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バイ菌さんとその他の出来事

思いがけないことというのは良くも悪くも連続するものらしく、大抵ぽつりぽつりとではなく、なぜこんなにまとめて、と思うほど一気に押し寄せて来る気がします。

私はホロスコープ的にも木星と関わりが深いため、その影響を受けているせいもあるのかもしれません。拡大する星でもある木星は、動き始めると加速がつき、何もかもを雪だるま式に増やしていくそうですから。


その意味で去年の暮れから現在まで、私の日々はまさにサプライズに見舞われっぱなしです。

まず始まりは誕生日で、私の誕生日は12月初旬なのですが、朝起きて顔を洗おうと水道の蛇口に触れた瞬間、スパウトと呼ばれる本体部分の根本から、勢いよく水が噴き上がりました。

何となく、軽く水漏れしている事実には以前から気づいていました。その時点ですぐにでも処置を施しておけば良かったものの、まあ少しくらい。もっとひどくなったら……などと現実から目を背けているうち、そのような事態に見舞われたというわけです。
それも、誕生日の朝に。


これも派手なお祝いのひとつと考えれば笑える気分でしたが、だからといって、笑っているばかりでは済みません。
すぐさまインターネットの叡智を頼り、原因と修理法を突き止めて、これは自分で何とかできるかも、と工具箱の中身を洗面所の床にぶちまけました。まずは部品交換の準備です。

そうしておそろしく固く締まったスパウトと半時間は格闘し、最終的に、素人にはとても無理だと判断しました。

電話で依頼した専門業者はその日の午後にはやって来て、さすがの手際で作業を終えると、颯爽と去って行きました。こんなに簡単ならば、もっと早くに手を打っておけば良かったという話です。


次はそれから数日後の朝の散歩で、犬の胴体に巻いたハーネスのジョイント部分が、予告もなく突然に弾け飛びました。

路地裏に猫を見つけた犬がそちらへ走ろうとし、それを制止すべく、リードを力一杯引いたのが原因です。そのリードの金属部分がハーネスに妙な圧を与えたらしく、ねじれたリードと絡まったプラスチック部分の歯が折れたのです。


途中で切れた形になったハーネスは犬の身体からずり落ち、何事が起こったのかよくわからないまま、犬はその場に立ち尽くしています。

私の心境はといえば両頬に手を当てて絶叫するムンクの絵画そのままでしたが、ここで素直にそんな反応を見せるわけにはいきません。興奮してパニックになった犬が、どんな反応をするとも知れないからです。

早朝で近くに人もおらず、車の影も少ないものの、どこかへ走り出されたらどうなることか。“大型犬、逃走で巻き込み事故”などのニュース記事の見出しが頭に浮かびます。


そのような事態を避けるべく、私はまだ立ち尽くしたままの犬に向かい、さも何でもないようなふりで名前を呼びかけ、近くにやって来させました。そして犬の目から視線を離さず、手探りで歩道の上のハーネスを持ち上げ、ゆっくりと首に引っ掛けます。

そこからは、最高速度で犬の身体を抱えて脚に挟み、ハーネスの残骸を胴に巻きつけました。プラスチックの留め具は折れて使い物にはなりませんが、どうにか不完全な輪っかにはなり、絶対に犬を興奮させないように細心の注意を払いながら、静々と自宅に戻りました。
悪くすると大事件にも成りかねなかった、ぞっとするような一件です。


そして突然の出来事はその後も続き、外出前にコートを取り出そうとクローゼットを開けた瞬間、観音開きのはずの扉が、真っ直ぐ自分の方に倒れてきました。

そのクローゼットは祖母から譲り受けたアンティークであり、長い年月の間にダメージを受けていたらしく、まさにその時、本体と扉を繋ぐ蝶番が金属疲労で折れたのです。


いかにも昔風の重厚なクローゼットは当然その扉も重く、とっさに両手では支えたものの、結局足の上に落下しました。思わず飛び上がりたくなる痛さでしたが、下敷きにならなかっただけまだましです。

その後、外れた扉はとりあえず元の枠にはめ直し、間違って開閉しないよう、端をテープで閉じてあります。なにぶん古いもののため、蝶番の形もいささか特殊で、似たものをどこかで調達しなければなりません。
中の衣類の出し入れに逆側の扉しか使えないのは不自由なため、早めに片をつけたいところです。


そしてまだアクシデントは終わりではなく、その証拠に、私はこの文章を右手親指を使わずに書いています。
親指にはいま現在ひどい痛みと腫れがあるためです。

この負傷は犬と遊んでいた時に負ったもので、公園でひと休みしようとベンチに手をついた時、木のささくれが爪の間に入りました。
皮膚に深く突き刺さった木片のせいで血が滲み、翌日になって、さらに痛みが増し始めます。まだトゲが残っているのでは、と観察するも、爪の内側についた黒い筋が、トゲなのか血の塊なのかがわかりません。


ライトを当て、極限まで爪を切り、指先の肉をぎゅうぎゅうと押し、毛抜きの先で黒い筋に触れようと試みる。こんな不毛な行為の末、これも水道の時と同様、プロを頼るよりないと悟りました。

それからなるべく近くで評判の良い皮膚科を調べ、すぐに出向くも、あいにく休診日の翌日、それも週末ともあり、一時間以上を待合室で過ごしました。その間お供にしたのが、スウェーデンの精神科医による『ストレス脳』という本だったのは、ちょっと象徴的でもあります。


そうして混雑した待合室で痛みに堪えつつ過ごすうちに、またもや木星の影響か、私の想像力は悪い方へと加速します。

トゲが深すぎて特殊なピンセットでも対処しきれず、外科手術を受けるため大学病院を紹介され、爪を半分剥がす処置を受け、皮膚の奥深くまで潜ったトゲを除去するために指先の肉を切り取られる。
それらが元通りになるには数ヶ月を要し、金属と包帯で保護された指先をかばいつつ、痛みに耐えて不自由な日常生活を送る。

こんな各場面が、奇妙なほどのリアリティをもって頭の中で展開します。
いま思い返すと滑稽ですが、痛みと不安の只中では誰しもそんなものです、きっと。


「私はあらゆる恐怖を想像したが、その一割も現実にはならなかった」
そう書いたマーク・トゥエインは正しく、ようやく呼び入れられた診察室で、私の手を診るなり医師は告げました。
「ああ、これはトゲが残っているんじゃなく、バイ菌さんのせいですね」

バイ菌さん。聞き違いかと思いましたが、医師はルーペで確認しつつ、念のためピンセットで爪の下の黒い筋にも触れ、やはりそれは血の塊で、トゲではないと断言します。

「ケガをしたのが昨日なら、おそらく今日明日あたりが一番ひどいはずです。バイ菌さんが悪さをして、膿んで痛んでいるんです」
医師は穏やかに説明しつつ、抗生物質と塗り薬を出しておくのでもう大丈夫、と請け負ってもくれました。


バイ菌さん、という言葉にゆっくりとわかりやすい語り口から、もしかしてこの人の目には私は子どもに見えているのかな、とも思いましたが、直前の患者さん2人が連続して子どもだったため、まだ子どもシフトのまま対応してくださったのかもしれません。

何だかそれはそれでいい気もしますし、大人も時々は子ども扱いされたり甘やかされたりは、案外精神安定上大いにありに思えます。

とはいえ私は大人のため、自分で丁寧にお礼を述べて、診察室を出て会計を済ませ、薬局にも寄り、きちんと薬を受け取りました。


それから一晩が経ち、最悪の事態こそ逃れたものの、腫れと痛みはまだ残ります。バイ菌さんの威力は強力です。

利き手の親指を使うことが不可能なため、普段は感じることのない、手指が自由に動かせるありがたみも噛みしめています。
親指を使えないと何をするにも力が入らず、タッチパネルやキーボードを押せず、ものを握れず、フタやノブの開閉もできず、バッグも満足に持てないなど、不便この上ありません。
日課の太陽礼拝スーリヤ・サンスカーラも倒立もおあずけで、身体がなまる気もします。

そのためあれこれと物足らず悲しみもありますが、少しずつ腫れと痛みも引いているため、今しばらくの我慢です。


こうして年末年始の数週間で起きたトラブルを思い返すと、そろそろこれも打ち止めとなり、次は嬉しい驚きが押し寄せて来てほしいという思いでいっぱいです。

「悪運と良運は切り離せない。一方と食事を共にする時、もう一方は寝室にいる」
叡智に満ちたカリール・ジブランの言葉が本当なら、そろそろ良運にはベッドから起きる準備をしてもらわなければ。

とはいえ、多くの悪運は事前の対策と注意で避けられるかも、というのも今回得た教訓です。
皆さまも、どうかご注意遊ばされますように。



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