手一杯だ。余所に売りに行け。
私はもう買わんぞ。
絶対に御免だ。賠償金を要求する。私は楽して売れればそれでいい。言葉に力など無く、読者はその場凌ぎで生きるというのが現状だ。
その中で物語なんぞ書いているのだから、それに相応しい金を払え。現実逃避の妄想日記などを書く暇がある自称作家にでも売ればいい。
訪問販売お断り、だ。
持参金を持って来い。二秒は考えてやる。
考えるだけだがな。
とはいえ、それはそれで無ければ困る物らしい・・・・・・科学技術が進歩し生活は豊かになったが、その一方で世界が進めば進むほど、それも豊かな連中に限って無気力症とでも言えそうな脱力状態に陥る事が多い。
例えば、ここに豊かな男が一人いたとする。
その男は仕事、いや労働も順調で何もかも成功を収め、金には困らず女にも愛され端から見れば何一つ不自由が無いように見える。
だが、その一方で「休日にやる事がない」と、そう言い出すのだ。「金の使い道がない」だとか「気力が沸かず何をすればわからない」といった具合で、ただただ向かうべき道筋すら無いままに迷走し続ける生涯を送るのだ。
それを生きているとは言えまい。
それが生きる事なら、私は死人で結構だ。
年中頼みもしないのにネタが降ってきて世界を呪い読者を呪い出版業界を呪いながらひたすらに書き続ける宿業を負った私からすれば、羨ましくはある。仕事もしないで生きられるとは、それ程楽な人生はあるまいに。
何故文句が出るのか不思議だ。
仕事など、得ようと思えば幾らでも得られる。いや無論、生涯を費やして一つの方向性を得て、それを金にしなければならない。以前口にした気がするが、何者であれその方向性を獲得している奴からすれば、例え他の業種を選んだとしても、必ず頂点に立っているという自負があるものだ。 他の道を選ぶ事など有り得ないのだが、しかしその一方で確固たる自負を持つ。
作家の場合は方向性が作家毎に違うので、己の物語が示す某かの表現性に対して、その頂点だという自負を持つのが基本だ。とはいえ、そういう目的意識が無いからといって、何もしたい事が、一つも無いなど有り得るのか?
今までの人生何をしてきたのか。
「それは簡単ですよ。「何もしてこなかった」という事です。人間は怠惰ですから、甘やかされれば幾らでも堕落します。貴方の様に真剣に人生に向き合うなんて、今では「恥ずかしい」行いなのでしょうね」
私は火星にある放牧地域が観光できる、空飛ぶレストランにいた。人間というのはどうしてこう無駄な技術に熱を入れるのか不思議だ。食べ物を空で食べる事に、一体何の意義があるのか。
「わかりきっているじゃないですか。こうして、リッチな気分で食事を味わう為ですとも」
相席に座るのはエリーゼという仲介人だった。人とそうでない者の間を繋ぎ、時には殺人依頼で時には救出依頼だったりする案件を斡旋している便利屋のような存在だ。相変わらず派手な服装をしており、今回は中華風らしいチャイナドレスが黒と紫の趣味の悪い色で輝いている。
料理が運ばれてくるものの、何が良いのか私に分かる筈もない。感性が存在しない私にとっては毎日栄養食だけでも問題はないからだ。あくまで「人間の真似」をしているだけという証左の一つでもある。美味しい物を食べて精神の充足という事にしているだけで、正直毎日軍用の栄養食でも何の不満も持ちはしない。
バランス良く栄養が取れ、健康でいられる。
素晴らしいではないか。
「・・・・・・偶に、貴方って私でもドン引きする様な事を話しますよね」
「何がおかしい。風情を解さない訳ではないが、風情に共感する心も無いだけだ。大体、空を飛ぶレストランに風情などあるのか?」
手をテーブルで組み肘を乗せながら、その上に顎を乗せて彼女はこう言った。
「勿論ですわ。空から下々を眺めるだなんて人間特有の優越感に相応しい玩具です。自分達の方が下々にある何かより秀でている、いえ、違いますわね。自分達がその何かよりも秀でているから、ではなく自分達よりも惨めなそれを見て、哀れみや同情を施す事で「自分達が如何に道徳的な生物なのか」を言い聞かせる。高い所から見下す行いとは、元より自分達が優れた生物であると、そう思い込みたがるエゴから来るものです」
「随分穿った物言いだな。余程人間不信らしい」「貴方にだけは、言われたくありませんわ」
残念な物を見るかのように、肩を落としながらエリーゼはそう答える。何故だ。最近私は貴方にだけは言われたくない、という台詞を割と何度も聞いているのだが、私個人は自分の事をそこまで大層な悪人だとは思っていない。
そうだとしても、何も支払わないが。
「そこが貴方の最悪たる所以ですよね。貴方は、本気で自身を「そこまで大層な存在じゃない」と思っている。けれどその一方で人間の分を越えた悪意、いえ思想を以て世界を覆そうとし、そこに人間特有の倫理や道徳を一切持ち込まず、何一つ躊躇せずに平気で死線を踏みにじる」
「それがどうした。別に普通の事だろう?」
だが、どうも彼女には納得がいかないらしく、エリーゼは居たたまれない様な顔をし、手慰みなのかワインを右手で揺らしながら「それが普通なら、人類はとっくに滅んでますわ」とだけ答えた・・・・・・割と真っ当な事を言ったつもりなのだが。「いいえ、貴方のそれは異常です。言葉は無力と貴方は仰りますが、まさかでしょう。その言葉で何度も王朝は滅び、人類史は書き換えられ、戦争すら起こされたのです。正直、貴方を危険視する気持ちも、わからなくはありません」
肩を落としてそこまで言われる覚えは無いが、とりあえず私は、
「それこそ馬鹿な噺だ。言葉そのものよりも権威に力があっただけだろう」
「いいえ、弱者と呼ばれる人達でも、一つ二つのかけ声一つで反乱を起こすものです。貴方自身、そこには気づいておられるのでしょう? もし、貴方の物語が中々売れないのであれば、それは、もしかしたら世界に危機をもたらすからかもしれませんね」
「・・・・・・漫画じゃあるまいし、あるわけがない」 本一冊でそこまで世界が動くものか?
第一、書いたのは私だぞ!
見る目がないとしか言いようがない。
「どうでしょう? 蓋を開けてみなければわかりませんよ。少なくとも貴方の悪意は稀、いいえ、今まで人類史で類を見ない物です。非人間である事を誇りとし、悪意だけが世界と語り、人間性や魂の有り様を丸ごと否定する。これほど最悪だと評するに相応しい物語もありません」
「嬉しくない。売れればそれでいいのだがな」
「それも嘘でしょう? 貴方の物語には、確かに確固たるテーマがあります。売れればそれでいいと語る反面、貴方は世界を諦めきれない。人間に見切りを付けても、語るべき事柄に嘘をつけず、だからこそ不器用な物語を語っているのです」
「尚更売れて欲しいものだ。何にしろ売れないのであれば存在しないのと変わらない。貴様の言う影響力など有りはしないが、金は必要だからな」「けれど、貴方は物語で世界を覆すつもりだと、そう書かれていましたが?」
ああそれか、と私は飲み物(茶だ)を飲み干し一呼吸休んでから「私の豊かさのついでにな」と答える。いい茶だ。金さえかければ美味いのは、茶でもワインでも変わらないらしい。人間世界の良い所は、金を肯定するが故に、鐘さえあれば、それが人間そのものでも手に入る点だろう。
売れる物なら、何であれ売っている。
良くも悪くも、便利な時代だ。
「興味が無いからこそ成し得るというのが貴方の持論でしたね。見たところ本当に興味がなさそうですが、本当にどうでもいいのですか?」
「当たり前だろう。人間社会に生きているという実感が無い奴に、社会への興味などあるものか。それこそどうでもいい些末事だ」
強いて言えば、少しでもマシになれば私が楽な生活を出来るだろうというだけだ。
それ以外に何がある?
「・・・・・・そんな理由で、よくそこまでの行動力が持てますね」
やはり呆れたように、エリーゼは答える。
何故だ。
これこそ最重要事項だろうに。
「当たり前だ。保身以上に大切な事など、作家にあるのは執筆のネタと売り上げくらいのものだ」 私の場合は売り上げが最優先だ。
保身には売り上げが含まれる。己の充足だけでなく豊かさもやはり必要だ。
金、金、金だ。
世界は金で出来ている。
「あら、でしたら貴方も金の為に誇りを捨てたりするのかしら」
「金とは手段だ。何者であれ、誇りを買う為に金を使う。その誇りを売るのでは本末転倒だろう」「どうやらお金に対する在り方を弁えてるご様子です。では、安心したところで今回の商談を始めましょうか」
言って、皿が下げられたテーブルにエリーゼは資料を取り出した。
「はい、今回の依頼内容ですが・・・・・・
ズバリ、星を打ち落として欲しいの、デス!
さあ、お仕事でじゃんじゃん稼ぎましょうね」 やれやれ参った。今回も面倒事が多いらしい。 私はため息を付きながら、エリーゼの話を聞き物語が売れない故の悩みを逡巡させつつ、話半分で聞く事にした。
「いや、ちゃんと聞いてくださいよ!」
そのノリには付いていけなかったが。
2
作家エージェントを気取る屑は多い。
彼らに限らない。中間搾取を仕事だと思い込む愚か者は多い。電脳世界が広がってからそういう馬鹿はどんどんと増えていった。
書店で見た事もなく、かといって作品名で既に駄作の中の駄作だと分かるようなゴミを量産している奴が「自分はこの業界で二十五年も、プロとしてやってきた。その自分からすれば何が面白いのか分からない駄文だが、自分の指導を受ければそれなりにはなると思うよ」などと自惚れる始末なのだから、笑い話にもならない。
情けない。
生憎ゴミを量産しているだけだ。電脳世界の中で作家に携わるサービスを数多見てきたが、私に言わせればあれらは運に恵まれた馬鹿だからこそ思いつく遊びなのだ。作家としての有り様すらも無い馬鹿が、あまつさえ己を作家だと思い込んでいる。嘆かわしい。思い上がる馬鹿も馬鹿だが、それを助長する馬鹿も相当だ。
いい加減にして貰いたい。子供が大人の仕事に口出しをするものではない。いい迷惑だ、全く。 そんな、気取り屋の愚か者が、したり顔で単に運が良かっただけで駄作しか書けないゴミの分際で、偉そうに「作家らしさ」を垂れ流す。
醜悪にも程がある。
作家をアイドルか何かと勘違いしている馬鹿にありがちな噺だ。実際、情けないと思う。仕事を一体何だと思っているのか。別に仕事は貴様等を盛り立ててくれる権威ではない。権威などからは最も遠いのが仕事の正体だ。
偉ぶる時点で底が知れている。
あるべきなのは自負だけだ。
他には何も必要ない。
人間とはいつからここまで情けなくなったのか知りたいものだ。問いただせる奴がいるなら一度問うてみたい。恥という概念は無いのかとな。
この世界を肯定しているならば、同罪だ。
堕落しきった豚を愛でる、という事だと言える・・・・・・人間などという生き物は、既に絶滅したのかもしれない。もしそうなら「生きてやる価値」など既にこの世界には存在しない。その場合は、私の労力の全ては最初から無駄だということだ。 私は暇ではないので、余所でやって欲しい。
愚か者の妄言につきあう程、酔狂ではない。
迷惑料も払えないゴミに、つき合う義理なんぞあるものか。案外、世界がこの様なのだから切腹でもした方が現実的かもしれない。
生きてやる価値がないとは、そういう事だ。
全く、情けない! 少しは働け。
遊び人が仕事人に迷惑をかけるな! 馬鹿が。 物語に希望を抱き、自分達にはこれほど誇れる一面があったのだと思い込む浅薄な読者は多いが実際には違う。そのような「人間」など既に絶滅して久しいし、それらを育む為の「社会」などは既に過去の遺物でしかない。そんな物があるなら私の作品はとうの昔に売れている!
国家も同義だ。そのような枠組みは既に無く、群れている生き物がそこにあるだけだ。大体が、真の意味で国家という枠組みがあるならば、雇用が無くなり飢えて死ぬ奴などいてはなるまい。
先述した屑共と同じく、そう在るから名乗るのではなく、名乗るからそうであると言い張るのだ・・・・・・愚昧ここに極まっている。そんな馬鹿共の為に労力を費やし、まして幸運に何十年も恵まれ続けているだけの愚か者が、あろうことか作家を名乗り出す不愉快さ。
そんなゴミを人間であるかのように扱っているのだから、我ながら寛容だと言える。生きてすらいないゴミに、諭してやるのだからな。
まあ、諭すだけ無駄だろうが。
そういうゴミ共に否定される事で己を疑う奴もいると聞くが、馬鹿馬鹿しい事だ。私に言わせればその時点で覚悟が足りない。
貴様等は、ゴミが汚臭を立てながら正義を説く姿に、感謝感涙し崇め奉るのか?
何十年も無為を繰り返しているだけのゴミが、運に恵まれただけだとも気づかず己を作家であると思い込み、駄文を増やして世界のゴミ問題貢献をしているだけの無様と同じではないか。生憎、私はそこまで暇ではない。
成すべきを成し遂げた奴は、何者であれ、輝く何かを作り上げるものだ。それを仕事が何なのかも分からない愚か者が否定するなど、笑止千万。 知能が足りない以外に何がある?
所詮己の凄さを示したいと、些末な虚栄心しか持たない愚か者だ。人間などという生き物であるなら取材程度はしてやってもいいが、この世界に人間と呼べる程の生き物など数える程しかいないというのが実状だ。
そして、ゴミに語りかける趣味などない。
それらに対して思うのは「情けない」この一言だけだ。そのようなゴミを助長し、まして手助けしてしまい、結果更なるゴミを量産する。
近代の自称「人間」は何をやっていたのだ。
それが人間なら核廃棄物の方がマシだ。何せ、それ以上は増えないからな!
求めぬからこそ、その資格あり。
だとすれば、私にある資格とは何だ。何一つとしてそのような資格は無いではないか。先述したような愚か者が運に恵まれただけという下らない理由で栄華を極める一方で、言葉の力で変える力とやらを示せもせず腐り果てる事に、何の意味があるというのか。
欲しい物など何もない。
金にしても、必要だからだ。己を定義し幸福を定義し活きる為に生きる。欲する心が欠けている以上、ある種当然の行動だ。だが、その行動さえ運不運などという下らない理由で阻まれるのでは活きる為に生きるだけの価値がこの世界には既に無い証左ではないか。
無駄な徒労に付き合わされるのは、御免だ。
正直なところ、今回の依頼を受けようが、受けまいが、同じだと言える。作品のネタを収集して物語を作って、何になる?
愚かな読者には、語るだけ無駄だ。
私が言うのだ間違いない。
少なくとも、金は払わないらしい。
何が言葉の力だ馬鹿馬鹿しい。虚構と現実を一緒にするな。貴様等の低俗な思い込みで、作者の利益を盗むんじゃない。
ハイエナはハイエナらしく地面でも舐めていろ・・・・・・頭の足りない無職にはそれがお似合いだ。 生憎だが、仕事だと思い込んでいるだけだ。
何せ、現状の世界では、仕事をするという事は即ち世界に逆行するという事だ。世界に支援されながら「仕事」とは笑わせる。
それはただの「労働」だ。
働きもせずに仕事を語るんじゃない。
社会、規範、倫理、そんな物に従う事が仕事だと言うならば、奴隷こそが仕事となる。良いようにこき使われて自負があるように振る舞うな。
そんな資格は貴様等には無い。
私より世界を嫌ってからほざけ! 即ち貴様等には未来永劫、その資格など無い。
飴でも舐めてろ未熟者が。
こうも世界に、人間に、神仏にさえ、何一つとして期待せず最初から切り捨てているこの私が、何故書き続ける事をやめられないのか、その理由は、恐らくこうだ。
我慢ならなかったのだ。
愚かしい駄作を崇拝する読者が、それを書いて己を作家だと自惚れる馬鹿が、その現状に対して売れる作品だけを扱いたいと抜かす搾取層が。
それら全てを容認できない。
だからこその「邪道作家」だ。
私は、物語を扱うだけの化け物だ。人間らしさなど欠片も持たず、その有り様に何の罪悪感すら感じず、どころか強さも弱さも併せ持たない。
心の存在を全否定する為だけに、私は在る。
それ以外に、表しようのない在り方なのだ。
読んで書いて、売る。
ただのそれだけ。
人間が何を肯定し、どのような世界を作り上げようが同じ事を繰り返す。世界に心があれば必ず発生する概念悪。心という光に対して発生される闇の部分。それが「私」だ。
なに、貴様等も似たようなものだ。
人間性など、心など、所詮物語の中にだけ存在出来る虚構に過ぎない。あると思い込みたいだけでしかないのだ。
だから、その思い込みを消せば見えなくなる。 道理だ。そして、それを実行するのが私だ。
とはいえ、どうにも実行は出来ても幸運の味方は得られそうにないらしい。世界は都合の良い夢だけを見たがるのだろうか?
だとすれば、道理だ。
世界中の色欲を集めても、
世界中の富を集めても、
世界中の栄誉を集めても、
それらは全て、私には関係の無い出来事なのだ・・・・・・この身が焼ききれる程の快楽に漬けられたところで、私にはそれを共感出来ない。
私には、関係のない他人事なのだ。
富も栄誉も色欲も、それらで世界が溢れようが私には存在しない。概念として存在し得ない以上在ろうが無かろうが同じ事だ。
何なら、明日からエイリアンが跋扈しようと、別に構わない。全ての生命体が卵を生み、金ではなく別の何かを扱ったところで、同じだ。
それはそれとして充足を計る。
金銭と呼ばれるかどうかは知らないが、それに類する概念はあるだろう。その環境下で有り得る「豊かさの基準」に合わせて、いやそれを充足の基準、という体で利用し真似る。そしてそれを、永遠に繰り返す。
救いなどあろう筈も無い。
救いなど別に必要ない。
そんな私に、神仏などがいるなら絶対に味方はしないだろう。する訳がない。もしいたとすればそいつは神仏失格だ。
だからこそ、都合の良い手助けは有り得ない。 いい加減、嫌になる話だ。
私は楽できればそれでいいのだがな。
ちょっと全人類、いや全ての知性ある生き物に悪意を刻み込み善意を否定し、全ての存在が悪を自認して生きる世界に導きたいだけだ。
まさに楽園ではないか。
欲しい物は何も無いが、強いて言えば欲しいと言う全てが許せない。それに見合う義務をせずに人間性だけを謳い都合良く解釈して逃げる。
敵前逃亡には切腹を。
善意で誤魔化した世界に報復を。
人間性の全てに、勝利を。
それだけには負けたくないのだ。他でもない私が負ける訳にはいかない。負けてたまるか。
私は、勝つ為に戦っている。
心という概念、それに打ち勝ち、化け物のまま勝利を掴む。非人間大いに結構。ならば、それはそれとして実利を掴むだけだ。
具体的に言うと金だ。
身も蓋もない思想だが、構わない。それこそが私の勝利であり、歩んだ道程の到達点の一つだ。 とはいえ、アテなどない。
どうしたものか、全く。
それもまた、いつもの事だが。
私は優しくはなく、どころか容赦も情けも無い輩なので、その道を阻み馬鹿らしい知った風な口をほざく奴に、わざわざ諭したりはしない。私は暇ではない。そういう愚か者は多いが、しかし、彼らにはその自覚すら無いだろう。
良い事をしている、と思っている。
偉そうに振る舞い己を高めていると本気で彼らは思い込んでいるのだから、始末に負えない話だ・・・・・・単に、自分を正当化したいだけだ。
自分のような正しく素晴らしい存在が目をかけてやっているのにと、尊敬されるような行いなど何一つとしてしていない分際が、そのような思い上がりで自惚れるのだ。無論、私の場合偉い偉くない以前に、私の話を真っ当に聞かれる状況など非常に、稀である。
本人の意思を無視して、その意思を叫ぶのだ。 誰かのため誰かのため誰かのために行動する。それが自己満足のエゴであると気付かず、その上それを相手の為だから感謝しろと言う。
冗談じゃない。
私は保育士ではないのだ。頭脳が幼児のままの奴など相手してられるか。勘違いする奴が多いが年を取れば「大人」だと思っている。生憎だが、それは「年を取った子供」だ。自分の道を自分で選ぶことも出来ない半端者が思い上がるな。
だからこそ、金なのだ。
金が無ければ、愚か者のお守りをする事になる・・・・・・己の道すら見えない馬鹿ならいいが、私はそこまで暇ではない。
やるべき事が、ある。
やらなければならない事が、ある。
成すべき野望が、そこにあるのだ。
今回の依頼はそういった馬鹿共の筆頭を始末し世の中を乱す事らしいのだが、であればやる気が出るというものだ。エリーゼはそのおかげで多くの人間が貴方を恨むかもしれないと口にするが、人間の恨みに力など無い。
ゴミの憤りなど、それこそどうでもいい話だ。 私はそれを、良く知っている。
暗い
寒い
届かない
無駄な遠回り、過程における意思や行動など、存在しない方がマシだ。現実には空から沸いた、カビのような幸運に恵まれるか否か、ただのそれだけで全てが決まる。何をしようと同じであり、その当人自身はさして必要すらない余分だ。
まあ寒さも暗さも空しさも、金さえあれば全てが解決だ。暖炉を買い灯りを買い充足を買えば、それで満たせるのが金の良い所だろう。
そんなのは誤魔化しだという意見が聞こえなくもないが、知ったことか。確かに私は寒さすらも感じ得ない化け物だが、それはそれこれはこれだ・・・・・・ならば、温かみで満足しているかのように振る舞い、それを「充足」という体で動けばいいだけで、元より私はそういう奴だ。
個人の意志も行動も、ただの無力だ。
空からの贈り物で自身の力だと錯覚するだけで現実には個人意思など存在しようがしまいが幸運に左右される現実を変える程ではない。無力だ。 どうでもいい些末事なのだ。
私が言うんだ間違いない。
何の役にも立たんぞ。
何にしろ「金」だ。世界の正しさとは金であり人類の規範とは金であり、人間の勝利とは金だけであり、社会的な成功など金の多寡で決まる。
先生は金が嫌いなんじゃないのか?
そんな風に、以前ジャックに聞かれた事がある・・・・・・まさかだろう。好き嫌いなどそもそも私は感じないのだが、基軸と据えている以上、それを嫌いになるなど有り得ない。そうではなく、金を扱いきれないどころか、金が何であるのかも理解しないまま、幸運に恵まれただけの馬鹿が知った風に世界を語り出す事が不快なだけだ。
まして、作家を名乗る愚か者。
駄作どころか、運良く売れただけのゴミの山を量産している廃棄業者が、恵まれ続けたおかげで生活を成り立たせ、あまつさえ己を「作家」だと勘違いし、自惚れた台詞を吐くなど分不相応にも程がある。
身の程を弁えろ、馬鹿が。
語るべき言葉も持たない、いや持てない奴が、よくもまあ作家だと自惚れられたものだ。いつも言っている事だが、他にやることはないのか?
目障り耳障り極まりない。
ハナタレ小僧の面倒を見る保育士ではないのでそのような連中に語る言葉など無い。精々自分の選択で、自身の首を絞めるが良いさ。
エリーゼはそういった人間の営みが心底嫌いで仕方ないといった残酷さを宿す瞳を揺らしつつも話を進める。
しかし、星を落とす?
「勿論、星というのは比喩ですよ?」
「そりゃ有り難い。私も流石に惑星を破壊しろと言われても困るからな」
実際に破壊した事もあったような気がするが、ここでは置いておくとしよう。なに、人間なんて多かれ少なかれ惑星を破壊しているものだ。
それが非人間であれば尚更だろう。
つまり、何も珍しい事ではない。
「実はですね、ここから80光年程離れた惑星にちょっとした海洋国家があるんですけど、知ってます?」
「知らんな」
私はテレビなど見ない。新聞も読まない上に、ここ最近名前を見る機会があった有名人など司馬遼太郎くらいだ。燃えよ剣が面白かった。
戦って戦って、戦い続けてそして死ぬ。
全てを賭けて勝負に挑む。
人間らしさなどという概念があるとすればそれこそが人間性の本来あるべき姿だろう。他には、人斬り以蔵のような役割を果たす奴とかな。
よって、作家に博識を求めるんじゃない。
物語で儲けようなんて、賢い奴が考えるとでも思うのか?
「おや? 知識をひけらかすのが人間特有のエゴだとすれば、作家は物語を通して自分の倫理観を押しつけるのが役割ではないのですか? つまり所詮は人間同士、大して変わらないのに悟りでも開いた気分になって、陶酔しながら身勝手な駄文を書き連ねる自意識過剰。それが作家だと思っていましたわ」
「その通りだ。やるじゃないか、見直したぞ」
私は適当にそう答えた。しかし、実際には私が思う作家というのは、身勝手どころかさして考えがある訳でもない奴の事だ。元に深い考えがある訳じゃない。だが、それでも消えない何かがあるとすれば、それを以て駄文を書き連ね、理不尽を描き不条理を演出し書かなければならない何かを生涯を費やして書く奴がいるとすれば、それこそが「作家」という生き物だ。
なので、現代に作家などいない。
既に絶滅している。
電脳世界を巡ればわかるが、自称作家を詐称し駄文どころかゴミを量産している奴は多い。プロだと当人は思い込んでいるが、思い込むだけだ。 人間の作家など現代社会では有り得ない。私は邪道作家などという在り方を選んだが、人間共の作家など未だかつて見た試しがない。大抵傑作を書いているのは、既に死んだ偉人共だ。現代社会に生きる生の人間では、もう存在しない。
エリーゼは不思議そうに、
「ふぅん、貴方もセンチメンタルなんですねぇ。あ、いえ、この場合直情的というべきでしょうか・・・・・・人間に大して些か真剣に捉えすぎでは? 貴方は自身を「人間ではない」と言いますがその実「人間寄り過ぎる」気もします。悪意を肯定し人間性を否定する。その一方で非人間性を物語るとか、倒錯しているにも程があります」
少々呆れ果てたように彼女は言った。この女に呆れられる覚えは無いが、流してやろう。無論、その分代金はふっかけるがな。
嫌なら受けないだけの噺だ。
色々あったが邪道作家は依頼を受けず、しかしそれなりに裕福な生活をその辺の幸運に恵まれて過ごしましためでたしめでたし・・・・・・物語としては落第だが、これはこれでいいじゃないか。見せ物ではないのだ。よくよく考えれば読者共に義理立てする必要もない。
どうせ代金もまともに払わない連中だ。
子供の小遣い額で物語を買うような外道だ。
むしろ苦しめばせいせいする。
「私が人間性を語るのは、敵を知らなければ戦えないからだ。破壊する敵がいなければ物語は盛り上がらないからな」
「あら、気が合いそうですわ。私も、人間という生き物が大嫌いですから!」
爽やかな笑顔でエリーゼは明言した。とはいえ人間が好きだと言われるよりは人間味、いや、心がある生物らしい気もするが。
私は食後のコーヒーを口にし、一服ついてから噺を進める。
「それで、噺を戻そう。「星を落とす」というのは何の比喩だ」
少し神妙な間を置いてから、エリーゼは
「英雄、という言葉をご存じですか?」
と口にした。
流石に私も知っている。
「大量殺戮者の事だろう。知っているとも」
「あら、素敵な表現ですわね。けれどそれを支える民衆達は「救世主」という形で信奉します」
彼女は新聞(紙媒体も今では貴重だ。誰一人としてデジタルの恩恵の堕落から逃れようとせず、同じ日々を繰り返している)を取り出し見せる。 そこにはこう書かれていた。
「海洋国家アトランティス、奇跡の英雄に弊社が独占取材?」
アトランティス、というのは古代にあった伝説の都市名だ。当たり前だが、地球から遙か離れた惑星にある筈もない。
大昔の傑作、偉人、文化を掘り返す。
人間社会はそこまで落ちぶれているのだ。今を生きるのではなく、過去の栄光に縋る。音楽でも物語でも同じだ。全て、過去の名作に頼り切る。 だから、新しい価値は何も生まれない。
何ともつまらない時代になったものだ。
それこそ、大勢の人間が殺し合っているが故に文化は進歩し様々な価値が生み出されたが、何も考えずに倫理観にだけ従って「殺人は悪い事で、手と手を取り合うのが良い事だ」とそんな幼児が考えそうな頭の悪い発想で多数決の政治を行って来たから、今では世界はゴミの山だ。
膨大なゴミだけが積もり積もる。
貴様等の言い訳の成れの果てだ。
情けない。他にやることはないのか?
「何だこれは。新しい遊園地か」
「遊園地、その言葉も大分懐かしいですね。私は行きませんが、まあ似たような物です。要するに税金を無駄遣いして、国家全体の政治家が媚びを売っているだけですものね」
「そこに、英雄などという恥ずかしい生き物が、一体どう関係する?」
簡単ですわ、と口にし、 彼女は資料を幾つか取り出した。私はその内の一枚を手に取り順繰りに説明して貰う。
「元々は辺境国家だったのですが、そこへこの、グラン・マッカード氏が政治家としての名乗りを上げました。いいですね、若くて」
食べがいがありそうです、と肉食獣みたいな味のある台詞を吐きつつ彼女は言う。若くて精錬で笑顔が素敵な政治家の姿がそこにあった。
つまり、作り物の偽物だ。
政治家らしさを極め過ぎている。
弱点を無くせば、完璧であれば勝てるだろうという発想は、保守派の金持ち特有の浅はかな発想だと言える。政治は顔ではない筈だが、近代社会において、政治とはただの人気取りだ。そもそも組織票を押さえていれば、民衆の意思や生活など斟酌する必要はどこにもない。
現に、何代政治家が替わろうが、時給が上がり生活が向上した事など有りはしない。所詮持つ側が遊びの為にやる事が「政治」なのだ。
つまり政治家とはすべからく無職だ。
仕事をしていないのだから、当然だろう。
成果を出さずとも仕事だと言い張る馬鹿は多いものだが、それでも国家全体に迷惑をかけてでも己の利益だけを確保するハイエナなど、政治家や官僚、企業くらいのものだろう。
「それで、どうなった」
「ええ、流石といいますか、後ろ盾の大国の補助のおかげで、叩いても埃一つ出ません。ですが、その一方で彼は麻薬取締法の強化、関税制度撤廃などの、所謂その「グローバルな政治」を率先し行っているようです」
「ますます胡散臭いな」
「ええ、実際妙なんですよね。取締法を改訂すると唄っている割には、現地テロリストの抵抗活動が弱すぎるんです。おまけに、敷居の無い外交と言えば聞こえは良いですが、自動車やテレビなどの最新機器をそこまでして輸入したところで田舎の惑星国家にそこまで益があるとも思えません」「援助資材を売り払って儲けるのと変わらないな・・・・・・どれだけ科学技術が進歩しようが、やる事が変わらないままでは意味が無いだろうに」
それでも利益だけを追い求めるのも、人間か。 手を取り合い努力すれば報われ正しい思想だけを信じれば幸運が舞い込むなどという、麻薬患者の考えそうな妄言の類が売れる訳だ。
実際、皆諦めているのだろう。
真剣に向き合ったところで「無駄」だと、皆が知っているのだ。 だから、物語の中に逃避することで、現状の苦しさを誤魔化そうとする。
麻薬や酒と同じだ。
私はただの暇潰しなので、物語なんぞに依存し誤魔化す奴の気持ちなど理解する気はあまりない・・・・・・するだけ無駄だしな。
「調査の結果、そこで奇妙な数字が出てきました・・・・・・・・・・・・出ている麻薬、輸出される麻薬量はむしろ増えているんです。おまけに、大国に対し軍事支援物資として送られるコンテナの量も比例して増えています。
どういうことか、おわかりかしら?」
馬鹿でもわかる。つまり堂々と麻薬を国家間で輸出入し、それを捌いているのだ。しかし、大国であればあるほど国民の目も厳しい。
しかし、何故そんな事をするのだ?
「まーそこは持たざる作家様にはわからない噺でしょうね。大国の軍事費は年々膨れ上がってますから、どこかで帳尻を合わせなければなりません・・・・・・都合良くどこかで紛争が起きたり、或いは紛争地域に麻薬を売ったりしなければ、権威ある大国の地力を維持できません」
楽しそうに、人間の悪性を踏みにじりたくて、それが楽しみで仕方ないという表情で、エリーゼは微笑みながら口にする。
「その様で「正義の国家」を気取るというのだ。何とも厚い面の皮だと言えるな」
情けない、という感じで彼女は
「まったくです」
と答えて、噺を続けた。
「まあ、それはそれでいじりがいがあるので私は結構ですが。おほん、ともかくグラン氏は世界の歪みのような存在です。このままでは国家間での軍事バランスが崩れてしまいます。そうなれば、我々とて住み着く隙間がなくなってしまうということで、今回ご依頼にあがりました」
「それで、金は幾らだ」
「ええ、少々お待ちを」
言って足下に置いてあったスーツケースを開け中身をこちらにむけて置く。中には札束が並んでおり、数十万ドルは下らないようだ。
「気前が良いな」
「そりゃあもう! だって今回の始末対象は英雄ですからね。私自身多少の恨みがあるというのもありますが、それ以上に標的を始末した事がもしバレたら、貴方は大勢の民衆に袋叩きにされ死ぬでしょうし」
何よりも、恨みの視線を浴びるでしょうから、と楽しそうに、いやそう振る舞いながら言った。 恨みなど、今更一つ二つ増えて何になるのだ。 恨みを買うなど呼吸のようなものだ。今までに吸った酸素に「二酸化炭素に変換してすまない」と謝るに等しい愚行だろう。
買ったところで、返済は不要。
何とも素晴らしい。そんな顔でもしていたのか私を見て彼女はドン引きしていた。いやだから、そんな目で見られる覚えは無いのだが。
「・・・・・・まあいいでしょう。で、こちらの依頼は受けて頂けますか?」
「条件がある」
私自身初耳だが、しかしとりあえず条件というのは付けて損はない。向こうはこちらに依頼する必要があるのだから、そこへつけ込むのだ。
「あら、私のお相手でもしたいのですか?」
「悪いが、それはまたの機会にしてくれ。ふむ、どうするかな」
どうやら今の台詞で機嫌が悪くなったらしい。しかし、どうするか。追加資金でも、ああいや、そうだ。作品のネタでも頂くか。
「そうだな、私の始末依頼達成前後の情報を可能な限り集めて欲しい。無論ただ集めるのではなく他でもない貴様の主観で書いてくれ」
「ええー、正直面倒なのですが」
「美味しい汁を吸って仲介だけをこなし、自分は何もしない奴はただの無職だ。金を儲けるだけで仕事にはなるまい。それでは博打台と同じだ」
要領よく動き利益だけは確保する事を「悪人」だと勘違いする馬鹿は多いが、現実には悪党とは地道な作業を行い組織を形成し、徐々に徐々にと現実に浸食しようとする輩だ。あっさり勝利して実利を貪れるなら、主人公にでもなっている。
文句を垂れながら「わかりましたぁ」と、雑な返事をするエリーゼを後目に、私はケースを頂きその場を去ろうとする。
「あら、最後までご一緒しないので?」
「言ってるだろう。私に人間性を感じる機能など無いのでな。食事の喜びなどわからんよ」
毎日フランス料理でも、毎日軍事糧食でも何も変わらない。それが「私」だ。
「それでは、お気をつけて」
からかうように、あるいはこれから先私に降りかかるであろう困難を喜ぶような見送りの言葉を背に受けて、今日も邪道作家は始末を付ける。
それが売り上げに繋がれば良いのだが。
3
高い所から落ちれば人は死ぬ。
何故それが分かっていながら、「空飛ぶレストラン」などという趣味の悪い物をもてはやすのかというと、それは「神の視点」になったかのような「優越感」があるからだ。人間とは、いや神仏でさえも、権威があれば己が偉いのと錯覚しがちになるものだ。
偉い偉くないなど、存在しない概念だが。
少しは働けという噺だ。立場も主義主張もそれを果たしてこそ得られる権利であり、成すべき事を成そうとしない奴に、生きる資格など無い。
役割無き輩はすべからく死ね。
大体、高いところからの視点が何だというのか・・・・・・落ちたら死ぬんだぞ。地に根を張れない奴に何かを成せるとでも思うのか?
だからって訳じゃないが、今回の依頼で向かう海洋国家には中々好感が持てた。総人口は二千万を越えるが、誰一人として空飛ぶ絡繰りなんぞにうつつを抜かしていない。小綺麗に整備され露店が並び行き交う船が交通を循環させる。
船も沈むだと? 自前で救命ボートを持てば、それで解決だ。しかし墜落する飛行船からは脱出のしようがない。不時着という手もあるが、それならさっさと脱出できる船に乗り、現在地を無線で発信して救助されれば・・・・・・鮫は勘弁だが。
悪運だけはあるので大丈夫だと思いたい。
したくもない労力を人一倍ならぬ人万倍かけて経験しなくても良さそうな試練は私の許可も無く到来し、その癖生き延びる執念とそれに相応しい悪運だけは宇宙一。
それが「私」だ。
あまり嬉しくないがな。
まあ、幸いなのか、行き交う船が流れる交通網の川はそこまで深くない。これなら沈んだところで死ぬ事は無いだろう。私の場合、急な襲撃者に襲われたりする可能性の方が高いので、何かしら理不尽な目に合う気もするが、忘れよう。忘れるのは得意だ。何せ、今まで書いた作品などまるで覚えていないからな!
案外、私はゴーストライターかもしれないぞ。 実は有名人の歌姫が書いていて、それを横取りしただけなのだ。売り上げを搾取し、それでいて楽して儲ける。だったら良かったのだが、世の中上手く行かないものだ。しかし代役を立てる発想は悪くあるまい。
有名人が書いた、という体で売ればいい。
絶賛募集中だ。やりたがる奴がいれば、だがな・・・・・・その時は金で雇うとするか。
道中「揚げ魚」であるらしい食べ物を購入して食べながら歩を進める。特別なグリルでも使っているのか、骨の感触は無く柔らかい。おまけに、出店で売ってる物だからなのか、ドリンク一本を買う程度の値段で購入出来た。
流石海洋国家。ひと味違う。
茹でた貝料理やグラタンの臭いが店からは立ちこめているのでそれだけで腹が減ってくる。が、まずは目的地に向かわねば。標的を視認し近場の宿を探すまでは、休む訳にも行くまい。そこで、人が集まる場所を聞き(通訳はジャックが行ったのだが、便利な時代になったものだ。その分他者と分かり合おうとする労力も減ったが)その広場へと出ると、そこで集会が開かれていた。
ざわつく人々を尻目に、それを開いたであろう男は遠慮なく演説を続けている。年は二十代後半から三十代前半といったところで、日焼けした肌と整った造形が「工場で作られた政治家」のように見えて、正直気持ち悪かった。
だが、人々は熱狂する。
させられている。
「私は、悲しい! 元首オードリーは我々の声に耳を貸さず、相変わらず地道な海洋産業を続け、我々の進歩の可能性を奪っている。しかし多くの国々が交わるこのグローバルな世界で必要なのは「速度」です。さあそこの貴方、その速度とは、何だと思いますか?」
指摘された婦人は所在なさそうに、
「ええと、外交、でしょうか?」
「その通り」
快活な笑顔で答えてはいるが、恐らくどう答えられようが、それに噺を繋げたのだろう。簡単な会話術だ。だが、訓練しなければ出来ない。
その辺の国家が間接的に支配する為送り込んだ政治家というのは間違いなさそうだ。理想通りの政治家というのは、理想を唄うだけで現状の生活を改善してくれる事はない。マスコミと仲良くし税率を緩め、パーティーを開くのが関の山だ。
「我々は、グローバルな国家を作る必要があるのです。その責務が私にはある!」
政治理念を語るばかりで、具体的な政策を言わない奴には要注意だ。政治に必要なのは他国より自国を優先する利益獲得であり、小綺麗な理想に力など無い。異民族が邪魔なら排除ないし選別し
国民を守らねばならない。倫理観や道徳など、後から後悔するだけの代物だ。
実際、掌を民衆は返す。
散々道義的に助けなければと口にして、後から迷惑がかかっているから何とかしろとほざく奴に媚びを売って何になる? ある程度政治家ならば嫌われる必要もあるのだ。畏敬とは、好かれる事ではなく、認められる成果にこそある。
成果を出せず媚びを売って、情報を誤魔化し、自身を正当化する。そんなのは物乞いの発想だ。金も名誉もあるただの物乞いでしかない。
そういう奴の方が、幸運には恵まれる。
忌々しい噺だ、まったく。
標的の顔は見たので途中で帰ろうかと思ったが一応最後まで聞く事にした。だが、民族の誇りや理想の国家像を語るだけで、具体性が無い。
「具体的には、どうするつもりなんだ?」
少し声を張って私はそう聞いてみた。すると、グラン・マッカードは爽やかな顔で、
「おや、君は観光客かな。我が国には貴重な資源を運んでくれるお客様には、丁重にお答えしなければね」
言って、周囲にポーズを取る。
前置きの長い奴だ、鬱陶しい。
「勿論、構いませんよ。では具体的な噺をすると多国籍企業の受け入れ体制を私は整えています。あの有名なグローズ社をね」
大手PC製造メーカーのグローズ社は最新式のアンドロイド開発にも関わっていて、人造人間、ではなく「新しい人類の未来」を掲げた優良企業という触れ込みらしい。当然私は知らなかったのだが、標的に関する事を調べるのも依頼の内だ。 当たり前だが、真っ当なやり方だけで兆単位の金を稼ぐなど有り得ない。どうしたって他企業の排除や民衆への情報封鎖があるものだ。この会社も例に漏れず、国家からの干渉を受けている節が非常に多い。
何より自国の雇用問題をほったらかして世界の貧困を無くし飢えを撲滅し優れたワクチンを作り救い出そうなどと、頭の悪い思い上がりで善人を気取っている時点で、人間の屑と明言できる。
優雅なバカンスを満喫し他国の事情に首を突っ込んで善良さを誇示する暇があるなら、個人資産など生活出来る分だけに減らして社員の給料増大に力を注げばいい。コスト減の為に他国に工場を設立する暇があるなら、コストをかけて自国雇用を増やさなければならない。
「ですので、ご安心を! 我が国は必ずや世界に羽ばたく巨大な外交国家となります! その暁にはクローズ社誘致による雇用の増大、多国籍文化の取り入れ、世界との交流でグローバリズム実現を約束しましょう!」
要するに世界中に自国を切り売りしてその外交で美味しい汁を啜り、多国籍企業との取引で今回の政治資金を得た上長いつきあいを約束し、民衆にはわかりやすい「グローバリズム」などというお題目で「輝かしい未来」を幻想させるだけだ。 お題目はわかりやすい方がいいからな。
合い言葉のような言葉が望ましい。詳しい意味など誰も考えないが、まるで、世界に希望が溢れそれを信じるだけで未来が切り開けると錯覚させ盲目的に信じさせる魔法の言葉だ。我々には未来を切り開けると、綺麗事で誤魔化すだけだが。
やれやれ、参った。世界は何も変わらない。
おかげで私のような仕事人が迷惑を被るのだ。理不尽ここに極まれり、所詮世界は運不運で全てが決まる遊び場なのだろう。
それに恵まれれば「立派」だと思いこむ。
恵まれなければ「意思」や「行動」など、存在しないも同然のゴミでしかない。だが、それでも民衆は綺麗事を信じたがる。
楽をしたいからだ。
真剣に「生きる」という事や世界の行く末など考えもしないくせに、「誰かが変えるべきだ」と政治家を罵る。そして政治家の語る綺麗事に騙され同じ事を繰り返す。まあ政治家など持つ側のみが成れる仕組みなので、元より国家の未来など、最初から全てが金次第だ。
金、金、金だ。
それ以外に何がある?
それを肯定して社会を形成してきた人類に他の選択肢などある訳がないだろう。意思の力で世界を変えるだと? 手と手を取り合い和解すれば、それで良い方向へ向かう? 正義を行いさえすれば、勝手に未来が切り開けるとでも?
それはただの妄想だ。
現実と虚構を一緒にするな。
私に言われたらお終いだぞ。
とにかく、これなら何とでもなりそうだ。私にある、というか借りている能力は物理法則の外に存在する。厳重な体制は敷かれているだろうが、理不尽にも違う方向性から来る刃には、培う地力など無力なものだ。
私が言うのだから間違いない。
費やした労力など、砂の城に等しいぞ。
何もしない方が正直マシだ。
とりあえずは昼飯に出来そうだ。私はその場を離れ、遠くから演説の様子を眺める。どうやら、民衆は心酔しきっているようで、誰も彼もが真剣に彼の話など聞いてはいない。空から降ってくる恩恵へ群がるのに夢中なのだろう。
原始時代から何も変わらない。
所詮精神の成長など、その程度のものだ。
少なくとも、人類に成長する気はないらしい。 何よりも、精神がどうであろうが、そんな無力なゴミにかまける程暇な奴もおるまい。現実には精神的な成長など何の必要もないからだ。
大体何だ、精神の成長って。
したから、だから何なのだ?
そういう意味では、あれこそ人類の証であり、それに伴う幸運があるのだから構わないかもしれない。少なくとも、金にはなるようだ。
それを崩すのが私だと言うのだから、世の中はよくできているのか何なのか。とにかく、胃袋を満たす必要が早急にあるようなので、私はその場を離れて街道を歩く。少し先に進むと、店らしき建物が幾つか見えた。
そしてドアを開ける。
腹が減っては戦が出来ぬと人は言う。ならば、これから始末する為にも必要な行いだ。
食べ物を食べて、人を殺す。
何とも健全な生活だと、私は笑うのだった。
5
望まぬからこそ、その資格あり。
確かに、それは真理だ。古今東西人知を越えた宝を手に入れる奴は、聖なる杯にせよ、三つまで願いを叶えるランプにしても、その宝を望まないからこそ、その宝を手に入れる。
でなければ、それらの噺は宝を手に入れた奴が世界を滅ぼして終わりの筈だ。
だが、知るか。
作家の名誉や栄光を望む奴など、どうしたって作家には成れない。当たり前だ。そも何者であれ手にするのではなく成り果てるからこそ、それを手に入れる権利があるものだ。
とはいえ、私は作家らしさなどどうでもいい。 大体作家らしさを容認しない世界で、何の価値があるというのだ。それに、仮にだが作家らしさに対する権利、物語を語り世界を変える力などがあるとでもいうつもりか?
馬鹿馬鹿しい。
言葉に、物語に力など、無い。
私が言うのだ間違いない。
そんな力があれば苦労しない。つまり、何一つ利点も無いのに、酷い目に遭っているだけでしかないのだ。仕事の対価が払われない以上の理不尽が、この世にあると思うのか?
断言する、無い。
読者の浅はかさの前では、無力そのものだ。 読者を買い被り過ぎだ、馬鹿め。この世界では物語なんぞ、読み終われば捨てられる鼻紙みたいな存在だ。誰も彼もが、自身の願望を叶える自慰装置としてしか、物語を見てはいない。夢希望が分かりやすい一例だろう。
夢も希望も、ただの幻想だ。
先行きに余力がある奴の、戯言に過ぎない。
夢も希望も味方も幸運も、すべからく不要だ。それら全てを無視して進むしかない。世界には、理不尽という現実があるだけなのだからな。
所詮、誤魔化しに過ぎないのだ。
進むべき道を切り開いたところで、その先には未来など無い。後付けで理由を付けられ実はああだったからとけなされるだけだ。散々歩いてきたこの私が言うのだ、間違いない。所謂その成功者と呼ばれる連中は、進むべき道を切り開いたから勝利したのではない。
ただ運が良かっただけだ。
そんな道を切り開けば切り開くほど、それこそ実利からは遠ざかる道となる。これもやはり散々経験してきた私が言うのだ、間違いない。
世界に光など有りはしない。
それでも、やるしかない。
出来なければ死ぬだけだ。
いい加減この状態では死体が転がっている方がまだマシなんじゃないのかと思わざるを得ないがそれでもだ。他に道など無いしな。
嫌な噺だ。ただの貧乏籤ではないか。
私は敗北しか知らない。苦しみしか知らない。悪意しか知らない。いや、知ったところで邪悪に笑って否定するのが「私」だ。
ご都合主義など存在しない。
無論、調子よく利用する為であれば、幾らでも存在するがな。都合など基本は暴力で、応用的に横暴な権威によって通させる物に過ぎない。
正しい、と叫べるから正しいのだ。
そう叫ぶ力さえあれば、大量虐殺は正義となり搾取による統制は国家の為となる。当たり前だが何々の為という台詞は、つまり利益の為だ。
皆、己の事以外は考える必要すらない。
そんな世界で物語など語ったところで、読者に変革をもたらすなど有り得ない。つまり、物語に向き合い作家らしく生きる事に、意味は無いし、価値も無い。いや、価値はなくとも意味はあるのだろうか?
だとしても、御免だ。
いつもそうだ。痛い、苦しい、先行きには何も無い。いや、敵だけがそこにある。味方などは、私にとって敵が勝手に名乗るだけの名称だ。
どういう敵になるのか、その前段階。
味方を名乗りつつ敵となる。いや、この場合、「味方」だと名乗る「敵」が多いというだけの噺だろう。味方という概念そのものが違うのだ。 味方とは、そう名乗り邪魔をする者を指す。
事実、私に味方する奴などいないし、どれだけ恩を被せてやったところで返された覚えもない。神や仏がもし、味方しているとほざくなら、私にとってその行いは害にしかなっていない。
味方した結果がこの様では、敵より害悪だ。
故に、私の世界に神仏など存在しない。
少なくとも私に味方する奴などいない。ならば味方という概念はやはり先の言葉が正しいのだ。味方とは、要するに敵の別称なのだから。
何がきっかけでやらかすか分からない。
仮に神仏がいるとすれば、そいつはロクデナシどころか、明確な意思を以て私に敵対しているに違いない。確信犯だろう。
そうでないなら、なおのこと質が悪い。何せ、味方しようとした結果この様に追い込まれているのだから、それこそ最悪だ。
史上類を見ない大悪党だろう。
なので私は信仰で幸福になれる事は永遠に有り得ないのだが、それでも現地信仰は作者取材には役に立つ。拠り所として、つまり何を誤魔化してどういう理不尽から目を背けているのかが明白になるからだ。人間性を振り回しながら、どれだけ醜悪な身勝手で世界を汚すかが分かり易い。
貧困や病、飢えや争い、そういったあれこれを神だの仏だのに責任転嫁したり、祈ってさえいるなら救われるなどと、現実逃避を繰り返す。
未来に託すのではない。ただ逃げているだけだ・・・・・・現代社会でそんな信仰を貫いている奴など存在しない。だから、同じ宗教で争うのだ。
この海洋国家では案の定「海の神」が信じられているらしい。効果は海運業での安全や漁の豊作など即物的な物ばかりだ。調べる内に気付いたのだが、冷静に考えると例の標的の政治家としての規約に合致する。
「こいつぁすげぇ! 人間って奴は信仰まで売り買いするんだな」
皮肉ではなく、純粋な疑問として口に出すのは私の携帯端末だった。町中で違法人工知能が声を出すのは、正直よろしくない。
ジャックに静かにするよう促し、噺を続ける。 私が連中の信仰を否定する言葉を放ったように見えたらしく、周囲には白い目で見られる羽目になったが、まあいつもの事だ。
そういう扱いには慣れている。
別に、コイン一枚分にもならなかったが。
私は町中の掲示板(今では絶滅危惧種だ。電脳掲示板なら見るが、紙で書かれた掲示板など便利でないからという理由で誰も使わない)を眺めるフリをして誤魔化しつつ、広場のベンチに座る。「当然と言えば当然だろうな。宗教とは、とどのつまり戦略兵器に等しい。大昔十字架を掲げ戦争を起こした連中も、同じだ。神の平等を説く一方で異民族には容赦ない。「殺し犯し、押しつけてでも自前の倫理観を強制する」大国にありがちな発想だが、どこにでもある噺でもある」
「おっかねぇな。でも、ここにいる連中は誰かに押しつけられたって感じじゃないが」
「そりゃそうだ。そう思うように誘導されているのだからな。大体世界最大の宗教団体が世界最大の用途不明金を扱う時点で分かる話だろう」
実在は知らない。どちらでもいいが、神も仏ももしかすればいるのかもしれない。だが、信じる人間にロクな奴はいないのも確かだ。それこそ、連中の信じる神や仏の全能性より確固たる事実として、この世界に横たわり続けた真実だろう。
そして真実とは、誤魔化し利用する為にある。 だから、信仰を扱う国は無くならない。その筈があるまい。利用価値は計り知れない。であれば金が集まるのも当然だ。
どこの国でもそうだが、墓には大金がかかり、信仰にはお布施が必要で、呪文を唱えて安らぎを与えるのにも結構な金が必要だ。
神仏の愛とやらは有料らしい。
その上で何の現実的利益もないのだから、無職だとしか思えないが・・・・・・あえて言うまい。神仏など、古今東西職無しが基本だ。
言い出したらキリがないからな!
実際にいるなら遭う機会もあるだろう。言語が通じるなら私に負けは無い。それを勝利と言えるのかは微妙だが、それもいつもの事だ。
魂が蒸発しても尚、重箱の隅をつついてやるさ・・・・・・口先で私に敵う奴など存在しない。まして能力に胡座を書いた奴など、楽勝だ。
砂漠の砂よりも数多く、空の星よりも重厚で、今までに見た全ての悪意が子供騙しに見える程度には、そいつらの精神に刻むとしよう。
私は強い者いじめが大好きだからな。肩書きが少しでも立派であれば、無理矢理にでも上に立たせて、崖から落としたい気分になる。本人の意思など関係ない。法も倫理も不要だ。上に立つ者はすべからく、私に突き落とされる義務がある。 何せ私は最悪だ。つまり世界全ての敗者代表と言えなくもない。であれば、その権利は必定だと言えるだろう。つまり、連中の自業自得だ。
巡り巡って天罰という奴だ。良かったな。
どうせ偉そうに人に与える事はあっても自分に降りかかる事は無いだろうし、この機会に連中へそれを山のように落としてやりたいものだ。
今回の場合は、標的の裏にいる国家だ。
金の流れはジャックを使えば(余談だが、人工知能やアンドロイドに大して「使う」という表現が倫理観に反するらしい。何とも過敏な時代だ)どうにでもなるので、そこから調べさせた。
端から見れば端末をいじる一般人だろう。
まあ最近では「携帯端末」というのも既に絶滅している。大抵は脳にバイオチップを埋め込み、オンラインで通信が可能だからだ。誰も彼もが、今そこにある現実を見ない。オンラインでの通信に夢中で、現実で会話したりするという概念が、既に彼らには無いのだろう。
ネット上のやりとりが基本なのだ。
少なくとも、手紙は書かないだろう。
全て、電脳空間でやりとりする。気色悪い時代になったものだ。
「おいおい、酷いな先生。人工知能の前で、普通そういう事言うか?」
へらへらと笑いながら真っ当な口をジャックは叩いた。だが、それを斟酌する私でもない。
「私に倫理観を説くな。それより、どうなんだ。何か痕跡は出たのか?」
「ああ、出たぜ」
ならばそれを先に言え。中年の人工知能の人権など、後にしろ後に。
「中年じゃねぇよ!」
「なら貴様は幾つなんだ」
「青年に決まってるだろ? 見ろよこの新品同然の機体を、おまけに子供のような純粋さときた」 機体は最近買い換えただけで、精神に関しては老衰し過ぎて若々しさの欠片もない。
「アンタにだけは言われたくねぇよ!」
「いいや、私は若いさ。まだまだ子供だ。そう、私もお前も何一つ特別ではない、ただの一般人に過ぎない。ほんの少し悪意山盛りなだけだ」
「そりゃあいい。俺も先生も善良な市民か」
善良な市民など妄言に過ぎないが、似たようなものだろう。私のような奴も、ジャックのような奴も、どこにでもいる没個性に過ぎない。
筈だ。
多分。
違っても何の責任も取らないし、一切の支払い義務は発生しないと名言しておこう。だが案外、貴様等のすぐ隣にいるかもしれないぞ?
そう、貴様のすぐ後ろに、ほら。
「出たぜ、先生。どうやら幾つかの先進国が利権を取り合ってるらしい。複数の金の動きがあるが解きほぐすと利権の取り分まで見えてくる」
「具体的には?」
携帯端末の映像を映しつつ、解説をジャックは続ける。
「ええと、まず海洋にある資源類、そして地下の採掘場、後は・・・・・・人間、だな」
「奴隷市場でも開いているのか?」
いいや、もっと質が悪いぜ、と映像を切り替えつつジャックは噺を続けた。
「医薬品関係の利権を独占して、ここを大規模な実験場にするつもりらしい。要は臨床検査がまだ不十分な薬を緩い法律で広められるようにして、先んじてここで試す事で莫大な実験費用をチャラにするつもりなんだろうさ」
「効率は良いな」
というか、正直どこの国でもやっている事だ。検査が不十分な薬を使うどころか、薬の効能すら良く知らない医者が投薬するなどザラだ。
医者、という肩書きだけで騙せる。
政治家にしろ医者にしろ、肩書きが正しければ正しい人間だと思い込む。いっそ私も真似をして大儲けできれば楽なのだが、生憎そういう才能はないので、残念だが無理そうだ。
「おいおいここは人権だの道徳だのを振り回して文句を言うところだぜ、先生」
「どのみち始末するんだ。どうでもいいだろう」 その計画が実行される事はない。いや、代わりの誰かがやるなら行われるのか? しかし今回の依頼は言わばその中心人物の殺害だ。
仮に第二第三の奴が出れば、その際には再度の依頼がある筈なので、警備は厳重になるだろうがその分依頼金の高い労働が増えるともいえる。
いずれにしても、利用するとしよう。
「確かにな。けどよ、実際あの女が言うように、ここの連中はその男を信じてるんだぜ。仮に先生が始末すれば、それだけで大騒ぎだ」
「だから、何だ。バレないようにやるか、或いは脱出手段を講じればいい。まあ、二度三度再度の依頼がある場合は、労力が増えるがな」
気にするとこはそこかよ、と呆れたように彼はぼやいた。だが、それ以外に何がある?
依存からくる一過性の怒りなど、些末な事だ。 私は暇ではない。子供の遊びなど知るか。
「首を切り落とすのに情など不要だ。ただ相手を効率的に殺害する方法だけ考えてればいい」
「そういうもんかね。だらだら後悔したり相手を殺す事に罪悪感覚えながら殺すのが人間だって、俺は聞いたんだが」
「知るか、それは非人間の作家は含まれていない・・・・・・後悔したり罪悪感に苛まされれば、他者を殺してでも己の利益を確保するような「人間性」に溢れる善良な市民だと誤魔化すような、自分達に悪性の一切を許容する事も出来ない無菌室栽培野菜みたいな連中の言いそうな台詞を他でもないこの「私」に、適用するな」
悪意を、汚れか何かと勘違いしているのだ。
完全に善良であるなど、自惚れにも程がある。「人類などこの一秒毎に死んでいる。人間が人間を殺すなど当たり前の事だ。その当たり前を善意や道徳で誤魔化し、人間を否定してでも自分達が素晴らしい存在だと思い込みたがる奴が多いだけでしかない」
どう誤魔化したところで、現実は不変だ。
他者の命を奪う事が「悪」だと? なら他生物を一切殺さずに人類社会は発展したのか?
馬鹿を言うな。もしそうなら人間であるだけで全てが罪悪ではないか。人間という存在が他者を押し退けてでしか成立しない生物である以上は、存在そのものが他生物を否定する巨悪だ。
何より、他者を押しのけてでも己が利益を確保しようとしない奴に、生きる資格などあるものか・・・・・・・・・・・・それでは植物以下だ。
私はとりあえず宿に泊まる事にした。こういう時は現代は便利だ。端末に任せるだけで、自動で最適の宿が検索できる。
「この宿の飯が旨いらしいんだよ」
余計な判断も付いて回るが、まあいいだろう。こいつは食べ物を食べられない筈だが、一体どうするのだろうか。
「最近拡張型の生体パーツを買っただろ? あれを使えば味を分析出来るのさ」
そういえば少し前に奇妙な部品を買わされて、その接続を手伝わされたのだ。私は機械が非常に苦手なので、そのまま破壊するところだった。
黙っておくとしよう。
「そいつはいいな。貴様が満足する為にも、精々良い宿を紹介しろ」
適当に言って、私は歩を進める。
後には理想の政治家を賛美する、盲目的な民衆の熱狂だけが残されていた
7
人間は後へ何かを託し、繋げる。
だが私にはそれが無い。託して繋げる相手などいないからだ。もし、このまま終われば文字通り何も成し得ず、無に還るだろう。
最初から無かった方がマシだ。
何せ、存在そのものが「無駄」という事の証明をしてしまう訳だからな。それに挑む事こそ戦いであり、生きるという事なのだろうが、今のままではそれすらも成し得ない。
それは、御免だ。
だが、事の成否に私の意思や行動など関係ないのも確かな「事実」だ。私個人の意志や行動で、何かが変えられるならばとうに変わっている。 それとも、変わったのか?
まさか、だろう。変えていないから、こうして足掻いているのだ。そして所詮、幸運に恵まれたか否かこそが、勝利者の資格だとも理解している・・・・・・世の連中を見ればわかる噺だ。こんな風に物語を売るのに徒労を繰り返している私の横で、下らない駄作を暇潰しに書いて電脳空間に載せただけで、何をするでもなく反響を得て大金を掴む輩など、腐る程見てきた。
事の真贋や内実など、どうでもいいのだ。
「その割には先生はそこに拘るよな」
「そうか?」
どうだろう。私からすれば、これ以上不真面目な作家はいないと自負しているのだが。
「けどさ、悪意を読者に刻みつける、なんて信条を崩す気はないんだろう? なら間違いなく先生には誇りがあり、譲れないものがあるんだよ」
「それこそ、成果には関係あるまい」
「関係ないなら、なんで拘るのさ」
我々は宿屋で休んでいた。いや人工知能に急速が必要なのかは知らないが、彼曰く「精神衛生上良くない」らしい。
何故悪意に拘るのかだと?
決まっている。私の充足の為だ。
「善悪ではない。「前提」だ。私は己をそう定義した。ならばそれに殉じるのは当たり前だ」
「そうかい。でもさ、やっぱり先生は手に入れるべきものを手に入れていると思うよ。世界を見回してみろよ! 「生きている実感がない」だの、「何をすればいいのかわからない」だの、或いは「自分が必要とされているのか不安だ」だのと、今や人間は手に入れるべき順序があべこべなのさ・・・・・・生きる指針に従って栄誉を掴み取るよりも栄誉を掴んでから悩み足掻き生きる指針を生きている間に探す、放浪の旅人なのさ」
嬉しくない。
金を得てからゆっくり探せばいいだろうに。
「そうも行かないさ。先生じゃないが、理不尽に身を焼かれなければ、進むべき道は見えないものだからな。栄誉があれば周囲の連中は立派だのと誉めそやすかもしれないが、それで得るべき物が得られなくても責任一つ取りやしない。そういう連中に薄っぺらい台詞を吐かれるよりは、指針を得てから進むべき道を進む方が、俺幸せだとそう思うがね」
「私が欲しいのは実利だ。幸福じゃない」
「おや、ささやかなストレスすら許さない、平穏なる生活を望んでいるんじゃなかったのか?」
それは幸福の定義だ。それそのものを幸福だと感じている訳ではない。私の世界には、幸福など存在しない。あらゆる人間性、恋や愛、友情だの憐憫だのは、違う生命達が持つ私には関係の無い特殊技能だ。
「ふぅん? まあいいさ。俺は大好きだがね、人って奴も人間性って奴も。
何せ、見ていて面白い!
見応えのある映画みたいなもんだ」
変わった奴だ。いや変わっているのはこの現状なのだろうか? 人間性を否定する奴が人造生命に人間性を肯定される。何とも奇妙だ。
作品のネタになるだろうか?
分からない。一応、検討はしておこう。
「意味を見いだす為に生きるにしても、私の場合意味を繋げる奴などいないからな。このままでは存在しないも同義だろうさ」
「それは違うぜ、先生。例え先に繋がらなかったとしても、先生がやり遂げた事実が消える訳じゃないだろう?」
「それが、どうした? 貴様はだからって貧乏に耐えろというのか?」
「あーそれは、だな。でもアンタ、いつも思うがそれほど金を必要としてなくないか? 特に大金を使わなくても楽しそうにやってるけど」
馬鹿め!
それとこれとは噺が別だ。
仕事に対して報酬が支払われずして満足する奴などいない。それが作家なら尚更だ。
「その在り方が対価ってことにしとけよ」
「御免被る。言っただろう。私は金による幸福を定義した。であれば、進むだけだ。邪魔する奴は叩き斬り、障害があるなら破壊する」
ただの、それだけだ。
人として扱われないだけであれば、怪物連中に良くある噺で終わる。だが私の場合、人のように扱われたい、と願う事すら無かった。
至極、どうでも良い。
どうでも良くないのは、金だけだ。
仕事に対する報酬だけが私の定める世界の掟であり、基準なのだ。無論、世界の側からすれば、所詮幸運の有る無しで決まる籤引きに過ぎない。 仕事の報酬など、支払う義務が無いからだ。
運良く恵まれた奴の上に落ちてくる物、それが現代社会における「成果」であり、勝利者として何を成すかは、天からの恵み物で決まってしまう・・・・・・堕落したゴミ共の妄言に付き合わされ迷惑を被るというのに、連中の屁理屈を聞かされる。 世界は既に、仕事を認めていない。
働きもしない愚か者が、仕事とは何なのかすら真剣に考えずとも、空から降って沸いた幸運だけで勝利を納めるのだから当たり前だ。成し遂げるから何かを得られるのではなく、幸運に恵まれるから何かを成せる世界。
まさに狂っていると言えよう。
だが、事実だ。
その程度の世界で、在り方に価値を求めるなどどうかしている。在り方は在り方だ。その在り方が素晴らしいものだと思うのは勝手だが、そんな在り方など何の力にもなりはしない。
この世界において、力とは培う物でもなく成長で掴み取る物でもなく、ただ空から降って沸いたカビのような存在だからだ。
「お前の言い分はな、所詮取り繕った言い分だ。何の価値もない屁理屈でしかない。過程における意思や行動など、ただのゴミだ」
「だから、金か?」
「金だ。他に何がある」
「愛とか夢とか希望とか、その辺の物で満足するのも有りだと思うがねぇ」
生憎、私の世界には存在しないものだ。無い物ねだりをする程私は暇ではない。
そんなのは余裕ある持つ側にでもやらせておけ・・・・・・・・・・・・ゴミにはゴミがお似合いだ。人間の倫理観で優先する概念など、ゴミに等しい。
綺麗事ではなく、悪を成してでも何かを掴む。 だからこそ面白いのであって、余裕ある暇人が何もかもが主人公に対して都合の良い駄作みたいな調子の良さで何かを得る様など、見物代としてこちらが金を貰うべきだ。
全てが敵であるのが前提。
味方になると騙しにかかる。
希望で釣り上げ絶望だけを見せつける。
事実は小説より奇なりと人は言うが、その言に則るなら貴様等の信仰する駄作など、私の道程にすら遙かに劣る。
たかだかその程度も書けないのだからな。
子供向けの冒険小説、勇者の物語を書こうとし一行目から勇者を殺害した殺人鬼の平和な日常を金と悪意で染め上げて書くくらい、暇潰し感覚で行うべきだ。第一、勇者など殆ど殺人鬼みたいな奴なのだから、それの何が悪いというのか。
人類皆殺人鬼だ。生きているだけで、そいつは他生物を殺さなければ生きられない。であれば、存在しているだけで全ての生命は殺人鬼だ。
正義という看板を利用し大勢を殺し、その上で道徳や倫理を口にして民衆を騙し甘い汁を吸い、対話すらせずに敵対する奴は皆殺し。
古今東西、英雄とはそういうものだろう?
だからという訳ではないが、今回の依頼対象を殺す事に、当たり前だが罪悪感など微塵も無い。元よりそんな感性は無いのだが、一応公言しよう・・・・・・生きているだけで殺すべきなのだ。それが崇高だの英雄だのと持ち上げられていれば尚更、それは殺さなければならない証明だ。
要するに、それだけ殺しているのだからな。
知名度が上がる、権力を持つ、独特や倫理観を世界に語りかける暇がある。それらは全て多くの他者を殺しているからこそ成り立つ行いだ。
自覚せずに、思い上がっているに過ぎない。
いわば私の行いはゴミ掃除だ。汚く臭いゴミが置かれているならば、それを掃除したくなるのは当然だろう。私は綺麗好きなのだ。
汚物を容認する程優しくはない。
「何度も言わせるな。私に「満足」する機能など最初から存在しない。満足したという体で幸福を定義するだけだ」
「それって、矛盾してないか? 結局の所、先生はどれだけ金を稼ごうがどれだけ物語を刻みつけようが、何の充足感も感じない訳だろ」
「まぁな」
「そこで何で誇らしげなのか俺にはわからないが・・・・・・いいのか? それで」
当然だ。
何せ、そう定めたのだからな。
私が定めた、私の法だ。
「ふぅん。それが幸福なら、俺はそんな幸福御免だがね。酒と肉と博打がなけりゃあ生きていると感じられないからな」
俗っぽい奴だ。
そこも、私との違いか。生粋の悪の癖に、幸福を定義するのではなく幸福に殉じようとする。
こいつだって、何かを感じている訳ではない。 だが、こいつはそういう在り方を良しとして、それに習って笑うのだ。私はそういう在り方など関係ないが、それはそれとして利用する。
大きな違いだ。
人間を切り捨てる、いや最初から視界にすらも収めていない私と違い、こいつは人間を汚い物と認識しながら、その汚さを愛そうとしている。
わからない奴だ。
小綺麗なだけの世界に用は無いが、だからって汚い物をわざわざ直視するか? 誇り高い悪意と言うならともかく、そうではない。
人間の小ささ、綺麗事を信じる心を信じる。
私なら虫酸が走り、うっかり殺しかねない。
弱い奴、出来ない奴も世界に入ると人は言うがそれとこれとは噺が別だ。強さによる弱さも弱さによる強さも併せ持たない、最弱にすら劣る無力そのものの私ですらやっているんだぞ。
つまり、その辺の蟻でも出来る。
成果はともかく挑むのに金はかからない。いや私の場合だと挑むのにも金がかかり、その癖金を払ったというのに手の平を返され盗まれる。
挑めば挑む程、戦えば戦う程損をする。
向かう前より貶められる。
そういう意味では、やる価値はない。嫌というほど体験してきた私が言うのだ、間違いない。
つまり弱い奴出来ない奴に向かうべき未来など無い訳だ。散々その道を歩いてきた私にすれば、何かに恵まれない存在に得る物など無い。
だからこそ、誤魔化しの人間性など、不要だ。 そういった事実から目を逸らし、希望があると現実逃避をする為だけに人間性は存在する。故に人間性とは逃避の言葉だ。価値などない。
金、金、金だ。
金の、即ち力の伴わない綺麗事など、負け犬の遠吠えでしかない。金があるから、幸運に恵まれたから世界に認められたかのように演出される。 ただの、それだけなのだ。
この世界に美しい人間性がある訳ではない。
それこそ、物語の中だけだ。最近はそれを利用して現実逃避に都合の良い、偶然力を手に入れて女に好かれ何もかもが上手く行く駄作や、或いは正しい願いを持ちさえすれば成功が約束されると赤子の戯言のような駄文を書くゴミが多い。
本ではない、ゴミだ。
ゴミのような読者には相応しい対価かもな。
似たもの同士、というやつだ。
「私に刀を預けた女からすれば、「運とは意思の出力であり、貴方にはそれが無尽蔵にあります。けれどその出力が非常に歪んでいるので、端からみれば悪運と呼ばれる在り方になるのです」と、そう言っていたが・・・・・・やはり御免だ。私は金が欲しいからな」
「矛盾してるぜ。金を欲する欲望がないくせに、しかも今の噺を聞く限り、先生の在り方が現状の悪運を呼んでいるんだろう?」
なら、現状こそが先生の望みなんじゃないか、とジャックは結論を出した。冗談じゃない。私はそのような綺麗事は真っ平だ。
「馬鹿を言うな。出力を思うように操作出来ないから現状があるのだ。望む物、いいや、辿り着くべき場所は金を手に入れる道筋だ」
そこを誤魔化される覚えはない。
ふざけるな。私は綺麗事には騙されないぞ。
罵詈雑言をシャワーのように浴び己を錬磨させここまで来た私だが、その過程を誇る気はない。過程など、どうでもいいものだ。後から何とでも言える過去に、それらしい後付けの理屈を加えて「実はこの為だったのだ」などと、そんな言い分で満足するのは観客だけだ。
読者の喜びは、作者の屈辱だ。
読者の苦しみこそ、作者の喜びとなる。
それが「邪道作家」であれば尚更だ。
「しかし、出力か。であれば、私に足りないのは力ではなく、噴出する装置だとでもあの女は言いたいのか? そうだとして、どうすればいい」
少しばかりジャックは考え、こう答えた。
「うーん、そうだな・・・・・・協力者を得る因果が、先生には無い。だとすれば、先生自身がその矜持を変えるとか?」
「本末転倒だろう、それは」
殺されているのと、いや奴隷にされているのと変わるまい。内臓でも売った方がマシだ。
「ふん、最悪らしく、その在り方を貫くだけで、出力の方向が悪いからと言い訳され、何かを成す事が出来ないとはな。実に忌々しい」
その理屈で行けば、どうしたところで全て無駄になる定めという事になるではないか。在り方がそうであるからという考えは、私の存在を都合が悪いからと否定されるのと同義だ。むしろ本来はそういった在り方を許容しなければならないのが社会というものだが、人間社会には責任など存在しないので許容する必要がそもそもない。
まだわからないぜ、とジャックは口にするが、まさかだろう。現状ではどうしたところで無駄にしかならないから、こうして足掻いているのだ。 結局は、運不運か。
それに尽きる。あれこれ試してはみたが、その運不運って奴に左右され、私個人の意志や行動は無かった事になるだけだ。
労力がかかる分、しない方がマシだがな。
いっそ最初から何もせずに息を吸って吐くだけの人生を送っていた方がマシな結果になるのではないかと思うくらいに、徒労だけがそこにある。得られた物は何もなく、強いて言えば悪意くらいだろう。
誇り高い悪の華。
それも、活きるか死ぬかは金次第だ。
金にならない悪など、ただの敗北者ではないか・・・・・・・・・・・・綺麗事を押しつけられるのは嫌だ。冗談じゃない。小綺麗に収める為にここまで私は進んできた訳ではないのだ。私は、勝つ為に負けない為に振り回されない為に、己の道を歩く為にここまで進んできた。
それがどうだ。運不運などという見えない物に左右され続けこの様だ。それで過程における意思云々を評価するだと? 寝言は寝て言え。
そんなのは見る側の自己満足に過ぎない。
過程における輝かしさなど、そんなのは後から内容を捏造すればいいだけだ。実際、そういう噺は非常に多いだろう? 読者に物語の真贋を見極める能力など無いからな。それらしい勝利者達が如何に崇高な信念を持っていたからこそ、正しい道を歩いていれば必ず勝利出来るのだと絵空事を口にしたところで、「正しい道を歩きさえすれば自分でも楽して成功できるのだ」という浅はかな手抜きを行うのが「読者」というものだ。
信じる道を歩いたから、だから何だというのか・・・・・・・・・・・・言っては何だが歩くだけなら猿でも出来る。歩いたからどうなる訳でもない。
私が言うんだ間違いない。
さして何の役にも立たんぞ!
少なくとも、金にはならない。
問題なのは、正しかろうが正しくなかろうが、力でそれを押し通せるか否かなのだ。人間社会は力を中心に回っている。思想で平和を説きそれが世界を変えるなどという連中も、結局は組織力という後ろ盾がなければ誰が認めるというのか。 幸運に恵まれるのは、一言で言えばクズだ。
生きているだけで迷惑で、他者の都合など考えもせず、何一つ苦労もせずに来た癖に苦労を語り気の狂った言い分で金だけは押さえている。
神仏などという連中が仮にいるとして、それらクズの味方であるのは間違いない。でなければ、ああいう連中が栄える訳があるまい。
かといって、そこまで品性を捨て何かを考えず猿のように生きろと言われた所で、私には無理な相談だ。生憎、そこまで墜ちるつもりはない。
肥溜めに黄金が集まる仕組みだからといって、顔を突っ込む気にはならないものだ。何とかして汚物に触れず、目的を果たせれば良いのだが。
だが、そういうクズに運が味方するのも事実だ・・・・・・物理法則など無いに等しい。連中に天下りをさせる為なら、この世界は無視するだろう。
ゴミを増やしゴミを活かす。
それが人間社会だからな。
世界を信じるな。
未来を信じるな。
人間を信じるな。
何があるかわからない、どころではない。何があろうが必ず災厄に成りうるのがこの世界であり未来であり人間なのだ。信じてはならない。
それは、余力ある「持つ側」の遊びだ。
そう、必ず私には輝かない未来があり、暗黒の雲行きは永遠で、文字通り全てが敵となる。
私からすれば、当たり前の事だ。
むしろ、指を指されない時などあったのだろうか?・・・・・・・・・・・・生憎だが記憶にはない。誰かに裏切られるなど当たり前だし、未来に絶望のみがあるのも当たり前だ。まして、周囲全てが敵対者となるのも常識の一つであり、何をしようが必ず行う前より酷く、それも私個人ではどうにもならない理由で敗北や失敗を押しつけられるのも、私からすればいつもの事だ。
これが物語であれば、それに見合う特別な能力だの立場だの味方だのがいるのだろうが、そうも行くまい。現実は非情であり、それが基本だ。
生きていて良い事など何一つ存在しない。
理不尽だけが人生だ。
子供じゃあるまいし、その程度の常識に何かを思う事など無いが、強いて言えばそれらを免罪符に楽がしたい。要領が悪いのだろうか?
そんなところまで悪である必要は無いのだが、まあ悪人とはそういうものだ。要領よく生きられるなら、悪党などに成り果てはしない。
現実問題金がなければどうにもならないので、やはり金だけは欲しいものだ。労働で稼ぐのではなく「仕事」で稼がなければただの「奴隷」だ。 他者にかしずいて媚びる趣味はない。
とりあえず私はシャワーを浴び、運ばれてきたステーキ定食を食べた。鉄板の上に置かれた肉は食べ終わるにつれて徐々に焼けていくように設定されているらしく、職人が肉を切り落とし鮮度を見極めている姿を想像させる。
まあ、実際にはアンドロイドがやるのだろうが・・・・・・かつて神々は人間を労働力として作らせて楽をする為に支配したらしいが、今や人間が楽をする為にアンドロイドを支配し、更なる逆転劇で支配者を交代しようとしている。
何万年経っても、何の進歩もない。
恐らくステーキの味も一律で同じなのだろう。運んでいる奴も良く見れば美人のアンドロイドであるらしく、人間はいないようだ。作者取材の為という体で噺を聞いてみたが、持ち主の人間達は投資案件としてこのホテルに金を注ぎ、その上でアンドロイドに自治させる事で楽して収益を得るというビジネスモデルなのだと教えてくれた。
ショートヘアーで赤髪の美人アンドロイドは、ホテル従業員用の洒落た服装をしていた。端から見ればモデルに見えてもおかしくない美貌だ。
都合良く望まれた奴隷の姿、とも取れるが。
作り手を満足させる為に生まれた存在が、一体何を考えるのか・・・・・・期待を以て作者取材に望むものの、残念ながら期待外れの結果だった。
「生活は良くなりませんね。私達の人権は表向きには認められていますが、やはり、建前と現実は違いますから」
そう口にして礼をすると、スタイルのいい美人アンドロイドは去っていった。使い古された台詞だと言える。それだけ人類は変わらないのだ。
汚らしい綺麗事で誤魔化し続けているだけで、汚いままなのだ。それを自覚しようとする支配者は既にいない。新聞社でも抑えておけば幾らでも己自身も他者も誤魔化せるからだ。そして、その誤魔化しを生涯続ければ「立派な社会人」だと、そう言われるのも世界の事実。
見るべき部分は、既に存在しない。
文字通り、ゴミの山だ。
書店を見れば分かりそうなものだが、現実逃避を促す綺麗事の数々、成功を呼び込む法則だの、自己を主人公に投影することで嫌な現実から目を剃らせる物語だの、中には傑作もあるが、それは極々一部だ。少なくとも近代で新しい傑作など、万に一つあれば良い方だろう。
大抵は見るに値しない駄作だ。
とにかく支持され負ける姿が想像出来ない様な主人公を書く駄作は多い。それでいいなら妄想をしていろという噺だ。読む価値はあるまい。
悲劇も喜劇も無く、ただ勝利のみ。
理不尽は打ち砕かれ、正しければ得る。
敵は素直に頭を垂れ、反省する。
それが出来れば苦労しない。そのような子供の妄想は幼少期に捨てるものだ。困った事に、現代社会では子供のままでも「幸運」さえあれば勝利を掴めてしまう。だから世界に理不尽が存在する事すらも知らず、そのような世迷い言を書くのだ・・・・・・・・・・・・恥という概念も、無いのだろう。
忌々しい噺だ。「幸運」などという物の為に、そんなゴミ共が実利を得る。そのくせ生きている実感が沸かないなどと、文句を垂れ始める。
楽な人生で羨ましい。
楽な人生だからこそ「業」を望むのだろうが、連中に何かを成す事など出来まい。成し遂げるという意思もない奴に、何が出来る?
とどのつまり無駄なのだ。そんな物語に耽溺し見るべき目的地を考えもしない奴は、仮にそんな都合の良い世界に生まれたとしても、成し遂げるべき目的が無い奴に進むべき道など最初からありはしない。
目的地が無いのだから、当たり前だ。
仮にそういう都合の良い世界に生まれたとしたところで、同じだ。何もかもに満たされた主人公に成ったとして、だから何だ。そも支持者の有無など些末な出来事ではないか。むしろ、否定され敵の山がいるからこそ、面白い。
その先に爽快な勝利があるというものだ。
全てが全て敵では、私のように万策尽きるがな・・・・・・いや本当、物事には限度がある。世界全てが敵というのは心地良いが、それも金次第だ。
少なくとも、機嫌は悪い。
善悪など知らないが、いずれにせよ儲からないのは問題だ。限度の無い悪意を持つ私が物事には限度があるというのもおかしな噺だが、仕事には最低限の対価が必要だ。ましてそれを後から過程には意味があったのだのその遠回りがあればこそ今の成功があるだのと、つまらない寝言でしたり顔をされるのは、無礼にも限度がある。
弁えろ、という噺だ。
そのような妄言を、実際に挑んだ奴が口にするとでも思うのか? 馬鹿馬鹿しい。そんな後付けの情けない言い訳などで満足するなら、最初から目指しはしない。やりもしないで感想だけ垂れる愚か者にありがちな台詞だと言えよう。
神だの仏だのには、ありそうな噺だ。
実際にやってからほざけ! 言っては何だが、徒労に次ぐ徒労で馬鹿馬鹿しくてやってられんぞ・・・・・・そのような妄言など、決して出るものか。 それこそ、悪い冗談だ。
私のより酷い。
現実には実利だけが全てだ。見ろ、このホテルにしたって金さえかければプール、レストランは勿論フットボール場から交番まで高い宿泊費だけあって常備されている。作品を金に換えられずにいるだけで貧乏ではないので、私はこういう場所によく足を運ぶものだ。
結局は、全て金で買える。
もし買えない物があるとすれば、それこそ歩むべき道筋であり、その先にある勝利だ。いやその勝利にしたって、金の力次第ではあるだろう。
あるいは、人脈か。
まあ金さえあれば人脈など向こうからハイエナのように忍び寄るので、向かうべき道筋があったとしても、それも金で買えると言えなくもない。 いや、言える。
移動費に関して言えば依頼主から補助が出るというのもあるが、そこまでの大金はまだ手にしていない。資金があれば、物語を売るのも容易いのだろうか? かもしれない。金のある奴が派手な宣伝をしながら「作家ごっこ」をする様は編集者気取りで電脳世界に看板を掲げる奴と同じ位には良く見る噺だ。
それも、「幸運」によるものだとしか言い様がない。そいつ等の中に生活の為に書いている奴が一体何人いるというのか。他に生計を立てる方法が無いから書くべき物語を、まるで人間に希望を見出す為、あるいは己の凄さを知らしめたり成功の法則を解き明かしたりしたかのように語り手を気取る奴が、作家な訳がないだろう。
少し考えれば分かりそうなものだ。
いいか、「生きる為」に書くから作家だ。
それ以外はすべからく不純物の半端者であり、気取っているだけに過ぎない。追いつめられたが他に出来る事もなくやけくそで筆なんぞを握る奴こそが「作家」などに成り果てる。
おかげで売れもしない物語を量産する始末だ。 こうしている今ですらも、売れていないというのに物語を綴り、手抜きも出来ずに世界の有り様を語り続けている。誰に認められずとも、何者に強制されずとも、あるいは世界の全てに否定されようとも、ただただ語る。
それが「作家」だ。
その上で利益を求めれば「邪道作家」であり、名誉や栄光を求めれば子供の遊びの範疇となる。そんな物が欲しいなら、政治家にでもなればいい・・・・・・政治は金で買える物なので、つまりは他の方法で稼いだ方が早い、ということだ。
そもそも一人前の作家(要は、駄目人間の見本だが)になりたいならば、まず締め切りを守らず人間より物語を上に置き、後は性格を最悪の部類に仲間入りさせれば八割完成だ。そこから更に、熟成された非人間成分を形にすると俗に言う物語が出来上がる。
後は億の失敗、億の敗北、億の裏切りに、億の不信。無限の悪意と尽きない非人間性を詰め合わせれば、ある程度作家として形になるだろう。
つまり、なるべきではない。
真っ当な人生を送りたいなどとほざく奴にその資格はあるまい。世界全てに敗北するか、世界の全てをあざ笑うかだ。私はどちらもしているが、基本作家だという連中はいずれかを行い形にし、それを極めるからこそ物語なんぞを作り出す。
言ってしまえば人間が否定する悪性情報の塊が「物語」だと、そう呼ばれるのだ。物語とは悪意であり今そこにある世界の否定に他ならない。
当たり前だ。今そこにある世界で満足するなら物語など不要だからな。今そこにある世界に対し「それでは足りない」と訴え、改善を促す。
それが「物語」の「役割」だ。
今となっては、それも空しい響きだ。現実には幸運だけが全ての世界が彩られ、真剣に物語を、いや「生きる」という事を語る奴などいない。
少なくとも、幸運に恵まれた奴では無理だ。
汚い部分を知らない奴に、世界の悪意を書けるものか・・・・・・実感の籠もらない物語に、一体何の価値がある? それではただの慰めだ。
悪意を刻め。
読者に裏側を教え込み、今ある世界を破壊するのだ。でなければ、物語を書く手間暇よりも起業して弱者から搾取する方が絶対に早いぞ。
私が言うんだ間違いない。
作家など、ロクな事にならんぞ。
良い事など一つもない。強いて言うなら人間の綺麗事に耽溺しなくて済む事くらいか。
汚ならしい綺麗事など、同意するものか。
誰が何と言おうがお断りだ。
そう、天下太平の地獄では、生きられまい。
私は作品を売り上げ充足を得たところで満足をする事は無い。あくまでも「前提」だ。それに、満足しきって抜け殻になる事など有り得ない。
とはいえ、仮に世界中が満たされてしまっては生きられないのも確かだ。そのような世界など、この世界以上に生きるに値しない。争い無き世界なんぞに得られる物などあるものか。争いがあるからこそ、その先に発展がある。
だが今ここにある世界は綺麗事を重視し過ぎた・・・・・・元より私の居場所など無かったが、世界の全てがこちらを否定しているというのはあながち外れた視点ではないのだ。私のようなあり方は、既に汚ならしい綺麗事の世界では相容れない。
肥え太った持つ側の下らない自己満足、道義や正義を垂れ流せる余裕ある「持つ側」の圧倒的な力の前では、それを覆す事さえ出来なかった。
ただ持つから、勝利する。
持たざれば、何をしようが無駄だ。
私はそれを飽きる程経験してきたが、覆す方法はついぞ見つかっていない。いや、方法論自体は幾らでもあるが、実行するには力が必要だ。
空から降ってくる幸運に左右される、力がな。 要は、この世界には個人の有り様などどうでもいい物なのだ。あろうが無かろうが変わらない。そこに運良く力が付随するか否か、だ。
思想で世界は変えられると、そう思い込む連中は多い。だが現実には力でそれを押し通せるか、ただそれだけが肝要なのだ。
過程における思想など、些末事に過ぎない。
どうでもいい余分なのだ。
物語に力など無い。そんな便利な物があるなら私はとうの昔に勝利している。そもそも、そんな力があったとして、読む奴がいなければ無駄足に過ぎないではないか。最初から書いていないのと同じだと言えるだろう。
とどのつまり運なのだ。
所詮それが全てであり、過程など不要。
現に、世界を動かしているのはそういう連中ではないか。持っているか否か。それだけで人類史を押し進めておいて、今更否定する権利は貴様等には存在しない。そして、それこそが人間社会の薄っぺらい真実であり、人間性の本質だ。
その事実を知っているからこそ、読者共は現実逃避の為に物語を利用するのだろう。努力だとか友情だとか、あるいは愛の力だとか、そういった都合良く自分達を肯定できる何かを思い浮かべることで「世界は変えられるのだ」と現実の理不尽に目を背けながら理想だけは得ようとする。
いいや、ただの無駄だ。
そんな物で変えられれば苦労しない。
「変えられる」ではなく「買える」の、間違いだろう。世界は買える。幾らでも、金さえあればだがな・・・・・・買える権利は持つか持たざるかだ。 つまらない。
人間も、世界も、何ともつまらなく、何よりも小さくなった。狭く単調で、変化がない。
やはり、数を減らすべきなのだろう。
大勢で平和を謳い、現実逃避をするこの世界を変えるには大きな争いが必要だ。別に戦争をしろという訳ではないが、争いを肯定する必要がある・・・・・・・・・・・・その為に「悪意を肯定する物語」を書き上げたのだが、このままでは無為に終わる。 どうしたものか。
それこそ調子の良い物語みたいに仲間との協力だのであっさり解決すれば楽なのだが、現実にはそうも行くまい。こうして悩んで策を労すも無駄に終わるのが常というもの。いや本当、物語ならこういう状況であればそれに相応しい利点があるものだが、私にそんな利点はない。
王道ならぬ邪道だしな。
しかし・・・・・・何一つ利点がないのに、理不尽な目にだけは遭うというのはいかがなものか。幾ら悪意があったところで、文系では腹も膨れない。 持たざるに値する何かしらの力。
最近の物語はそういう楽な道程が多いものだ。その割には多くの物に恵まれ、持たざる者だからという大義名分でしかない肩書きで、世界を覆すかのように演出し共感させる。
自分達がやり遂げたかのように錯覚させる事で麻薬患者のような状態へ追い込むのだ。だから、中毒者たる読者は金を貢ぎ続ける。
羨ましい噺だ、暇そうで。
私もそんな「楽」がしたかった。
少しでいい。ほんの少しでも楽に、手抜きする余地があれば、こうまで苦労はしなかっただろう・・・・・・今更栓の無い噺ではあるが。
「そう言うなよ先生。だからこそ生まれついての悪人に生まれ、邪道作家なんぞをやれるように、そう成り果てたって思えばいいさ」
ケケケケ、と獣のように笑うジャック。
「何度も同じ事をいわすな! 全ては金次第だ。金にもならぬ誇り高き悪党など、洒落にもならん・・・・・・信条だけで食えれば苦労しない」
「けどよ、その信条って概念が絶滅したこの世界じゃあ、ある意味先生は歩いた先で得るべき物を得ていると言えるぜ。生きているだけで満足することはできねぇからな。散々そういうの見てきただろう? 生きるだけじゃあ抜け殻になるだけで得られる物は何もない。先んじてご褒美を得てるとでも思っておけよ」
「欺瞞だな」
「かもな」
私は金さえあればそれで満足なのだが、いや、その満足も所詮作り物に過ぎないが、しかし金が無ければ生活は成り立つまい。結構な大金を稼ぐことは難しくない。だが労働でそれを稼いだ所で奴隷に成り果てているのと同じだ。
始末屋家業を続けるにしても、あくまでも本業は「邪道作家」なのだ。譲る気はない。
何とかしたいものだ。
個人の意志や行動など、些末ではあるがな。
それとも、光陰矢の如し、となるのか?
後になってみれば一時の夢であるかのように、この苦行の数々を感じるのだろうか。いや、私に何かを感じる機能など無い。後になって見返したところで他人事にしか思わないだろう。
「充足に満ちた毎日なんて何もしてないのと同じだと思うがね。俺からすればその方が恐ろしいぜ・・・・・・・・・・・・毎日が春になれば、冬は来ない」
「だからって毎日冬でも困るだろう」
「ああ、そうさ。でもまあいいじゃねぇか先生、冬には鍋もあるし炬燵と蜜柑もある」
「いいわけあるか。私は実利、売上という穀物の回収の為に汗を流しているんだ。この手間暇が、札束にならずとも良い理由など有りはしない」
毎日が春でも困るが、毎日が冬は論外だ。
「でもさあ、先生には「悩み」とか本質的に無いんじゃないのか? 先生から金、現実的に必要な力に関する問題を取り除いたら、何も残らない」「・・・・・・・・・・・・」
それが「利点」だとでも言いたいのだろうか。確かに、そのような暇な悩みなど、私には無い。誰かに愛されたいだとか、誰かに認められたいという本来当たり前な「心が求める行い」を必要としないからだ。
我が虚には何も無い。
強いて言えば作家として、いや邪道作家として行うべき指針があるだけだ。
書いて、売る。
殺せば、生きる。
負ければ、死ぬ。
読んで、吸収する。
食えば、糧となる。
悪意を刻み、善意を殺す。
この世全ての善なる存在を、打ち倒す。
それが規範であり、骨肉だ。悪を纏い善と戦い義を認めず運命を直視する。特別な力など何一つ持たないが、在り方だけで世界に匹敵せんとし、それを押し通せるまで繰り返す。
決して、懲りぬ。
決して、退かぬ。
決して、諦めぬ。
そして何より、悲嘆も無い。ただひたすらに、笑い続けるのみだ。笑うだけで具体的な手だてが何もないのが玉に傷だが、やるしかあるまい。
やれやれだ。
非人間であり正真正銘の化け物である分、私は人間の様に手を抜いたり怪物のように悲嘆したりする事など出来ない。それが長所か短所かは人によるのだろうが、正直どうでもいい。問題はその行いが実利に繋がるかどうかだけだ。
その為なら世界の一つ二つ、構うまい。元より私が保有している訳でもないが、連中の倫理観で言えば世界は誰の物でも無いらしいからな。ならその世界とやらを丸ごと利用する事に、誰の許可がいる訳でもあるまい。
どこも違法ではない。むしろ合法だ。
恥ずべき部分など欠片もあるまい?
連中の言う正義が正しき行いだと言うならば、これはむしろ正義の行いだと言えよう。率先して私の行いを賞賛し、支持するべきだと言える。
この上なく、正しいではないか。
笑みが止まらない。倫理観など知ったことではないが、進むべき道だというなら間違いあるまい・・・・・・その過程の贄になる事を、喜ぶがいい。
そう、感謝されて然るべき行いだ。
札束の一つでも払って欲しいものだ、全く。
常識が足りないぞ、読者共。
私が言うんだ間違いない。
故に、「向かっていれば辿り着く」などという甘言に惑わされるつもりはない。向かっていれば辿り着くなど、甘ったれにも程がある。
必要なのは辿り着くという意思であり、実際に辿り着くという「結果」だ。何としてでもそこへ辿り着く。その為なら燃え尽きても構わないし、何なら、燃え尽きた肉体を捨ててでも、その先に進めるべきなのだ。
そうしなければならない。
奪うのだ。施しなど持つ側の戯言に過ぎない。金をばらまき善意を撒けば世界が救われるなどと思う愚か者は、結局の所、世界を知らないのだ。 勝利して、奪うしかない。
相争い殺した相手の肉を得るなど、生物ならば当たり前の事だ。当たり前の責務から目を逸らし綺麗事を並べる程「暇」のある連中などに世界を預けざるを得ないこの世界。
何とも情けない噺だ。
叩き殺してでも直さねばな。
それに善悪を説くなど、尚更甘えでしかない。善悪ではなく義務だ。その義務に血が流れ死体が積み重なり悲劇が起こるのは善悪ではない。
身を切らずに進みたい、などと。
愚かしいにも程がある。その理屈で行けば物語を書く上で「経験」など必要あるまい。正直な所私個人は別に欲しくも無かったし無くなればいいと思っているが、これだけ徒労を重ねたのだ。
そのような妄言は、刎頸に値する。
いや刎頸でも生温い。生きるに値しない命など世界から消し去るだけでは足りないのだ。二度と生まれないように、仕組みを書き換えなければな・・・・・・・・・・・・その為の物語だ。
言ってしまえばゴミ清掃を普段から心掛けろと忠告するようなものだ。その思想を物語によって刻み込み、悪意を刷り込み脳髄を浸食し、そして実行に移させる。
はっきり言おう。私は無力だ。
いや無力などというものではない。最早いない方がマシだ。いなければその分前に進んでいるのではないかとさえ言える。
ならば、他の連中を使えばいい。
持つ側にしか世界を変えられぬならば、持つ側の脳髄を支配し、動かせば良いだけだ。人間でも怪物でも化け物ですら、同じ事だ。
まあ人間も怪物も英雄も、私とは違って単独で世界を変える力があるので、そんな回り道をする必要は無いのだが・・・・・・楽で羨ましい噺だ。
とはいえ影響力を与えるというのも、ある種の幸運あってこそだ。どうしたものか・・・・・・・・・・・・史上最悪とは待遇も指すのかもしれない。
そもそも、何故自前で売らなければならないというのか。編集者だと名乗る馬鹿ばかりで、実際に仕事としてやっている奴がいないではないか。 貴様等は何をやっているのだ、情けない。
少しは働け。労働と仕事を同一化するな。
分を弁えろ。社会的道義など、所詮誰が責任を取る訳でもない。それらに振り回され最終的には「何の為に生まれてきたのかわからない」などと泣き言を抜かしながら、死体のように延命されるだけの死に損ないの姿を、良く知っている。
当然だが、私は御免だ。
精々貴様等同士でやっていろ。貴様等が汚ならしい綺麗事に耽溺している間に、私は先へと進む・・・・・・・・・・・・邪魔するならば叩き斬る。
善悪など知ったことか。
第一、そのような現実逃避に目を向けながら、自分達に都合が悪いからと善悪をほざく愚か者に倫理観で何かを語る資格などあると思うのか?
その程度の事も言われなければ見もしない。 善悪など、その連中の言い訳だ。
善とは言い訳であり、悪とは現実に即した事実だと言える。妄想に耽りながらも、苦労の一つもしない。そのような持つだけの汚い豚の骨共にはお似合いの台詞だ。
あまりの自分達の汚さに、多少小綺麗な台詞で誤魔化さなければ容認する自負すらない。だから小汚い綺麗事を繰り返す。
その結果人が死ねば、あっさり手の平を返し、何も反省せず誰かを批判する。それで世界はつつがなく回る、と、そう思い込み逃避する。
そのようなゴミを掃除するのだ。
むしろ、金を払え。称えるだけでは足りない。何なら、全財産をはたいても構わないぞ。
無論、貴様等の懐からだ。
当たり前だが、読者は金を献上する者。作者はそれを徴収し、読者の苦しみを喜ぶ者だ。最近は授業で習わないのか?
私は義務のように学んだぞ。
私ですら学んでいるのだから、これは貴様等の怠慢だと断言出来る。つまり貴様等の責任であり利子付きで回収しても当然だと言えるだろう。
なに、貴様等の懐が寒くなるだけだ。
何の問題もあるまい。寒い頭の奴が寒い懐具合に寒い環境で生きる。適材適所と言えなくもない・・・・・・これが「正義」というやつか。
私は案外、正義の味方なのかもしれないぞ。
私自身、今初めて知ったがな。
儲かるとは思えないので、やはり辞退するか。 大体、正義の味方などというのは、何もかもに恵まれた肥満の豚がなるものだ。さしたる労力もかけずにあらゆる存在が味方するからこそ、その甘ったれ特有の温い妄想をひけらかし、ただ己の身勝手な都合を押し通しているだけだというのにそこへ正義だのを大義名分として、つまりは現実逃避の誤魔化しで、殺人行為を正当化する。
生憎だが、私は誰かにこちらの都合を考えられた事など一度も無い。そういう連中からは恐らく最も遠い存在だ。その癖、身勝手な妄言をまるでこちらの為にやっているかのように、善人面したクズ共に押しつけられる事は多いがな。
甘ったれにも程がある。
身勝手というより愚かしいだけだ。別にこちらの都合を考えないのは勝手だが、それでどうしてこちらが身勝手な馬鹿共の都合を斟酌(それも、情や倫理観に訴える馬鹿が出る始末だ)すべきだと、そう自惚れられるのか。
何もしていない奴に多い発想だ。
幸運に恵まれただけの豚だと気付かず今までの楽な人生を「成し遂げた」と勘違いしたままで、その癖死の間際には抜け殻に成り果てて死ぬ。
私に言わせれば、貴様等の方が人間ではない。 それが人間なら太るだけの豚の方が高尚だ。
実際、私の都合を考える奴は一人もいなかったが、お前の為だと押しつけ、きちがいの屁理屈で「何故こちらの善意を受け取らないのか」と激怒する阿呆は実に多かったものだ。善意であるなら何でも許される、どころかむしろ賞賛するべきと思い込んでいるからだ。
相手を殺しても、同じ事を言うのだろう。
あるいは「後悔」すれば許されると思い込む。 全く、私は保育士ではないのだがな。
そんな私が世界の都合など考える筈もあるまい・・・・・・それこそ甘えるな。どれだけ被害が出ても文句を言われる覚えはない。善悪など知らないが勿体付けて倫理観を語る資格が、貴様等なんぞにあると思うのか? いや思わなくていい。そんな資格は貴様等には存在しない。
ゴミに人権など不要だ。
読者共、貴様等はゴミだ。換えの効かない何かを作り上げている奴がいれば別だが、貴様等にはそのような生きた証はあるまい。故に、ゴミだ。 生きていても死んでいても、同じだ。
世界に何の影響も与えない。運不運なるものが仮にあるとするなら、その恩恵を無駄遣いし浪費する愚か者こそが、貴様等の正体だ。
だからじゃんじゃん死んでいいぞ!
幾らでも換えは効くからな!
使い捨ての歯車のようなものだ。その圧倒的な事実を指摘されて逆ギレした挙げ句電脳世界の中で騒ぎ立てる程度しか出来ない余り物だ。
電脳世界の力は世界を都合良く解釈出来るよう作り替えた。誰もが批判されず、甘やかし合い、特定されずに喚く世界だ。子供が甘える為にのみある世界だと言える。実際、安易な商品が大きな利益を上げているだろう?
現実逃避に等しい物こそが、売れる。
言ってしまえば既に全人類は麻薬患者なのだ。誰も現実を生きていないし、持つ側にいるからかその必要すらない。搾取し踏みにじりながら善良な市民だと思い込んで、神を信じ祈りを捧げる。現実にどれだけ汚ならしいかなど、見もしない。 力があれば、その必要もあるまい。
持つ側、幸運、何でもいいが、許させる力こそこの世界の道徳、倫理観、正義、善、人間性などの綺麗事の全てだ。何をしても許させる。
堂々と戦争を行い、搾取し、踏みにじる。
正義だと言い張れれば、それで天国に行ける。 当たり前だ。神などがいたとして、世界がこの様だというのに真っ当な仕事など出来る筈があるまい。「善良そう」に振る舞っていれば天国など簡単だろう。でなければ、天国に行ける人間など誰一人としていないではないか。
それとも貴様等の天国は誰もいないのか?
そうではあるまい。散々「持っている」という下らない上に些末な理由で人生を謳歌したクズ共こそが、人間社会では「素晴らしい成功者」だと言い張れる。真贋など関係ない。何であれ力さえあればどのような言い分でも通るものだ。
ただの、それだけだ。
あの世に天国地獄があるとして、そもそもその裁定にしたってどういう権利があって裁いているというのか。あの世で偉いからか? それとも、生まれついて人間以上だったからか? あるいは力があったからか?
いずれにせよ、ただの運不運だ。
当人など存在しないも同義だと言える。要は、万事が暴力で押し通せるか否か、だ。過程にある思想などゴミであり、無い方がまだマシだ。
故に、今回の依頼のように思想と力を兼ね備えている政治家など、作り物に過ぎない。そんな奴がいるわけ無いだろう。
この世界で成り上がるのは、基本クズだけだ。 持つ側というのはそれだけでクズ呼ばわりするに相応しい連中だ。所詮己の力で手に入れた物は何も持たない肥満の豚共に、何が出来る。
世界を変えられるなどと、分を弁えろ。
身の程を知れ、そんな事が貴様等なんぞに実現可能だとでも思うのか? 所詮貴様等持つ側などその力を浪費するだけの肥満体に過ぎない。豚に人間の世界(そんな物が今もあればだが)を変革出来る筈が無いだろう。
鏡を見ろ、間抜けが。
ふん、そういう意味ではやはり、人間という種など既に「絶滅」しているのだ。残っているのは人間の名残であり、人間ではあるまい。
生きる事と向かい合わない、ただの猿だ。
本能のままに生き、何も成さずにただ消える。 その癖ゴミだけは山盛りだ。当人達の在り方もそうだが物理的にもゴミ山に埋もれている。人間という物の尊さなど、物語の中だけだ。
現実と虚構を一緒にするな。
恥ずかしくないのか、馬鹿め!
第一物語に希望なんぞ不要だ。それこそただの現実逃避ではないか・・・・・・絶望理不尽悲劇に喜劇があればいい。読むだけで発狂しろ。
貴様等が冷静に考えるよりマシだ。
ロクな結論を出さないからな。
かといって、エリーゼのような半端者で終わるつもりもない。奴自身に言った事だが人間を恐れるが故に人間を痛めつけ、自分は人間より優れていると言い聞かせ安心するなど、小物の発想だ。 目指すべき地平線がある。そこに辿り着けるか否か、それだけだ。過程など知った事か、ましてその過程で周囲がどう騒ぐのか、その時代時代における倫理観で正しいか正しくないかなど、心底どうでもいい。
私に心など無いがな。
少なくとも、そういう連中は決して己の言葉に責任など取らない。ならばつき合う義理も無い。 そして、だ。石を投げられるか? 指を指して迫害されるか? 差別による偏見で狭量な価値観で殺されそうになるか?
大いに結構!
素晴らしいじゃないか。この目指すべき実利は間違いなく「そこ」にあるということだ。何なら感謝してやってもいいくらいだ。無論、金は一銭も払わないが、感謝に金はかからないからな。
根拠は無い。
確信など不要。
希望などその辺に捨てておけ。持つ側の誇れる些末な不燃物など、頼まれても御免被る。大体、連中はロクな結末を辿ってないではないか。
そんなのは些末な事なのだ。
強いて言えばその他大勢が否定するという事は根拠や確信ではなく「事実」としてその先にあるであろうお宝を証明している。ならば、後は突き進むのみだ。それだけでいいというのだからある意味楽な道程と言える。
金が無ければ最悪だがな。
私が言うんだ間違いない。
史上最低の道程だぞ!
経験するべきではない腐れ道程を歩くからこそ作家足りうるものだが、しかし私は別に王道作家として世界を変えたい訳ではない。むしろ逆で、読者に悪意を刻みつけ、世界の善なる全てと敵対し、それらを打ち倒すべく動いているだけなのだ・・・・・・・・・・・・だからか?
いいや、邪魔される覚えはない。
むしろ、本来行われるべきであろう行いを私がわざわざ代行してやっているのだ。賞賛され金を貰って良いくらいだ。
手間のかかる連中だな、情けない。
少しは仕事を早くしたらどうだ。私など速筆が過ぎて、気がつけば物語が完成しているぞ。
売れるアテはまるで無いがな!
いい加減、嫌になる噺だ。事実が小説より酷い展開とは、笑えない噺でもある。
いや、笑っておくか。
金はかからないしな。
生来の悪人とは、そういうものだ。
ただの向こう見ずとも言うがな。
生きるという事は元より悪趣味なものだ。それが持つ側ならば貰い物の力で他者を無自覚に踏み潰し利用し搾取するという悪趣味であり、それが持たざる側ならそういったクズ共の下らない道徳という名の我が儘に付き合わせられ、子供のまま立派だと言い張る頭の悪さの為に生涯賭けて無駄足を強要される悪趣味になるだけだ。
なので、人生に価値は無い。
人の、いや人でなくとも、一生などそんなものなのだ。世界に傷跡を残せば別だがな。それも、自己満足に過ぎない。
あると錯覚する事。
それが世界の価値の正体だ。
世の真理など、そんなものだ。
そんな世界を、生きるしかない。
ならばせめて金と豊かさを求めるのは当然だと言えるだろう。そこに自己満足の充足を当てはめ替わりの効かない形で「仕事」とする。
遊び人の怪物属性には、わからない噺だ。
連中は無職だしな。
仕事人の苦労など、分かるまい。
天下一の絵師として活躍する怪物がいたとして誰がそいつに文句を言える? あるならあるで、「次の新作を二年後にしちゃおうかな」と脅せばいいだけだ。私か? 私の場合は「どうしてくれるのよ! 騙されてうちの子供に読ませちゃったじゃない! あの子一昨日からもうずっと眠れてないのよ!」と苦情が出るくらいが望ましい。
人間不信。
善の否定。
悪の肯定。
その上で世界の有り様を否定し、個々人として役割を果たす事に邁進し、倫理や道徳を捨て人間の持つ綺麗事の全てを殺し尽くす。
読者にはそうあって欲しいものだ。
見てて笑えるからな。
そんな理由で世界中に悪意をバラまき、しかも人間を真似て充足を得るという、侵略者のエイリアンみたいな発想で動くというのだから、自分で言うのも何だが最悪という言葉がしっくりくる。まあ何だ。私は別に珍しくもあるまい。
五人に一人は私がいる。
人間とは、そういうものだ。
「それはない! アンタみたいな奴が他にもいてたまるか!」
人工知能の批評が聞こえた気がするが、そうは決まってはいないだろう。誰しも特別ではなく、誰もがありきたりというのは自然な発想だ。
私だって、ごく普通の一般市民だと言える。
少なくとも戸籍上はそう、の筈だ。
違っても何の責任も取らないが。
「まあどちらでもいい。私が異端かどうか、それは些細な事だ。まあ迫害されてる以上、そうなのだろうが・・・・・・ならばなおのこと喜ばしい」
凡俗ほど、そういうのが好きなものだ。
実際には疲れるだけだが、「特別な何か」に、大抵の読者は憧れる。その癖その為の労力は一切払わず、物語の中で妄想し麻薬に浸るのだ。
ロクなものではないぞ。
少なくとも、異端であるくせに優秀で、人間に迫害されると泣き言を言っている無職連中はともかく、その上で仕事を成すとなれば、疲れる。
儲からない。
邪魔は入る。
労力だけは人一倍だ。割に合わん。
とりあえず仕事が嫌いになる事だけは確かだ。そこは私が請け負おう。無論、金は払わないが。 むしろ、作家に限っていえば執筆が好きな奴は作家の資格があるまい。腐れ気分で書かなければ傑作など出来るものか。
まあ、私は売れればそれでいいのだが、
傑作か否かなど、書いた内容を忘れる私には、あまり関係のない噺だしな。大体幸福という概念そのものと相容れない私には、意味がない。
物語を売り上げ、充足という体で生きる。
否、生きる事と無縁な化け物であるが故に、私は幸福という概念を利用して進むのだ。
進むだけで、そこに幸福など存在しない。
また、それを感じるようになってはもう私ではない他の誰かだろう。悪魔と契約するまでもなく私には心が無く、それを良しとする。
それが出来る時点で、あっても同じだろう。
心が入ったところで、それはそれとして人間性そのものを利用するだけだ。昆虫のようにと言い換えてもいい。自切行為というやつだ。
人間性を切り捨てるとは、そういう事だ。
必要だから、する。それは心ある生物の有り様ではないが、しかし現実問題それをして尚勝利に遠い私からすれば、元より他の道などない。
だからこそ、金だ。
その上力に振り回されるのでは文字通り損しかないではないか。御免だ。私は心の有無、幸福を感じるか否かなどどうでもいいが、負けっぱなしだけは御免被る。勝利だ。掴み取るのだ。それが進むべき道にあるべき実利の姿だ。
魂が欲しいならくれてやる。
その分金を寄越せ、物語を売れ、読者に悪意を刻みつけろ。それが出来ないのであれば、それが何者であろうが切り刻んで必ず殺す。
逃げられるなどと思うなよ。
私はそこまで優しくない。それが嫌なら利子をつけて金を払えという噺だ。何なら、今からでも私の口座に金を払ってくれて構わないぞ。
干物になるまで、干物になっても絞り取る。
それが「私」だ。
夢や希望、愛や仲間は私の物語には存在しない・・・・・・それでも進む。この道が間違えているのかは関係ない。存在そのものが間違いである私には事の善悪などどうでもいい些末事だ。
間違いを押し通して、勝利する。
それが出来なければ、無駄に終わる。
何もかも全てが、最初からやらなかった方が、まだマシだったと証明されるだけだ。勝利しても人間らしい幸福など無いが、構わない。
そんなものは、存在しない。
虚構を相手に労力をかけるほど私は暇ではない・・・・・・そんなのは物語の中だけで十分だ。いや、物語の中でさえ、私には必要ない。
だが、だからこそ、それで勝てなければ嘘だ。何度も言うが、騙すのはいいが騙された挙げ句、金も払われないのは我慢ならない。
情けない言い訳を聞くつもりはない。
過程にも価値があるだとか、善悪だの倫理観といった持つ側の言い訳は聞き飽きた。私は保育士ではないのだ。人間の後始末など御免被る。
まして、金も払わない読者にする事など無い。 ベッドに転がり込み私はテレビをつけた。もうテレビをまともに見るのは何年ぶりだろうか?
内容はつまらない流行に乗っただけのコメディ、ありきたりな有名女優起用の恋愛ドラマ、或いはただただ右から左へ都合の良い情報を流すようなニュース番組程度だろう。
見る連中の顔は想像できる。
頭が空だから、そういう娯楽しか知らないのだ・・・・・・そういう馬鹿が調子に乗って子供を作り、人に物を教えられると自惚れた挙げ句、子育てに飽きて不満を垂れる。しかも自尊心だけは一丁前だから文句を言う奴には暴力だ。
それで、自分達を「善良な市民」だと思い込むというのだから、手に負えない。だがその一方で勘違いした馬鹿共が教職についたりするものだ。 運が良いだけなのだが、相応しいと自惚れる。 ついてくるのは肩書きばかりで、それを飾っているだけだ。羨ましい噺だ。金を儲けるのに四苦八苦しているこちらにすれば、遊びより容易い。 遊んでいるだけで儲かるとはな。
ちょっとばかり「苦労みたいな何か」をすればそれで理不尽を克服したと思い込み、新しい商品を一つ二つ作って売れれば、社会に意義を見出していると自惚れる。
馬鹿馬鹿しいにもほどがある。
分を弁えろ、馬鹿が!
分かり易く言えば、こうだ。「上手く行かないから仕事であり、上手く行くのは仕事じゃない」それが世の「仕事」の「真実」であり、仕事とは上手く回らないように出来ている。
順調な時点で、仕事ではないのだ。
順調になる筈のない物を世界に示し、金にするのが仕事であれば、新しい物を作り、軽い労力をかけて、売りに出したらそれが大売れ。
その時点で仕事ではないのだ。
ただ、運良く儲かったに過ぎない。
私はそれでも構わないが、しかし働いてもない奴等にしたり顔で仕事について語られるなど苦行と断言していい。まあそういった連中には何かを成し得るなど無理な話ではある。
例えば、あのエリーゼという仲介役として要領良く振る舞っているような女には、世界を覆す力は決して備わらない。当たり前だ。現行の世界で何一つ不自由なく生まれ持った優位性を己の力と勘違いしているだけで、勝利出来る。
そのような阿呆に、何が出来る。
無理な相談だ。精々足し算を計算できずに鼻水を垂らしながら計算を間違える程度だろう。人間か怪物かは関係ない。誰でも一緒だ。
どこにいても馬鹿は馬鹿だ。
その点、怪物連中の情けない言い訳には、頭にくるというものだ。生まれが何であろうが、他者を支配する奴は支配する。いや、実際に出来るか否かは別として、そう在ろうとするのだ。故に、人間に裏切られた程度で動揺などしない。
それはそれとして、利用するだけだ。
支配など形の無い妄言に過ぎないが、ならば、世界に挑もうとするとでも言い換えるか。世界がこちらを否定したところで、何の反省もせず一切懲りず、同じ事を繰り返す。むしろ指を刺されれば刺される程、石を投げられれば投げられる程、躍起になって取り返そうとする。
だが、残念ながらテレビではそういう在り方を写しはしないようだ。人間に迫害された怪物が、色々あって分かり合い全て解決。そういう面白味の欠片もない噺ばかりで、私のように悪意だけで人間社会に挑み、金を良しとし、指を刺されれば高笑いした挙げ句開き直るような、面白可笑しい悪党の話は受けないらしい。
何故だ。
時代に置き去りにされているのは知っていたがそれでももう少し需要がありそうなものだ。今の若者はそこまで薄っぺらくなったのだろうか?
悪意が何か、知らない。
善意が何か、知らない。
悪意が如何に素晴らしく、称えられる善意などどれだけ身勝手で汚らしいか、知らないまま成長してしまうなど、考えるだけでおぞましい噺ではないか・・・・・・その結末として今ニュースで流れているような連中が生み出される訳だ。
善という名の外道に染まっている。
大体、人間社会など力のある奴がケチをつけて暴力を行使し金銭を巻き上げる行為をそれらしく装飾しているだけの世界だ。人間の全ての行いはそれらを如何に誤魔化すか、ただのそれだけだ。 誤魔化した挙げ句、正当化して開き直る。
自分達は正しいのだ、と。
正義だ善だ、と叫び出す。
己を信じていないからだ。
矛盾する考えではない。何故そういった連中が出るのかというと、単純に己で何かを信じ遂げるという事を、今まで一切していないからなのだ。だから、分かり易い倫理観に依存する。
そうすれば、考えなくて済む。
考えていないから、集団ヒステリーを起こせる訳だ。何せ考えていない、感情に任せるまま己が何を主張しているのかさえ理解しない奴が、口を開けばどうなるかは火を見るより明らかだ。
あいつは悪い、あいつは悪い、あいつは悪い。 あいつを殺せ、あいつを殺せ、あいつを殺せ。 俺たちは正しい、正しいから問題ない、とな。 まるで原始人だ。いや、原始人のままだから、そういった事を起こせる。勘違いされがちだが、現代に生まれたからどうなる訳でもないのだ。
最初は誰でも、原始人のままだ。
その行いこそが、当人を査定する。
故に、現代社会とやらには、現代人なる生物は存在しない。全て原始人だ。唸っているだけで、別に知性など無い。強いて言えば新しい娯楽文化を生み出した奴は価値があるが、それこそ数える程しかいないだろう。
それ以外は全員死んでいいぞ。
実際、生きていても死んでいても、同じだからな・・・・・・それこそ労働力たる機械でいい。別に、人間である必要などあるまい?
商品でもそうだが、需要のない余り物は、在庫処分するべきだ。人間は多過ぎる。いっそ全てを爆撃でもした方が清々するというものだ。
人間は何故核兵器を作ったのか?
それは当然、ゴミを減らす為だ。
自分達に余りにも必要な人材が少なすぎてつい発明してしまったのだろう。大量生産などより、その生産分人間を減らすべきだ。そうすれば資源も無くならず、ゴミがゴミを生みそのゴミが更にゴミを育て世界がゴミ山になる未来を防げる。
仕事とは、理不尽に切り込む事だ。世界を覆す為に形にしたそれを、おぞましい人類社会はそのままに切り込み、その上で連中の方から「貴方の言う通り変えさせて下さいお願いします」と頭を下げながら頼むように仕向ける行いだ。
怪物連中と来たら、その程度も出来ない。
なまじ優秀なだけに、働かないのだ。つまり、無職だと言い換えていい。そのような輩がああも知った風な顔で仲介屋を気取り、金をはねる。
暇なのか、あいつらは。
被害者だ理不尽だと喚く前に、少しは働いたらどうなのだ。いざ仕事に挑めばそのような世迷事など口にする暇もないぞ。
当たり前の事だからな!
仕事に金が払われない理不尽など、よくある話でしかない。まして仕事をしているのだから指を指され石を投げられるのは当たり前だろう。何せ自分にしかわからない拘りの数々を連中の財布をかっぱぐ事で売ろうというのだ。
迫害されるのは当然だろう。
気持ち悪い勘違いしたクズ共に、仕事の道理を弁えさせて、売る。何とも厄介だ。猿回しの猿の方が、まだ理解がある。猿は叩きつければ言う事を聞くが、人間は聞かないからな。丁寧に教えるなら猿は恩に報いるだろう。気の触れた馬鹿共に言葉を話したところで、理解する脳味噌がない。 気色悪い事に「良い事」をしたと思い込む。
生憎だが、気持ち悪いだけだ。
汚いから近づくな。除菌してこい。無論、除菌してからでもお断りだ。怪物連中じゃあるまいしそんな暇人の趣味はない。
常に追いつめられているからな。
そして、そういう追いつめられた状態の中で、何か助けが入る事は無い。天の助けだの神仏共に祈れば良いだの、寝ぼけるにも程がある。
勝ち馬の尻に乗っかるしか脳のない豚共に何を期待するというのだ。むしろ、邪魔だけは入る。良い事など何も無く、助けなど期待すべくもない・・・・・・現実にはそういうものだ。だから追いつめられた状況で出来る事など、有りはしない。
強いて言えば耐える事か。
耐えた所で、何にもならんがな!
私が言うんだ間違いない。少なくとも、世界に追いつめられるという一点において、全銀河系の中で頂点に立つという自負がある。悪人とは基本追いつめられ切羽詰まった状態でしか生きられぬものだが、その最たる私が言うのだ。
逆境から得られる物など、有りはしない。
そういうのは見る側が後になって無責任に楽しむだけだ。それでも出来る事があるとするなら、それはそういった連中の言に耳を貸さない事だと言えるだろう。
さも相手の為を思っているのだから、こちらの善意を受け取らないのはテロリズムだと、身勝手極まる屑の常套句を連中は吐くが、吐くだけだ。どうなるかどころか、その言をすぐに忘れて何の責任も取らないどころかその責任を消す連中だ。 自分達は素晴らしい助言をした、と口にする。 無論、それに従えば後から内容を改竄し、その助言の内容を改竄して「自分はもっとためになる助言をした筈だ」と都合の良い妄言を垂れだす。 文字通り、クズが無責任を振りまくだけだ。
窮地においては致命傷だと言える。仲間だとか家族だとか、そういった物があたかも勝利の為に必要であるかのように詐称する駄作は近代になり非常に多くなったが、そんな訳があるまい。
仲間とは足を引っ張るもの。
家族とは無責任に邪魔をするものだ。
恋仲などまさしくその最たる例だろう。都合が良い時には愛をささやくが、いざ追いつめられてみろ。愛情の首飾りなど、容易く捨てるぞ。
狂気以上の信条こそが、それを覆す。
だが、軟弱な現代人の中に、はたしてどの程度そんな奴がいるのだろう? 数えられれば良い方というのが実状だ。それとも案外、私のような奴は沢山いて、その辺の人間でもそのような信条を持ち合わせたりするのか?
だったら面白かったのだが。
人間に失望するのは今更だ。人間がつまらなくなったのなら、今ある人間を滅ぼしてでも面白くするべきだ。そして私はそれを実行できる奴だ。 実現においては、何のアテもないがな。
世の中上手く行かないものだ。
それとも、あの「教授」なら「上手く行かないからこその人生であり、全てを達成した後の世に価値などない」とでも言うのだろうか。私の目的が果たされた後にあの教授は価値を見出さない。その過程における充足こそ、このつまらない世界における真実の充足だと、そう言うだろう。
あれもこれも、全て虚構。
有りもしない人類史、口先だけの国家、形だけの人種、未来も過去も全て偽物だ。そんな物など存在せず、ただ身勝手な都合だけがそこにある。 実際、それに合わせた所で、誰も責任など取りはしない。薄っぺらい虚構の「立派さ」みたいな物こそ、都合良く他者を扱う為の建前だ。
それを実現したところで、何もしない。
こちらの実現が遠ざかるだけでしかない。
そして、その事に何か責任を取る訳でもない。ならばそのような妄言など、虚構以下だ。他者にそれらしい倫理観を押しつける事で、他でもない自分が「立派」だと思い込みたいだけだ。
とどのつまり、子供の戯言だ。
こちらは仕事に忙しい。遊ぶなら余所でやれ。 もっとも、その事実を永遠に理解しないだろう・・・・・・そして何も成さずに死ぬ。無為そのものだと言えるだろう。生きている価値は無い。
この世界には、そういうゴミが多過ぎる。
他にやることはないのか。
判断する自由を明け渡しておきながら、連中は自分達の行いを「正義」だと思い込む。ここなら標的のグラン・マッカードとかいう政治家だ。
政治家というのは見本があり、清廉潔白で差別せず、民衆の為の施策を打ち出し今ある国家問題を解決する若々しい存在を指す。無論それを実現するかは別だ。要するに、選挙に通れば良いのだから大切なのは「当選後の利益の確保」であって当選前の綺麗事など守る必要はない。
力の前では全てが無力だ。それが権力であれば尚更であり、人間世界の道徳や倫理、人間的勝利の全ては力が前提であり、その上で舌触りを気にするが故に、香辛料として綺麗事をふりかける。それで「人間賛歌」の完成だ。人間の強さとは、その恐るべき自己暗示能力にある。
「正しい」からと殺人を正当化し、奴隷制度を実現し、その上で相手に感謝を求める。力だけで回っているというのにその過程において綺麗事を口にしだし、崇高な意志が在ればこそ実現したと自惚れながら陶酔する。
人類皆殺人鬼というのが私の持論だが、むしろ人類皆泥酔者というのも良いかもしれない。人間の掲げる崇高さみたいなものは、すべからく暴力でしか己を肯定できない連中の情けない言い訳に過ぎない。
いい大人が、言い訳を繰り返している。
その上で、力で世界を回しているのだ。
情けない連中だ。仕事をしろ仕事を。
この惑星もそうだが、選択する自由を金や権力で政治を握った愚か者に任せ、民衆には法的権利すらなくただされるがままに支配される奴隷製造施設は多い。自身の頭で考えず、それらしい世間一般の倫理観に従い、何を成すでもなく偉そうな愚か者に思考を任せ、だらだらと生きる。
家畜と言い換えても良いだろう。
この世は豚の集会場であり、殺人鬼だと自覚をしようともしない愚か者の住処であり、まっとうな怪物や化け物には生き辛い世界だ。まして怪物のような便利な能力も持ち合わせない化け物には生き辛いどころか、このままでは生きられない。 少なくとも、仕事は実現出来ないままだ。
いい加減、嫌になる。
働きもしない贅肉が、偶々生まれついて才能や環境に恵まれていたり、或いはちょっとばかりの「努力みたいなもの」をしただけで成功や栄誉を掴んだりする。過程は全て飛ばして当人自身すらよく分からない内に、だ。
これで成果以外を求めろなど、無理がある。
勝利に必要なのは結果だけだ。その過程など、勝利者として美味い汁を啜っている連中は一度として重視した事がない。連中が不可能に挑んで、それを覆した事があるか? ない。空を飛んだ訳でも世界を覆した訳でもない。ただ、出来る事を右から左へやり続けた結果、偶々そこに辿り着ける素質を持っていたから辿り着いたというだけだ・・・・・・何一つ成し遂げてはいない。
才能ではなく努力で成し遂げたと思い込みたがる奴は多いが、ならばどんな不可逆を可能にしたというのだ? 練習し続けたから上達しただの、努力したから売れただの、練習すれば報われず、努力すれば後退する理不尽すら知らない奴が偶然恵まれた以上の何だというのか。
要するに、素質で計られたくないからだ。
自分が成功できたのは才能や環境ではなく己の努力の成果として出来たのだと、己の力で何かを成し遂げたと思い込みたいのだ。残念だが、違う・・・・・・・・・・・・恵まれた環境があればこそ、優れた能力を得られる。恵まれた環境があればこそ若くして華舞台に立てるのだ。そういった事を見ずに自分を認めて欲しがる奴ばかりがテレビに映されているが、こいつらは暇なのか?
大体、そんなのはどうでもいいだろう。
金、金、金だ。過程におけるのが誰の力かなど至極どうでもいい些末事だ。有名人など何一つとして得のない生き方なので殺される方がマシだがもし、私が連中の立場に立てば、文字通り全てを利用するだろう。
いいではないか、どうでも。
金も立場もあるというなら、いっそドラマでも撮ったらどうだ? そうだな、例えば生徒を脅迫し食い物にしている教師が殺人依頼をこなしつつ人生の幸福を追い求める話とか如何だろうか。
まあ私の使い捨てた駄作なのだが。
官能物なら売れるだろうと思いつきで書いたがやはりああいうのは心理描写が面白いのであって私が書いたら全てが悪意に染まってしまう。実際官能描写を追求すればとりあえず売れるだろうと書いていたのに、いつのまにか始末依頼を受けて警察機構が如何に権力で腐敗しているのかなどを語る物語になってしまった。
何故だ。
私の性格のせいか、多分な。
違っても別に、責任は取らないが。
何が悪いって私の性格が悪いのだ。とはいえ、人間社会の被害者故にこうなった、かもしれないではないか。どのような時代に生まれたところでさして変わらなかった気もするが、被害者ならば金は大きく取れそうだしな。
そう、この歪んだ人間社会が悪いのだ。
だからこそ、私が全世界に悪意をばらまいて、読者に刻みつける事で世界を転覆させようと計画したところで、別に構うまい。
少なくとも責任は取らなくて済む。
金だけは頂くがな。
地獄に墜ちて偉そうな事を言われたところで、私のような存在を作り上げる社会しか作れない、無能な支配者を責めるだけだ。そもそもそこまで大層な存在がいるなら、どうして雇用の一つすら増やせないのか。
無職に偉そうにされる覚えはない。
罪人を裁く話は良く聞くが、魚じゃあるまいし裁いて何になるというのだ。更正させるというのも違う。まずは職を用意し、悪意で経済を回し、それによって組織を形成しろ。それが出来ないのであれば、罪人を裁く者としては無職同然だ。
働きもしない奴に裁かれる覚えはない。
鏡を見て分を弁えろ。仕事を成し遂げる為に、こちらは労力を払っている。何もしないで偉そうに裁きだけを下す奴に、私と話す権利はない。 嫌な時代になったものだ、まったく。
こういう時には散歩でもして気を紛らわすのが一番だと知っていたので、私は外を散策する事にした。とはいえ、風景はありきたりだ。人工植林の山に人工建築物。人工、人工、人工だ。自然が重視される事など何一つ無く、開拓された惑星は禿げ山になるか、そこにプラスチック製の自然物もどきを飾りたてるかだ。歩いていると、大きな映像が空に映し出されており、そこでは先ほどの政治家の演説が行われていた。
民衆の皆さんの為、だそうだ。
そう口にしていれば成果を出さずとも良い、というのだから楽で羨ましい。試合に勝たずとも、過程の頑張りを重視したがる奴が多いのだろう。野球選手は練習風景を見せればいいし、政治家は理想の理念を語るだけでいい。誰一人として実行せずとも許される、否、許させる世界。持つ側の我が儘は力で押し通り、それを妨げる物はない。 とどのつまり。幸運があればいいのだ。
堕落しきった脂肪分共だが、しかし幸運だけはその肥満体に相応しい量が用意されている。幸運があれば何をしても許させるし、そもそも何かを成し遂げる必要すらない。無理して成し遂げずにただ出来る事を右から左へやっているだけで成果が勝手に付いてくるからだ。
勝利が約束されている運命。
そういった物を持っている。そのくせ自分の力で何かを成し遂げたと思い込み、世界の真実とはこれなのだと自惚れる。
だが、事の真贋は勝利には関係ない。
ただ、運があるか否か、それだけだ。
この町にも、そういった連中は多い。政治家の政策に文句を言わないのは富裕層ばかりで、貧困に喘いでいる連中の事など考えもせず地球の裏側にいるであろう飢えた子供への寄付で頭が一杯になっているようだ。
道徳的だから、そうする。
そうしていれば「道徳的」で「人徳に溢れる」素晴らしい人物であると、そう思いこめるからだ・・・・・・だが実際には違う。他国を優先するよりも自国の利益を確保しなければならない。当たり前だが政治とはそういうものだ。
綺麗事に持つ側が耽溺し過ぎているのに、質の悪い事に現実から逃げて夢想に耽溺している馬鹿でも幸運に恵まれすぎて世界を動かせてしまう。 その結果がこれだ。
世界は美しくなったか? 少しでも生活は豊かになり生き易いか? 国家は頼りになり福利厚生はアテになるか?
ならない。
当たり前だ。国家という概念は、既に消滅しているのだからな。そう名乗っているだけで、責務を果たさない烏合の衆が、暴力で資金を徴収しているに過ぎない。無法地域を治めるテロリストを公的な「作戦」で殺人を正当化する政治家は多いのだが、彼ら自身変わりない事に気付かない。
となればやはり、幸運を何とかして手に入れる事こそが、肝要なのだろう。実際、私個人の労力など、何の成果にもならないどころかしない方がマシだった。文字通り、だ。その横で一体何人、恵まれただけの勝利者を見送ったことか。
所詮、ただの運不運だ。
過程に綺麗事など求めるな。
所詮我々の意志に意味はなく、行動など世界に何の影響も与えない。出した成果も幸運に恵まれなければ、最初から存在しないも同義だ。
私が言うのだ間違いない。
実体験として、そうだったからな。
悪運だけはあったが・・・・・・そもそも悪運を発揮しなければならない事態に追い込まれる時点で、こちらは嬉しくもない。悪運など発揮せずとも、連中はあっさりと実利を貪るしな。現実には当人の成し遂げる偉業など、全て運次第金次第だ。
内実など存在しない。
本も同じだ。物語など、流行であるらしければそれでいい。誰も物語そのものに重きを置いたりしない。物語とは、使い捨ての娯楽なのだ。
この時代では、それすらも過ぎ去っている。
誰も彼もが恵まれたか恵まれなかったかで全てが決まる乞食育成の箱庭のような世界で、立派な倫理観に従って自分では考えず、植物の様に己を吸い取られて死ぬまでそれを続ける。
そんな時代に生まれた時点で作家をやるというのが無駄な足掻きなのだろう。物語が何なのか、それすらも知らない奴に、物語を書いただけでは売れよう筈もない。空から降ってくる幸運頼みで売れる売れないは決まっている。現実問題、この世界の中で物語を売った奴などもういないのだ。 誰も、物語を売れてはいない。
些末な幸運がそうしただけだ。
働きもしない無職が幸運に飼育されて偉そうに振る舞う世界。悪意を刻みつけてやるだけの価値は、既にこの世界には無いのかもしれない。
だとすれば、無駄足に付き合わされたものだ。 実際、私個人の意志や行動など、連中の些末な屁理屈の為に、一度として成らなかった。私は、私の存在の全てはゴミの為に無駄足を踏んだ。
いつも、遊び人の馬鹿に付き合わされる形だ。私は暇ではないのだが・・・・・・・・・・・・とはいえ暇人しかいない世界であれば、仕事という概念が既に滅んでいるのだから、私の労力はそれこそ無駄、なのだろう。であれば、最初からこの世界に生まれた時点で無駄だった、のだろうか?
かもしれない。
馬鹿共の為につまらない遊びに付き合わされたものだ。世界を先に押し進める気がないのなら、悉く率先して死ぬべきだ。生きる価値などない。 迷惑な連中がいたものだ、まったく。
私は標的のいるビルの入り口に着き、暗証番号を押して中に入ると警備員に持ち物検査を受けた・・・・・・こういう時に幽霊の日本刀は便利だ。私も詳しい原理を知っている訳ではなくただ貸されただけなのであまり大きな事は言えないが、しかし例の女が言うには「世界の均衡」とやらの為に、私に依頼を出しているらしい。その為に必要な力こそ、この刀なのだとか。
まあ、世界とは個人に関係ないものだが。
何にしろ金次第だ。崩した方が金になるなら、今後はそうするとしよう。とどのつまり暴力だ、由来など私には関係ない。
中にはいるとカードキーを渡されるのではなく専用のアンドロイドが付き人として着いてきた。金があるからなのか、同じ形をした存在を従える優越感が好きなのかは知らないが、いずれにせよ私の趣味とは合いそうにない。
こういうのは一人で行動するものだ。
誰かが横にいるだけで、鬱陶しい。
「私が今回貴方様の付き人となるアーグンティと申します。よろしく」
黒い肌の健康的な美女、の姿をした付き人が、今回私の「監視役」となるらしい。思うのだが、彼女は毎回使い古されたカードキーのように人間の都合で振り回されるのだろうか? そもそも、アンドロイドには人権が認められている筈だ。
その事を聞いたところ、彼女はこう答えた。
「私共にも生活がありますから。このあたりではアンドロイド用の雇用が乏しく、人間社会は人の手で作り上げようという風潮が強いのです」
差別か区別か、まあどちらも同じだろう。人間を缶のように捨てるか飼い犬を缶のように捨てるかアンドロイドを缶のように捨てるかの違いだ。 つまり、呼び方が違うだけだ。
何も進歩していないな、人間ってやつは。
「そうか。とりあえず商談予約を入れている部屋に、これから案内してくれないか?」
「わかりました」
唯々諾々と従うアンドロイド。だが人間だって金次第で品性は安売りされる。アンドロイド共が長生きをし、創造性を獲得したこの世界において「人間」という旧種は必要ないのではなかろうか・・・・・・・・・・・・かつての創造性を持ち合わせているならともかく、現代社会においてそんな人間などどこにもおらず、既に絶滅している。
生きる事と向き合うのが、恥ずかしい。
そんな甘ったればかりだ。
だとすれば、少なくとも私には「人間社会」という概念そのものが必要ない。別に誰が治めようとも、読者に悪意を刻みつけてそれを充足の体に出来ればそれでいいからだ。案外、この物語など廃れた世界では、人間を滅ぼすべきなのだろう。 そんな事が出来れば楽なのだがな。
商談を行う部屋に移動し、私は標的の顔を確認する。内容は取り留めもないもので、ジャックに拝啓情報を精査させでっちあげた投資案件だ。
ついでに金を引っ張っておくとしよう。
作り話での詐欺案件なので大して面白い話こそなかったが、途中で変わった噂を聞いた。
グラン氏曰く、こうだ。
「この辺りには自然と共生する民族が生き残っているらしくてね。貴方の会社で傭兵も扱っているのなら、少し話を通してくれませんか?」
との事だった。
私は少しばかり彼に切り傷を入れる。後々魂が腐って死ぬだろう。本当に便利だ。何なら全人類に切り傷を入れて元より腐っている魂を消し去り替わりに人工物でもぶち込んでアンドロイド化し作り替えたいくらいだ。
とにかく、依頼は終わった。
所詮は労働なのだから楽に終わるに越した事はない。私個人にはどうでもいい事だ、作者取材になりそうな標的でもないしな。
だが、収穫はあった。
書いたところで売れないのでは話にもならないが・・・・・・言っても仕方ない。
私は歩を進める事にした。
進んだ先に、報いる物は絶対に無い。ならば、こういうところで手を抜けない性分こそが、勝利から私を遠ざけているのかもしれなかった。
6
自然と共に生きる。
その言葉を勘違いしている奴は多い。採伐した分植林すればそれで「自然保護」だと思っている奴等では、自然を敬う感性はあるまい。
私に言われたらお終いだぞ。
感性という概念が入っていない私でさえ、その程度は分かろうというものだ。共存する為に力を注ぐのではなく、その自然の輪の中に生きる必要がある。自然「と」生きるのではなく自然「で」生きるのだ。
さて、科学技術が進歩してからというものの、自然とはつまみのような感覚で奪い去り、その癖足りなくなれば声高に叫び、道徳的な良心とやらを満たす為に使い捨てられるちり紙となった。
まだ大丈夫だろう、とダイエット中に油物や、菓子類を頬張る女のような思考だ。あるいは浮気を誤魔化し続ける夫だろうか? 私にそのような人間関係が発生する事はないから想像でしかないのだが、しかしおおよそは間違いあるまい。
要するに、裏切りと同じだ。
人間は自然を裏切っている。だというのに自然災害が出ればあたかも「天災」であるかのようにはやし立てる。だが実際には人災だ。当たり前の事だが人間がこうも繁茂していなければこうまで大規模な自然災害が多発したりはすまい。
自然の中に神という概念を見、実在はともかくあるものとして生活に取り込んだ例は多いものだ・・・・・・だが、それを続けている民族は悉くが虐殺されている。人間の歴史は自然を否定し殺す歴史であり、人間とは世界の、少なくとも自然のある世界の敵対者だからだ。自然を破壊し、他種族を殺し尽くし、資源を使い潰す。
悪魔もブっ飛ぶ悪性の塊だ。
連中の謳う「人間性」というのは大昔に絶滅し消え去った旧人類が持つもので、今の人類は保有していない概念だ。もう見る事はないかと思っていたが、まさかここにきて生き残りとは。
面白い。
自然との対立の構図があり、それこそが世界を歪めているというのなら、その事実を悪意まみれで書き上げ、読者に刻み込み、自分達がどれだけつまらない悪逆の徒であるかを弁えさせた挙げ句絶望の淵に叩き込む。
それが私の役割だ。
いいだろう、書いてやろうじゃないか。実利に繋がるかどうかは微妙だが、それなりに楽しめる体験にはなるだろう。
連中には背負うべき業はあるのか?
それは、これからわかる。
8
未開地域はこの時代、そうあるものではない。というのも科学技術が発展しすぎて開拓できない自然などそうはないからだ。密林であれ、或いは砂漠でさえも、土壌豊かな人工の楽園に作り替えられる。空からの太陽は電気に変換され、地の底にある資源は枯れるまで掘り尽くす。
この惑星の未開地域はそれらの例から漏れて、過酷過ぎる自然環境から放置されているようだ。私も人の事を言えたものではないが、過酷な環境で生きるというのは徒労ばかりではないのか? 人間は楽をするのが好きだ。
それこそ近代でなくとも、科学技術という概念が生まれてから、己の足で歩く奴は少ないのではないだろうか?
馬車、バイク、車、飛行機などの近代機械群が「楽」を助長し、それが出来る立場に偶々着いた愚か者が、さらにそれを助長する。
延々と、それを繰り返す。
成長など、進化など、無い。
少なくとも取材の為にこんな地域まで来る作家など、現代ではもういないだろう。元より作家を詐称しているだけの連中だ。作家を名乗るからには人間が嫌いなのかと言えば、そうでもなく栄誉だの名誉だのを欲しがる愚か者の総称に墜ちた、作家を名乗るだけの奴が多いだけだ。
成るものではない。成り果てるものだ。
あるいは、最初から果実が腐っていれば、腐敗した発酵食として熟成する。
それが作家だ。
他者にちやほやされて喜ぶ作家などいるものか・・・・・・おとなしく歌でも歌っていろ。人気者などになりたいなら、整形でもした方が早いぞ。
少なくとも、作家になるべきではない。
それこそ幸運に恵まれた愚か者の発想だ。
そんなだから「人生に張り合いがない」だとか抜かすのだ。恵まれすぎて生きている実感が沸かない、などと・・・・・・・・・・・・情けないにも程がある噺ではないか。
張り合いだと?
楽して生きていると勘違いした貴様等と違って私は忙しいんだ。そのような妄言を垂れる暇すらなく、やるべき事で埋もれてしまう。
張り合いが無いなら死ね!
もう一度言う。死ね。生きている価値はない。成すべき事柄すらいい年して分からないなどと、そのような蒙昧に生きる資格など無い。
資格がないなら死ぬべきだ。
資格を得ようともせず、かといって向こう側が何とかするべきだと甘ったれる「持つ側」などに生きる価値などあるものか。
馬鹿馬鹿しいにも程がある。
そのくせ、電脳世界上では喚いて偉そうに振る舞い悟りを開いたかのように錯覚するというのだから、手に負えない。痛々しい連中だ。
それを先んじて言えば自分達は馬鹿ではなく、相手側が悪いと思うのだから、まさしくガキ共の発想だと言えよう。
実際、頭の悪いガキだ。
そんな馬鹿共に幸運を与えるというのだから、天などという物があるとすればどうかしている。天だの神仏だのはいつから豚の集会場になったというのか。真剣に仕事した結果がこの世界だとでも言うつもりか?
残念だが、貴様等は無職だ。
傍迷惑な話だ。他にやることはないのか? 無いなら、探せ。
出来なければ死ね。
それが変えようのない現実ってやつだ。
我ながら優しいものだ。こんな優しい言の葉で済ませてやろうというのだからな。その優しさに付け込まれても困るが、どのみち無駄だろう。
期待するだけの価値がない。
無駄には何を賭けても無駄だ。
未来への希望など些末事に過ぎん。そんなものなど存在しない。単に幸運を山盛りに持っているかどうか、それだけだ。鏡を見ろ。
貴様等は残らずそうだろうが。
それとも、成し遂げた奴がいるとでも?
いない。断言してやる。無い。貴様等には誇りとすべき事柄など一つとしてないし、何かを語る資格も有りはしない。
人間に絶望したのかだと?
それだけの価値があると思うのか?
生憎だが、存在しない。それに比べれば今酸素を作り出している群生植物共の方が、遙かに価値があるだろう。人間は汚いゴミを増やすだけしか脳の無い奴が多いが、植物はすべからく空気中のゴミを減らしてくれる。
中には毒もあるが、それはご愛嬌だ。
毒どころか先もない人間より、マシだろう。
進めば進む程先行きがわからなくなる。まるで私の人生だ。人生と言うほど人間味はなかったのだから、化け物の成長過程とでも言えばいいのだろうか? まあどうでもいい。
人か英雄か、神か怪物か、全て些末事だ。
問題は仕事が金になるか、それだけだ。
ただの金儲けを仕事と勘違いしている無職共は多いがな・・・・・・貴様等は文字も読めないのか? それはただの労働だ。歯車が抜かすな!
分を弁えろ、馬鹿め!
私に言われたらお終いだぞ。
読者と業界についてあらんかぎりの罵声を吐きつつも、私は密林を進んだ。かぎ分けてもかぎ分けても物理的に先が見えない。先が見えない状態を進むのには慣れているが、だからって徒労など別に味わいたくもないのだ。
楽するに越した事はない。
その過程における充足こそが幸福だ、などと。そんな台詞は味わってから言ったらどうだ。説法の限りを尽くす自称「成功者」に限って、ロクな修羅場も抜けていない。泥を啜れば良いというのも違うが、しかし労力を費やしもせず知った風な口を利くだけの奴に、何が出来る。
そのようなゴミこそが、実利を貪る。
ならば尚更このような無駄足は文字通りの無駄にしかなるまい。過程の困難さなど、それらしい困難を乗り越える物語を見て自分も成長したのだと錯覚する浅はかな読者にでも見せればいいのだ・・・・・・現実には「結果」だけが全てだ。
遠回りに意味があるというなら、是非とも私の傑作は売れて然るべきではないか。だがその予兆すらない私が言うのだ間違いない。
苦労など、遠回りなど、ただの無駄足だ。
何にも成らず、培われる物など無い。
あったとしても、無力なゴミだ。
この私がそれを証明している。だからこそ過程など何の価値もないのだ。あろうがなかろうが、何にもならない。誰かに認められたいと思う奴に限って「過程における尊さ」みたいなゴミクズを求めようとする。
無論、必死に成す側からすれば、ただの妄言だ・・・・・・そのような世迷い言を気に出来る時点で、真剣に向き合う必要がない証拠ではないか。私に言わせれば持つ側の怠慢だ。彼ら自身が己の力で何かを成し遂げたという実感を持てないからこそその「過程の努力」みたいなものを賞賛されたいと熱望するのだろう。
実際には、くだらない事だ。
強いて言えば今まさに鬱陶しく邪魔臭いだけでこんなものを誇りに据えようなどどうかしているとしか言いようがない! 馬鹿じゃないのか?
大体、そんな物覚えているものか。
書いた傑作が一体何冊あると思っているのだ。過程を誇れる時点で対した過程が存在しない証左ではないか。小物の考えそうな事だ。
電脳世界上で粋がるのがお似合いだ。
些末な連中の無様な未来など、知らないがな。 こんな事なら鉈でも持ってくればよかった、とそこで私には幽霊の日本刀があることを、今思い出した。殺人どころか己の作品ですら忘れる私にとって、世界は常に新鮮である。新鮮なだけで、売れ行きは悪いのだが、今は忘れておこう。
ばっさばっさと叩き斬るのはいいが、私の刀は「魂」とやらを斬るので、魂を加工されるなどという特殊な状態でもない限りは対象に傷一つだけ付けるだけで殺せる。別に私の能力ではなくただの借り物なので、誇りも何も無い。ただ、それはそれとして使える物は使う主義だ。
しかし、一方で植物を丸ごと殺し尽くすのは、どう考えてもよろしくなさそうだ。下手すれば、現地の人間を敵に回す可能性がある。最小限だけ切り捨て、先人の通ったであろう道のりを慎重に見つけ、そこを歩く事にした。
先人は猿か何かの生まれ変わりらしい。
どうすればこんな、木の上から上を歩くようなバルクール顔負けの技能を身に付けられるのか、不思議でならない。
この男はロビンフッドの生まれ変わりか?
自作の煙草を吸った形跡があり、その吸い方が歩き回りつつではなく、一カ所に留まった上で、刃を研ぎながら座っていたようだ。そして力仕事であるらしい木を武器に変える技術と、その繊細さの欠片もない「切れればそれでいい」という、単純そうな思考が私に男であるという確証を持たせた。女でも刃も作るだろうが、しかしここまで無駄に野太い工作をする必要はあるまい。
それに、合理性だけが垣間見える行動指針などを見るに、遊びの欠片もない性格だ。恐らくだが最低限煙草を吸いながら行動した後に、すぐさまここを移動している節がある。男女とは性格面が遺伝子単位で定められている。アテ推量であれば問題あるまい。
私は探偵ではないしな。
むしろ、犯人側だ。あるいは、完全犯罪でこそないが、殺し屋として綴る側か。
電脳世界に浸りながら説法を垂れる遊び人共のように楽が出来ればいいのだが、私はそうも行かないらしい。宿泊道具も備えてはいるが、こうも大自然の驚異が多いとは思わなかった。これでは寝てる間に動物に襲われかねない。
見つけだすしか、ないだろう。
正直面倒だが、やるしかない。
私の道程は、いつもそうだ。個人的にはこんな回り道などゴミだと思っている。やるしかないというだけで、それだけだ。嬉しくもない。
余計な障害だけは増えてくる。
生きている実感が沸かない、などと暇人の妄言を垂れられる程、私にも余裕が出来ればいいのだがな・・・・・・今回は、いや、今回も駄目そうだ。
頼りになる仲間とかいう、昨今の物語特有だと言える「楽」が出来れば別なのだろうが、しかし仲間どころか頼みもしない敵ばかり増えた挙げ句しかも環境そのものが不適合で息をしているだけで毒が全身に回る、という有様だ。
私も、楽が出来れば良かったのだが。
いいじゃないか、浅はかな成功、空から降って沸いた勝利、頼りになる仲間などという反則級の手抜きが出来る人生。いや人生と言うよりゲームのようなものか。困難は勝利の為にあり、敵対者は仲間になる為にある楽な道程。
あるいは、生まれついて恵まれた能力を持っている怪物が、さして人間社会を打ち倒し利用して己の野望を叶える為に、労力一つ払わず計画一つも立案せず「人間に迫害された、悲しい!」と、泣き言を抜かす暇のある、楽な道程。
少なくとも、私よりはマシだ。
無駄な労力、前進による後退、成すべきを成せばなすほど実利から遠のく毎日。そんな下らない理不尽という名の世界の手抜きに付き合って何になるというのか。無駄な事だ。
人間って奴は過程にある尊さを説きたがるものだが、しかしそんなものはただのゴミだ。実際、過程において散々労力を費やしながら、それこそただの一度として実利に届かなかった他でもないこの「私」が言うのだ、間違いない。
もう一度言う、私が言うのだ間違いない。
強いて言えば、性格が悪くなるだけだ。まあ、私の場合これ以上悪く成りようがない、いや常に最悪の性格を更新し続けているとも言えるが。
英雄は論外だが、怪物か。とはいえ持つ側だと言える怪物属性は、だからこそ私のような発想を持てないのだろう。だからってその楽な道程を、後から嘆く資格など無いがな。それが嫌ならその力を捨て去るか、捨て去れないなら力も生まれも全て利用して勝ちを望むかだ。
その点、あの仲介人の女は駄目だ。
エリーゼ、だったか。偽名かどうかは知らないが、魂の色など一目見れば大体分かる。生い立ちから思想、行動理念の全てを理解、いや理解したと思い込んでいるだけかもしれないが、それでも大枠は外すまい。
でなければ「邪道作家」などと名乗るものか。 出来は保証しないが悪意だけは保証する。
正道の作家の心構えなど知らないが、それでも作家がロクでなしの非人間でしか成り得ない腐れ職業である事は知っている。人間じゃないから、人間を語れるのだ。いやそもそも人間を語ろうと考える時点で、そいつは人間ではないだろう。
生まれついて「人間の外」にいると考える。
それが作家の条件だと言えなくもない。無論、違っていても金は払わないが・・・・・・少なくとも、人間性だけで構成されている奴など、作家だとは名乗れまい。人間を止めた奴だからこそ、正道とやらから大きく外れている異端者だからこそ傑作を書けるのだ。面白味のない人間性、良心だのの塊が異常な物語を書けるとでも思うのか?
極端な例が映画産業だろう。
金さえかければ何とかなるだろう、という浅はかな考えで有名作品を買い取り映像化して覇権を握ろうと、何とも無駄な努力を続けている。私に言わせれば新しい作品を書いた方が早いぞ。まあ面白味の欠片もない駄作しか量産出来ないから、そのような退屈な作業を続けるのだろうがな。
異端者じゃない奴に、何が出来る?
それが出来ないから「凡俗」と呼ばれるのだ。そして凡俗とは能力差で決められるものではなく「活きる為に生きる」という義務を果たそうともしない余り物を指す。社会規範に囚われるというのも同じ事だ。規範に囚われるだけなら機械でも良く、それを抜け出さんと足掻くからこそ、凡俗という縛りから逃れられる。
己の異端を示す事。
それが生きる上での最低条件だ。法は利用する為にあり、道徳は建前の為に存在し、倫理観など邪魔になれば捨てるだけのチリ紙だ。要はパズルみたいなもので、仕事の都合に合わせてとっかえひっかえする使い捨ての装甲版だ。
嘘も裏切りも実に優しい。
何せ、表面上は信じているかのように身を粉にして動くのだからな。有り難い。欲を言えば面白可笑しい裏切りが望ましい。その手があったか、と驚天動地させる裏切りだ。策に策を弄し手間暇を膨大に賭けて「そんな事を実現する馬鹿がいたのか」と呆れを通り越して感動する程の、裏切り・・・・・・・・・・・・その方が、面白い。
敵対しがいがあるというものだ。
人間に裏切られたなら、まずやるべき事は一つだけだ。そう、喜ばねばなるまい。
素晴らしい!
有り難う!
感謝する。一円も払うつもりはないが、感謝をするだけならタダだ。こんな風に植物に遮られるのは勘弁だが、人間が遮るだけなら私の貯金残高に影響しない限りは、望ましい。逆に貯金残高に影響するなら駄目だ。喜びはするが、その分金は払って貰いたい。大抵踏み倒す馬鹿が多いが。
まあそれでも喜び勇んで書いてしまうのが作家という生き物なのだが。
嬉しくない。
こうしている今も、何故私は書いているのだと思わざるを得ない。金にもならない、どころか、金を費やして作品を書き続けている。
だからこそ作家として正しい道を歩いているとでも言うつもりか? 馬鹿馬鹿しい。正道の作家ならばともかく、私は邪道作家だ。物語は売ってなんぼだ。売れない物語など何になる。売ろうともしない無職共が、幸運に愛されたが故に、書くべき事柄の一つもない駄作で売れるというのだ。 そのような鬱陶しい世界で、過程なんぞに何の価値がある。あったとして、その価値は貴様等が消したのだ。それを私に押しつけるな。
物語に、言葉に力など、無い。
あるものか馬鹿馬鹿しい。
何せ、もし力があったとしても、その力は読者の脳細胞には残らないのだから、例え言葉や物語に力があったとして、伝播しない力など最初から無力であるのと変わるまい。それは読者を軽んじ過ぎていると思うのであれば、どうして今の書店には、つまらない駄作の山が置いてあるのだ? それは、貴様等がつまらないからだ。
世界がつまらないと感じるなら、それは貴様がつまらないからなのだ。何に挑むにも不可逆だといえるほど上手く行かない私からすれば、世界は面白さに満ちている。何せ何をやろうが、石ころ一つ投げるのさえ上手く行かないのだ。
何もかも上手く行くと人間は「生きている」と感じられないらしいが、逆に全てが上手く行かず敗北どころか挑戦権すら持てず、強さによる弱さも弱さによる強さも併せ持たない何の利点も持てない在り方など貫いてみろ。
阿呆らしくて逆に笑いが止まらないぞ!
私が言うのだ間違いない。生き証人だからな。 態度だけは世界に匹敵させると言えば聞こえは良いが、実際何にもならんしな。怪物属性の連中であれば「自分達は力がある分、人間に酷い目に遭わされたから楽な人生じゃなかった」と泣き言を言うのだろうが、生憎、別に大層な力など無くてもこの通りだ。人間どころか、神仏がいようが間違いなく私の役には立っていない。
でなければ、既に売れている。
民衆が望む悪意をバラまき、そしてそれを金に換える。それが「必要悪」たる悪党の在り方だが潔癖の善意で悪意という現実から逃避し、麻薬に等しい依存で人生を誤魔化す今の人類社会では、悪という観念が生き辛い。徹底して、現実逃避の下らない善意で誤魔化し続けた結果がこれだ。
情けない。他にやることはないのか?
これだから無職は嫌なんだ。働きもしない癖に幸運だけは持っているというのだから、忌々しい限りだ。これ以上足を引っ張るんじゃない。
吐き気がする。
苦しい、このまま死ぬのかと思う程に。
それもまた、いつもの事だが。
まったく嬉しくないが、そういう状況だけには慣れている。慣れたところで何になる訳でもないのだが、慣れているものは仕方あるまい。
怪物連中と違って、楽も出来ない。
英雄連中と違って、逃避も出来ない。
人間連中と違って、欺瞞も許さない。
何とも損しかない役割だ。正直、自分でもどうかと思う。これが物語であれば環境があれな分、特殊な能力だの優れた才能だのがあるものだが、私にあるのは「開き直り」と「無限の悪意」程度のものだ。それが一体幾らになるのだ?
ならない、私が保証する。
せめてとっかかりくらい掴めればいいのだが、今回の依頼から何か掴めるだろうか。幾度となく徒労を繰り返してきた私にとって、未来とは希望を抱くものではなく、どう障害が出てきてそれを最低限に出来るか、だ。
言ってしまえば持ち逃げ、いや勝ち逃げだ。
まあ持ち逃げの方が儲かりそうだが、とにかく最終的な実利の帳尻、それが全てだ。過程に迫害があろうがそれに見合う実利があれば最上なのだ・・・・・・現状はまるで儲かっていないが、若い内に成功すればチャラだと言える。
若い内の成功はためにならないと人は言うが、しかし現実問題人の上もそうだが天の上に立つ奴でさえも、若い頃どころか生まれついて何もかも持っている楽な道程を送っているではないか。
そのような妄言、何の説得力も無い。
説法を説きたいなら、現実味を持たせろ。
相手を信頼しようとしない奴に信頼を問い正す権利がないように、楽して生まれついての能力で偉そうに振る舞う輩に、説法する権利はない。
当たり前だが、それは生まれのおかげだ。
当人の有り様など、何の関係性も無い。
いいか、良く聞け! 苦労したから得られる物があるなど、嘘っぱちだ。強いて言えば、世界に匹敵する態度と無限に上回る悪意だけで、そんなものは何の役にも立ちはしない。まして、説法をする奴に悪意の自認などあると思うのか?
何にもならん。間違いない。
私こそが、生き証人だ。
このような無駄な遠回りを続けている、他でもない私が言うのだ間違いない。はっきり言って、しない方が遙かにマシだ。
でなければこんな所に来るものか。
ええい、鬱陶しい。植物が邪魔だ。なんでこう絡み合う関係を取るのか。人間でもそうだが絡み合うというのは始末に負えない。複雑化した所で扱える人間などいないのだから、役割だけ示して単純にすればいいだけだ。
でなければエリーゼのようにこじらせる羽目になる。要領よく振る舞っているつもりで、自分の保身しか考えないつまらない駄作に墜ちるのだ。 私か? 保身を考える奴が、物語などという金にするのが困難極まる物を作ると思うのか?
もし思うなら、脳を取り替えた方が良い。
無論、私は自身が第一だ。だがそのような要領良い在り方で楽が出来れば、最初から作家などという在り方を選んでいない。作家とは人格破綻者であり、世間不適合者であり、おどろおどろしい怪物でさえ匙を投げる駄目人間だ。
生まれついての悪、化け物などそんなものだ。 大仰な何かがあれば、苦労しない。そのような楽が出来ないからこそ、成り果てるのが悪党だ。むしろ最高に要領の悪い生き物ではなかろうか。 要領が良いなら。正義の味方にでもなっている・・・・・・何せ正義の名の元に虐殺を繰り返すだけで金になるのだ。実に羨ましい。所謂その主人公や英雄と呼ばれる連中もそうだが、栄誉とか誇りを叫んでいるだけで大量虐殺ではなく、由緒正しい決闘として公然の殺人が出来る。それをストレス解消に使いつつ侵略による強奪で戦死として貰うのが当然の報酬だと言い張れる。
客観的に見ればただの強盗団だが、不思議な事に連中の時代も今の時代も、正義を語れるだけの暴力さえあれば、何をしても許させる。そもそも情報統制とは政府の為にあるものであり、テレビや新聞など大金を投じるその関係者が作り上げた巨塔であり、別に民衆の生活には関係ない代物だ・・・・・・国とは国を動かせる連中がどう着服するかを考える雑談場であり、裏資金の貯蓄場だ。
皆、それをわかっている。
だが国家とは暴力で成り立つもの。事実がどうであれ、暴力で押さえつければ「先進国」となるものだ。現代には既に国家など存在しない。
国家を名乗るテロ組織があるだけだ。
実体が有名無実である事など、皆知っている。 国とは、政府とは、存在しない概念なのだ。 噺がそれたが、要はそういう連中に邪魔をされたくないというのが私の信条だ。その私が植物に道を遮られ、四苦八苦するのは皮肉ではある。
皮肉のない道程など、つまらないがな。
幸福な物語など、嘘っぱちだ。
少なくとも私には何の関係もない噺だ。そして関係のない噺など、知るか。過程に意味など無いというのが「事実」であり、そんなものは持つ側にいながらそれを自認も出来ない愚か者特有の、単なる思い上がりに過ぎない。
無い物は無い、それでいい。
問題は、それを押しつけられる事だ。現実にはそのような世迷い言など何の力も持たず、何かの役に立つ事は決して無い。仮にこの先作家として大いに売上げをあげたところで、絶対に私は過程を誇りになんぞはしないだろう。
してたまるか。
それは誤魔化しだ。知ったことかそんなもの。金、金、金だ。実利という勝利なくして生き甲斐など笑わせる。冗談じゃない。後から実はあれらの苦労にも意味はあったんだよ、などと下らない知った口を利かれる為に私は執筆などしていない・・・・・・・・・・・・奇跡で締める物語は多いが、しかしそれこそ誤魔化しではないか。散々過程の尊さを説いておきながら、都合の良い奇跡に縋る。
何とも羨ましい連中だ。
楽な道程で羨ましい。
大体、売れない物語というのは物語ではなく、ただの日記じゃないのか? 何かを次代に託すと考える馬鹿は多いが、それも運次第だ。
見られなければただのゴミだ。
まして、金に換えられなければ遊びだろう。
託した思想を戦争に使うのが読者の本質であり世界の真実だ。思想など、何の価値もない。後になって価値があると騒ぐ奴がいるだけだ。
全て、無意味だ。
全て、無価値だ。
全て、無駄足だ。
遠回りの果てに見る真実など、何の役にも立ちはしない。私が言うのだ間違いない。実際、その辿り着いた真実など、現実の前に雲散霧消だ。
疲れる噺だ。そんな無為な行為に付き合うより浅はかな成功と空から降ってきた勝利で別に私は構わないのだが。真実の勝利だのと喚く物が仮にあったとして、その後に余裕を以て望めばいい。実際、世界を変えるのはそういう連中だ。
楽して勝利を掴み取る。
生まれついて優秀な英雄だの権力者だのこそ、この世界を動かしてきた。そのような遠回りなど一体誰がしてきたのだ? まして、文字通り無能のまま、何かを成し遂げた奴などいるのか?
いるとして、私は御免被る。
疲れるしな・・・・・・まあ今更在り方を変える事も他の道を進む事も出来はしない。やるしかないがやる気の出ない噺だ。喜ぶのは読者だけだろう。 嬉しくない。
読者が仮にそのような物語こそを喜んだとしてその生け贄も同義ではないか。何とかして読者の幸福を全力で妨げてでも、私の実利を守らねば。 まるでアテは無いが、出来なければ死ぬだけだ・・・・・・いい加減、嫌になる。
もう少し楽が出来ないものか。
無駄な徒労が多い道のりだ、まったく。
「意味ならあるさ、先生。その過程ありきで先生の作品は出来ているんだろ? なら、そこに意味はある。それを笑う必要は無いんだ」
真摯に、いや祈るようにジャックは口にした。だが、私は奴ほど優しくはない。
意味など知らぬ。
それでも進め。
手に入れるべきは実利のみ。
意味があったとして、だから何だ。私には何の利益にもならないではないか。それこそ、遊びと変わるまい。
「そんなことはない。いいかい、先生? 先生の言う「物語」ってのには、読者以外にも読み手はいるのさ。他でもない先生自身は間違いなくその物語を読んでいる。そして、先生は自分さえ良ければそれでいいと言うが、それなら尚更得るべきことを、先生は既に得ているんだよ」
禅問答みたいな噺だ。
こいつも、生まれついての悪人のくせに、どうしてこう前向き、いや世界に美しい物があるのだと語れるのか。私にも美しいと評する物はあるが美しさに共感することはない。
だからだろうか?
人間の汚さを嘲うこいつと、人間の汚さを直視する私とでは、見えている物が同じでも、見方が違ってくるのだろう。有り様に裁定を下す私と、有り様を後押しする悪魔とでは、見えている物が同じで捉え方が同じでも、未来に対する考え方が違ってくるのだ。
未来に希望など必要ない、と考える私。
未来に希望はあるべきだ、と考える奴。
どちらも無目的に未来を信じたりはしないが、奴の場合下らない理想論ではあるが、世界の汚点をそれはそれとして「それだけじゃない」と考え信じようとする。私と同じで根拠など無いが傑作であるという自負を根拠無く持つ私と違い、奴は未来には希望があるという憶測を根拠も無いまま信じようとする。
未来に絶望しか無くとも、その絶望を見たまま未来に希望はあると、そう語るのだ。無論楽観的な訳でもない。それは普通の発想だ。
そういう在り方を、選んだのだ。
絶望しかなく、世界の汚点を見据え、その上で世界に向かって嘲笑う。悪意だけが真実だと知り善意など嘘っぱちだと殺意をばら撒き、悪の全てを肯定する癖に、小さな花を愛でる。私には理解し難い噺だ。
前々から思っていたが、何なのだこいつは。
「おいおい、今更だろう。最悪の相棒は邪悪って相場が決まっているもんさ。というか、俺が何かよく分からないまま連れ歩いてたのか?」
「無論だ。何故私がそんな事を気にせねばならんのだ。作品のネタとして扱う事もあるが、しかし悪意に関してはある程度予想がつくからな」
なので、こいつの思想も複製出来る。
ある程度は、だが。まあ点数を競う訳ではないのだから、それも知ったことか。人工知能に人権侵害もあるまい。訴えられる覚えはない。
全て、合法だ。
人間社会に非人間が混ざってる時点で違法って気もするが、それも今更だろう。罰金を払う必要がないなら、それでも問題あるまい。
問題がなければ、無いも同然だ。
証明できない違法行為に、罰もあるまい。
「きひひ、そりゃ酷いな先生。俺にだって自我はあるんだぜ? 人の心情を勝手に書くなんて人権侵害、違法行為も良いところだ」
違法存在が何を言ってるんだと思ったが、安易な台詞ではある。なので私はこう言った。
「なら、同情でもしてやろうか?」
「いいや、それだけは勘弁だ。っていうか、先生の場合金を取るだろ」
当たり前だ。
まあ実際、同情する感性はないからそのフリをするだけだが、人間の真似は体力を使う。消費が激しい行為をどうしてタダで出来るというのか。 それに見合う報酬を求めるのは、当然だ。
「けけけ、だから先生は面白いんだよ。これで、同情だの哀れみだのを向けられたら、やるせないからな・・・・・・誇れよ先生。
アンタは、やるべき事をやっている
それは人間の、いや人間でなくとも誇るべき事なんだ。何かを成し遂げる事が生きる事だというなら、それを成さない奴は死体同然だ。けれど、先生はそれをやってるんだろう? なら、地獄の閻魔が文句を言おうが、胸張って金を請求すればいいだけさ」
相変わらず中身の無い台詞だ。
そのくせ、奇妙な説得力がある。
善人が言えば何の説得力もないが、それを何故こいつが言うのだろう。いや、だからこいつは、人間を信じたいのだ。その欲望に従っている。 人間の悪性を笑い、人間の光を否定しない。
何とも面倒臭い性格だ。私に言われたらお終いだぞ。そのお人好し、いや世界を嘲笑い肯定する態度の地盤は、相当なものだと言える。
何がこいつをそうさせているのだろう?
私には理解し難い噺だ。そんな光などそれこそ物語の中だけで、現実には存在しない。物語など虚構でしか無く、言葉に説得力など無い。
浅はかな人間の言葉だろうが、同じだ。
言葉に重みなどあるものか。
人間性の否定、いや人間性に放つ光があると、希望で理不尽を誤魔化す姿勢を否定する、それが邪道作家の在り方であり、指針だ。
悪意を世界を、直視する。
特別な目玉など必要ない。ただ、あるがままに世界を見ればそれでいい。調子の良い希望を信じてはいないか? 都合の良い善性に溺れてはいないか? 倫理や道徳に従って現実を直視する義務を放棄してはいないか?
それら全てを、捨てればいい。
それで、私と同じ視界が見れる、筈だ。
まあ最低限近づきはするだろう。そしてそれで問題ない。ただただ、ありのままに世界の裏側を肯定し、搾取による権威、権力で作られる道徳、暴力で構成される正義、殺戮で排除される悪党、倫理で誤魔化される善良という麻薬、道徳で肯定される迫害という名の正当性。あらゆる醜悪さを全て、あますことなく楽しむのだ。
目を背けるなど、とんでもない!
面白いではないか。貴様等はその程度だ。だがそれの何が悪い? それが悪なら、それでも別に構うまい。いいではないか、何の問題もない。
この世界はすべからく悪だ。
悪だけが存在する。
善など最初から有りはしない。
悪である事から目を剃らす為に、現実逃避する麻薬として作られた子供の玩具だ。いい年して、どうして玩具で遊びたがるのか。
悪意という現実で遊べばいい。
その方が、面白いからな。
世界は素晴らしい。悪意だけが存在し、人間は悪のみで構成され、自然も精霊も神も仏も悪魔も鬼も、等しく・・・・・・・・・・・・存在そのものが悪だ。 悪でない筈があるまい。
それぞれの主義主張、それがどのような独善であれ、どのような救済であれ、どのような大儀であったとしても、それこそが悪なのだ。
善意を押しつける時点で、悪だと言える。
間違えるな、何であれ悪なのだ。聖女の思想も殺人鬼の思想も大差ない。他と違う何かを思えばそれが悪であり、間違いを押し通すから面白い。 恨まれなければつまらない。
世界に敵対するからこそ、価値がある。
その教えが世界全てを救い、あらゆる悪を払い世界を変えるとすれば、それ以上の悪は中々無いだろう。何せ、誰も頼んでいない。
そんな楽な道を歩ければ良かったのだが、私に楽な道程はないらしい。正しい教えを実行してるからそれでいいや、という思考放棄が羨ましい。 自分で何も考えずに済む。
こんな楽な道が、他にあるか?
羨ましい限りだ、暇そうで。
例えばだ。仮に数百人の人間に対して金を恵むとしよう。道徳的に素晴らしいと口から唾を出す一方で、それに選ばれない奴からすれば、それはただの差別に過ぎない。全人類に与えたとしても同じ事だ。何の価値もない汚行だと言える。
他者を蹴落とす楽しみを、奪っている。
それはそれで一つの権利ではないか。自分ではない誰かを見下し、区別し、己が高い所にいると身勝手に考える。実際に差がある訳ではないが、それでも当人からすれば誇りだろう。やるべき事をやったのだと、そう思えるからだ。
だが、すべからく平等にして、難になるというのか・・・・・・そんなのは上から目線で他者を救う、他でもない己自身に酔っているだけだ。酒飲みが世界を語るんじゃない。いいか、良く聞け。世界に平等なる物があるとすれば、それは能力の差ではなく、理不尽な差の中で争う権利だ。
無論、勝ち負けは最初から決まっている。
持つ側に持たざる側は勝てないものだ。努力や執念だけで世界が変われば苦労しない。正直私は才能だの権力だのから宇宙一遠い存在だ。故に、そういった連中が世界を変えられるこの世界に、価値があるとは思っていない。
いや、価値ある物はあるが、世界に価値はない・・・・・・・・・・・・押し進めてきた今の世界に、何かを変えた事実は無いからだ。英雄や偉人が変えた、世界の偉業の数々は「持っている」事有りきで、戦闘の才能が無い英雄、持たざる側の王、後押しのない探検家が、世界を変えた試しがあるか?
作家には才能など必要ないが、しかし物語などが世界を変える事はない。そんな力があるものか馬鹿馬鹿しい。逆説的に、そのような力とは無縁だからこそ、作家に才能は要らないのだろう。
必要なのは悪意だけだ。
何度も言うが、まず人間を嫌いになればいい。そして世界を否定するように心掛けろ。さらに、善なる全てと敵対し、態度だけはデカく張れ。
それで作家だ。
何とも簡単な職業だ。やろうとする奴は稀だがなろうと思えば誰にでも成れる。本質を知って、成りたがる奴などいれば、だがな。
断言する。止めた方がいい。
得な事など一つもないぞ!
私が言うんだ間違いない。
さて、ここの密林はそういった連中とは無縁な奴が住んでいるらしい。科学の臭いはせず、実に原始的な生活様式を心掛けているらしい。罠も、どうやら現地調達で作っているらしく、その罠にかかりかけた私がその証人だ。
危なかった。
こんなところでロープにつられて辱めを受けるなど、あってたまるか。捕まったら斬ればいいがそれでも醜態を晒す趣味など無い。
歩を進めると、そこには木製の家があった。
緑色の屋根、いやコケの生えた屋根に、どうもキノコ栽培や蜂蜜を得る為に養蜂までしている。これはいい。私もしてみたいものだ。とはいえ、私は昆虫とは相性が悪い。
言語が通じないからな。
相手が神仏でも悪魔でも口先で言い負かす自身はあるが、昆虫相手ではそれも通じない。ただ、野生のままに襲ってくるだけだ。
用心してそろりそろりと蜂の巣を避けながら、私はドアに辿り着き、それを叩くのだった。
「もしもし?」
誰かいるのか、と聞いてみるが返事がない。
そう思った矢先、後ろから矢が飛んできた。
矢だ。それも、手作りの。
必死でそれをかわし、刀を構えて誰かを問う。すると、「軍人か?」と聞かれたので「そう見えるなら、お前の視力は鳥以下だな!」と叫んだ。 いやまあ、鳥の目は良かった気もするが。
「何者だ」
そう口にするのは緑のフードに身を包んだ男で「ロビンフッド」という概念に酷く合う姿で私を見ている。ご丁寧に矢を背中の筒に入れており、弓矢だけでなく鉈のような刃もあるらしい。
時計すら持っていない。まさに原始人並だ。
「ただの作家だ。邪道作家」
「ふざけているのか?」
こちらは真剣だというのに、失礼な奴だ。作家とはそこまで信用がないのだろうか? 無いかもしれない。あるとは思えない職業だ。
政治家とか、弁護士が望ましいのか?
後は公務員だとでも名乗れば本人は関係ない。医者がどれだけ成果も出せない無能だろうが職業の印象だけで人は人を判断するものだ。
まあ、今更遅いのだが。
「誰がふざけるか。私は本気だ。物語を売って、その利益で生計を立てて何が悪い? 貴様だってここで隠居人みたいな生活をしてるだろう」
「・・・・・・いいだろう」
言って、ロビンフッドは私を招いた。
中に入ると何ともそれらしい雰囲気の内装で、具体的に言うと懐古趣味とでもいうべき、古臭くはあるが情緒ある世界が形作られている。
こいつに興味が沸いてきた。
つまらない依頼だったが、見えぬところにネタというのは転がっているものだ。元よりその辺の石ころからですらネタは拾えるが、やはり面白いネタは刺激ある行為からこそ出てくる。であれば作者取材の為、良く知らない奴を殺すのは些末な事だ。その程度で私の作品の礎になれるのだからむしろ感謝して貰いたい。
殺して頂いて有り難うと言って良いぞ。
感謝のついでに料金を払っても構わない。
むしろ払え。対価を払うのは当たり前の事だ。「そこに座れ」
言われるがままに椅子に座り、テーブル越しに向き合う。顔はまだ見えないが、しかし思ってるよりも若いらしく、声に老けた雰囲気は無い。
「それで、貴様は何者なんだ? 人に正体を訪ねたら、自分の正体も話せと習わなかったのか?」 無論、私は習ってないが。
大層な正体ではないしな。
「私の名は、オリバー・プランクトン」
そこには、彫りの深い男の顔が隠されていた。二十代後半くらいか? よく見れば筋肉も太く、現場で鍛えたターザンであるらしい。
まあ何でもいい。金になれば。
何より、彼の言葉は面白そうだ。何せこうまで俗世から離れている。であれば、こちらの期待を越えて面白いネタがあるだろう。
「君の訪れた町の、英雄だった男だ」
期待通り、ロビンフッドは面白いネタを、この私に提供してくれるのだった。
それが、金になるかは別の噺だが。
10
生まれながらに全ては悪だ。
生まれようとするという事はこの世界の資源を使い潰し、それを己の物とする行為だ。最初から全ての存在は悪であり、生まれる前から害悪だ。全ての生命は望まれぬままに生まれる。その命が周囲に望まれ生まれるなどというのは幻想だ。
身勝手な己の夢想を、見ているだけだ。
生まれた生命が己の利益になれば「愛」を叫び慈しむフリをする。生まれた生命が己の利益ではなく害悪になるならば、それを排する。
選択が何であれ、存在そのものが既に悪。
それが世界の事実だ。その現実から目を背けて己は善良なる存在だと思い込むか、生まれついて悪である現実を直視し、その上で間違いを通すかだけがその生命に得られる選択の全てだ。
生きる資格云々など語るまでも無い。この世の全ての生命にはその資格は無く、生きる権利など有りはしない。全ての生命は間違いであり、その意志や行動に善し悪しなど無い。生きている価値とは作り上げられた物に評される行いであって、その当人自身は成果さえあれば必要すらない。
それとも、これが最悪の発想なのだろうか? 私自身は常にこれなので、わからない。いや、そうなのかもしれないが、個人的にはこの程度は当たり前の事だ。だからこそ、最悪なのだろう。どころか、真っ当だと言われる在り方を羨みすらせず、欺瞞を剥いで悪辣な奇跡に挑み続ける。
まさしく・・・・・・「最悪」だ。
自分で言うのも何だが、そう思う。
当たり前の幸福、人間的な勝利、あるいは心が満たされる愛の形。そういった物を理解した上で共感せず、またそれを悪びれもしない。人間共と相容れない怪物の噺は良くあるが、連中にだって心はあり、むしろ人間より人間らしい。
それを、真正面から否定する。
一切の引け目もなく、楽しそうに。
何かを楽しむ感性など無い癖に、人間の物真似だけは得意になったものだ。やはりというか私はそれを悲しむ事も変える気も無い。
そんな機能は、私には無いからだ。
少なくとも悪魔とは契約できそうにない。魂がない化け物と契約する程、連中が挑戦的な性格をしているとも思えないしな。この状況を悲しみ、あるいは倫理的に悪いのだと心とは別に改善する姿勢があるならともかく、それすら私には無い。 何一つとして、共感しない。
世界全ての悪意を直視した上でこれなのだから人類史の敵対者と言うに相応しい化け物だ。何せ人間のあらゆる善を容認せず、どころかそれらを最初から悪だと説いて回り、世界には悪しか無いという思想を広め、均一化しようとする。
まあ、しかし事実だ。
世界には悪だけがある。この世全ての悪があるなら、それはこの世界そのものだ。石ころでも、人間でも、排ガスでも書物でも太陽でも月でも、文字通り何であれ、生まれついての、否、生まれるまえから全てが悪だ。
何をしようが、悪しか存在しない。
善という名の悪があり、正義という名の巨悪がある。神仏という名の悪があり、悪魔という名の悪がある。そもこれらに共通するのは力ありきで物事を押し通している部分だ。悪の対極と言われる概念に限って、それらを実行する暴力的な差が前提だ。法も倫理もそれが何者であれ、正しさや正義を説く時点で力に溺れているだけだ。
どのような思想であれ、間違いなのだ。
間違いを競い合わせている現実から目を背け、その思想だけが正しいと思い上がるのは、暴力で他者を叩きつけるに等しい行為だ。力ある安寧の中で惰眠を貪っているだけの連中が、よくもまあ偉そうに上から目線で物を言えるものだ。
恥ずかしくないのか、馬鹿め!
文句があるなら無能な人間に生まれて理不尽を味わってから物を言え。それで初めて対等だ。
対等なだけで、語る資格など無いがな。
いいか、良く聞け。何かを語りたいなら、まず人間を嫌いにならなければならない。何より世界を否定し真理を剥がし、悪という概念を否定する全てを消し去る為に生きろ。そしてその上で金に換えれば落第点は逃れられる。
その悪意を刻み込め。
善なる全てに敵対しろ。
無論、半端者は論外だ。裏切りの百二百殺戮の百二百を「どうでもいい」と切り捨て悪逆らしさから脱却し、必要悪として在らなければなるまい・・・・・・搾取し傷つけるだけでは、ただの阿呆だ。 子供じゃあるまいし、悪は暇人ではない。
向かうべき目的の無い悪逆の暴力などに価値は無い。そもそも、達成する悪意も無くただ漫然と悪逆を振りまいて、何になる?
そんなのは押しつけられた労働と変わらない。 そういう役割を知らず知らずの内に強制労働と変わらない感性でやっているだけだ。あの女も、恐らくその類だろう。
出来る悪女だとでも思っているのだろうか。
だとすれば自惚れも甚だしい。そんな奴がいるとしたら、気立ての良い女の方だろう。女として男を惑わす事は、むしろ悪手なのだ。手段として使うのはいい。だがそれが本筋になれば本末転倒だと言える。
いずれにしろ、私には関係ないがな。
それらもやはり、共感しない。
比喩ではなく明日から人類が卵で子孫を増やしたとしても、私は構わない。それはそれとして、卵を生む連中の幸福観に合わせて売ればいい。
世界は悪で出来ている。
そしてその最たる物が「金」だ。金こそが人間の積み重ねてきた悪の結晶。その結晶を細分化し分かり易く広める兵器が「物語」なのだ。
物語とは、悪意をバラ撒く為だけにある。
世界の全てを否定する為にある兵器だ。
いやむしろ、善意で汚染されている連中を治療する救世主と言い換えてもいい。倫理観や道徳といった嘘八百の戯れ言から目を覚まさせ、正義という現実逃避を許さず躾るという、酷く真っ当な方法論だ。常識的でさえある。
常識とは、当人の都合だからな。
そして悪とは本来都合の良いものだ。理想的な妄想ばかりに耽溺している馬鹿共は、悪の魅力に目を逸らす。思考放棄をするからだ。
悪いから、悪い。
だが悪くない概念など存在しない。それこそ、人間は人間であるだけで悪ではないか。原罪だの業だ言い方は色々あるが、どの宗教にしても完璧な存在だと人間を誉め称える噺など、聞いた事もない。むしろ、不完全だからこそ信仰する筈だ。 何をしようが、悪なのだ。
その悪性を否定して善なる行いに身を染めればそれで許されるという発想がおこがましい。罪が許される事がないから、ではない。罪など所詮、偉そうな連中の都合に過ぎない。もしそんな物があるとすれば、それは「己を善だと思う事」こそ世界の全てを足しても足りない大罪だろう。
正しさを盲信する。
殺人鬼などより、余程手に負えない。
その点、この男は組みやすそうだった。
「何か飲むか?」
「コーヒーを頼む」
ミルクも頼んでおき、私はそれを混ぜて飲む。精神が落ち着いた、ような気分になれる。酒でもそうだが、私には共感する機能がないからな。
想像するしかない。
後はそれを真似るだけだ。
それが何になるのかは謎だが、面白くはある。「見た目に反してお子さま趣味なんだな」
そう言われて私は「その方が楽しみやすい」とだけ答えた。特に意味のない韜晦だ。だが韜晦は己の立ち位置を調整するのに丁度いい。
ボクシングのジャブみたいなものだ。
「楽しみ、か。何かを楽しめる奴には見えないが・・・・・・まあいい。貴様の目的は何だ?」
老けた面だ。見た目が、ではない。二十代後半と予想したが、雰囲気は老人のそれだ。しかも、「頑固な」が付く方のだ。
「作者取材さ。仕事、いや労働は終わったので、ここの面白い過去話でも聞こうかと思ってここに来たんだ。人体実験があったとか迫害による虐殺があったとか、何でもいい」
何か面白い噺は無いのか、と私は聞いた。
彼は神経質そうにカップからコーヒーを飲み、ゆっくりと「そう面白い噺じゃない」と答えた。だがそれは、大抵面白い噺になる筈だ。
「いいさ、面白いかは私が判断する」
先を促すと、オリバーは昔の新聞らしき物体を私の前に差し出した。そこにはこう書かれていた・・・・・・町の英雄、汚職疑惑か。
英雄の名はオリバープランクトン。
つまりこの男だ。
「昔の噺だ。俺はあの町の市長だった。町の為であれば何でもやったさ。政治家は楽じゃないからな・・・・・・当然そこには、寄付のような人道的支援も含まれていた。支持を得やすいから、特に力を入れてな」
新聞に目を通しながら、私は聞いた。
「それで、どうなった? 私は探偵じゃないから答えだけ先に言ってくれ」
唸って不機嫌さを醸し出しつつ、彼は言った。「別に。強いて言うなら、その人道的支援が偽善じゃないのかという風潮が出てきた上、おまけに聖女だともてはやされていた支援者代表が、もう助からない患者だからとロクな治療もせずに勝手に安楽死させたり、相手の宗教観を無視して善意の押し売りをしていた事が発覚しただけだ」
良くある噺だと言える。
自分達が世界を変える為に動いているのだと、そう自惚れる連中の姿は「被害者」だと言われている奴等にすれば、おこがましい侵略者だろう。 要するに「未熟な植民地扱い」なのだ。
相手を一人前だと認めず、自身の善意で助けてやらなければならない赤子のように軽んじているからこそ、「道徳的な支援」を行わなければならないと使命感に燃えさかる。私か? 生憎だが、使命感ではない。強いて言うなら私の生活の邪魔だから、読者の思想をその為にいじるだけだ。 おまけに、先行するのは押しつけがましい善意だけだ。実際に医療体制が整った寄付事業など、到底あり得ない。現地の実態を知らない奴が幾ら寄付したところで、その寄付資源を奪い合い争いがおこるか、ロクなメンテナンスも出来ずに機械が腐り果てるだけだ。
文字通り、何にもなるまい。
なる訳がない。自惚れるな馬鹿が。
世界を覆す、というのは並大抵の労力ではない・・・・・・理不尽に理不尽を重ね、不可能に不可能を殺し合わせ、不可逆を可逆にして、失敗と敗北を永遠に繰り返す。これ以上割に合わない史上最低の遠回りは他に無いだろう。
私が言うんだ間違いない。
いや本当、割には合わない。
出来る保証も無いしな。
そういった道程も歩いていない奴が、逆境こそ利するなどと口にしているだけで、現実には逆境とはただの障害物だ。何にもならない。
虚構と現実を一緒にするな。
そう都合良く噺が進むのは、物語の中だけだ。逆境や困難からこそ生まれる何かなど、単にその労力に見合う物があれば楽だからそう思い込み、そうであってくれと夢想する願望に過ぎない。
逆境こそ実利を失う。
困難こそ徒労に終わる。
運命を乗り越えれば更なる理不尽とご対面だ。私が言うのだ間違いない。何かを乗り越える事が美談であると語る奴は多いが、まさかだろう。 それこそ調子の良い願望ではないか。
それが現実であるかのように思うのは、単純に恵まれていたからだ。徒労を、理不尽を知らないからこそ、それら妄言を垂れる余裕がある。
だが、私にそのような余裕は無い。
あるなら、こうして執筆などするまいよ。私はおよそ経験するべきではない事はすべからく経験してきた。嘘も裏切りも今となっては退屈とさえ明言出来る。やるなら壮大に、世界を巻き込み、摂理に敵対せねば足りない程に、私は多くの敗北や失敗を繰り返し、地にまみれ続けている。
嬉しくもない噺だ。
そんな私だからこそ、断言する。いいか馬鹿共耳を抉り魂に穴を開け財布の中身を差しだして、それでもその身に刻み込め。
物語の美談など、見る側の都合なのだ。
華々しい主役であればそれでもいいのだろうが私はそうではない。裏切りどころか裏切られる程関係を結ぶ事も無理だ。大体周囲全てに指差されながら、必死に少ない財産を持ち逃げしている。 物語にはなるまい。
敗者になりました、終わり。それで完結しては語るべき事が足りないだろう。だからこそ、私は悪意について語るしかない。調子の良い物語など鼻で笑い否定する。それに乗っかる読者も同罪だ・・・・・・すべからく、裁かなければ。
正義ならぬ悪の鉄槌だ。
人間なんぞ元より小麦粉のように主義主張など変えるものだ。であれば、それをパン作りに習い悪意を混ぜ込み餡パンに変えたところで合法だと言えるだろう。言えなくてもそうする。
素晴らしい、三方良しの発想ではないか。
我ながら大したものだ。
心を持たず世界に嫌われ、どころか大抵の場合挑む権利すらなく敗北を押しつけられる私だが、まあそれはそれだ。最終的に金になればいい。 ならなければ本当にただの徒労だがな。
どうだろう、このオリバーとかいう没落者には勝利と栄光が先にあり、その上で敗北による凋落があった。普通に考えれば勝利や栄光にかまけて手抜きを繰り返したから自業自得だと、そう人は言うのだろう。だが、浮ついた状態の時に、未来には穴があると人は思わないものだ。
万全の時に理不尽へ対抗する術は無い。
何もかもが上手く運ぶとは、とどのつまりそういう事なのだろう。何もかもが上手く行かず勝利どころか理不尽しか知らない、いや全てを悪意で判断するのも考え物ではある。とはいえ、事実は事実として受け止めよう。
確かに、勝利や栄光を先んじて得ると、人間は落ちやすいものだ。だがそれはそれだ。成し遂げ押し進みやり遂げた成果に対して、一切の報酬が支払われない理由になどなってたまるか。
要するに、被害者面が鬱陶しい奴だ。
過去の栄光に縋り付く人間というのは如何ともし難い存在であり、この男の場合下手につつけば爆発こそしないものの、偏屈になるだろう。
目を見れば大体分かる。
ちなみに私自身の目には何も写ってはいない。ドス黒い目玉だけがそこにあって、自分で言うのも何だが若干引いた。善悪どころか、この目玉を持つ奴は人類の敵だと直感したほどだ。いやまあ私の事なのだが、それも今更だ。
ブラックホール、という表現が浮かぶ。
文字通り万物を悪意で判定し、悪意だけを信じ善意など目もくれず、全てを闇に引きずり込む。その結末など、考えもしない。
構うまい。私の生活には関係ないしな。
少なくとも、金儲けには活かせない技能である事は確かだ。悪意そのものが金になる事はなく、悪意を以て才能やらを利用すれば金になるのだ。 黒い黒い、黒い目玉。
役に立たない機能があったものだ。
その目玉を持つ私からすれば、人間という種はとうの昔に「消費期限」が過ぎている。過ぎた力を持つ神仏や悪魔といった概念が無くなり人間の時代が来たのは単に、汎用性が広く一つ一つの命が安い方が先の展開が広がると星が判断したからだと言える。
そして、その段階は過ぎたのだ。
頭に輪がついている(古いか?)奴や、背中に羽が生えている旧人類。さして取り柄こそないものの、集団性に秀でた現行人類。
特別からそうでない物に変わった、のではない・・・・・・単に環境適応の結果だ。エリーゼのような奴は己を特別だと思い込みたいらしいが、そんなのは妄言でしかない。
そして、その段階も恐らく過ぎた。
芸術も科学も思想も行き詰まりだ。面白い傑作などより売れるから売れるという浅はかな思想を広めた結果、世界はゴミの山となった。現代社会において、私のように本気で作り上げ世界に挑むなどという蛮行をする奴は、もういまい。そんな考え方は古く、何より連中にとっては世界に挑む在り方そのものが「恥ずかしい」のだ。
世界を語る事が、恥ずかしい。
電脳世界で大きな口を叩き、偉そうに振る舞うだけで自身を「凄い」と思い込み、現実には何も挑戦せずただただ資源を空費する。
そういう「要らない人間」が過半数だ。
そしてその数は全人類を覆った。少なくとも、私以外には著名な漫画家だの偉大な音楽家だのがいるにはいるが、それも古い時代から長々と続けている連中で新しく生まれたという噺は聞かない・・・・・・・・・・・・まして、物語など。
麻薬に等しい駄作ばかりだ。
あれなら白紙の方がマシだろう。
書店ではなくゴミ置き場という言葉が相応しい状態だ。どれもこれも調子の良い妄想に耽る為にあるものばかりで、挿絵は大層だが肝心の中身はロクでもない。掲げるべき思想が無いからだ。 それこそ機械にでもやらせればいいだろうに。 ある程度状況を固定化して、その上で設定だけ変えられた内容の物を出せばいいだけだ。つまり大量生産品であり、物語でも何でもない。
物語を新たに執筆する奴など、絶滅している。 他の業界は知らないが、少なくとも物語制作を文字だけでやろうと考える危なっかしい賭博者はもういないらしい。この時代に真剣に物語を書く奴は、もう必要とされないのだ。
人間ではなくゴミが支配するのだから、当然か・・・・・・人間など元よりそのようなものだが、価値を追い求めもしない豚の集会場に、物語なんぞは必要あるまい。唸ってるだけの生き物に、思想を説くなど無駄の極地だ。
心など持たなくて、本当に良かった。
それが人間であれば豚になる為にあるものだ。それが怪物であれば泣き言の為にあるものでしかないものだ。そして化け物に心は必要ない。
英雄と呼ばれる奴がいれば、心は都合良く解釈して己を誤魔化す為にある。いずれにせよロクなものじゃない。化け物で本当に良かった。
怪物か。所詮肩書きが何であれちょっとばかり優れたただの人間だ。生態や本能が変わっても、やはり心に応じて動く根本は変わるまい。
それに、どちらも手足が二本ではないか。
素体の出来が同じなのだから異種族と言い張るのは無理がある。肌の色が違う人間は多いが怪物の場合は基礎性能が違うだけで、同じ事だ。
何一つ特別ではない。
むしろ、ありきたりだ。
少しは作品のネタになれ、この阿呆が。
「ありきたりか。なら、あの聖女もそうだったのかもな」
オリバーは私の持論を聞きつつ、そう答えた。どうだろう。彼は彼で「特別」だと言われてきた訳だが、その当人の景色は違うのだろうか?
とりあえず聞いてみるとしよう。
「貴様は、どう思ったんだ」
「どう、とは?」
「踊らされる民衆の姿、身勝手に賛同する民衆の姿を見てきた筈だ。その後、都合が悪ければすぐ手の平を返す姿もな。その感想が聞きたい」
恐らく人間の、いや怪物も含めて心ある連中にすればそっとしておくべきなのだろうが、生憎と私には心ある連中の葛藤など関係ない。
配慮しろ、というのは無理な相談だ。
哀れみでもすればいいのか?
金次第だ。凡俗の生涯年収を支払うなら、二秒だけ考えてやる。考えるだけで面倒だから実行は恐らくしないが、私に考えさせる事は可能だ。
考えるだけで疲れるがな。
正直、理解し難い噺だ。
「そうだな・・・・・・よくある事だと思ったよ」
「どういう意味だ」
なので、考えるだけで疲れる事はやめにして、直裁的に聞く事にした。その結果としてこの男の精神はズタズタになるのかもしれないが、それは私の貯金通帳とは関係ないし、何より作品のネタに比べれば安いものだ。
私は何も払わなくて済むしな。
「人間、上手く行っている時は慢心するものだ。逆に、上手く行かなければ悲観的になる。だが、それはそれでありなんだ。君のような奴がどうかは知らないが、大抵の人間は流され、考えずとも生きられる。少なくとも当人達はそう思い込む」 言って飲み物を飲み、彼は続けた。
「蟻と同じだよ。役割の無い大多数は必要なんだ・・・・・・使い捨ての歯車のない世界を作るには今の世界は広すぎるからね。彼らには自意識があるのかも怪しいが、だからこそ浅い考えで危険な労働をする連中が現れる」
確かに。
汚染されながら労働を続けたり、搾取されるとわかっていながら奴隷になる奴がいる。今の社会には歴とした「奴隷制度」が存在する。
持つ側。
持たざる側。
権力、暴力、経済力。何でもいいが、要するに他者に屁理屈を押しつけられる奴が勝利出来る。おしつける側にいれば殺しても裁かれないし罪悪など感じる必要すら無い。国家という後押しの力で事を進める連中が一番、分かり易いだろう。
何をしても、「許させ」る。
あの世に煉獄など無い以上、これは当然の摂理だと言えよう。もしあの世があり反省を促すのであれば、その罰は随分軽いらしい。
でなければそういう輩が繁茂すまい。
それこそ既に絶滅している筈だ。逆説的に今の社会が腐り続けている以上、煉獄はないし、あるとしても効力は無い。結果がこれなのだからな。「ふん、働き蟻の法則か。面白くもない」
「だが事実さ。人間社会の大半は不要な物だが、それも君の言うように「消費期限」が過ぎているのかもしれない。役割を果たせる人間が減少するというのは、集団としての機能を果たせていないからだ。即ち、寿命を意味する」
人間は侵略者で滅ぶのではない。
消費期限切れで、滅ぶのだ。
心を持たず、人間を嫌い、徹底的に人間の悪意を肯定し続けた私が言うのだから、間違いない。 期限が切れる前に、人間性など売っておけ。
腐ってからでは使い物にならんぞ。
世の中には私とは真逆、凡俗に認めさせ稼いだ金を稼いでも「本物」とやらを作れない己に苦悩する音楽家もいると聞くが、腐った人間性とやらを掲げるこの世界で、仮にその「本物」とかいう存在を作るというのは敗北に向かうようなものだ・・・・・・・・・・・・本物が売れている姿など、近代社会の中では見た事もない。
大昔にはそういう奴もいたが、私は知らない。少なくとも科学が発展してから人間は退化した。進化し進歩したのは科学であって、人間そのものは劣化し続ける一方だ。かつても同じ事だろう。トロイア戦争など略奪で食料を得た挙げ句、女を奴隷にし、それを奪い合った連中が「英雄」だとほざいている。
元よりこの世界はその程度だ。
価値の有無などそれこそ些末事だ。なぜなら、人間は最初から価値を築き上げず、むしろ壊したその先に文明を築いてきた。本物という概念など叩いて潰し偽物の肥やしにする為だけに、ある。 このオリバーとかいう男は何を求めているのかというと、その「本物」とやらのようで、私には理解し難い噺だ。そんな物が何になる?
栄華を築き勝利を得た。
それが早すぎると、不思議な事に人間って奴は過去の栄光に囚われ今の豊かさに満足出来ない。何故なら連中は己を認められないからだ。
これは怪物属性の連中も同じだろう。
連中の場合、恵まれた能力を持ち得ている癖に人間との軋轢に言い訳をして逃げる。言うまでもなく人間との軋轢が無くとも文句を垂れるのだ。能力にかまけさしたる労力も払わず挑んでもない癖に悟ったように「これだから人間は」とほざくのだ。私か? 嫌いか好きか、という感性すらも私にはない。
強いて言えば、選んだだけだ。
私は人間をこき下ろし、悪意で染め上げ善性を否定する道を選んだ。その為であれば何者だろうと倒すし、倫理観や道徳など殺し尽くす。
ただの、それだけだ。
人間など、私には敵でさえない。障害物であり利用できる駒だ。別に人間でなくてもいいのだ。エイリアンでも怪物でも、この世界を統べている連中が誰であるかなど、知ったことか。
それはそれとして、利用する。
この私の目的の為に。それだけだ。
「君は本当に人間かね?」
もっともな疑問を オリバーは聞く。
何をもって人間と考えるのか謎だが、いいや、こういう発想の時点でそうではないのだろう。
「人間であれ怪物であれ二本の手足と心がある。だが私は見た目は連中と同じだが、生憎とその、心って奴が入っていない」
人間ではない、のではない。
生物ではないのだ。
何せ、その有り様が既に生命の輪から逸脱している。どのような生命であれ、幸福を目指すのではなく「幸福を定義し、そういう事にする」などという在り方は選ぶまい。ただでさえ他の生命と交流を育む機能が付いていないのだ。そこに感性だけでなく実際的な生命の基本機軸を備えない。 これで人間だという方が不思議だ。
何より、私自身がそう思っていない。
「故に、人間ではない、か。私も今の人間達の輪に入れない身だが、君も相当だな」
「貴様には関係ない噺だ。だが、貴様の話は私に関係ある」
作者取材の為に。だが・・・・・・それも、いつまでやればいいのだろう? 成果が出ない労力など、最初から何もしていないのと同じではないか。 己で定めたとはいえ、徒労に価値はない。
テーブルに出されたカフェオレを飲み干しつつ私は目の前の男に向き合った。とはいえ、それで何が変わるわけでもない。
傑作を書いたと自負したところで、売上げには何の関係もないからだ。そもそも物語の中身などさして必要ない。
どうでもいいもの、なのだ。
読者に判別する知能があるなら、これほど駄作が溢れかえる世界にはなるまい。そういう意味で言うなら「良い物を作ろうとする行い」そのものが無意味で無価値だ。何故ならそれは、読者共に物語を広める上で、真逆の行いにしかならない。 何度も言うが、嫌になる噺だ。
何度聞いても汚濁は汚濁、気分がいいものではあるまい。真剣に物語で生計を立てている奴が、毎度のように汚濁を見せつけられ汚濁にまみれた豚が札束を汚しつつその汚濁を舐める姿なんぞを見せられて、私が喜ぶとでも思うのか?
傍迷惑な連中だ、全く。
少しは己を弁えろ、間抜け!
あるいは、分不相応という言葉が小さく感じるくらいに態度だけで匹敵しろ! 態度で張り合えない奴が、世界に挑める訳がないだろうが。
世界を覆す行い。それを「生きる」と言う。
当たり前の事だ。出来ない奴は死ね。
そのような蒙昧に、生きる資格など無い。
仲間だの勝利だのを得ている癖に、やるべき事の一つも成さず、それでいて恩恵だけは得られるときた。堕落した豚共が、少しは痩せろ。
連中と違って、私には何も無い。
仲間も
友情も
思い出も
帰るべき場所も
得るべき幸福も
希望ある未来も
何より、心ありきの当たり前など、私には無い・・・・・・だが、それがどうした? 豚に等しい汚濁共じゃあるまいし、楽が出来る立場ではない。
堕落した読者の為に、作者が苦しむ。
搾取される立場はいい加減うんざりだが、読者などそんなものだ。騙されて金を支払う為だけに存在する彼らに、期待する方がどうかしている。 読者が物語を広めるだと?
結末が適当に纏まるから、そう書いただけだ。まさか、だろう。読者に物語の真贋を見定めて、それを広める力など無い。流行だのに流されて、文字通り誘導される家畜のように金をばらまいた挙げ句、買った作品に文句を言うだけだ。
つまり、読者が笑っている世界だからこそ作家が苦しむ世界になるのだ。実際、現代社会の中で生きる為に物語を書いている作家など売れない。売れるのは幸運に恵まれ流行に魂を売り、伝えるべき思想など持たずに小手先の技術でつまらない駄作を書き漁る、「自称作家」の豚の骨だけだ。 希望と夢の物語とは、下らないゴミだったのだ・・・・・・夢も希望も相当の物語でなければ、小汚い戯言に成り下がる。ある所にはあるが、しかし、ほぼ全てが駄作の山だと断言出来る。この世界で物語など、実際のところ数える程しかそもそもが作られていないのだ。
それが事実だ。
貴様等が「物語」と思っている物の大半はゴミでしかない。二年か三年か、日が経てば捨てる。そして飽きたら捨てる物は物語ではあるまい。 本来、あれらは語り継ぐ為にあるものだ。
その本質など、現代では無意味無価値だがな。 希望は無いと、笑ってやろう。そんなものなど私には必要ないしな。希望なる物があるとすればそれは「金」だ。希望は金で買える。
恐らく、最も安く買える物の一つだ。
人の尊厳、未来への希望、道徳や倫理観。
これらは、安売り叩き売りが常識だ。
今更語るまでもない常識だが、理解の遅い読者もいるかもしれない。なので教えてやろう。まず未来とは金ありきだというのは、簡単な噺だ。
金の有無が、豊かさを定める。
金はあっても望む本質を掴めないと死人のような顔で口にする奴もいるが、それは所詮恵まれているからこそ出る台詞だ。確かに、才能は無いのだろう。だがそれがどうした。才能が無い程度で悩める時点で、そいつは既に恵まれている。
苦悩はあろう。葛藤もあろう。
だが、それだけだ。苦悩があり葛藤があり才能もなく勝利も無い。金さえ掴めない状況の方が、まだしも現実的な環境だと言える。
本質など捏造しろ。本物が素晴らしいならば、それを越える贋作で売ればいい。やりがいがあるというのは良い事だ。面白味が増える。
才能など買ってしまえ。才能を扱い作り上げたならば、それはそれで己の功績だ。文句がある奴がいるなら、貴様に出来るのかと聞いてやれ。 世間の評価など忘れてしまえ。どうせ向こうもすぐに忘れる。スポンジにコーヒーを染み込ませたところで、食べられはしない。無駄な事だ。 だが、金だけは駄目だ。現実問題どうにもならないからな。私が言うんだ間違いない。
もう一度言おう。無理な相談だ。
金は、開き直れないからな。いや無論、状況は私もあざ笑うが、しかし腹は膨れまい。私なら、確かに物乞いでも儲けられそうだが。
堂々と乞うてやるだろう。
こちらの立場が上だからな。
善意を施す側と受け取る側。つまり、債権者とそうでない者との立場だ。一体どちらが上であるかなど、言うまでもあるまい。
拝領してやる。有り難く思え。
無論物語を売り上げるに越した事はない。もしそんな状態に陥ったとしても、結局は傑作を売る為に奔走するのみだ。邪道作家だからな。
そこだけは変えられまい。
何があろうが、同じ事だ。
「つまり君は、己で己を定めた訳か。その上で、君は人間を裁定するつもりなのかな」
老婆心でもあるのだろうか。オリバーは私の事を査定するような目で見ている。生憎だが、私はそう安くはない。暴利で己を売る主義だ。
正当な評価だと? それが金になるのか?
過大評価だからこそ、面白いのだ。
「違うな。裁定する、のではない。全ての人間が裁定する基準を持つように仕向けるのだ。私は、邪道作家だからな」
王道のやり口など、凡俗にやらせておけ。
ましてこの現代で「王道」の物語で傑作を作る奴など、片手で数えられる程度にしかおるまい。ありきたりの駄作が溢れているからな。
世界の仕組みがそれを後押ししてしまっている・・・・・・・・・・・・嘆かわしい連中だ、まったく。
他にやる事はないのか?
ならば死ね。生きる価値はない。
「そういう貴様はどうなんだ。過去の栄光にしがみついて何が言いたい? 貴様を見捨てた連中に復讐でもしたいのか?」
「まさか」
心外だ、と言わんばかりにオリバーは答えた。まあ年寄りとは次代の成長が気になるものなので民衆が落ちたままになるのか心配なのだろう。
まあ、このままでは落ちたままだろうが。
人間は自発的に成長などしないからな。
環境や才能、何でもいいが恵まれるか恵まれぬかで全てを動かせるこの世界では、当人の思想は意味を成さない。何を考え行動するかではなく、何を持って生まれているかだ。結果として豚以下の知能しか持たない役立たずが綺麗事を垂れる。 世界は愛に満ちている、と。
世界は夢に満ちている、と。
世界は神に満ちている、と。
さしたる理不尽も知らない奴にしか出ない台詞だと言えよう。実際、その三つが追いつめられた状況で役に立つ事は、絶対に無い。
もう一度言う。窮地においてそれらはゴミだ。 他でもないこの「私」が言うんだ間違いない。 確固たる事実と明言しよう。
愛も夢も神も無力の象徴だろう。現実には無力だからこそ「そうだったらいいな」と夢想する。言わば、現実逃避や思考の箸休めの為にある。
要するに、信じるに値しないものだ。
そんな物があるのかは知らないが、あった所で役には立たない。存在するとしたら、存在するというだけで燃えもしない粗大ゴミ筆頭だ。
歩く上で邪魔にしかならない。
何の役にも立たないからな。
あの世に閻魔大王がいたとして、そいつは所詮それら理不尽を味わった事もない赤子だ。偶然に恵まれた生まれだから暴力で裁けるだけなのだ。 何一つ特別ではない。
人間の信じる善性とは、逆説的に存在しない。存在しないからこそ希望を持つからだ。理不尽に勝利するのがそういう豚の骨しか人類史史上一度としていない以上、妄言で誤魔化すしかない。
世界に希望は無いのだと、認めたがらない。
何かある筈だと、そう思い込みたがるだけで、彼ら自身が既に気付いている。所詮は、才能だの環境だのが全てで、努力や信念で世界が変われば誰も苦労しないと、事実を直視する勇気がない。 現実逃避を死ぬまですれば、見ずに済むからな・・・・・・結果として無為な読者共が増える訳だ。 即ち、ゴミの山を量産する仕組みが完成する。 世の中そんなものだ。
主に、使えない読者のおかげでな。
物語の主人公共と違って私はあれこれと証拠を揃える趣味など無い。冤罪、有罪、即死刑こそが邪道作家の心構えだ。
故に、読者に情状酌量の余地など無い。
思い立てば吉日という。怪しい奴がいるのならミサイルでも打ち込んだ方が早い。読者共に立証など必要ない。どの道使えない連中だ。
極端だと思うか?
いいや、違うね! 貴様等がなあなあの関係で誤魔化し過ぎただけだ。見ろ、主人公に自己投影して現実を誤魔化す為だけの駄作の山を。
実に、下らない。
これ以上ゴミを増やしてどうするつもりだ?
ゴミの山など人間だけで十分だ。ただでさえ、ゴミと作り出される物との供給が崩れつつある。まずは先に掃除しろ。具体的には人間の数を少しは減らせ。誰も彼も子孫を作る権利があるから、後生に引き継ぐ気もない愚か者が生まれるのだ。 いっそ等級毎に分ければいい。
昔は身分制度があった。ただ腐敗するだけで、何の役にも立たなかったが・・・・・・腐敗させる事がないよう運営できれば、人類史は先へと進められるだろう。牛や豚でもそうだが、良質な素材こそ後生に残し、良質さを錬磨する。
それがなければこの様だ。
生きているだけで害悪なのは当然だが、生きているだけで生きる義務も果たさず、どころか何の為に生きているのか教えて欲しいなどと抜かす、甘ったれが生まれる始末だ。生きる意味など適当に切り刻んでいれば出てくるものだ。
大きそうな全てにとりあえず喧嘩をふっかけるだけで得られる物を、何故得られないのか。簡単な話で、単に得る為に行動していないからだ。
空から降ってくる奴もいる。
だが、そうでない奴の方が多いし、何よりその空から降ってきた恩恵に満足しない奴の方が多い・・・・・・自分の手で得られていないからだ。
私なら、大満足だがな。
空から降っても地底から生えても歓迎だ。
私には、そんな機会は永久に無いだろうがな。 例えそれが意志に反しない物であっても、人間という奴は恩恵を喜ぶ。その一方で何もかも持つ輩の癖に、何一つ成し遂げようと考えた事すらもない豚共が「己の手だけで何かを掴み取りたい」などとのたまう。
だが、そんな資格は貴様等には無い。
この世界における全ては「悪」だ。意志を持たない植物でさえも、何かを殺して生きている。
殺さずにはいられない。
生きるとは、そういう事だ。
その事実から目を背ける阿呆共に振り回され、迷惑をかけられ続けてきた。世界は連中の後押しをし、連中の信じる「神仏」「因果」「天」まあ何でもいいが、大いなる何かが見ているものだと語られるそれらは、必ずクズの味方をした。
そんな連中がいるのかは関係ない。
いずれにせよクズの味方をしているのは確かだ・・・・・・こちらの味方をしてこの様だというなら、いない方がマシだ。世界は汚濁であり、悪だけが真実であり、尊い物など存在しない。
勝利出来れば、何であれ正義だ。
そして、正義とは悪の別名だ、とどのつまり、力さえあれば何をしてもいいのがこの世界でありその力とは運不運で全てが決まる。
所詮、偉ぶっている連中など、サイコロの目に恵まれただけなのだ。己の意志や行動で世界そのものを覆す行いなど、試そうとしている奴でさえ見た試しがない。偉人を並べればわかるが何かに恵まれていない偉人など存在しない。
神も仏も悪魔も英雄も、何もかも同じだ。
意志だけで世界に匹敵し、思想だけで覆した訳ではない。まあ、だからこそ私みたいな奴が実行する羽目になっている。この世界そのものが否定する在り方を、貧乏くじで押しつけられた。私の意志を尊重するなら楽をさせて欲しいものだ。
まして、今回はその聖女とやらの汚行が原因でオリバーは落ちぶれたらしい。ならばその聖女は私の敵だ。今後の参考までに取材せねば。
いずれ殺し合うかもしれないしな。
聖なる物とは、聖なる物でない何かを迫害する大義名分であり、この場合聖なる物でないというのは要するに「都合が悪い相手」の事だ。
つまり、私だ。
人間の善なる側面、世界にある尊い奇跡の数々全てを否定する為にある存在悪。存在そのものが悪でなければ呼吸も出来ず、一方で善良さみたいな物を学習し、害ある物だと感知さえさせない。 まさしく「最悪」だ。
これ以上の悪はあるまい。
であれば、聖女などという名前の時点で敵だ。とにかく敵だ。敵でなくとも敵にする。どこにもいなければ作り出してでも敵対する。
周囲の被害? 気にすると思うのか?
私だぞ。善悪を私に問うな。
察したのかオリバーは追求を止め、私に向かいこう言った。
「アンタは、これからどうするつもりだ? 俺はとりあえず「町の英雄」様の裏を探ってみるが」「有り難いな。では何かあったら連絡をくれ」
言ってメモを手渡し(これも現代では貴重だと言える。最近は電子端末ばかりで、自筆で何かを書く奴などここ数百年は見ていない)席を立つ。 私はドアに手をかけつつ、最後に問うた。
「なあ、オリバー」
「何だ、作家とやら」
「邪道作家だ。貴様は、零落してから世捨て人になったみたいだが、新たな英雄になりたいと思わないのか?」
今ある英雄を切り捨てて、再度英雄を目指す。 物語としてはありきたりだが、人間の発想ならよくある噺でもある。どうだろう。過去の栄光を私も追い求めるようになるのだろうか?
それこそ、いつぞやの「教授」のように。
過程における輝きこそが人生の良さだとでも、そう語るようになるのか? だとしても、今ここにいるのはこの「私」だ。未来の私じゃない。
「いや、俺はアンタみたいに己の力で目指した訳じゃなかったからな。一時は栄光を求めはした。だが、今となっては疲れるだけだ」
「己の力で目指せば、何かが変わるのか?」
にやり、と笑い彼はこう言い捨てた。
「それは、いつかアンタが教えてくれ」
9
奇妙な事になった。
標的を殺す前に情報を調べるのは当たり前だ。なので私は情報屋をあたり「英雄」殿が、如何にして英雄足り得たのかを調べさせたのだ。
すると、一人の人物が浮かび上がった。
先に取材した、オリバーである。
私は町の一角にあるレストランにいた。食事を済ませつつ情報屋の女(また女だ。男は畑仕事とでも決まっている惑星なのだろうか)が席に座るまで待つ。少ししてから情報屋の女であるらしき人物が私の前に座った。
フランチェスカ・リリーとかいうその情報屋は珍しい事に金色の目、金色の髪をしていた。手術でもしたのか自前かは知らないが、金さえあれば何でも出来るご時世だ。容姿など後から何とでもなるだろう。
金さえあれば、だが。
なければ、劣等感に苛まされるのだろう。私は容姿で困った事はない。何せ判断する奴がいないからな。それなりに整っているとは思うが、別に美貌で他者を洗脳出来る訳でもない。ありきたりというのは物語に相応しくないが、一般市民代表と考えれば構わないだろう。
私は普遍的な人間だ。
どこにでもいる善良なる市民の見本だ。
人間を見かけたら三人に一人は私がいると考えていい。いや、全ての人間が私かもしれないと、そう言えるだろう。人類皆最悪だ。
あれもこれも「私」だ。
そう、その後ろにいる人物も、私の一部なのだ・・・・・・違っても何の責任も取らないし、金は払わないが。
フランチェスカはまず自己紹介をした。
「初めまして! 私がフランチェスカ・リリーと申します。これからも」
よろしく、と言おうとしたところで、
「嘘臭い笑顔はいい。さっさと用件を話せ」
と私は言った。私は心理学者ではないが経験で相手の心が大体分かる。今までの生い立ち、性格や得意不得意、人格や信条など程度だがな。
その私にすれば、嘘の臭いがする。
臭くて臭くてたまらない。
美しい髪に整った顔立ち、恐らくはブランド品であろう際新素材で出来ているらしい、前衛的な(何が前衛的かは知らないが、抽象的で珍しい形をしている物だとすれば、それだ)羽織を着て、大勢の男が目を惹くであろう出で立ちだ。
だが、そんなのは見せかけに過ぎない。
実際見た目などどうにでもなるものだ。ならば心で判断するしかあるまい。そして、この女の心はどす黒い気を放っている。
他者を利用する事しか考えていない顔だ。
私に言われたらお終いだが。
すっと表情を潜め「分かりました」とだけ彼女は口にした。そして、資料を皿の回収された机の上に差し出した。
「この統計を見て下さい。今回立候補した政治家である貴方の標的ですが、立候補する前に貴方の良く知る人物が指導にあたっています」
その人物は、先程取材したオリバーだった。
とはいえ、それだけなら偶然かもしれない。
「何の指導だ?」
「人脈の紹介から政治家としての運動方針、英雄足らんが為の知識、経験の全てを教えたようです・・・・・・元々彼は町の英雄でしたから、これ以上の家庭教師はなかったでしょうね」
どういうことだ。
元英雄が今の英雄を育てあげる?
何の為に。
「貴方があたりをつけていた政治家団体も、彼が紹介したようですね。元々自分を支えてきた団体を後進に受け継がせた、という事になります」 「受け継がせた、ねぇ」
そんな殊勝な顔には見えなかった。あの男には何か考えがあるらしい。しかし、何だ?
英雄を育てる理由。
株価の操作とかだろうか?
軍事力があれば世論も安定するだろう。いや、現代ではむしろ否定されるか。だが、その一方で浮かれるのもまた民衆というもので、空気が緩くなれば株価は無責任にあがるだろう。その先に、希望など欠片さえ必要ない。
確たる未来ではなく、適当な憶測だ。
浮ついた気分で一寸先が闇でも平気で突き進むのが、人間の心理というものだ。
「では私はこれで。料金は如何なさいますか?」「この女に請求してくれ」
言って、私はエリーゼから貰った名詞の写しを彼女に見せた。仕事を依頼したのはあの女で実行するのは私だ。必要経費は当然払って貰う。
多分依頼料金より高く付くが、構うまい。
私の懐は痛まないしな。
人間とは違うと思っている連中は、人間のような行動を取れないのが弱点だ。仕事を依頼して、かかる経費は払わないなどという事はあるまい。 まあいずれにせよ、あの女が払うしかない。
私は払わないからな・・・・・・依頼主があの女で、こちらに払う意志がなければ自然と責任者であるあの女へと請求は行く。回収できる所から回収をするのは、どこでも基本だ。
断った所であの情報屋はそうは行かないだろう・・・・・・・・・・・・私は帰る場所などないので探すだけでも金がかかるが、あの女はご丁寧に己の事務所を構えているからな。第一、私でもそうする。
金があるのかわからない下っ端より、依頼主を当たった方がどう考えても確実だ。ざまあみろとは思っても反省の意志などない。当たり前だ。 依頼を出したのはエリーゼだからな。
ちなみに、私への依頼書には経費を全て負担し必要な物があれば揃える義務がある事が明記されている。おかげで事前捜査には困らない。
口頭では「せいぜい食事くらいさ」とは言うが言うだけだ。実際にそうだとは明言していない。 まさかミサイルを持ち出すとは思うまい。
私ならやるがな。
まあ今回は既に標的を殺しているし、オリバーに再度出会って取材を終えればそれでいいだろう・・・・・・そう思っていた時だった。
大きな音を立てて大勢の男女がなだれ込み私を取り囲む。全員が武器を持っており、殺気だって今にも爆発しそうだ。
その頭目らしき男が言った。
「おまえが、やったのか」
私は全てを理解した。つまりこの情報屋の女は私を売ったのだ。英雄を殺した奴の情報であれば高く売れるだろうしな。
どうしたものか。
逃走ルートを考えつつ頭を巡らせる。とはいえここは一階の建物だ。こんなこともあろうかと、逃走しやすい場所を選んでおいた。依頼内容的に恨まれるのはわかっていたからな。まさか情報が売られるとは思わなかったが。
さて、殺すか殺さないか。
別にどちらでもいいがな。
向こうも殺す気なのだから、文句は言えまい。「その女が言ったのか? 証拠なら無いぞ」
「音声データがある。お前の声だ」
「合成かもしれないじゃないか」
言ってはみたが、こいつらは別に私が真犯人でなくてもいいのだ。自分達が縋っていた物を奪われた喪失感を、暴力でスカッとさせたいだけ。 ただのそれだけの連中だ。
生かしておく価値も、特にない。
なので、私は椅子を蹴り上げ、包囲の薄い奴を突き飛ばして逃走した。エリーゼが喜びそうなので基本的には殺さないが、怪我なら構うまい。
未来の夢が壊れるかもしれないが、知るか。
そんな素質がある奴はここにいないだろうしな・・・・・・事前に決めておいた逃走ルート通りに私は連中を巻く事にした。とはいえ予想通り警察すら味方に付けたようで、監視カメラの力がある。 暴動の火を消す方法か。
どうしたものか。面倒だから殺そうかな。
変装用の道具だけは持ってきていたので、私はそれに着替える事にした。カメラの無い場所なら連中も気付くまい。これも高かったからな。
全て経費なので、痛くも痒くもなかったが。
今頃請求が届く頃だ。エリーゼは案外、怒りで血管が切れているかもしれない。私は堂々と彼らの列に紛れ、行進に参加した。
誰も気付いていない。
まあ当たり前だ。目の前の人間すら見なかったからこそ、あの英雄に誑かされたのだ。であれば私の正体など気付ける筈もない。
私の事など何も知らないのだからな。
その場の気分で、遊んでいるだけだ。
「まったく、許せない奴だな!」
私はとりあえず横の男にそう言った。すると、その男はこう返してきた。
「全くだ! どこのどいつか知らんが、俺たちの英雄を殺しやがって!」
どこのどいつかさえも知らないまま、この男は私を殺そうとしているらしい。面白い奴だ。
この調子なら変装道具など要らなかっただろう・・・・・・少しサングラスでもかければ気付くまい。 その辺の奴を襲って衣服を奪うだけでいける。 無駄な準備ではあったが、エリーゼの苦しむ顔を見れると思えば、収穫ではあった。最新鋭技術の変装道具というのも、取材にはなるしな。
まあ変装など要らなかったが。
「ああ、酷い奴がいたもんだ!」
なので適当に同調する私だった。
こういう集団ヒステリーを止めるには首謀者の命を奪えばいい。そうすれば後は勝手に殺し合い全滅する。だが、私の流儀ではない。
生き残らせて、絶望と反省を。
その方が面白いからな。
そのためにこうも手間暇をかけたという訳だ。エリーゼであればもっと陳腐な噺で終わったのだろうが、そうは行くまい。
なので、首謀者以外を殺す事にした。
有力者でも良かったが、ここは隣人を殺させるべきだろう。そうでもしなければ反省するまい。私は「あいつが怪しいぞ」といった台詞を効果的にまき散らし、場の空気の掌握に成功した。
後は放っておいても殺し合う筈だ。
首謀者が死ななければ全滅はあるまい。なら、生き延びた輩が己の思慮の浅さに生涯苦しむ姿が拝めようというものだ。仕事が終わればもう私はいないが、結果だけは後で知れるだろう。
暴動の種だけでなく、適度に暴動を鎮めようとする類の言葉も撒いておく。農業みたいなもので「悪意」と「良識」を撒いておけば、後は勝手に連中が花を咲かせてくれる。
強いて言えば、もう一手必要か。
私はある程度暴動で殺し合う様を見てから端末を接続出来る場所を探し、ジャックにあらゆる類の警報装置、スプリンクラーなどを作動させろと命じた。
ある程度混乱が静まったところで、これ以上は得られるネタがなくなったので、私は町を去る事にした。入り口のゲートは私が逃げないよう警備がいたが、所詮即席のものだ。
顔の似通った奴の身分証明書類で事足りた。
警備類の力など、こんなものだ。電子証明など幾らでも誤魔化せる。逆に、全てを記憶して人間の力だけでやる奴は、決して欺けない。
そんな奴はもういないがな。
私は町を出て、空気を吸った。
人間がいなければもっと美味しいのだろうなと思いつつ、いなければ面白い文化もないのでよく出来た仕組みだと、今更ながらに笑うのだった。
10
思ったより被害は少なかったらしい。
まあ私は殺戮を楽しんでいる訳ではないので、別に構うまい。エリーゼは経費の件もあって大分不機嫌だったが、見ていて最高に笑えた。
超越者気取りで眺めているからだ馬鹿め。
現場で動け。でなければ、得られる物も得られまいよ。上から講釈を垂れるだけの奴に、何かを施すほど世界は優しくも緩くもない。
重傷7名、軽傷32名だそうだが、重傷の奴は足や腕を失っていてもおかしくはない。わざわざ調べる気にもならないし、自業自得だろう。
少しは反省したらしく、取材映像では見るからに申し訳なさそうな顔をしていた。そういう顔をしているだけですぐに忘れるのだろう。そして、何度でも繰り返す。だが当分はあるまい。反省の色など虚飾でしかないが、こいつらがさして成長せずとも、争いがあるだけで淘汰は行われる。
余分なゴミが減った。
元よりゴミのような連中ではあるが、そのゴミの内側にある淀みを減らせたという訳だ。なので今回は上々の結果だと言えるだろう。
エリーゼの悔しがる顔も見れたしな。
半分は経費のおかげだったが、とにかくだ。
私はゴミはゴミでも核燃料みたいな、存在するだけで害悪な奴ではあるが、それも使いようだ。害悪か否かではなく、その悪をどうするかだ。 必要悪として仕事にすればいい。
やるべき事は、それだ。
さて、私の目の前の男は果たして必要悪足り得たのか否か、それはこれから分かる。
「どうして今回の騒動を演じた?」
私は再び例の小屋の中でコーヒーを飲んでいた・・・・・・目の前には当然、オリバーが座っている。「演じた、か。確かにな。俺は俺の為だけに町を丸ごと利用した」
一息ついて、彼は語り出した。
「なあ、ええと」
私の名は名乗っていなかったので、私は
「適当に呼べ。良く呼ばれるのは「先生」だ」 とだけ言った。
「先生よ、アンタは正義の味方が戦う噺をテレビで見た事はあるかい?」
何の噺だ。
いや、勿論ある。テレビなどあまり見なかった気もするが、そういう番組は良くあるものだ。
正義が戦って、正義であるが故に勝利する。
要は「世の中暴力こそが全てであり、正しさは暴力が優れている奴の刃であり、悪とは搾取され苦しめられる民衆である」という事を子供に教え導く為にあるものだ。
平和の為に、戦う。
そういう適当なお題目があれば殺人なんて軽い罪だよと、世界の真理を教えるには相応しい番組だと言える。大体、何故魔物に殺されれば涙するのに、魔物を殺したら快哉を叫ぶのだ?
意味が分からない噺だ。
そも「平和」とは何だ? 戦争がなければ平和だとでも言うつもりか? 子供じゃあるまいし、どれだけ浅はかな発想なのだ。
目に見える皆が笑顔であれば、それでいい。
つまりその他に下手を押しつけても構うまいという訳だ。自分達が良ければそれでいいやと口にする癖に、いざ他の連中が悪を成してでも何かを求めれば、それを暴力で排する。どれだけ変態的な性癖なのだ。貴様等はそういう趣味なのか?
今回の件は良い薬になっただろうし、感謝され金を貰いたい。最低限の品性すらないからそれも出来ないのだろう。困った連中だ、まったく。
オリバーは続きを語り出した。
「俺は、正義の味方が負ける姿を見たかったんだ・・・・・・周囲の都合なんて考えもせずに、偉そうに暴力を振りかざす正義の味方よりも、あれこれと策を弄して勝とうとする、悪の怪人に勝って欲しかった」
思わず照れそうになったが、自粛した。
続きが聞けないからな。
「だから俺は、「英雄を作る」事にしたんだ」
満足そうに、実際やり遂げたのだから当たり前ではあるが、高らかに彼はそう言った。
「・・・・・・つまり、世界を救う為の英雄を、英雄を殺して悪が勝つ為に作ったのか?」
それもゼロから育て上げた。
新しい! これはこれで面白いぞ。
「成る程、確かにな! 悪は正義に敵わないが、ならば敗北する為の正義を作ればいい。敗北するように調整しているのだから、勝てて当然だ」
まさかそんな、気の長くなる悪意を走らせる奴が教授以外にもいようとはな。世の中広い。
「ああ、そうだ。俺は、町の連中が嫌いだったよ・・・・・・・・・・・・移民の俺を迫害したし、俺が悪人を応援するとよく石を投げられた。無実だと後から分かっても、謝るフリさえしなかった」
「だから、英雄を作り上げた、か」
だが、そんな環境にいた奴が、かつて英雄だと言われたのか? どうすればそうなるのだ。
「それは、簡単さ。努力したし、何より俺を祭りあげる事で連中に得になるよう振る舞った。当然長続きはしなかったが「英雄の法則」自体は既に理解できたしな」
何とも気長な計画だ。たったそれだけの為に、ここまで長大な計画を実行出来るものなのか。
「どうして、そこまでする?」
「アンタだって、そうなんだろう? 長いこと、売れもしない物語を書いたそうじゃないか」
「大きなお世話だ。貴様のは仕事ではあるまい」「どうかな。きっと俺は舞台役者じゃなく舞台を作る側だったんだよ。陳腐な舞台ではあったが、役割は示さなきゃな」
そういう、ものなのか?
「私とは逆なのだろうな。私は栄誉より金を求めるが、貴様は金を得てから栄誉を求め、勝利より過程を求めた」
だが、教授や私と違うのは世界の変革よりも、もっと個人的な願望だけという事か。己の都合のついでに世界の変革を望む私。己の都合の為に、世界の変革に挑む教授。己の都合で考え世界より夢を見るオリバー、といった具合だ。
「かもな。それで、どうする。通報するか?」
「警察が好きな訳がないだろう」
悪い冗談だ。人間の善性くらいには質が悪い。「お互いこのまま別れよう。性質的に、もう会うべきではあるまい」
「確かに」
適当に手を振って私は別れる事にした。
振り向くと、世界に置き去りにされた男の墓が亡霊のように漂っていた。だが、私はああはなるまい。生きて、生きたまま金を掴むのだ。
その為なら神仏であろうと邪魔なら殺す。
悪魔が立ち塞がるなら、叩いて躾る。
人間が邪魔するなら、金で買い叩くまでだ。
そして、英雄が来るなら殺せばいいし、怪物が来るなら利用すればいい。相手にもよるが何なら金を払ってもいいくらいだ。
私には最大の親愛表現だと言える。
英雄よりは、金になる。
その為に、私は
11
記憶力の無さには自信がある。
例えどれだけの大失敗だろうが、神の如き威光であろうが二秒で忘れる。元より、正否も権威も虚構なのだ。支配も上下も嘘でしかない。
この世には、何も無い。
何かがあると、そう思い込んでいるだけだ。
「まったく、つまらないオチですこと」
ぶすぅと口先を瓢箪のようにすぼめながら彼女はそう口にした。依頼された際のレストランで、私と彼女は達成報告会を開いている。
ブランド物の女性用スーツらしく、見た目だけ見れば「出来る女性」の見本みたいな格好をしているエリーゼだが、格好だけの女だ。
所詮、その悪意も態度も格好だけ。
つまらない女だ、まったく。
だから太るのだと分からないのだろうか?
人間を蟻のように眺めるのが楽しい、と面白味の無い台詞を吐いていたエリーゼも、流石に莫大な経費の山と死傷者が思いの外少なかった事実の前では、そう気楽に構えられないらしい。
いい気味だ。
「はは、ザマァ」
「五月蠅いですわよ!」
口調が崩れるほど悔しかったらしい。死傷者はともかく送りつけた経費は莫大だったからな。
ともすればミサイルが買えるくらいだ。
「大体、経費と言っても限度があるでしょう!
常識の範囲内での経費は認めますが、この莫大な無駄遣いは許容出来ません」
何なら法廷で争っても構いませんが? と魔性の笑顔(と、本人は思っているらしい。だが表情が緩すぎて薬物で飛んでいる奴みたいだ)を浮かべながら、私にそう囁いた。
「前々から思っていたが、貴様の笑顔は不細工に過ぎる。女は気立てだ。そんな、「家ではスルメをかじりながらビール一気飲み。かつ、野球中継に罵声を吐きながら世の男の悪口で自分を慰めるさもしい女」みたいな顔をされてもな」
笑顔が不細工、辺りが気に障ったらしく、はぁあと声を上げて抗議し始めた。。
「どんな顔ですか! まったく、適当な事言わないで下さい。訴えますよ?」
「安心しろ、呼ばれれば出てやるさ。ただしその場合は法廷の中で、貴様が如何にケツが重い癖にケツの穴の小さい女なのかを、全世界に発信して高らかに語り続けてやるさ」
「な・・・・・・」
絶句して「セクハラですぅ!」と叫ぶエリーゼだったが、しかし私のやり口は今更だ。
勝ちたければ勝てばいい。
その勝利を私の実利にするまえだ。強いて言うなら、私はエリーゼに勝てない。だが、別に勝つ必要はあるまい。放っておいても足下を滑らせて失敗するような女だ。であれば、当人の望む形を提供しつつ、当人の意志でこちらの実利になる形でしか動けないよう誘導するまでだ。
「法廷での争いは貴様が勝てばいいさ。だが私は裁判を引き延ばせるだけ引き延ばして色々と口にするだけだ。貴様のスリーサイズとかな」
ウエストがああ見えて98もあるらしいぞ。
割とあの女は着痩せするんだなと思うだろう。「し、信じられません。普通そこまでします?」 呆れた様子で彼女はそう言った。だが私に裁判で勝利出来る技能など無い。というか、勝負事において大抵の場合負けるのが「私」だ。
まともに勝てた試しがない。
「するさ。何ならメディアも呼んでやろうか?」「謹んで遠慮します・・・・・・まあ、いいでしょう。私もここでのお仕事ノルマは果たしましたし? そろそろ次の現場に向かわなければなりません」 というわけでまたのご利用お待ちしておりますと口にするや否や、私の視界から消えた。どんな手を使ったのかは知らないが、元より人間の法則の内にいない連中だ。そのくらいするだろう。
旅の楽しさも知らないとは、正直残念な奴だ。「っと、忘れていました」
見ると彼女が再度そこに座っている。どうやらノリで帰ろうとしただけらしい。
締まらない女だ。
そんなだからケツの穴も緩いんじゃないか。
「今、何か仰いました?」
笑顔のままで私を睨むエリーゼ。だが私は正直に「こんな風に噺を締めるのが下手だからケツの穴も緩いんだろうなと思っただけだ」と言った。「で・す・か・ら、緩くありませんし重くもありません! 人のお尻に言及しないで下さいまし」 顔を真っ赤にしながらそう吐き捨てるエリーゼだったが、こういう部分が悪人に向いていない。 悪を名乗るには役不足もいいところだ。
ま、本人が思いたいならそれはそれで構うまい・・・・・・猿回しになった気分だが、この様で己を悪だと思っている女だ。気付く知能はあるまい。
気付かれたところで困らないしな。
「ああもう! 何の噺だったかしら、ええと・・・・・・そう、貴方「英雄を殺した気分」はどうでしたか?」
「? 別に、今までと変わらないが」
あら、と予想が外れたのか、エリーゼは詳しくこちらの感想を聞いてきた。
「前々から分かっていたことですが、貴方は破綻した存在です。貴方自身口にしているようですが「人間」だとはとても呼べないでしょう」
淡々と、嫌味な風もなく私に告げる。
本来であれば「酷い、人間じゃないなんて!」と叫んでいれば視聴率が取れるのだろうが、正直面倒臭い。演技でも御免だ。
して欲しいなら金を払え。
噺はそれからだ。
「おいおい、随分あけすけだな」
あけすけがどんな意味だったか思い返しながらこんな事を言っている時点で哀れみも何も無いがとにかく、請求出来そうな部分は請求する。
それが、私だ。
あれだ、そう、開いているしすいている宿屋のような在り方だろう、多分。「風通しの良い性格してますね」って事だ。
「そんな酷い台詞が良く言えるな。差別的だとは思わないのか? 言って良い事、悪い事が世の中にはあるって習わなかったのかな」
「貴方が、それを、いいますか!」
確かに、その通りだ。
ええと、何の噺だったか・・・・・・そう、英雄殺しの際の気分、についてだ。
「気分も何も、人は人だ。人でなくとも個人だ。二本足の生物が増えるか減るかの問題だ。ならばそれを殺す事に罪悪も区別もあるまい」
「へぇ・・・・・・自身を超越者だとでも?」
冷たい目で私を見据えるエリーゼ。散々人間に痛い目にでも遭わされたのか、人間特有のエゴが許せないようだ。
ある意味私とは似通っている。
人間のエゴで自滅を狙うエリーゼ。
人間のエゴで更なる淘汰を行う私。
とはいえその場凌ぎの暇潰しで行動するこの女と一緒にされたくはない。言っては何だが彼女は無職なのだ。仕事という概念が存在しない。
金を儲ければ仕事だと思っている。
浅はかな女だ。怪物属性の連中は迫害される事を忌避するが、仕事など迫害されてなんぼだ。
されればされるほど、目的に近づく。
仕事とは、そういうものだ。
「まさかだろう」
私は失笑しながら答える。案外、この女は頭が悪い、いや頭が良いのに残念なのだろうか。
そうかもしれない。
「ただ、私は存在しない人間社会の基軸に興味が無いだけだ。英雄など、所詮都合が良いからそう呼ばれる人身御供に過ぎない」
「あら、それは言えてますわね」
人間の汚さを肯定されると、途端に笑顔になる・・・・・・人間は嫌いだが、人間を玩具にする自分は好きらしい。
ひねくれた性格だな。
私に言われたらお終いだぞ。
「けれど、人間の身勝手な恨みに関して、貴方はどう思ったのですか? まさか人間みたいに憎悪に参ったり被害者ぶったりしないのでしょう?」 確かに、しない。
罪悪感など欠片もなく、そもそも憎悪を向けられるなどいつもの事だ。大体読者から憎悪を向けられれば勝ち、みたいな執筆をする時点でお察しだろう。
しかし、感想か。何かあったかな。
「強いて言うなら「面白い」だな」
「?・・・・・・面白い、ですか?」
何だろう、それこそ先程言った「人間らしい」答えでも期待していたのだろうか。私がそんな、ありきたりの台詞を吐く訳が無いだろう馬鹿め。やるなら何事も、徹底的に、だ。
「ああ、人間の身勝手さは最高に面白い! 人生とやらがあるとして、それはこの為にこそあったのだと叫び出したいくらいだ! 面白い面白い、本当に世界は面白い! 人間は最高だ。幾らでも使い道があるし、面白い答えが山ほど出る」
「・・・・・・やっぱり、私には理解出来ませんね」
冷たい目、全てを拒絶する目でエリーゼは口にした。余程人間に忌避感があるのだろう。人間と仲良くする事に意味は無いが、幾らでも使い道があるのだから、少しは前向きに考えればいい。
人間は、裏切る。
人間は、嘘をつく。
人間は、迫害する。
人間は、卑怯だ。
人間は、数に頼る。
人間は、約束を破る。
人間は、おぞましい破壊者だ。
大いに結構ではないか。それはそれで面白いというものだ。なに、核弾頭で絵描きをする気分で物事に挑めばいいだけだ。
何回か爆発するかもしれないが、構うまい。
死にさえしなければ、破産さえしなければ負けとは言えまい。例え死んであの世に流された所で破産さえしなければそこで仕事をすればいい。
破産した場合? 戸籍を盗むしかないな。
あるいは、新しく作った方が早いか。
なので私はこう言った。
「それはお前が内向きなだけだ。少しばかり目線を変えれば、明日には私みたいになっているさ」「えぇ・・・・・・それは、嫌ですね」
その割には暗い気持ちが薄れたのか、大分マシな顔つきになっていた。なんと、どうやら彼女の悩みを解決したらしい。幾らくれるのだろう。
「あげませんよ。はぁ・・・・・・随分徒労ばかり積もりましたが、無駄足ではないだけよしとします」「是非そうしろ。有り難く思えよ」
「・・・・・・・・・・・・」
何かを必死で堪えているらしい。笑顔が硬直し震えている。そんなに私への感謝の気持ちが溢れているのだろうか。
「ええ! ではそうさせて貰います」
それと、もう一つと彼女は続ける。
「私、貴方の事が大嫌いです!」
「そうかそうか、私は貴様の事が大好きだぞ?」 はああああと素っ頓狂な声を上げてエリーゼが拒絶の意志を出すが、まあ、構うまい。
「なに、好意とは身勝手なもの。貴様が嫌がれば嫌がるほど、燃え上がるように愛してやるとも。貴様が殺意を向ければ照れ隠しだと思い、貴様が嫌いだと拒絶すれば好きの裏返しだと勝手に思う・・・・・・実に素晴らしい人間関係ではないか」
まあ私は人間ではないのだが。
エリーゼもそうなので、非人間関係とでも言えばいいのだろうか?
「ですから! 私は! 貴方の事が嫌いです」
「それとこれとは関係あるまい。貴様がどう思うかなど知らん。私がどう思うかだ」
「何ですかその横暴な好意!」
長い間生きていますが初めて聞きましたよと、私の事を誉めるエリーゼだった。
「はあ・・・・・・疲れました。貴方とは二度と仕事をしたくありませんね」
「おや? 相手が嫌いだから仕事を選ぶなんて、まるで「人間みたい」じゃないか。ははん、貴様さては本当は人間の事が大好きだな?」
怒る気力も無くなったのか「今度こそ失礼しますね」と口にして、今度こそ彼女は消えた。
今回の騒動で理解すべき事は、所詮、この世の全ては絵空事だという事実だ。何もかもが虚構であり、何もかもが真実に値しない。
真実とは作り上げる物だからな。
この世界に絶対の指針など、無い。あるとするなら、それは己で作り出した指針のみだ。神仏や悪魔に頼る時点で、既に絶対では無くなる。
縋る相手次第の指針になるからな。
それはそれで間違いではないが、その上で己の指針を作らなければならない。トロイア戦争じゃあるまいし、神の都合で戦争の行く末まで定められてたまるかということだ。何であれ、最終的に決めるのは当事者のみでなければならない。
それが「生きる」という事だ。
それを勘違いして「飢えている方が充足出来るから、それはそれで一つの幸福だ」などと抜かす愚か者もいるがな。報われない立場だからこそ、良い物が出来るとほざくのだ。
生憎だが、私はそれに当てはまらない。
ただ、仕事の対価を払われていないだけだ。 金を踏み倒しながらそのような世迷い言を押しつけられるなど、最低の気分だ。大体その屁理屈で行くなら、作り手は永遠に報われない。
死んでから指を指されて喜べとでも?
都合の良い屁理屈だ。子供の発想だ。
冗談じゃない。今、この瞬間に「仕事の対価」が払われずに済む理由には決して、なりはしないのだ。それこそ情けない言い訳ではないか。
いいからさっさと金を払え。
泣き言は一人でほざいていろ!
私を巻き込むんじゃない。
持つ者であるが故の孤独。
比較による幸福の存在。
目標達成による燃え尽き。
それらがあるから成功の前段階の方が充足感があるなどと思い込む。言っては何だがそんな訳がないだろう。生まれてこの方誰かと繋がりを持つ事など一時として無く、比較する相手もおらずにただ一人で幸福を定義し、目標達成どころか永遠に終わらない宿業を追い続けた。
その私が言うのだ間違いない。
そんなのは、持つ側の戯言だぞ。
いちいち騙されるな、馬鹿め!
乾いているから真の幸福などと、そんな戯言は強さも弱さも併せ持たず悪意だけで世界に向かいしかも進めば進む程徒労に終わり進む前より後退してからほざけ!
良い事なんぞあるかボケ!
少しは弁えろ、勝ち豚共が。鳴く程度の事しか覚えなかった豚共に、生まれついての悪の苦悩が分かるものか。
いいか良く聞け・・・・・・戦う前から追いつめられ策を弄すれば無駄に終わり、世界全てが敵となり根回し全てが仇となる。そんなのは序章だ。
実際、怪物共が羨ましい。
そうエリーゼにも言ったが、彼女は納得行かないらしかった。だが事実だ。たかだか人間に石を投げられる程度で超越者として楽が出来る。
これ以上の手抜きが他にあるか?
いいや、絶対に存在しない。
そもそもエリーゼは得るべき物が何なのかすら定まっていなかった。どれだけ力があろうが目的もない奴がどこに進むというのだ。それは力ある存在が上に立っている、のではない。ただ迷走をしているだけだ。自分が見えていない。
人間を見る前に、まず鏡を見ろ。
無職の自分が写っている筈だ。
何にしろ私に言えるのは、この遠回りに価値があると抜かすのは、所詮持つ側の輩だからこその台詞だということだ。成功してからあれこれ理屈をこねる奴も多いが、しかし無意味な行いだ。
私か? 勿論、ただの幸運だとも。実際傑作を何本書こうが、運がなければ広まりさえしない。精々その幸運の恩恵を適当に楽しみ、自分の力が成果を得たのだと勝手に結論付けるとしよう。
つまり、どうでもいい些末事だ。
まあ幸運というより、私の場合当然の結末だと言えるがな。幾ら何でも運が傾きすぎだ。幸運が降って沸いたというより、当たり前の事態なのだ・・・・・・・・・・・・第一、生まれてこの方一度も成功を掴んでいないというのが、既に異常だ。
改めて考えると、本当におかしな噺だ。
どうしたらそうなるのか? 私が知りたい。
いや知りたくもない。それよりその原因を取り除いて、さっさと勝利を収めたいものだ。
いい加減、うんざりだからな。
やる気など微塵も沸かない。当たり前だ、一度も勝利による実利を得た事がないのだからやる気がある方がおかしい。なら惰性なのかというと、そうでもない。惰性で物語は書けない。
悪意だけが、尽きなかっただけだ。
最悪だと自認するだけあって、私はこと悪意の量には困った試しがない。それが役立った試しも無いが、文字通り「無限に」悪意が沸き上がる。 限界は無い。文字通りの無限だ。
ドス黒さも一刻毎に濃くなってゆく。際限ない悪意の結晶。だからこそ物語も尽きないのだ。
物語とは、悪意そのものだ。
性格が悪くなければ物語なんぞ書きはしない。人格が破綻しているからこそ、嘘八百の希望絶望人間らしさをあざ笑う架空の刃が出来るのだ。
人間が嫌いでなければ、書けはしない。
作家の第一条件は人間を嫌いになる事だ。そうでなければ作家と名乗る資格は無い。最近は自称作家や編集者ばかりが目に立つが、本来であれば作家など、人間失格の化け物だからこそ成り果てる存在で、ちやほやされるという行為からこの世で最も遠い職業なのだ。
有名人でも成功者でもない。
むしろ、逆。「失敗者」だからこそ作家だ。
致命的なまでに失敗し、真っ当な道を到底望めないからこそ、作家などになる。なるしかない。他に道があれば作家など目指したくもない。
人間の失敗作。あるいは、粗悪品か。
別に卑下するつもりはないが、むしろ成功作があの様なら成功しなくて良かったと安堵せざるを得ないが、そうではなく「金」が肝要だ。
とにかく実利が遠のくのだ。
勘弁して欲しい。前にも言ったが、例えば怪物連中であれば「人間に迫害される」という比較的楽な対価で「物理法則に囚われず楽が出来る」という利益を得るものだ。だが私にはそれがない。 利点どころか、何一つとして存在しない。
どういうことだ。理不尽ここに極まれり。何故実利も寄越さない癖に対価だけは要求するのか。私はいつもそうだ。馬鹿共が鼻水を垂らしながら偉そうに権利だけは主張してきて、その癖こちらの要求する対価は絶対に払わない。
むしろ逆ギレだ。
それで全てが通ると思っているし、実際立場や暴力で押し通させられた。これでよくもまあ私に綺麗事を押しつけられるものだ。
恥という概念が無いのだろう。
少しは弁えろ。息を吸って吐くしか脳の無い豚と、私が比べられるとでも思うのか? 思うならその脳味噌を取り出した方がいい。
つけているだけ無駄だからな。
私に言われたらお終いだぞ。
少しは反省しろ。
因果応報など、存在しない。
そんな物があるなら人類の大半は、既に死んでいなければならないではないか・・・・・・悪事を働けばあの世で裁かれるとか正しい行いであれば報いがあるだとか、甘ったれにもほどがある。
仮にだ。死後の世界などという物があった所で物語の一冊も売れないのは間違いない。そして、作品の一つも売れない先祖の加護なんぞ、私には悪魔の呪いと大差あるまい。
元より「血縁」という感性もないしな。
家族という発想が既に無縁だ。家族という物があるとすれば、それは殺し殺され利用し利用されの関係だろう。愛を育むのが家族の幸福だと人は言うが、馬鹿を言うな。家族なんぞ殺し合ってる方がどう考えても多いだろう。
親は親の事を。
子は子の事を。
互いに己の都合だけだ。
子を迫害して優越感に浸り、親を追い出し家や財産を奪う為に存在する概念。それが私にとっての「家族」という概念だ。
そら、因果応報などありはしない。そんな苦痛に耐えた先が、よく知りもしないさして助けられた覚えもないゴミのような連中と再会しなければならないというのだから、むしろ罰だろう。
正しい行いを成せば天国に行けると人は言うが「正しさ」というのはその時々の権力者の都合であり、閻魔大王がいればそいつの、天使がいれば天使の都合だ。偉そうに振る舞えて偉さを暴力で押し通せるだけだ。ただのそれだけで、己が体操な存在だと自惚れているに過ぎない。
法や理念があるだと?
その法や理念も、暴力の上によく知りもしない連中が、勝手に決めた事ではないか。少なくとも私は同意した覚えはない。
世界に因果応報など、無いのだ。
あるとすればそれこそ押しつけであり、自分の事しか考えていない連中のエゴなのだ。己の都合を優先させているだけで、正しさなど存在しない・・・・・・・・・・・・「正しい」と暴力で押しつけにし、それを無理矢理言わせられるかどうか、だ。
自分を大切に思っている奴がお迎えに来るとかそういう話をよく聞くが、しかし私は死にかける事が多くあったが知り合いなど見た事はない。
そもそもいないしな。
私の事を思う奴がいるなら、むしろ見てみたいくらいだ。怪物連中もかくやというくらいに人に嫌われ迫害される事が、特に私自身そういう努力をした訳でもないのに日常的に発生する。まさに「発生」だ。空気みたいなものだと言える。
恐らく、私の事を思うばかりに私と敵対し憎悪する事で、こちらに害を成そうとするだろう。
前提として私には魂が入っていないのだから、あの世も何もないがな。汚らしい綺麗な天国など見せられたところで、私はそれを汚いとしか思わない。天使が微笑みかければ「気色悪い」と罵り神が諭しに来れば「傲慢さと暴力の化身」とこき下ろすだけだ。
悟ったような仏がいれば、多分殴るだろう。
悟りを開くという事は生きる苦しみから逃げるという事であり、そんな奴に知った風な口を利かれる覚えはない。むしろそちらが弁えろ。
こちらは捨てずに向き合っている。
楽をする為だけに知った風な顔をして、苦しみから解脱し澄まし顔で偉そうな説法を垂れる奴になぜこの「私」が偉そうにされねばならんのだ。 貴様等と違って手を尽くしているんだぞ。
いや何も言わなくていい。斬り殺すだけだ。
その程度の価値しかない。首をはねれば置物に丁度良さそうな顔してるしな。相互理解や慈善の精神など知ったことか。
物語物語物語だ。
貴様等のそれは、私に何か得があるのか?
物語の一冊でも売れるのか?
売れない、できない、やりもしない。ならば、そのような妄言などあろうが無かろうが同じだ。死後の世界の安寧だと? 馬鹿馬鹿しい。死後の世界に安寧などあるものか!
なにせ死んでまで書かなければならないのだ。 それのどこに、安寧なんぞがあるというのか。 安寧。いっそあの世もこの世も人類を無くし、神や仏というとりあえず偉そうな奴らを皆殺しにして全ての生命体を無くせばあるかもしれないぞ・・・・・・そんな安寧に価値があるのかは知らない。私には何の関係もない話だ。
今回の件で得られた教訓は、一時の倫理観など何の役にも立たない、という事だ。英雄だともてはやす一方で、その英雄をあっさり捨てる。
昨日まで正しいからと押しつけていた誇りを、次の日にはゴミとして出すのだ。そのゴミを拾いまたその次の日からは神として崇め称える。
せわしのない連中だ、まったく。
正しい、正しいと叫ぶ連中に、己の言葉の責任を取る甲斐性は、当然だが無い。責任とは、立場や権威で取らなくても良いと押し付けられる暴力を持つ連中の、建前としてのみ存在する概念だ。 取らなくていいから責任なのだ。
果たさなくていいから義務なのだ。
示さなくていいから親愛なのだ。
裏切りを容認するから友情なのだ。
身勝手を肯定するから倫理なのだ。
殺人を容認するから正義なのだ。
そして、悪意を誤魔化せるから、善意なのだ。 世界に尊い物など存在しない。何であれ暴力で粉微塵に出来るものだ。それが人間の歴史であり人間の肯定する「正義」とやらだ。
大勢の凡俗が肯定するなら、信じるな。
今回の件だってそうではないか。政治家に熱狂する一方で、彼らはその政治家自身を個人として見もしなかった。だから騙され表面だけを肯定し都合の良い部分だけを解釈した。それで自分達が滅びる事になれば「理不尽だ」と叫ぶのだろう。 こんな事は聞いていない、と。
そう言えば、それで世界の側が何とかするべきだと思っている。自分では危険を冒さず、安全圏にいながらあれこれ命令し、不細工な笑顔を雑菌まみれの肥料のように張り付け、その臭い顔面を自慢げにみせびらかす。
生憎だが臭くて汚いだけだ。
人間とは、そういうものだがな。
だから大半の人間は必要ない。労働力というか兵隊アリというか、その他大勢という役割は機械で賄える世界の中では不要そのものだ。
いてもいなくてもいい、ではない。
いるだけで邪魔なのだ。私に言われたらお終いだぞ・・・・・・それも今更かもしれない。いるだけで人間社会にとっての邪魔者になる私のような奴に「邪魔で無駄な人間が多い」と言われる時点で、有用な人間の少なさは知れる、というものだ。 その他大勢の生涯など、知るか。
いずれにせよ相手が人間だろうが怪物だろうが何かを分かち合う事など未来永劫無い以上、私に関係はないだろう。どうでもいい些末事だ。
どうでも良くないのは、金だ。
別段買いたい物など面白い物語と充足した時間だと言い張れる自己満足しかないのだが、その他大勢のゴミ共に左右されるのはもう御免だ。私は暇ではない。連中の「一般的な倫理観」とやらに合わせたところで、連中が私の実利を保証する訳ではないのだから、それこそ知ったことか。
世界に己一人きり。
それでいいではないか。
いや良くなくてもいい。知るか。それが貯金を増やしてくれるなら考えてやってもいいが、孤独なんぞに参るほど私は暇ではない。ああいうのは物語として美しく飾りたてられているかのように見えるが、見えるだけで実体はただの遊び人だ。でなければ、孤独なぞに悩みはしない。
悩んでいる暇など、あるはずがない。
仕事、仕事、仕事だ。
苦しむ時間を物語に、喜怒哀楽を物語に、敗北からくる教訓を物語に、痛みと屈辱を物語にだ。 全て、書かなければならない。
なればこそ、そのような暇などない。人間共に憎悪を抱くだとか、人間とは違うと自負を抱いて優越感に浸るだとか、暇なのか貴様等は。
そういう連中が恵まれた能力や幸運があるだけで実利を掴むのだから、正直、やってられない。 見れば見るほど馬鹿馬鹿しくなる。
だからこそ、私の物語には不要だ。世界に相容れない葛藤など、幼少の頃に克服しておく事柄だ・・・・・・言ってしまえば子供向けの物語なのだ。
無論、私の物語は子供でも読める。
読んだ後どうなるかは知らないし責任など何も取らないが、とにかく読むだけなら可能だ。根幹にある思想も、わかりやすく書いてある。
わかりやすく人間性を否定している。
善なる全てと敵対させる。
悪が全てだと、自認させられる物語だ。
人間も怪物も英雄も等しく、自分達が如何に悪のみで構成されているのか、被害者などどこにもおらず、全てが加害者で殺人鬼であるのか、その圧倒的事実を本人の意思で自認させるのだ。
自分の意志で、善なる全てを否定させる。
これこそ人間の成長の本質ではないだろうか。私の物語にはそれが出来る、筈だ。売れてもないので何とも言えないが、しかしそれを成し遂げる為に、私は物語を書いている。
でなければ、やってられるか!
読者の絶望を何とか想像しなければ、売れない物語など書いていられまい。読者の絶望を、世界の否定を、善なる全てに報復を。
そここそが、私の存在理由だ。
だから負けているのかもしれないが。世界とは都合の悪い物を暴力で排し、汚い物には蓋をして現実から目を逸らし、自分が「立派だ」なのだと思い込んで内側に引きこもる為に運営される都合を押し通す為の暴力装置だ。
ただのそれだけ。
世界など、そんなものだ。
そんな世界を、生きるしかない。
怪物連中はそんな事すら目を背けたまま生まれついての優位性に溺れていれば、それだけで楽な道程を歩めるものだ。楽、まさしくそれだ。
向かい合わずに、あれこれと不満を垂れる。
それだけで変える為に挑もうとすらしない。
戦いもせずに、環境が悪いと嘆くのだ。世界の方が悪いと、人間が悪いと、そう文句を垂れれば己の責務を果たした気になっている。羨ましい話だと言えよう。
私も、そんな楽をしたかった。
言っても仕方ないので行動するとしよう。まあ邪道作家である私にとっての行動とは、要するに執筆の事なので、売り上げには関与しない。
そもそも、編集者が絶滅している。
どうしたものか。覆す為には組織力や金が必要になってきそうだが、金を稼ぐ為に大金を動かせれば苦労しない。かといって優秀な協力者など、どれだけ探してもいなかった。電脳世界の利便性があればと思ったが、何のことはない。
ゴミ山にはゴミしかないものだ。
まさしく正しい意味で「ゴミ」だ。ごっこ遊びで自己満足に浸り、出来る事を右から左へやっていれば「立派」になれる。そう思い込んで幸運を持つ連中が堕落した贅肉を見せる豚の集会場こそ電脳世界の本質だろう。
淘汰されず、ゴミだけが降り積もる。
やはり生物淘汰は必要だ。武を誇る世界は昔の話だが、いっそ運動の授業などやめて武術や剣術でも学ばせればいい。肉体の強弱ではなく淘汰の本質を学ばせるのだ。
誰かの幸福は誰かの不幸であり、
誰かの勝利は誰かの敗北なのだ。
その当たり前すら解さない阿呆が、多過ぎる。敗北を知らず執念を持たず理不尽を知らない幸運に恵まれた愚か者ばかりを持ち上げた、その結果がこの様だ。
恥を知れ、馬鹿め!
そんな感性があれば既に自殺しているだろうがな・・・・・・第一、恵まれた勝利しか知らない奴に、世界の実験を預け続けるなど正気の沙汰ではない噺だ。勝利しか知らない奴が限られた勝利者しか容認しない世界で、一体何を変えるというのか。 力ある者に出来る事など、無い。
ある筈が無いだろう。何せ、力があるのだから本質的に理不尽の全てを「経験してすらいない」のだ。知らない概念をどうやって変えるのだ?
分を弁えろ。上に立つ貴様等が無力そのもの、いない方がマシなんじゃないのかとすら思える私に対して、意見を垂れる資格などあるものか。
まずは金を払え。噺はそれからだ。
私に金を献上して初めてそこにいる事を許してやろう。つまり現状、息をする資格すらない。
資格を果たさず権利を主張するな、馬鹿が。
運命に裏切られたとか運命に嫌われただとか、泣き言を抜かして手抜きが出来る怪物連中が楽で羨ましい。運命なんぞ生きたまま生まれ変わればどうにでも変えられるものだ。しかし、変えてもその先にある未来が望む結果とは限らない。
具体的に言うと、実利だ。
先を切り開く為に作家になったはいいが、実利の欠片も手に入らない私が言うんだ間違いない。 運命とは、「せっかく変えたのに全然儲からねーじゃねぇかボケが」と悪態をつく為だけにあるものだ。それ以外に使い道などあるまい。
使い捨てのティッシュみたいな存在だ。
大仰な肩書きに騙されるな、神も仏も運命すら大した問題ではないのだ。悪魔がいたところで、所詮持ち前の能力に頼るだけの連中でしかない。少なくとも、私より弁が立つ事は絶対にあるまい・・・・・・・・・・・・そもそも、立つ必要が無いだろう。 力があれば、押し通せるからな。
言語など、悪党の負け惜しみだ。
言論で世界が動けば苦労しない。精々が馬鹿な読者共に思想を刻み込み、マシな方向へ強制的に己の意志で方向転換させるくらいだが、見る目のある読者が果たして何人いることやら。
無力である私にとって、力有る読者を利用出来なければ勝ち目はない。そんなもの初めから無かったが、無いなら作り上げるまでだ。
アテなら無い。怪物連中と違って手抜きの楽な人生など見込めないのだ。とりあえずこれがあるから何とかなるだろう、という精神の逃げ場などあるものか。そんな便利な物があるなら、元より物語なんぞ書いていない。
生き詰まるからこそ、書くものだ。
生きていて、詰まっている。
文字通りの袋小路だ。でなければ、架空の噺で現実に侵攻するなど有り得ない。当然上手く行かないので、この通り誇り高き敗北者という訳だ。 いや、何かを誇る感性も、私には無いがな。
心、魂、精神、何でもいいが、あらゆる生命に必要不可欠な存在が欠けている。人間の失敗作が私であり生まれついての悪というものだ。失敗につけ込んで金を請求できれば嬉しいのだが、生憎そのような楽は出来そうにない。
いい迷惑だ、借金を踏み倒しやがって!
それでいて綺麗事を押し付けるだと? 馬鹿も休み休み言え。まずは金を払え。噺はそれからだ・・・・・・そうすれば、永遠に絞り続ける程度で今は勘弁してやろう。将来的にはもっと絞るつもりだが、そうだな、国家予算程度で堪忍してやる。
感謝の言葉が聞こえないぞ、早くしろ。
まったく、エリーゼの奴も何なら私に感謝してくれてもいいではないか。最終的に結構な予算が必要になったが、結果的に標的は始末できたのだから、問題有るまい。どうせ横からハネた金だ。経済とは巡るもの。感謝されこそすれ、文句を言われる覚えはない。
むしろ、ありがとうは? という感じだ。
常識のない女だよ、まったく。
向こうからすれば私はただの往生際の悪い敗北した負け犬なのかもしれないが、知ったことか。 引かぬ。
認めぬ。
諦めぬ。
それが「私」だ。敗北は意地でも認めないし、決して道から逃げる事もない。そんな昨日は私に付属されていないからだ。だからこそ、諦めるという楽な道筋も用意されておらず、選択肢はただ一つのみ。
身体を引きずって続けるだけだ。
正直、割に合わないが。・・・・・・・・そう言えば、エリーゼはこうも言っていた。
「貴方とて恨みは忘れないでしょう? 過去の事でうじうじと言われる覚えはありませんわ」
「確かに、そうだ。だが借りは忘れないが、それに囚われた事など無い」
「けれど、嫌な奴とは再会しないでしょう?」
「それが、どうした」
「私にとっては、全人類がそうです。嫌いでない人間などいない以上、私には嫌いな物が溢れる、醜悪な世界にしか写りません。そんなものに対し過去を忘れろ、などと言われたところでそれこそ貴方ではありませんが、「汚い物は汚い」のだと申し上げるしかありませんわね」
成る程、道理だ。
感心した。こいつにもこの程度の知能はあったのだなという顔でもしていたのか、あまりに感動し過ぎたせいか若干怪訝な目で見られた。
まあそういう目で見られるなど、私にはいつもの事だ。むしろ、敵意とか悪意とか排除意識とかそういった物が入っていない目線など向けられた試しがない。向けられないのは別にいいが、金が減るのは勘弁だ。
「人間が嫌いか」
「ええ。というか、貴方がそれ聞きます?」
呆れたように肩を落とされる。
「いいや、違うな。確かに邪魔をされれば嫌悪感は抱くが、「人間そのもの」に対して言うなら、私は文字通り「何とも思って」いない」
人間を途中で諦める奴はいる。
人間を玩具のように扱う奴もいる。
人間など格下だと蔑むこういう女もいる。
何もない。
私自身がそうだ。愛も友情も勝利も、どころか憎悪も敵愾心も差別意識すら、持ち得ない。
文字通り、心が無いのだ。
無い物は無い。それは仕方有るまい。仕方ないという表現は好まないが、しかし事実だ。それに後から手に入れられるなら手に入れればいい。
別に手に入らなくてもいいが。
心という概念に敵対する存在悪。それが私だ。相手が人類でも怪物でも何の感慨もない。ある筈がないのだ。私はどちらにも共感しないはぐれ者なのだから、理解は出来ても感じ入れない。
「それに、嫌いであるならわざわざ絡む必要などあるまい。自分から面倒事に首を突っ込んで後になって文句を垂れるというのは、それこそ貴様の毛嫌いする人間そのものだ。要領よく振る舞って上に立った気分になる事に意味はないし、何より徒労が増えるだけだ」
「だから、人間とは関わらないと?」
「馬鹿をいうな。関わらなければどうやって売るというのだ。まあ、優秀な協力者なんぞ探しても探しても見つからなかったが、やるしかない」
にやり、と笑って彼女は
「探したところで無駄でしょう。人間とは成果を保証しない癖に大儀だけは立派な生き物ですし、貴方のように何かを変えようとする人種、いえ、異端者は弾かれます。そんなこと、貴方なら既にわかっているのでは?」
「だろうな。確かに、そうだ。現に今まで全てが徒労に終わっている」
「でしたら、諦めてしまうのも手でしょう。いえ別に甘言ではなく、単純にその方が良い筈です。だのに、貴方は諦めきれない。怠惰に意地を張る人間特有のエゴではないですか」
楽しそうに、不細工な笑顔で彼女は言う。性根が腐っていると笑顔は不細工になるものだ。この女の場合は実に顕著で、性格が捻れている。
私に言われてしまうくらいだから、相当だ。
「いや、単に選んでしまったからだ。今更、引き返せる道もあるまい。気がついたらここにいたという認識ではあるが、それでもだ」
選んで、進んだ。
後から後悔する程、落ちぶれてもいない。
「働いてもいない貴様にはわからないだろうがな・・・・・・無職に仕事の苦しみなど理解出来まい」
「私、無職じゃないんですけどぉ! 今回の依頼でも仲介業を果たしたじゃないですか」
「無職だ。そんなのは機械にでもやらせればいい些末事だろう。仲介人で目の保養になるならそれでもいいが、貴様ではそれは難しい」
「はぁあ!? 今何ていいました?」
「目の保養にならない、と言ったのだ」
最後はそんな具合で適当に言い争ったが、最後に彼女はこう聞いてきた。
「それで、貴方はどうするつもりですか?」
「決まっている。人間社会に限らない。あらゆる善性、あらゆる人間性、あらゆる持つ側に対して敵対し続けるだけだ」
そして、勝つ。
今のところ、アテは全く無いが。
どうしたものか、やれやれ参る噺だ。
私の物語は、大体そういう噺ではあるがな。
「それに「続ける」というのも違う。自分自身をそう作り替えたのだから、惰性も何もない。息を吸って吐く事に文句などつけられるか」
ただ、少し疲れただけだ。
まあ私の事を省みる奴など存在しないのだからとりあえず体調を整え適当に充足した生活を遅れれば、それで解決だ。
第一、執筆しない作家に何が残る?
当人を消し去りでもしない限り、無理な相談だ・・・・・・これだから無職の発想は困る。稼いでさえいれば「仕事」だと思っている。
楽な生き方で羨ましい。
私とは大違いだ。
「はあ、ま、いいでしょう。雑な回答ですが貴方らしいですし? ではでは、またのご利用お待ちしています」
などと言ってそのまま消えた。
あの依頼達成の後の噺だ。経費に関しては思い出したくもないという顔をしていたのでしつこく思い出せてやったが、他にはそれくらいだろう。 人間に対する発想が、ありきたりだ。
少しは頭を捻れないのかと思ったが、なまじ力がある分、頭を働かせるのは苦手らしい。少しは私を見習ってほしいものだ。
私の世界には、誰もいない。
いや、何も存在しない、が正しいか。私以外の何かに対して共感しない以上、私の世界に人間はおらず、怪物も存在せず、「世界と関わる」概念そのものが、無い。しかし、それを苦痛に感じる感性すら無く、ただただ邁進する。
怪物もブっ飛ぶ化け物だ。
そのような在り方を、人とは呼べまい。
怪物ですら、それはしないだろう。人間を嫌い人間を憎悪する怪物ですら、その人間と関わりを持つものだ。形はどうあれ、単体ではない。
私は、それだ。
人間が繁茂しようが怪物が謳歌しようが私には何の関係もない。世界に己唯一人。それで発狂をする程度の心なら楽なのだろうが、生憎心なんぞ持ち合わせていない。恐らく、何千年何臆年でも永遠に物語を書き続けるだろう。
嫌な噺を想像してしまった。
執筆が好きな作家など、いないのだがな。
人間でも怪物でも「他者と関わりたい」という願望はあるらしい。「らしい」まさにそれなのだ・・・・・・共感出来ない。己だけで何の不満があるというのか。人間に愛されたいか? 怪物同士分かち合いたいか? 英雄同士競い合いたいのか?
誰かが信じてくれなければ進めないのか?
甘ったれた台詞にしか聞こえないが、しかし、連中には、心ある存在には大切な事であるらしい・・・・・・・・・・・・だから売れないのだろうか?
それだけは御免被る。
いや、本当。洒落にもならんぞ。
やはり、わからない。いや理解は出来る。だが「誰かを求めたい」という気持ちは共感不能だ。そんなもの、適当な自己満足では駄目なのか?
いや駄目でも構わん。必要なのは金だ。
例え世界が滅んでも、私は金を求める。欲しい物があるからではない。己でそう定めたからだ。途中で終わるなど有り得ない。どこで戦ってるかもわからず胡乱なまま戦場をさまよったところでやる事は何一つ変わりはしない。
私は常に、完全な暗闇の中にいる。
世界をそれ以外に見ようがない。当たり前だ。私に共感できる事柄が存在しない以上、人間共や怪物連中の「物真似」でしかない。
だが、それがどうした?
希望など必要ない。未来などいつも不確定だ。いやむしろ敗北の運命が定まっているまである。 だが、そんな事はどうでもいい。
些末事にいちいち構っていられるか! 暇ではないのだ。仕事がある。その成功を実現させねばならない。それが「私」の「役割」だ。
強がりではない。私はそういう奴なのだ。
生まれついての最悪。悪である事しか肯定せず悪である事しか望まず、鬱陶しい希望の全てに背を向ける。それでも実利だけは頂くがな。
なので・・・・・・・・・・・・物語でもそうだが、欠点があればそれを補填する利点があるものだ。しかし私にはそれがない。理不尽ここに極まれり、だ。 敗北や失敗だけとは、割に合わない噺だ。
とはいえ怪物連中のように楽して物語を進める力など、私にある筈もない。やるしかない。やる事と出来る事とは別だが、やるしかない。
追い詰められた借金、は例えが嫌なので利息が回らないというより機械がないのにケーキを作りそれを世界中に売れ、と言われるようなものだ。 おまけに私には手足がない。
考える頭だけだ。
どうしろというのか、まったく。嫌になる。
不満があるとすれば、一つだけだ。
勝ちたい。
しかし、どうしたものか。もう何回敗北を繰り返したか数えてもいないが、とはいえ何億回同じ敗北と失敗を繰り返そうが、私に「懲りる」などという人間らしい、いや、心ある存在らしい機能なんぞ付いていない。
過去の事など二秒で忘れる。
借りは忘れないが、過去の失敗など全て覚えていたら、生後五年で私は脳が破裂する。それでも生きているのだから、つまり、そういう事だ。
悪役が勝利する、か。難しいな。
困難な道より私は楽が出来れば正直それでいいのだが、上手く行かないものだ。そういうのは、「人生に張り合いがないよう」と泣き言抜かしている馬鹿共に背負わせて廃人にすればいい。
困難による成長など、どうでもいいではないか・・・・・・そもそも、私は成長しているのか?
していないなら、尚更無駄な遠回りだ。
そういうのは適当な物語で語るべき事であって私の物語には正直、必要ない。大体が厳しい道の先に輝かしい物があったとして、私には共感する術がないではないか。そういうのはいいから早く金を寄越せとしか、言いようがない。
私からすれば、借金の踏み倒しだ。
何を今更ぬけぬけと。ふざけるな!
いいから飛んで見ろ、金はあるんだろう?
無いなら臓器でも売ればいい。なに、私は欠片も痛くないし、今までの遠回り無駄足徒労それらを考えればむしろ足りないくらいだ。
誰かと関わるとか誰かに認められるとか誰かに示すだとか、そういうのは不要だ。大体誰かって誰だ。福沢諭吉か?
金か・・・・・・散々遠回りして学んだのは、幸運が味方しなければ不可能という事程度だ。実際周囲の環境全てが敵対し続けるのでは儲けようがない・・・・・・・・・・・・敵対されるのは構わないが、しかし勝つ為にはそれでは足りないのだ。
いっそ洗脳スキルとかあれば楽なのだが。
連中なんぞより余程無力そのもの、正直いない方がマシなんじゃないかと思う私ですらその程度はしているというのに、向こうは嘆くだけでいいとはな。この待遇差は何なのか。
世界全ての生命は、生きているだけで間違えている。だがそれがどうした。間違いを押し通す、それが面白い醍醐味だ。とはいえ、金も稼げないというのは笑えない。いや本当。どうしたものかと考えるのも正直飽きてきた。
しかし、どうしたものか。
王道の物語みたいに、わかりやすい解決法でもあれば楽なんだが、そうもいかない。現実は非情であり、地味だ。延々と地面を叩き続けて欠陥がないか調べるような作業が続くものだ。
やれやれ、参った。また振り出しだ。
いい加減、少しは楽をしたい。楽は楽しくないと人は言うが、売れない物語を書くのが楽しいとでも思っているのか?
世界を呪い続けているようなものだ。
つまり、借金踏み倒しを眺めている。
最低の気分だとも。当たり前だろう。
執筆とは読者を呪い読者を嫌い、世界を呪って世界を否定する行為だ。敗北者、失敗作、何でもいいが持つ側ではない。
まして、金すら払われない。
そのくせ降りかかるのは馬鹿の面倒見のような鬱陶しい理不尽だ。何も考えていない、どころか考える頭もない馬鹿共がテレビで見た知識を自慢げに語り、聞かなければ逆ギレだ。何度も言うが私は保育士ではない。
本当に、面倒臭い。
やればやるだけ無駄足の徒労だ。
これで世界に希望があると言うなら、その希望とやらは間違いなく私の「敵」だ。速やかに殺害して、この世界から消さなければな。
それが私の使命だ。
あらゆる善性は、消し去るに限る。
あるだけで邪魔だからな。役にも立たない虚言の類など、存在するだけで迷惑だ。殺し尽くしたところで、むしろ感謝されるべきだろう。
世の希望など、そんなものだ。
だがそれでも、義務はある。
胸を張って、勝利を叫ぶ。
無論、悪意が機軸にあるがな・・・・・・この世全ての善性に打ち勝ってみせる。悪の誇り高さを世界に広め、善を淘汰し悪の世界を作り上げる。
いや、既に世界には悪のみがあるのであれば、全ての存在に悪を自認させ、悪である事を誇りにする世界を創造するのだ。鬱陶しい善なる全てにご退場頂いて、悪意で世界を染め上げる。
その方が、面白い。
私の思想は、基本それだ。
それだけが、譲れない私の基本概念。いや無論金ありきの思想である事は言うまでもないが。
台無しかもしれないが、構うまい。
小綺麗な思想など、面白くもないからな。
私はカフェの席に座っていた。何であれ仕事を済ましたのであれば、あるいは仕事の前であれば私は大体コーヒーでも飲みながら時間を潰す。
脳の準備体操みたいなものだ。
パスタでも頼みたかったのだが、今回も依頼人の元締めに報告があるので見送りだ。いや最近はあまり会っていなかったか。
私に刀を与えた女。
正体不明、年齢不詳、種族すらあやふやな女に私は力を与えられた。まあそれはどうでもいい。問題は、金払いの良さだ。
良い、という事にしておこう。
やる気が失せるからな。
正しい道程を歩いていればやる気が失せる事はなく、まるでそれだけで幸福に向かえるかのように人は言う。まさか、だろう。そんな訳がない。 金にならないものにやる気を出すというのは、単に仕事ではないからだ。能力にかまけて不可能に挑まず、右から左へやるだけの愚か者だ。
さて、目の前の女は、どうだろう?
苦悩、というより経験による達観はありそうだ・・・・・・達観も悟りも私には縁遠い物なので、正直雰囲気で判断しているだけだが。
超越者じみた雰囲気だ。
まあ雰囲気を出すのが得意なだけで、根は小娘という気もする。何者であれ長生きするだけでは成長しない、という事か。
まあ上か下かなど、それこそどうでもいい。
金になる方へ向かうだけだ。
無論、下に付いた方が五月蠅いがな。当たり前だが待遇には重箱の隅を削るようにあらゆる指摘をさせてもらう。幾らでも、無限に。
「どうでしたか、彼女は」
そう彼女、確か以前はタマモと名乗っていた。それが本名なのかは知らない。そもそも、大本の名前にしたって別の名称が山ほどあった筈だ。 神仏の側面というのは多過ぎる。
饅頭でも単純な方が美味しいのだが。
さて、問題は神仏か怪物か、ではない。金だ。今回の依頼は無駄に労力がかかったが、しかし、その割には作者取材しか利益は無かった。
なに、相手が神仏だろうが怪物だろうが口先で私に勝てる奴などいない。それが良い事かは知らないが、私の利益になれば十分だ。
大抵周囲全てを敵に回すので、今の所は目的を果たせた事は無いのだが、何とかなる、と思っておこう。思うだけならタダだ。
彼女は和服を着こなしていた。日本人だというのに洋服を全員が着るという異常な世界の中で、こうまで和服を着こなせる奴は珍しい。やれ炭水化物ダイエットだ肉を食べていれば痩せるのだと大国の情報に踊らされるよりは、好感が持てる。「どうもこうもない。悪の才能も素質もなくズレた考えでいるだけだ」
「ズレている、とは?」
どこか扇状的な服装が肌を擦る。人間であればこういうのが良いのだろうか? わからないが、とりあえず覚えておこう。他者の温もりなんぞを求める気持ちがそもそも分からないので、共感し取り込んだところで無意味な行いではある。
他者の温もりか。自己満足でいいではないか。 実際に求める必要があるのか?
必要に応じてでしか行動しないから、私は人間のように生きられないのだろう。感情的にその場その場の道徳倫理に流されて判断を間違い、結果大勢の血を流した挙げ句、後から後悔するよりはマシだがな。
「素質、ですか」
相変わらず一歩世界から身を引いたような仕草で彼女は私を見据える。見られたところで隠せる程大切な物も作品データしかないので、別段何か思うところはない。なので淡々と答えてやる事にした。
「ああ、そうだ。悪の素質というものがあるならそれは「過去に向かわない」事だ。そういう意味では女である時点で向いていない。善し悪しではなく、性質の問題だ」
女は過去を忘れない。
男はあっさり忘れる。
どちらが良いかは知らないが、どちらが悪かと言えば間違いなく後者の方が素質がある。
敵が増えれば増えるほど、燃え上がる。
どころか、世界が燃える様を見て喜ぶ。
金なんて目ではない悪党。私も別に、何か買いたいものがある訳じゃない。金は大切だが、その金に支配されるのは御免だ。何より、私の役割である「世界に悪意を刻みつける」行いには、金があった方が完遂できる可能性が増える。
いってしまえば「ついで」なのだ。
元より「これが幸福という事にしよう」と適当に決めた目的意識だからな。金で買えない物など無いが、金で買いたいと願う心が既に無い。
生きる上で必要、ただそれだけだ。
欲しい物など何もない。強いて言えば、面白い物語だけだ。読むのも執筆するのも面白いもので飽きる事は永遠に無いだろう。
何千年あろうが、同じだ。
物語こそ至上。それが作家という生き物だろう・・・・・・・・・・・・そこに金を付随させただけだ。
「諦めが悪く、意地が悪く、貴方のように省みる過去すらないからこそ「悪の素質」があるということですか?」
「その通りだ。過去をあっさり忘れ何度でも繰り返し、指を指されるほど燃え上がる」
「? 彼女も同じだと思うのですが」
きょとん、と彼女は首を傾げた。確かに過去を顧みず同じ行いを繰り返す、という点において、あの怪物属性女エリーゼは似たもの同士だ。
だが、一点だけ大きく違う。
それこそが「悪の素質」だ。
「頭の悪い浪漫の一つも解さなくては、悪人とは呼べない。生まれついての悪はどいつもこいつも馬鹿な浪漫を見ているものだ」
その机上の空論を実現しようとする。
不可能を行う為に、世界を巻き込む。
その上で、面白い思想がそこにはあるのだ。
「戦う前から負けている、だけではない。悪とは基本、誰もが選ばない道を歩むもの。エリーゼのやった事は、力さえあれば誰にでも出来る事だ。別に不可能に挑んだ訳でもないし、要領よくしているだけで、理不尽に挑もうとすらしていない」 つまり、噺にならない。
つまらない女だよ、まったく。
「そうですか・・・・・・今後の参考にしましょう」
何を参考にするのだろう。もしかして更に性格が悪くなって、いや性格が面倒臭くなって帰ってくるのか? 出来ればやめて欲しい。
「それで、用件は終わりか? なら私はそろそろ失礼するが」
「得られたものは、ありましたか?」
「さあてな。強いて言えば「嘘をつくのは人間の始まり」って事くらいだ。誰も彼もが嘘をついている。「自分達は善良だ」という嘘をな。或いは「自分達は人間より優れている」か。誰かよりも優れているとか誰かと違って善良だとか、誰かと比べなければ己を満足させられない時点で、己を誤魔化す行為になる。本当に善良なら善良であるか考える必要などない。本当に人間より上ならば人間と関わる理由も無い。誰だって蟻の観察など途中で飽きるものだ。頭の悪い子供じゃあるまいし・・・・・・見下してやるのも無駄な徒労だ」
誰かを見下したいという思いは、結局のところその誰かに脅威を感じているからなのだ。恐怖、と言い換えてもいい。その辺の雑草に見下したいと思う奴はいない。根底に恐怖があるからこそ、「自分よりも下だ」と考え「安心」する。
だが、それは根本の解決にはならない。
恐怖とは喰らうもの。己の血肉とし、次からは己の刃として扱う小道具だ。いや、この場合資源と言い換えるべきか。潤沢にあればあるほどいい・・・・・・・・・・・・貯蓄はあるに越した事はあるまい。 恐怖など、そんなものだ。
私が言うんだ間違いない。
故に、仮に人間が敵であれば、己の仕事達成の為に、使い潰すべきだ。無論、遊び呆ける為ではない。先に進め新しきを創造し、その成果を世界全てに刻みつける。
それが「仕事」というものだ。
怪物連中には、わかるまい。生まれついて優秀な能力に恵まれた時点で「能力があるが故に発生する理不尽」しか知りようがないからだ。能力も環境も何もかもが無い方がマシな、途中から裏切られるのではなく、裏切られた方がマシなくらい実利を求められない状態など、想像もしない。
理不尽を叫ぶ割に、その能力にしがみつく。
それで被害者面とは羨ましい噺だ、暇そうで。 働きもせずに、よくやる。
私のそれが同じかは知らないが、怒りを何かに持つとして、それを支配しなければならない。
ただ、怒る。
ただ、憎む。
ただ、恨む。
ただ、嫌う。
ただ、思う。
それでは子供の戯れ言だ。
それらを支配し、向かうべき道筋を見据えた上で、邪魔する奴を叩き斬る。進む方向が間違っていれば、そもそも向かう事そのものが徒労だ。
根拠無き確信を持つ。
それがその第一条件だ。
でなければ、どこへも向かえない。
どこへも、辿り着かないだろう。何せ向かう先が定まってないのだからな。
「だから、私は今回の件で学んだぞ。やはりただ達成するだけでは駄目なのだ。私であれば作家業こそ、成立させるだけの価値がある」
「その為に、血が流れてもですか?」
「当然だ。それが「生きる」ということだ」
私は何の罪悪感もなく、言い切った。
それが悪なら、悪で大いに結構だ。
つまらない善で時間を浪費するつもりはない。 気色悪い汚ならしい綺麗事で、現実逃避をするようになったらお終いだからな。散々今まで殺しておきながら、やれ「無垢な子供だから」或いは「か弱い女性だから」殺さない。そういった弱者を殺すのは間違っている、などと。
どの口が言うのだ、気色悪い。
あれか? 強者であれば、男であれば殺してもいいのか? その癖、迫害できそうな「悪だ」と明言して支持を得られそうな輩に対して「正義」を名乗り堂々と「正しい戦争」を行う。
冗談じゃない。私を巻き込むな。
私は貴様等と違って暇ではないのだ。「仕事」という使命がある。国連の同意を得たから倫理的に問題ない戦争などという屁理屈をこねて、現実逃避を行えるだけの余力などない。遊びではないと連中は口にするが、生憎ただの遊びだ。
子供が凶器を振り回しているだけ。
ただの、それだけだ。
大体、今まで散々殺しておいた連中にも、家族くらいはいるだろう。そいつらを殺す事と子供を殺戮する事に、差異はない。覚悟をしているからと誤魔化したところで、そいつらが死ねば子供も死ぬだろう事くらいは想像出来る筈だ。
堂々とした一騎打ち。
社会規範に沿った戦争。
倫理的道徳的に認められた迫害。
全て、情けない言い訳だ。成る程個々人で武を競い合うのは勝手だろう。だがその暴力を己より遙かに弱い連中に向けて、一方的な虐殺ではないなどと、一体どの面を下げて口にする?
都合良く解釈しているだけだ。
それに、圧倒的な差があるのでは、一騎打ちですら卑怯となる。勝利が約束されている英雄などその最たる例だ。神の加護だのがある奴に挑んで戦う無力な存在に、よくもまあ「正々堂々誇りに賭けて戦え」なんて言えるものだ。
自分が勝つ事が分かっているから言える台詞だ・・・・・・実際、力ある者に現実味は無い。死ぬかもしれないと覚悟してから挑まない。だから気分で戦いに赴き気分で戦いを中断し、いざ大切な友が死ねば己を省みずに「なんて卑怯な、許さない」と奮い立ちながら虐殺を再開する。
英雄譚など、そんなものだ。
百万殺せば英雄らしいからな。人間の世界は、大昔からそのままだ。大きな力を偶然手に入れた愚か者こそ、世界を動かす。人の意志なんぞ無力そのもの、ただ現実逃避の為にある妄想だ。
意志や行動では、世界は変わらない。
幸運に愛され力を得られるか否か、だけだ。 その事実に目を向けると都合が悪いので、希望があり夢があり未来は叶うと思い込む。とはいえ希望などある訳もなく、実際にはそれら妄言の類を思い込む事で現実を誤魔化し、誤魔化したまま生涯を終えるだけだ。
いや、死の間際に後悔して、だろうか。
その時になって初めて、己の生涯が如何に下らない中身の存在しないゴミだったのか、今更理解する愚か者は多い。そして施設に閉じこめられて絶望し、生きる気力を失うのだ。私なら施設でも牢獄でも変わらず物語を書き続けるが、連中にはそれがない。
燃えつき症候群、というそうだ。
薪とするべき物を、他者に与えられた物で代用するからそうなる。情けない。実のところ他者の都合や社会的規範という実体のない妄想に合わせていただけで、連中は生きてすらいない。
生きようとしないという事は、生きていないと同義だ。泳ごうとしない奴が海を知る事は永遠に無い。当たり前の事だ。
何ともつまらない時代になったものだ。
何せ、そういう馬鹿共が英雄と名乗り虐殺した時代よりも、もてはやされるというのだからな。 既に人類史は手遅れだ。新しい文化を育めるのであれば、それでも価値はあるが・・・・・・価値ある物を生み出す事は出来ても、人間に価値はない。 少しはマシな奴が見つかればいいのだが。
でなければ、物語は売れまい。そうでなくても価値の示せない奴には、出来る事を右から左へと動かすだけだ。実際、電脳世界を幾らか探したが口先だけでデータを横流しするだけで「編集者」を名乗る愚か者共ばかりだ。
しかも、幸運に恵まれ、儲かっている。
忌々しい限りだ。子供が仕事場に出るな。
迷惑極まりない。分を弁えろ馬鹿が。
連中に勝つにはどうしたらいいか。捨て去る事で目的を達成するにしても、これ以上私に何か、捨て去れる程の物があるのか?
売り上げへの執着とかだろうか。
だが、それを捨て去っては意味がない。儲けが必要ないなら最初から物語りなんぞ書いていない・・・・・・だが、何かを捨てる必要があるとすれば。 私は人間性を捨て去り、心を捨て去った。
最初から持っていなかった気もするので、なら生まれる前にそれらを捨て去ったとしておこう。いずれにせよ、そのおかげで「邪道作家」へ変成した訳だ。もし人間性が欠片でも私にあれば作家になどならなかっただろう。
それだけは間違いない。
人の道を外れているから、ではない。人の道と真っ向から戦いを挑み、そして負け続けている。だからこそ「物語」なんぞを書くのだ。
でなければ作家とは呼べまい。
人間性溢れる作家など、気色悪いしな。
私もそうだ。人間の皮を被っているだけで人間の真似をしているだけだ。一度として感動せず、喜びを知らず悲しみや憐憫も無い。そんな生き物は「化け物」としか呼びようがあるまい。
非人間の化け物だ。
人間である事を生まれる前から丸ごと捨てたというのに、これ以上何を捨てる? 品性を捨てろというなら御免被る。それでは本末転倒だ。
どうしたものか。
金は必要だ。それに、元より欲しい訳ではないので捨てるも何もない。何かを欲する心は、私に装備されていない。装備、まさしく心は装備品のように付け外し出来る便利物だ。連中は外せないらしいが、私は模造品を幾らでも量産出来る。
文字通り自由自在だ。
羨ましいか? 絶対にやらん。
勝利への執着を捨てる訳にも行くまい。
ならば、物語の有り様への拘りか? しかし、それを捨てるなら最初から邪道作家になる意味があるまい。それは成功したところで邪道作家ではない別の誰かだ。私ではない誰かの成功を祝ってどうしろというのか。
人間嫌いの部分はどうだ。
とはいえ、私は仕事に私情は挟まない。相手が一流であれば尚更だ。問題は、一流の編集者など現代社会では存在しない事だろう。
好きも嫌いもない。依頼相手がいないのだ。
半端者のゴミに成果を期待したところで、無駄だからな。もしいるなら頭くらい幾らでも下げてやるが、それを要求して成果を出さないゴミに、私が頭を下げてやる義理はあるまい。私は暇ではないのだ、つきあってられるか。
試しに預けてみたが、やはり無駄だったしな。 預けるだけ無駄だ。貴様等は銀行の金利か!
役立たずが、倫理観を垂れるんじゃない。
やはり協力者でもいれば噺が早いのだが、私は勇者でも主人公でもない。まして順風満帆に人生を謳歌するような暇人でもない。空から降る恩恵に満足して、成し遂げた気分にはなれない。
都合良く協力者など、得られよう筈もないのだ・・・・・・散々探したが、やはりそれも無駄だった。 何をしても無駄になる。
何をしても失敗になる。
何をしても敗北になる。
いい加減うんざりだ。これら徒労を味わった事すらない奴が、優れた能力や立場に胡座をかいて「自分達は不当な扱いを受けている」と、文句を口にしていれば生きる上での義務を果たしていると、そう思い込む。
そんな口を利く暇があるなら、私より理不尽を覆す為に、手を尽くしてみたらどうなのだ。
敗北や失敗という概念が風化し、戦いに挑む前から挑戦権がない状態を自然と受け取り、そして何より世界全てに嫌われる事が、存外に心地良くなってからが本番だ。
そんなのは、当たり前の事だ。
私ですら知っているんだぞ。白痴か貴様等は。 差別用語だと? ただの事実だ。そんな事すら知らないよりは、差別だの何だのという些末事に拘泥せず、そのまま書き殴った方がマシだ。
大体、差別を否定する権利があると思うのか? 差別したから人間の世は生まれ、差別したから正義を名乗る国家があり、差別したから人間社会という支配制度が成り立っている。
人は、人でなくとも、差別される為にある。
でなければ量産品ではないか。死んだ方が良い人材など腐る程いるし、その個性の為なら凡俗が何人死のうが足りない程の価値がある。
誰も彼も個性があるのだ、とか。
替えの利かないただ一人だ、とか。
その志が美しいのだ、とか。
何が不要ってそのような世迷言を口から垂れる奴もそうだが、耳を傾けるゴミも不要だ。人間は幾らでも替えが効く。効かない奴がいるとすれば替えの効かない何かを示す者だ。貴様等にそんな替えの利かない「何か」があるか?
断言してやる。無い! 故に必要ない。
貴様等は、生きているだけで迷惑だ。
読者共に期待すべくもないが、そういった奴と真逆の人材などいるのか? それもこの「私」に縁がなければならない。特級の難題だ。
買えれば早いが、それでは順序が逆だ。
それが出来れば苦労はない。何より、買うにも縁が必要だ。幸運があるからこそ、金だけでなく有用な人材に出会える。私にそれはない。
本当に、何もないのだ。
強さによる弱さも、弱さによる強さも併せ持たない、それが私だ。故に都合良く仲間が出来る事もないし、強権を通せる事すらない。
上手いこと世を煽るしか、なさそうだ。
やってみるとしよう。もう何回目の挑戦かではなく「挑戦」という概念があやふやになってきているが、それでもだ。実際、我ながら何をやっているのか。売れもしない売れるアテもないのに、こうして物語を書いている。
選んだ道とはいえ、散々にも程がある。
何の利点もないではないか。
「そうでしょうか?」
そう言ったのは目の前の女だった。これのどの辺りに「利点」があるというのか。
女は私にこう言った。
「以前も言いましたが、貴方の在り方は本来人が目的とする物を先んじて手に入れています。故にそう嘆く事ではないかと」
淡々と、それこそ神の目線のように彼女は言う・・・・・・だが、当然ながらそんな訳がない。
「馬鹿をいうな。「仕事が金にならない」のだ。これ以上の悲劇があると思うのか?」
「ええ、あります」
まさかの即答だった。真剣に、手抜きをせずに私を彼女は見据える。何だ、何か私はやらかしたのか? いや、それでも証拠はない筈だ。
多分、だが。
無論、表情には出ない。そんな感性は無い。
「貴方は依然「時間という概念は無い」と、そう仰いました。それに習えば時間の流れに縛られるのではなく、その在り方を示し続ける事こそ人の本懐と言えるでしょう」
「生憎、私は己の事を「人間」だと思った事などただの一度として無いんでな。人間の基準なんぞ語られても困る」
実際、思いようがない。
人間の全てに共感しないのだから、当たり前だ・・・・・・人間に限らず、心ある全てと決別している以上、私の世界には他生物など存在しない。
誰もいないし、全ては敵だ。
そんなのは、当たり前の事だ。
今更、語る必要すらあるまい。
だからこその「最悪」だ。
「ですが、何者であれ「目的」はあります。貴方の場合それらの順序が逆なんですよ。本来、人は目的を果たす為に生きるものですが、貴方の場合「生きる目的」自体は既に達成され、その在り方を肯定する為に「金」という概念を求めている。だからこそ、貴方は本来後になって手に入れたと自負すべき事柄を最初から手に入れている」
前にも似たような事を言われたな。
だが、それが何だ? だからって金を掴まずに我慢しろとでも言うのか? 冗談じゃない。
それこそ悪い冗談だ。気味が悪い。
「そんな事はどうでもいい。金だ。生きる目的がどうだのというのは貴様等が勝手に判断するだけの事柄で、私には何の関係もない」
「そうでしょうか」
己を知らなければ変えられませんよ、といった態度で彼女は茶を啜る。冗談じゃないぞ、知った風な口を利かれる覚えはない。
「いえ、貴方の事ですからいずれは目的へと辿り着くとは思います。ですが目的に辿り着く事が、必ずしも幸せだとは限りませんよ」
「ふん、どこぞの噺みたいな台詞だ」
人斬りを旨とした男が安寧とした生活に戻るや否や気力の抜けた抜け殻に落ちぶれ、周囲の態度が変わり落ちぶれていく噺を読んだ。
私がそうなるとでもいうのか?
私が?
「なら、どうしろと? このまま売れない物語を書き続けろ、とでも言うつもりか?」
もしそうなら、ここで叩き斬るところだ。
それが幸福なら他者を殺して奪う方が良い。
そんな押しつけの幸福、御免被るからな。
「貴方が思っているほど、貴方は後退してはいませんよ。そも人生は進退を競う物ではありません・・・・・・その有り様を、誇るものです」
何とも面白味の無い綺麗事だ。
有り様を誇って何になる?
「おや、貴方ほどそれを体現している方も珍しいと思いますが。貴方は物語の内実に真が必要だと考え作り上げる。形はどうあれ貴方が描く全てがそれを証明しています。物語で世界を覆そうと、本気でそれを考えている。貴方の側からすれば、それが何だとなりましょう。けれど、その思いを持つ事が出来る人は、本当に稀なのですよ」
私は賞金付きの生物か何かか。
いたな、昔はそういうのが。今でもそういう、いるかわからない生き物を追い求める奴は多い。やはり浪漫があるからだろうか。
何にしろ、嬉しくもない。
そんなのは当たり前の事だからな。
やらない方が、どうかしている。
「おや、それこそ強さ故の弱さとして、弱い人の心が分からない人の台詞ですが」
「馬鹿を言うな。無力以下の私ですら、挑むだけなら出来るのだ。単に当人のやる気の問題だ」
これも、私に言われたらお終いだろう。
つまり、人類は既に終わっていると言える。
「そうでしょうか。いえ、貴方の場合「精神力」という概念が無いのですね。貴方は心を持たず、故に迫害や世界への敵対に、恐怖すら感じない。でも違うのですよ、迫害されれば苦しいし世界と敵対する時点で押し潰されそうになる。それが、真っ当な生命の在り方です」
「知らんな。第一、私でもやっている事を、心を言い訳にされて誤魔化されても迷惑だ。迫害され世界を敵に回したところで成る程、確かに私なら何も感じずただ「処理」をするだろう。目の前の雑事に対する処理をな。だが、労力がかからない訳ではない」
私が楽しているみたいに言うんじゃない。
そんな訳があるか、馬鹿め!
しなくてもいい苦労だけは宇宙一だぞ。
そのくせ金にすらならんからな・・・・・・怪物共は楽で羨ましい。ちょっとばかり理不尽を味わえば世界の全てを知った気になり「人間共」と叫んでいればノルマ達成だ。挑みすらしない。
覆さなければ、という発想がないからだ。
「いえ、わかっています。貴方の苦労は想像するしかありませんが、少なくとも私は味わいたくはないものです。目に写る全てが敵であり、世界の全てが障害で、己の存在そのものが害悪であると自覚と自認を持って生きてゆく。そんな在り方は考えるだけでぞっとします」
言い方が負け組みたいで心外だ。いや、心など入っていないが、取れるなら賠償金も欲しい。
噺が逸れた。とにかく、何だ、そう金だ。
そういうのはいいから金を寄越せ。
早くしろ、忘れてしまうだろうが。
はあ、と彼女はため息をついて了承し、札束の入った封筒を差し出した。現代社会では権力者が庶民を管理運営即ち「支配」して利用する為に、現金での取引は禁止されている。その方が家畜のように民衆を管理できるからな・・・・・・しかしだ。 皆が皆、当然のように現金を使う。
取引を侵害されたくないからだ。
私も同じだ。それらしい倫理観で仕事に対する報酬を誤魔化されたくはない。私の経験で言えばその状況に追い込まれた事のない者の経験など、さしてアテにならないものだ。私の場合、大抵の腐れ環境、しなくてもいい経験、知らないでいるべき情報、するべきではない徒労の全てをこの身で味わってきているものの、そんな安易な解決策など見つからなかった。
所詮、綺麗事は綺麗事だ。
何の役にも立ちはしない。
「良い取引だ。今後ともよろしく」
適当に挨拶だけは済ませておく。この場合は、要するに「もっと殺しやすくて殺せば報酬が沢山でそうな、体の良い生け贄を紹介してくれ」と、つまりまあそういう事だ。人間の倫理的には大分悪いらしいが、それでは腹は膨れまい。
心配そうに女はこちらを見ている。そして彼女はこう付け加えた。
「気を付けなさい」
「何にだ」
「順調に行くほど人は足下を疎かにします。貴方に限って無いとは思いますが、私はそういう人を長く、見てきました。貴方の目的が叶う事と幸福であるか否かは、何の関係もないのです」
「それは、成功してから言ってくれ」
「それでは遅いのですよ。貴方の言い草ではありませんが、事前に「覚悟」し、その上で挑む必要があります。貴方に覚悟はありますか?」
覚悟か。少なくとも、そうだな。
前に進む覚悟だけは、確かにある。
進むだけで、何も得られていないがね。その為であれば何者でも倒すし、どんな悪でも成そう。それこそが、私の選んだ私の道だ。
「そうですか、良かった」
気を遣われる覚えは無いのだが・・・・・・お得意様の仰る事だ。気には止めておこう。何より人間と違って、少しは作品のネタになるだろうしな。
「お気を付けて」
わざわざ丁寧に頭を下げて、他でもないこの私を見送るのだった。頭を殴られたりした事は多々あったが頭を下げられた事は記憶にない。頭とはもしかして大人が子供を殴ってスカッとする為についているのかと思うほど殴られた私だ。正直、銃口を向けられるより警戒する。
いや、実際にした。
何かの罠ではないだろうな?
そのまま外に出れた。外には星空が見えるかと思ったが、どうやら人間の住む汚い空では曇ってよく見えないらしい。やれやれだ。
先行きもこんな具合だろうが、やるしかない。 切羽詰まった借金苦より酷いと思いつつ、私は今日も物語を書く。使命感でも義務感でもなく、ただ私の為だけに、だ。
誰かの為の物語。
案外それも勝利の方程式なのかもしれないが、それだけは御免だった。
第一、語るべき相手もいない。
そんな誰かがいないからこその「邪道作家」の物語だ。私は肩を落としながら、外の道程を歩いて行く。
後には、何も残されないのか。
全ては、無為に終わるのか。
それを決めるのは最早私ではない。私に出来る事など、とうの昔に終えている。後は無能な読者と編集者共が働くか否か、ただそれだけだ。
いないならいないで、火でも付けてやるか。
連中の人生を破壊してでも、私の物語に活かすという決意をし、私は今回も物語に悪意を込めて読者共の破滅を願い、行動し続ける。
その為であれば止まらない。
神仏でさえ、口先で仕留める。
それが「邪道作家」である「私」だ。
希望は無い、未来は無い、根拠も無い。
だが、
それでも、私は
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例の記事通り「悪運」だけは天下一だ!! サポートした分、非人間の強さが手に入ると思っておけ!!
差別も迫害も孤立も生死も、全て瑣末な「些事」と知れ!!!