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風の記憶、煙の時間――イスタンブールのカフェをめぐる25年

イスタンブールのカフェと私のつきあいは、かれこれ四半世紀になる。最初に足を運んだのは、トラム駅「トプハーネ」の近く、モスクの脇にあったカフェだった。周辺の再開発が始まる前の一帯には、どこか緩やかな時間が流れていた。夏の夜、ボスポラス海峡から吹き抜ける風に身をゆだねながら、水タバコの煙をくゆらせる。ただそこにいるだけで、街の空気と同調できるような感覚があった。

だが、その風景は長くは続かなかった。その後、イランに赴任して、イスタンブールに行った時に立ち寄ると、店は改装され、大音量のビデオクリップが流れるような店になっていた。周辺では再開発が進み、近くにショッピングモールや美術館が作られ、街の輪郭そのものが変わっていった。かつての、どこか無防備で、時間に対して開かれていた空気は消え失せ、より消費的な空間へと傾いていったように感じられた。

そうした変化のなかで、足が向くようになったのが、旧市街、グランバザール近くの「アリ・パシャ・メドレセ」だった。

かつて神学校として使われていた中庭には、複数のカフェが境界を曖昧にしながら共存している。石造りの回廊をぬけて中に足を踏み入れると、外の喧騒はやわらぎ、別種の時間が支配している。観光客の姿もあるが、それ以上に地元の常連が多く、チャイを乗せてお盆を持った店員が絶えず行き交っている。紅茶、エルマチャイ、アダチャイ。ドリンクを頼んで待たされることはまずない。

ここでは、一日の時の流れ方が均質ではない。昼間はざわめきが支配するが、ふとした瞬間に静寂が訪れる。夜が更けると、人が増え始め、水タバコの煙がたちあがる。かつてトプハーネで感じていた「ただそこにいる時間」が、かたちを変えて、ここには残っている。

水タバコをめぐる風景もまた、変化している。かつては年配の男たちの嗜みという印象が強かったが、近年では若者たちの姿も目立つ。スマートフォンを片手に煙をくゆらせるその姿は、新しいイスタンブールの風景だ。トルコ社会全体の変化、さらには「水タバコの本場」といってもいいアラブ世界との距離の取り方の変容が、こうした変化に影を落としているのかもしれない。

私にとって、ここは単なる休息の場ではなかった。仕事の合間に立ち寄り、取材の段取りを考え、書きかけの原稿の構成を頭の中で組み替える。喧騒と静寂がゆるやかに入れ替わるこの空間は、そうした思考の時間にも最適の場所だった。

トプハーネからアリ・パシャ・メドレセへ。場所は変わったが、カフェに求めていたものは、おそらく大きくは変わっていない。都市の中にあって、時間の流れからわずかに身をずらすことのできる場所だ。そうした場所を探し続けてきた軌跡がこの25年なのかも知れない。

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