見出し画像

【読書感想文】青山美智子 『リカバリー・カバヒコ』

仕事や人間関係、日々の生活の中で、なんとなく心がモヤモヤしたり息苦しさを感じたりすることはありませんか?

本当に人って一度悩み始めると、頭の中でグルグルしたループが止まらなくなってしまいますよね。

周りに合わせて自分を押し殺し、本当はしたくないことをしてしまったり。 笑いたくないけれど、空気が悪くなるからと無理やり笑ったり。 面白くないのに「面白いね」って話を合わせたり……。

「本当のことを打ち明けたら、ハブられるかな?理解してもらえるだろうか?」 「自分が『良い』と思っていることが、間違っていたらどうしよう?」

答えがほしいけれど、誰に相談したらいいのかもわからない。

そんな風に、張り詰めた気持ちを抱えていた私が、救われるように一気読みしてしまったのが、青山美智子さんの小説『リカバリー・カバヒコ』です。


カバの遊具「カバヒコ」がのジンクス

舞台は、とある新築分譲マンション。 その近くの古びた公園にある、古びたカバのライド型(乗り物)遊具には、ある不思議な都市伝説がありました。

「自分の治したい部分と同じところを触ると、そこが回復する(リカバリーされる)」

いつしか「カバヒコ」と呼ばれるようになったその遊具のもとに、周囲からの期待に疲れたビジネスマン、ママ友関係に悩む女性、不登校の高校生、そして自分の将来に迷う駅伝部員や、家族との距離感に戸惑う雑誌編集者など、世代も環境も異なる住人たちが、吸い寄せられるように訪れます。

一話完結の連作短編集となっている本作は、どこかで見かけたような「誰か」の悩みが、実は自分自身の心の奥底にある痛みと重なり、読み進めるほどに不思議な一体感に包まれます。

カバヒコはただの遊具なので、もちろん喋りません。
アドバイスもくれません。
頭の部分には「バカ」って落書きされているし、塗装が剥げてハゲているけれど、どこかおどけた表情でただ黙って話を聞いてくれます。

でも、カバヒコの前で「何をリカバリーしたいのか」を言葉にすることで、自分の心と向き合い、大切なことに「自分で」気づいていくのです。

【第1話】感情の起伏の波に、涙せずにはいられない

この本に登場する人たちは、優しすぎるくらい優しく、真面目すぎるくらい真面目。
だからこそ、彼らが抱える悩みの深さや、物語の中で描かれる「感情の起伏の波」が、リアルにこちらの胸に迫ってきます。

特に私の心に深く刺さった、第1話の奏斗の物語です。

かつては「できる自分」だったのに、新しい環境で「上には上がいる」という現実に直面し、自信を粉々に砕かれてしまいました。
周囲への体裁を取り繕うために、ついてしまった小さな嘘。
その嘘が、さらに自分を追い詰めていく……。

頭をよぎる自己嫌悪の言葉。その苦しさに、読んでいて胸が締め付けられました。

「・・・・・・・・上から何か塗ったって、その下にバカがあると思うとちょっとせつないな」
消すのと、隠すのは違うのだ。
そうやってごまかしても、なかったことになんてならないのだ。

リカバリー・カバヒコ 青山 美智子

そんな葛藤のなか、彼はカバヒコを磨きながら、同時に自分自身の傷ついた心にも触れていたのです。

「よしよし、よしよし。いい子、いい子。
待ってろよ、今きれいにしてやるからな。」

リカバリー ・カバヒコ 青山 美智子

この一節を読んだ瞬間、涙腺崩壊ですよ。1話目で決壊したんですよ。
子供がここまで自分に向き合っただけでも100点なのに、カバヒコの落書きを消してあげるっていうやさしさ20000点じゃないですか。
もう、子供がいる親の目線もあってか、涙が止まらなくなりました。

「リカバー」とは、元通りになることじゃない

今回この本を読んで、私はハッとさせられたことがあります。

それは、一度壊れたり不調になったものは、リカバリーしても壊れる前と全く同じようには戻らない、ということです。

世の中的に「毎日元気で」「傷に気が付かない」「痛かったけど我慢した」
「目をつむる」
美徳とされていますが、美徳と反対側にあります。

「元気じゃなくていい」「痛かったことに気が付いて」
「ゆっくりでいいから、そっと見て」

そうしてみた景色は、元気だったころとは同じようにみることはありません。でも、だからといって悲観的に捉える必要は全くないんですよね。
そこには傷ついた経験や記憶が追加されて、リカバー以前とは違った、新しい自分になれるから。

そうやってリカバーしながら、少しずつ変化しながら、人間は成長し前に進んでいく。 人の心も、身体も、人間関係も同じなんだと気づかされました。

何かが壊れたり失ったりしても、不調を感じたりしても、それは悲しいことじゃない。 新しい自分になれる「リカバー」のチャンスだと、前向きに捉えられそうな気がしたんです。

巡り巡っていく、優しさの連鎖

物語を読み進めていくと、「カバヒコ」というネーミングが、ある男の子の名前(和彦)からきていることがわかります。

気の弱いひとり息子を元気づけるための、最初のお母さんの小さな心遣い。 その小さな優しさが、巡り巡って、この場所を訪れたたくさんの人をリカバーしていく。

一人ひとりの幸せや優しさが影響しあって、いろんな方面に広がっていって、みんなが幸せな気持ちになれる……。 青山美智子先生らしい優しさがいっぱい詰まっていて、本当にステキです。

無理に「前を向かなきゃ!」「元気にならなきゃ」と力まなくても、読み終わったあとには自然と心がほっこりして、明日からの日々が少し愛おしくなる。そんな温かい読後感に浸れる作品でした。

毎日にちょっと疲れてしまった夜に、ぜひ手に取ってみてください。

いいなと思ったら応援しよう!

みのりん 読書好きなポンコツ よろしければ応援お願いします!いただきましたチップは大事に使わせていただきます。