見出し画像

年収500万のフリーランスが、年収450万の会社員より手取りが少ない理由

去年、独立して2年目になる知人と久しぶりに飲んだ。
彼は会社員時代の年収400万円から、フリーランスになって500万円を超えた。順調に見えた。実際、本人もそう思っていたらしい。


ただ、3杯目のビールを飲み終えたあたりで、こんなことを言い出した。

「なんか、ぜんぜん豊かになった気がしないんだよな。稼いでいるはずなのに」

最初は贅沢な悩みだと思った。年収が200万近く上がったのに豊かにならないなんて、使い方がおかしいんじゃないか、と言いかけた。

でも話を聞いていくと、これは使い方の問題ではなかった。構造的に、そうなるように設計されていた。

彼は毎月の収入をきちんと管理していたし、無駄遣いも会社員時代と大差なかった。それでも豊かになった気がしない。その理由を解きほぐすと、フリーランスになるときに誰も教えてくれない、ある仕掛けが見えてくる。

国民健康保険という名の「取り忘れた給与」

フリーランスになって最初の国民健康保険料の通知が届いたとき、多くの人が一度は固まる。

東京都内で年収500万円のフリーランスの場合、国民健康保険料は年間で約52万円になる。月に直すと約4万3千円だ。「高すぎない?」と思うかもしれないが、これは正式な計算の結果なのだから仕方がない。

さらに国民年金が月1万7千510円(2025年度)かかるので、こちらは年間で約21万円。合計すると、年間73万円が社会保険として出ていく計算だ。


一方、会社員はどうか。同じ年収500万円の会社員が支払う健康保険料は、本人負担分で年間30万円前後だ(健保組合や協会けんぽによって異なる)。厚生年金も本人負担は年間45万円前後。


合計で75万円に見えるが、ここに重要な仕掛けがある。

会社が同額を負担している。

つまり会社員の社会保険料の実態は、本人負担75万円+会社負担75万円で合計150万円だ。そのうち半分の75万円を、会社が「見えない給与」として払ってくれている。

フリーランスはこの会社負担分も全額自分で払う構造になっている。年収500万円のフリーランスの手取りは、諸々の税金を計算すると約360〜370万円になる。会社員の年収500万円の手取りが約390〜400万円であることを考えると、フリーランスのほうが30万円ほど少ない。

つまり、年収500万のフリーランスと年収450万の会社員は、手取りでほぼ同等になってしまう計算だ。

さらに厄介なのは、フリーランスの「年収500万円」という数字の実態だ。年間の事業売上が500万円あっても、そこから交通費・通信費・PC・書籍・外注費などの必要経費を差し引いた残りが事業所得になる。

経費をうまく使えば課税所得を下げることはできるが、同時にその経費は本当にかかったお金でもある。

「経費で落とせる」というのは「タダになる」わけではなく、「自分が払ったお金が控除対象になる」というだけだ。


会社員時代は「年収500万円=額面」という計算で手取りが決まっていた。

フリーランスになって「年収500万円」と言うとき、そこから経費・社会保険料・所得税・住民税が抜ける。手取りベースで比較すると、見た目の数字より実態はずっと小さかった。

知人の「豊かになった気がしない」の根っこが、ここにあった。

「病気になったとき」の天と地ほどの差

数字の話だけでも十分苦しいが、本当の格差はここからだ。

会社員が風邪をこじらせて2週間寝込んだとしよう。

仕事ができない間も、傷病手当金として標準報酬日額の3分の2が最長18ヶ月間支給される。

月収40万円の会社員なら、月に約26万円が入り続ける計算だ。半年寝込んでも、1年寝込んでも、最大18ヶ月は収入が途絶えない。

フリーランスが同じように寝込んだとしよう。国民健康保険には傷病手当金がない。入ってくるお金はゼロだ。

これは理論の話ではなく、毎年誰かが直面している現実だ。がんや心臓疾患、メンタルヘルスの問題など、長期の療養を要する事態になったとき、会社員は傷病手当という巨大なクッションがある。

月20〜30万円が最大18ヶ月入り続けるなら、治療を受けながら復帰を目指す選択肢を持てる。フリーランスはそのクッションが存在しない状態で、そのリスクを丸ごと引き受けている。

さらに言うと、会社員は業務中や通勤中の事故・病気に対して労災保険が自動的に適用される。フリーランスは法律上の「労働者」に当てはまらないため、原則として労災保険の対象外だ。在宅で仕事中に腰を痛めても、打ち合わせに向かう途中に事故に遭っても、補償は何もない。

もちろん雇用保険も適用されない。仕事が取れなくなって廃業を余儀なくされても、失業手当はもらえない。

「フリーランスはリスクが高い」とよく言われる。ただその「リスク」の正体を、数字として理解している人は案外少ない。リスクの実態は「仕事が取れなくなるかもしれない」という業績面の話だけではない。「働けなくなったとき、国が守ってくれる仕組みが会社員より圧倒的に薄い」という制度面の話でもある。


ここが見落とされやすい。多くの人は「フリーランスになると自由だが不安定」という文脈で、「仕事の安定性」だけをリスクとして捉えている。

でも本当のリスクは「仕事は安定していても、一度倒れたらセーフティネットがない」という状況にある。仕事が来ているのに、体が動かないという状況だ。
知人が豊かになれない理由が、少しずつ見えてきた。

「老後」という時限爆弾

もうひとつ、見落とされがちな格差がある。老後の年金だ。

会社員は国民年金(基礎年金)に加えて、厚生年金にも自動加入する。厚生年金は報酬比例なので、稼げば稼ぐほど将来の受給額も増える仕組みだ。年収500万円の会社員が25〜30年働けば、老後の年金は基礎年金と合わせて月18〜22万円になることもある。


フリーランスは国民年金のみ。2025年度の満額受給額は月6万8千円ほどだ。
月の年金収入が会社員との比較で10〜15万円違う話になる。30年生きれば総額3千600万円〜5千400万円の差になる計算だ。


もちろん、フリーランスが現役時代に積み立てて補うことはできる。ただ「補う努力をしなければ自動的に差がつく」という点が、会社員とは大きく異なる。

会社員の場合は何もしなくても、給与天引きで勝手に積み上がっていく仕組みがある。フリーランスは意識して動かなければ、ただ差が広がっていくだけだ。


社会保険料の負担差(年間約50万円)、傷病手当のなさ、老後の年金格差—

これら3つが重なって「豊かになった気がしない」が作り出されていた。

ここまでが「なぜそうなっているか」の話だ。制度の話を聞かされても、実際にどう対処するかがわからないと意味がない。ここから先では、この構造を踏まえて、

フリーランスが具体的にどう動けばセーフティネットの格差を自分で埋められるか——という話を書く。自由の代金を払いながら、それをできるだけ小さくする設計の話だ。

セーフティネットを「買い直す」という発想

フリーランスのセーフティネット対策は、「会社員が自動的に持っているものを、自分でお金を払って買い直す」という発想に切り替えると整理しやすい。


会社員は給与という形で受け取っているが、その中には「見えない保障」が多数含まれている。

傷病手当・労災・雇用保険・厚生年金の会社折半……これらは給与明細に表示されないが、確実に会社が肩代わりしてくれているものだ。

フリーランスになると、これらの「見えない保障」が一斉に消える。

逆に言うと、「見えない保障を自分で設計できる」という自由でもある。

会社員は会社が選んだ健保組合・福利厚生に縛られているが、フリーランスは自分のリスク許容度と収入に応じて、どの保障を厚くしてどこを薄くするかを決めることができる。その自由をうまく使えるかどうかが、フリーランスとしての「生存率」を左右すると私は思っている。


買い直すべきものは大きく3つある。傷病手当の代わり、老後の年金の補強、そして廃業・休業時のクッションだ。


まず傷病手当の代わりとして機能するのが、民間の就業不能保険や所得補償保険だ。病気や怪我で働けなくなったとき、月5〜30万円が一定期間支給されるタイプの商品が多い。フリーランス向けに設計されたものもあり、月の保険料は3千円〜8千円程度からある。


これで何が変わるか。月収40万円のフリーランスが3ヶ月働けなくなったとしよう。保険がなければ収入はゼロ。月5千円の保険に入っていれば、月15〜20万円が補填される場合もある。年間6万円の出費で、壊滅的なリスクに備えることができる計算だ。

ただしここで注意が必要なのは、「保険に入っただけで会社員と完全に同じになるわけではない」という点だ。

会社員の傷病手当は標準報酬の3分の2が最長18ヶ月。これを民間保険で完全に再現しようとすると、保険料が月2〜3万円を超えることもある。コストと補償のバランスをどこで折り合わせるかは、自分の月収と生活費の水準、そして手元の現金がどれだけあるかによって変わってくる。


私個人の考えとしては、まず「最低でも生活費3ヶ月分は現金で持つ」という手元資金の確保を優先して、そのうえで月1〜2万円の就業不能保険に入るというのが最初の一手として現実的だと思っている。

完璧に再現しようとして保険料が月3万円になるより、7割のカバーを月1万円でやるほうが長続きする。セーフティネットは「完璧な網」を作るより、「穴を最低限ふさぐ」ことから始めたほうがいい。

健康保険の節約という観点では、国民健康保険のままにしておくより、ITフリーランス向けの健保組合や文芸美術国民健康保険組合などの「国民健康保険組合」に加入できるケースがある。

これらは所得に関係なく保険料が固定されていることが多く、収入が高いフリーランスには割安になる場合がある。年収500万円以上になってくると、こういった組合への切り替えで年間10〜20万円節約できることもある。

ただし加入できる業種や条件が限られているので、自分が対象になるかを確認する必要がある。

iDeCoと小規模企業共済——老後格差の縮め方

次に老後の年金格差を縮める話をする。

会社員との年金格差を埋めるうえで、フリーランスが最初に使うべきなのはiDeCoだ。フリーランス(国民年金第1号被保険者)の場合、月6万8千円まで掛け金を設定できる。

この掛け金は全額所得控除になるので、年収500万円のフリーランスなら年間の節税額だけで16〜20万円ほどになる。老後の積み立てをしながら、現役時代の税金も減らせる。使わない理由が見当たらない構造だ。


もう一つが小規模企業共済だ。こちらは個人事業主やフリーランスのための「退職金制度」で、月最大7万円まで積み立てられる。

掛け金は全額小規模企業共済等掛金控除になり、廃業や解約のときにまとまったお金が戻ってくる。積立期間や解約理由によって受取額は変わるが、20年積み立てれば1680万円以上になる計算だ。

iDeCoと小規模企業共済の両方を使えば、月13万5千円が所得控除になる。年収500万円のフリーランスなら、実効的な節税額は年30〜40万円になる計算だ。「セーフティネットを買い直す」ことが、同時に節税にもなっている。会社員が自動的に享受している仕組みを自分で組み立てると、その過程で節税という「おまけ」がついてくる。これがフリーランスの制度活用の面白いところだ。


なお、iDeCoは60歳まで引き出せないという制約があるため、生活費の現金確保とのバランスには注意が必要だ。

月68000円を全額iDeCoに突っ込んで手元の現金がなくなる、という状態は本末転倒だ。まず生活費の半年分を現金で確保してから、余剰資金でiDeCoと小規模企業共済を積み上げていく順番が現実的だと思っている。


優先順位をまとめると、まず現金確保(生活費3ヶ月分)、

次に就業不能保険への加入、
その次にiDeCoと小規模企業共済という順番が私の考える基本的な設計だ。この順番で進めれば、最低限のリスクヘッジをしながら老後の積み立ても始められる。

ここでよく受ける質問に答えておきたい。

「iDeCoと小規模企業共済、どちらを優先すべきか」という問いだ。

両者の違いは資産の性質にある。iDeCoは運用によって資産が増減する(元本割れのリスクもある)。小規模企業共済は積立金が確実に戻ってくる(ただし解約のタイミングによっては不利になる場合もある)。

私の考えでは、まず節税効果が高く運用の選択肢も豊富なiDeCoを最大限活用し、その次に小規模企業共済を積み上げるという順番がいい。ただし廃業リスクが高い時期(独立直後など)は、いざというときに比較的取り出しやすい小規模企業共済を先に始めるという考え方もある。どちらの制度も「始める」という意思決定自体が最重要で、細かい順番より「とにかく今月から始める」ことのほうがはるかに大事だ。

「自由の代金」を知ったうえで選ぶ

ここまで読んだとき、フリーランスになることをためらう人もいるかもしれない。そういう人には少し意地悪なことを言いたい。

会社員でいることのコストも、実は同じように存在する。

一つ具体的な数字を出しておくと、ここまで見てきた「セーフティネットを買い直すコスト」を合計するとどうなるか。就業不能保険が月1万円、iDeCoが月3万円、小規模企業共済が月3万円
——合計で月7万円、年間84万円だ。

この84万円が、フリーランスが「会社員に近い水準のセーフティネット」を持つためにかかるコストの目安だ。

逆に言うと、年収500万円で手取りが360万円のフリーランスが、この84万円を全部使っても手取りは276万円になる。年収450万円の会社員の手取り(約370万円)にはまだ届かない。

だからフリーランスの年収目線では、「会社員の年収より100〜150万円多く稼いで、ようやく同じ手取り水準」という感覚が現実に近い。

これを知っているのと知らないのでは、独立後の設計がまったく変わってくる。

会社員は転職や副業の制約、昇給の上限、意思決定の自由のなさを「コスト」として払っている。フリーランスはセーフティネットの薄さというコストを払っている。

どちらも「何かを得るために何かを払う」構造になっているだけで、どちらが正解ということはない。

重要なのは、コストを把握して選ぶか、把握せずに選ぶかの差だ。

国民健康保険の通知を見て「高すぎる」と感じた人は多いと思う。ただその「高さ」は、会社員時代に会社が払っていてくれたものが可視化されただけだ。元々かかっていたコストが、独立したことで初めて見えるようになったに過ぎない。

傷病手当がなくなったことも、労災が適用されなくなったことも、年金が細くなったことも、すべて「自由を買った代金」の一部だ。代金を把握せずに自由を買った人は、なぜか豊かになった気がしない。

冒頭の知人は「豊かになった気がしない」と言っていたが、その後でこの話をしたら「ぜんぜん知らなかった」という顔をした。社会保険料の差額を知らずに手取りを計算していた。傷病手当がないことも知らなかった。老後の年金格差は「なんとなく知っていたが数字では考えていなかった」と言った。

知らなかっただけで、構造的には何も損していない。問題は、これから先も知らないままでいることだ。

iDeCoは今から始めればいい。就業不能保険は明日から入れる。

小規模企業共済は来月から積み立てを始められる。「自由の代金」がいくらかを知ってしまえば、あとは設計するだけだ。

知人は最近、iDeCoと小規模企業共済の両方を始めたらしい。「保険も見直した」とも言っていた。

2年前にそれをやっていれば、2年分の節税と積み立てができていた。

でも2年後よりは、

今日のほうが早い。豊かになった気がしない理由が分かった人間は、やはり強い。

お金や社会保険について、一度きちんと整理したい方へ

私は新卒で銀行に入り、個人や法人のお金に関わる現場を見てきました。

その後、事業再生コンサル、M&A、経営企画、会社経営を経験。生成AI分野では4冊の書籍を商業出版し、AI活用やキャリア、資産形成について200名以上の方と話してきました。

AIに聞けば、いくらでも答えが返ってくる時代です。ただ、知識がなければ、その答えが本当に正しいのか、自分に合っているのかを判断できません。

フリーランスとして働くうえで、社会保険や老後資産をどう設計するか。自分の状況に置き換えて一度整理してみたい方は、まずは無料でお話ししましょう。

無料相談はこちら https://timerex.net/s/createground.corp_5fe3/26c6761a

運営者については、下記の記事にまとめています。どんな人間が運営しているのかを知っていただいた上で、ご興味があればぜひお話しできればと思います。
https://note.com/business_aitimes/n/n36ff90d06dbf

いいなと思ったら応援しよう!