サリンジャーの家(1)

高校生のころ、サリンジャーに夢中になったことがあります。何がきっかけだったか思い出せないのですが、「ライ麦畑でつかまえて」を読んだのでした。学校になじめず、家庭の状況も良くなく、成績も芳しくなく、非常に苦しい高校時代だったので環境も時代も異なるとはいえ、人の世の欺まんに絶望して高校を飛び出し、ニューヨークの街をさまよい歩くホールデンの独白に心が震えるほど感動し、小遣いすらろくにもらえない中、昼食代も切り詰めて当時、新潮文庫から出ていた「ナイン・ストーリーズ」「フラニーとゾーイ」「大工よ屋根の梁を高く上げよ/シーモアー序章ー」の3冊を買い求め、とりわけ「フラニー」と「大工よ」の透明な世界観に引き込まれて繰り返し何度も読んだのでした。
そんな中、朝日新聞だったか読売新聞の日曜版に、隠遁生活を送っていたサリンジャーの自宅を訪れた記者のルポルタージュが出ていたのを読みました。記者は最終的に拒まれて作家には会えなかったのですが、身を隠している伝説の作家を訪ねるというシチュエーションに非常に興奮したのを覚えています。いつごろだったのか。サリンジャーの初の本格的な伝記である「サリンジャーをつかまえて」の翻訳が出たのが1992年ですからそのころだったのかもしれません。
その後、だいぶたって私は偶然にも2010年にサリンジャーが亡くなった時に米国に居合わせ、これまたひょんなことから彼が亡くなってほどなく彼が隠遁生活を送ったニューハンプシャー州の街を訪れる機会をえます。
何とか彼の自宅も探し当て、写真も撮りました。さすがに無断はまずいと家をのぞき込んだり、呼び鈴を押したりしたのですが、誰もこたえてくれなかったので事実上無断撮影となってしまいましたが、やむをえないでしょう。

今回、Noteに何回かに分けてこの時の話を書いてみようと思います。これは第1回です。
(了/第2回に続く)
