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日曜の朝はプーランクを聴きましょうか?〜務川さんのオールプーランクリサイタル

東京・春・音楽祭2026
桜もちらほら咲き始め、うららかに晴れた上野公園の3月22日、
東京文化会館小ホールでは午前中からとあるコンサートが開催されようとしていた。

上野の桜

〈日曜日の朝のフランシス・プーランク〉

村上春樹さんファンなら、このタイトルに心当たりがあるはずだ。そう、村上氏のエッセイ集〈意味がなければスイングはない〉に所収の一編だ。

同名のタイトルのもと、オールプーランクのリサイタルを行うのは、ピアニストの務川慧悟さん!!
早々にチケット完売となったコンサート、いやが上にも期待が高まる。
客電落ちてステージが明るくなる。登場した務川さんは何冊かの楽譜を抱えている。今日は譜面見ながら弾くのだな。

〈ユモレスク〉
さりげなく始められた曲は軽快で楽しげ、きらきらした音が響く。が、往年の名ピアニスト、ギーゼキングに捧げられた曲とのことで、おそらく技巧的には難しく、華やかな曲。たちまちにしてプーランクさんの世界へ。

弾き終えると、ここで務川さんのお話があった。🎤「皆さま、おはようございます」(笑が起きる)クラシック演奏会であまり聞かない“おはよう”のワード。そう、今日は日曜の朝の演奏会!
務川さんはこの企画に至った経緯を語り始めた。落ち着いて物静かでありながら所々にユーモアを感じる務川さんのお話しぶりがとても好き🩷

村上春樹さんのエッセイの文庫本

務川さんは当初プーランクの音楽が苦手だったとのこと。生粋のパリジャンである彼に、生意気で皮肉屋でちょっと気取っていて…というような気質を感じていたからだが、、、それがいまでは“ぞっこん”だというのだ😆 そのきっかけをくれた諸々の事象の最初に、この村上氏のエッセイがあるという。村上春樹さんはそのエッセイのなかで、鮮明に覚えているというロンドンでの日曜の朝のオールプーランクリサイタルのことを語ってらっしゃる。というか、そのプーランクをめぐって当時の音楽事情について広範な教養を交えながら素敵な文章を綴っておられて、、、務川さんはこのエッセイが(というよりおそらくこのエッセイ集全体が)とても好きだと。その後ここ2,3年で共演者とともに(主に室内楽、そして協奏曲で)多くプーランクを演奏することとなり、次第にその魅力に目覚めていくことになる。このあたりの経緯は務川さんのnoteに詳しいので、まだの方はぜひ!↓

《憎き親愛のフランシス・プーランク|務川慧悟》 https://share.google/UMQi7tX9NqugUOOCy

プーランクは“修道僧と放蕩小僧”と例えられるような二面性をもった作曲家だそう。務川さんも「生意気で皮肉屋で、といった当初のイメージはそれ自体は間違っていなかったけれど、それとともに“高貴な精神”をもった人だと…」と仰る。プーランクは都会的で洒脱な音楽のほか多くの宗教作品やある種の主張の込められたシリアスな作品、言葉と同化した深く美しい歌曲など、、、多面的な面を見せている。後者の作品群には、その生涯で遭遇した苦さや困難、戦争、父方から受け継いだ宗教心などが反映しているのだろう。。。

(私自身は最初に出会ったプーランク作品がエリュアールの詩によるカンタータ〈人間の顔〉だったため、いきなりガツンとやられた感じで、逆に当初プーランクが軽妙洒脱というイメージはあまりなかったです😅)

そのプーランクさんへの心象変化とともに、今回の企画のアイデアのもととなったのが、務川さんのパリ学生時代の思い出だ。

務川さんは今もパリに拠点があるが、学生当時よくシャンゼリゼ劇場の朝のコンサートに出掛けていて、わりと気軽なコンサートのあと、聴衆だった人々が三々五々ブランチやランチに出かけていく様子を見るにつけ、その肩肘張らず、日常にさりげなく音楽が溶け込んでいる様子が素敵だなと思っていたそうで。。
いつかこういうリサイタルをやろう!と。それが日曜日の朝で、オールプーランクであるなら、なおさら言うことなし!

務川さんの投稿↓

そして、それがとうとう実現した!、というか、有言実行なさったわけです👏👏

東京文化会館小ホール

(務川さんはいまやそのプーランクの音楽――初めは“毛嫌い😂”していたがいまや“ぞっこんの”音楽――を沢山弾いて、さらに深めていきたいと仰っている(コンサート後のX投稿より)。たのしみだなぁ。。。🩷🩷)

さて、その後のお話は曲の紹介、解説であったので、各曲を見ていきながら(脳内再生しながら)話を進めよう。(※「」部分が務川さんが言及された内容。逐一のワードは同じではありませんが。)

〈フランス組曲〉
「クロード・ジェルベーズというルネサンス期の音楽家の旋律を近代的、いかにもプーランク的な和声で味付けした」典雅で洗練された舞曲群。
務川さんのこの曲を初めてお聴きしたのは、昨夏の小林圭シェフ×[婦人画報]創刊120年記念ディナーのゲストアーティストに務川さんが招かれて演奏なさった時だった。会場の違い(サロン的な所からコンサート会場へ)があるからもちろん弾き方も変えられるだろうけれど、そのときより表現のレンジが大きく、低音もよく効いている気がして、すばらしいです。そう!左手低音、素敵なんだよね。。🩷

〈3つのノヴェレッテ〉
この第1曲、涙が出るほど美しい。🥹✨️
これも初めてお聴きしたのは、奈良のホテルで務川さん企画の音楽とワインのペアリングディナーが開催されたときのこと。その時も泣きそうだったな。。🥹🥹
「第2曲はプーランクらしいちょっと意地悪な感じの」出ている諧謔的な曲。でもまたまた務川さんの低音と先鋭な打鍵がカッコいいんだよね〜!!
「ここまでは、プーランクの若い頃の作。第3曲は晩年の作」とか。それもあってか、メランコリーと寂寥感の漂うしみじみとした曲で、これも務川さんの奏でる左手メロディが素敵すぎるのです。。✨️

〈村人たち〉
これは劇作品の付随音楽だったとのこと。「子供たちでも弾けるような曲で、ちょっと(意図的に)ばかげた感じも😅」簡単なようでいて、プーランクらしい皮肉たっぷりの、おどけたような曲想。大真面目に大胆な表現で弾く務川さんが楽しい😁

続く2作品《ジャンヌの扇》より〈パストラル〉と《3つの小品》より〈トッカータ〉は、先の村上春樹さんエッセイでホロヴィッツが好んで演奏していたと紹介もあった曲で、村上氏がプーランクに引きずり込まれたのはまさにこのホロヴィッツの演奏であったと。務川さんも今回のコンセプトでは外せない2曲でしょう。

〈パストラル〉
題名通り、田園牧歌的にのどかな曲想、中間部に鄙(ひな)の高貴的な色合いも。最後カッコいい!

〈トッカータ〉
ひじょうにテクニカル、ピアニスティックな曲!!✨️これは暗譜で弾かれました。印象派的な響きもあったり、華麗で美しい。短いのですが、聴き応えたっぷり!!💘

ここで一呼吸、再びトークタイム🎤
「ここまでは、文字通り朝の音楽、プーランクは朝にしか作曲をしなかったと言われていて、まさに、その朝の光のなかで聴くと良い1日が過ごせそうな曲たちです。

ここからは、“朝のプーランク”とはいえ、夜の雰囲気の音楽もお聴きいただこうと思います。まず〈エディット・ピアフを讃えて〉は、プーランクはピアフをとてもリスペクトしていたそうで、彼女へのオマージュとして書かれました。

〈ナゼルの夜会〉ですが、これはプーランクがお世話になっていた親戚の??おばさん、彼女はロワール地方に住んでいたのですが、プーランクはこのおばさんの所を度々訪ね、夜会にもよく顔を出していたそうです。
その夜会のメンバーについて、音楽のポートレート的に書いたものがこの曲です。8つの小曲にはタイトルが付いていますが、直訳ではわかりづらいので少し解説しますと…

※ここは、まだ【務川さんの発言内】なので、私の勝手な解釈、感想を〘 〙で入れてます😅
[プログラム]

〈ナゼルの夜会〉のⅠ〜Ⅷのタイトルを参照してネ

Ⅰ “分別の極み”とありますが、“気品、洗練の極み”ということでしょうか。〘曲想からしてこれはプーランクさんの皮肉のように思えますが、どうでしよう。〙

Ⅱ “手の上の心臓”とありますが、これは慣用句で“情に厚い人”のことですね。皮肉な意味で“お人好し”とも。どちらかは、皆さんのご想像で。〘意外にもこれはプーランクさんの皮肉はなくて、気持ちの熱い人に好感をもってるぽく感じますが、どうですか?〙

Ⅲ “磊落と慎重と” これは僕にもよく分からないのだけれど、夜会に来ている様々な人々のことでしょうか。〘私は勝手に“無遠慮と慎み”と思っていて、対極のような人々、つまり務川さんの仰るように、夜会には様々な人がいるな、という……〙

Ⅳ “思索の続き” これも慣用句です。“自分の考えに固執する人”のことです。

Ⅴ “口車の魅力” これはcharmeもenjôleurも魅力のことなので、魅力の魅力ということになりますが。。〘このenjôleurは“甘言で人をだます人”の意味なので、これは美しい曲ですが、絶対、皮肉、もしくは警告でしょう!〙

Ⅵ “自己満足” 〘ここは、務川さんの仰ったことを忘れてしまいました😰 文字通りで良いでしょうか?? 〙

Ⅶ “不幸の味” これは、自分を悲劇の主人公にして演じているような人のことだと思われます。〘なるほど〙

Ⅷ “老いの警報” 直訳で“機敏な老い”ということですが、曲を聴いていただけると意味は自ずと。〘alerteは“年の割には機敏な人”のことですね。たしかにそんな曲です。〙」

務川さんの詳しい解説をお聴きした後、後半の演奏へ。

〈エディット・ピアフを讃えて〉
シャンソン歌手ピアフオマージュなので、純粋クラシックというよりクロスオーバー的な。務川さんがこういう曲を弾かれると、もうあり得ないほど上手いんだよね。そのメロディの揺らし方、語尾の抜き方等々、確固たるクラシック基礎のある方が少し肩の力抜いてひらっと弾いた時の洗練!さすがとしか言いようがない。そして、彼の場合、気品がある!🩷

この曲では、バーピアニストの務川さんを想像してしまった。とある場末の?ジャズバー。片隅では密やかな喧騒、そこで達者ながらどこか物寂しげなピアノを奏でる白皙の青年…いや、務川さんは白皙ではないんだけどさ、イメージよ、イメージ😂 店内には煙草の煙、意味ありげな、或いは慰撫するような視線が交錯し……きゃあ、フランス映画じゃん!などと妄想世界に迷い込むような、アンニュイで、孤独な大人たちの、迷宮がぁぁぁ。。。。ww

〈ナゼルの夜会〉
知らなければ仰天するような冒頭から、居丈高なプーランクさん→幻想曲風というのか、或いはバッハフランス風序曲のモダン版??→香り高いフランス香水のような優雅な響き→……次々万華鏡のように、綺羅星のように、色んなプーランクさんが顔を出す。✨️✨️✨️✨️✨️✨️

ずっと、このオールプーランクを通して思うのが、左手低音のカッコよさです‼️
音域の広い和声のなせる技でしょうけど、この左手の魅力的な響きは、他の作曲家ではあまり感じられない独特のもの。務川さんの深い低音の響きが沁みわたる。。。💘

ちょっと蒸せるほどの甘美さ、妖艶さ、デカダンス…それでも失われない品格✨️✨️

20分以上の大曲のフィナーレは壮大なファンファーレと異国情緒からの生粋のフランス音楽の深みでした。なんと魅惑的な世界‼️
10年暮らしてこの頃はさすがに、少し斜に構えて世の中を見るようなパリ気質もわかってきて…と仰る務川さんならではの、プーランク、素敵でした🩷🩷

[アンコール]
「最後は少しアンニュイな〈愛の小径〉を弾いて終わりたいと思います。
そして、この企画は、僕がオーディエンスなら、このあとランチにでも繰り出したいと思い、企画しましたので、皆さまこのあとぜひ上野公園にランチに🩷」👏👏👏💐💐💐💐💐💐

皆大好きな感じの〈愛の小径〉、まさにパリのエスプリ?という雰囲気で💐 カーテンコールで拍手に応える務川さんも満足そうなご様子、私たちも皆幸せな気分になりました。。。ありがとうございます🩷🩷

(聞いた限り、皆さんそれぞれランチに向かわれたようで、、、、良き一日となりました)

サイン会での務川さん

※務川さんは〈パストラル〉では古色著しい楽譜を持っておられて、サイン会でお聞きしたところによると“先生の先生” のような方に頂いたものとのことで。詳しくは分からなかったけれど、貴重なものなのでしょう。その時代の手触りをとても大切にされる務川さんらしいなと。✨️✨️

※[日曜日の朝のフランシス・プーランク]というタイトルについては、もちろん出版社か村上氏サイドか知りませんが使用許諾を得ておられます。