【Letter/ Do you remember?】 卒業式シリーズ
はーい、みなさん、ほら席についてください!はしゃいでないでほら、大村!席に着きなさいって!はいみなさん、立派な卒業式でした。先生とても心を動かされました。みなさんが校歌を歌い始めた時にこの三年間を思い出して、ほら大村!先生は心を動かされた話をしています。それに合わせて大村も動き回らなくていいんです。でもな、大村、聞いてください。みなさん、大村は授業中でもついつい動き回り、時折先生はそれを注意してきました。その様子はこの教室にいるみなさんもご存知だと思います。そして先生は考えました。観察しました。なぜ大村は動き回るんだろう、じっと想像しました。大村には感情がありました。もちろん感情は誰にでもあります。でも大村の感情は外に出てくる感情です。何かの行動となって大きく形に出る感情です。その結果大村は体を動かすことでその感情を表現し、向き合っていたのだと先生気がつくことができました。いいですか、授業というものを漢字で書きます。業を授ける。これは先生からみなさんへ教育や生き方の例を授けるということを表しています。そして先生は動き回る大村に対して動き回るな、そういった生き方を押し付けようとしていました。愚かでした。先生は自分のことが恥ずかしくて恥ずかしくてどうしようもありませんでした。大村は授業を受け、知識を得て、みなさんとその場を過ごすことが楽しくて楽しくてしょうがなくなってついつい動き回っていました。先生は閃きました。あくまで選択肢の一つとして、大村は日本以外の場所で暮らすこともできるのではないか、そう考えました。楽しい時には踊り、歌う、そんな文化の中で大村はもっといきいきと暮らすことができるのではないか、そう考えました。大村と話をしました。まずは国語と歴史を勉強して、そして学んだことを先生に英語で話してみてくれませんか。そんな話をしました。いいですか、みなさん。大村は数学はからっきしです。でも国語も歴史も英語もメキメキと成長しました。たくさんの言葉を覚えました。言葉には深みとバラエティが重なって、大村はとても綺麗な日本語を話します。綺麗な英語を話します。大村、本当に大きくなりました。立派になりました。今の大村は自分の感情をいろんな方法で表して生きています。そして、楽しい時には踊り、歌うことができます。大村、人生を楽しく生きてください。そしてその楽しさを表現して、これからも多くの人にその楽しさを分けてあげてください。
はい、話の中で生きるという言葉が出てきました。皆さんが入学してきた頃、例の疫病が世界中で流行り始めて私たちは毎日マスクをし、接触を制限して暮らしてきました。ストレスの多い三年間だったと思います。本来ならこの三年間でもっと体験できたであろうことを体験させてあげられなかった。先生はとても悔しいです。でもここで悔しがっていても仕方ありません。それもまた事実です。なので今日は生きることについての話をしてみなさんへの最後の授業としたいと思っています。ほら、大村、座りなさいって!はい、じゃあ黒板にまずは大きく書きましたこの生きるという言葉の生という字を見ていきます。これはどのような漢字ですか、まずはそれを想像していきましょう。
はい、杉崎!杉崎にとって「ああ、わたし幸せだな、生きてるな」と思う瞬間を教えてください。はい、はい、はいみなさん、杉崎にとって生きている幸福を感じる瞬間とはお菓子を食べてゴロゴロしている時との回答をいただきました!確かにこれは幸せです。先生だって大好きです。仕事終えて家に帰りお風呂に入ってビールを飲みながら夕食を食べます。食べ終えるとテレビを見ながらついうとうととする。最高に幸せです。いいですか、つい先週のことです。杉崎はあるハンバーガーチェーン店でたくさんの食事を摂りました。そしてついつい眠くなったのでしょう、なんとそのお店でうたた寝を始めてしまいました。そして店員の方に起こされました。杉崎らしい出来事です。学校と同じです。食事を終えた5時限目の杉崎と全く同じです。いいかー、杉崎、先生なんでも知ってるんだぞー!でもね、みなさん、寝るって本当に大事なことなんです。寝ている間に余計な行動を制限して体は疲れからの回復をはかっています。細胞が生まれ変わります。精神がクリアになります。みなさん、杉崎の笑顔はとても綺麗な笑顔です。よく食べ、よく笑い、よく寝る。力に溢れていてそれを見た人もついつい笑顔に変えていく笑顔です。杉崎、どうかその笑顔を大事にしてください。その笑顔は特別な力を持っています。宝物のようです。先生はそんな杉崎のことがとても好きです。
じゃあこの生という漢字をもう一度見ていきます。園田、どんなふうに見えますか?生える?園田、先生はどのように出来上がった漢字かを聞きたいです。読み方じゃありません。小島、小島はどうだ。生える?はい、みなさん、二人から生えるという言葉が出てきました。いいですかみなさん、確かにこの三年間で長い髪を自慢にしていた先生は幾分ボリュームを失ったように思います。そしてそれを度々ネタにされてきました。いいか、園田、小島。国語の授業で諸行無常という言葉を聞いたかと思います。何事にも永遠はありません。いいんです。何事もいつか形を変えて存在していくことになるんです。いいですかみなさん、園田は先日スマートフォンでアダルト動画を見ていました。そして親がそれを見つけました。もちろん年頃ですから興味があるのはわかります。先生だってそうでした。でも今園田のスマートフォンは未成年設定されていますのでもうアダルト動画を見ることができません。何事にも永遠はありません。いいか、園田ー、先生に隠し事なんてできないぞー。小島、小島は隣のクラスの女子生徒に恋をしていました。でも卒業を前に告白をして見事に振られてしまいました。いいかー小島ー、先生何でも知ってるからなー。でもな、園田、小島。何事も永遠などなくて形を変え続ける、そう先生は言いました。例外なくあなたたちも変わり続けます。いいですか、アダルト動画も成年すればまた観ることができます。でもその時には今みたいな強い興味がなくなっているかもしれません。なぜならこれから園田は今よりも大きな速度で変わり続けるからです。毎日観ていたアダルト動画も週五に減るかもしれません。体が大きくなりより逞しくなります。大好きな柔道で立派な成績を残すでしょう。小島はとても穏やかな心を持っています。テニスでも素晴らしい活躍をみせています。これから高校に進学し、テニスでも学業でもさらに良い成績を残します。二人とも変わり続けます。今とは違う景色を見て、きっと先生よりも大きくなって、立派な大人になります。先生の頭髪をネタにすることもなくなります。こら、真田!二人とも先生よりも背が高くなってさらに頭髪をネタにしやすくなるんじゃないかって?やめなさい、ほら、笑うな、ほら!まあね、先生は嬉しいんです。今日という日が嬉しいんです。
じゃあ新谷、生きるの生という漢字、どう見えますか?牛と土。はい、土の上に牛がいる。そのように見えます、それが新谷の回答です。はい、杉崎、新谷の回答を聞いてどうですか、何か感じましたか。はい、食べたら横になる、そうです、牛は食べたら土なり草の上に座り込み次第に横になります。そう、それが生きるということ。新谷と杉崎のおかげで今一つの形が見えてきました。つまり生きるということは食べてそれを消化する、とてもシンプルなことです。命を食べ、自分の命を繋ぐことです。効率よく命を繋ぐために横になり消化に集中します。新谷はとてもユーモアのある素晴らしい感性を持っています。今の回答だってとってもチャーミングだし先生感動しています。新谷、その感性をこれからも磨いてください。先生からのお願いです。あなたはきっと多くの人の背中を支えることのできる人になっていきます。その時にそのユーモアあふれる感性がいきてきます。新谷、いつもこのクラスの心を温めてくれましたね。ありがとう。先生は本当にその感性が好きで好きで仕方がありません。
でもそんな新谷が一度だけ辛いと口にしたことがあります。この話は先生と新谷だけの話でしたがその一部を今日この場で話していいかと聞いたところ承諾を得ることができましたので今ここで話します。
新谷の性は複雑な面があります。思春期を迎えるとその悩みは大きくなっていきました。ホルモンの関係で男性として生まれた体は男性としての特徴が、女性として生まれた体は女性としての特徴がそれぞれ顕著に現れてきます。そんな中で新谷は悩み、苦しみ、涙を流してきました。みなさん、新谷は高校から女子生徒として生きていきます。みなさん口に出さずともなんとなくわかっていたと思います。新谷、先生にはその悩みの大きさがどれだけのものかはとても想像がつきません。でも今ここでできることがあります。これは余計なお世話かもしれません。でも先生は信じています。ここにいるみんな、一人一人があなたが幸せに生きていくことを願っていると。余計なことに悩み時間を失うことなく胸を張って生きていくことができるように、今ひとつだけ余計なお世話をします。新谷さん、みんなでそう呼びます。なんかさ、水臭いじゃないか高校からって。今です、今から女性として生きてください。なあ、みんな、そうだろ?新谷、女子生徒として卒業してください。いいか、せーの、で精一杯の愛を込めて名前を呼ぶぞ!
せーのっ!
よし、新谷!胸を張って生きてください!その笑顔、最高ですよ!もちろんみなさんも最高です。
さて、最後の授業も終わりに近づいてきました。もう少しだけ先生にお付き合いください。ここで先ほど出てきた辛いという字を見ていきます。唐沢、これはどんなふうにできていますか?はい、十の上に立つ、そんな字です。ではこの十という字はどんな意味を持っているでしょうか。はい、数字の十。唐沢、じゃあ十ってどんな数字でしょうか。はい、一から十までの十。はい、素晴らしい回答です。そうです、十という言葉には満たされた状態という意味があります。なんだ、辛いのに満たされているっておかしな話だよな。じゃあ満たされるってどういうことでしょう。唐沢、どうだ、何か見えるか。はい、水、草、両という漢字が合わさってできています。ありがとう。唐沢にこの回答をもらえて先生嬉しいです。学級委員長は伊達じゃありません。先生な、唐沢が学級委員長になった時に心が震えました。前世が武将か何かだったんじゃないかってくらい何かを代表するという姿が様になっていました。唐沢、そのまま穏やかな心を育んで、聡明で力強いリーダーとしての素質を大事にしてください。先生な、そんな唐沢の姿を想像するだけでわくわくします。
ではこの水と草、両という文字はどんな意味を持っているのか。水と草はわかりますね。みなさんが飲んでいる水とあの校庭に生えている草です。こら、真田、生えるに反応しない!ほーら、大村も走らない!もう少しです!はい、この両という言葉、時間がないので先生が答えを言います!これは対になっているもの二つが一組になっている状態です。両方であるとか両極といった言葉です。水が草を育み、草は大地に根を張り、土が水を濾過していきます。完全なサイクルです。この状態が満たされた状態です。一から十の十の状態。そのサイクルの中で牛も精一杯草を食べ、満たされて眠ります。そして糞をします。それはまた土の養分となり、草となり、水になります。生きています。みなさん、わかりますか。この満たされたものの上に立つ状態が辛いという漢字です。なんだ、満たされているから辛いと感じるのか、そう考えることもできます。でも先生はそんな言葉で辛いという言葉を捉えたくはありません。なんかな、辛いのは甘えみたいに聞こえて好きになれません。じゃあどうすればこの辛いという字を前向きに捉えることができるか。例えばこういった解釈はどうでしょう。この十が満たされたもの、それでも我々は生きていると変わり続けます。立つ。これはある地点から旅立つということでもあります。望むことも望まぬこともあります。それでも私たちは生きている限り変わり続けます。どれだけ満たされたものがあっても必ずそこから離れます。この状態を時に私たちは辛いと感じる、そんなことを先生は何度も感じました。
先生は今辛いです。みなさんと過ごした三年間は満たされていて本当に素晴らしいものでした。だからこそ辛い。それでもこの場所でさらに三年間を過ごすよりも、それぞれの望む人生に向けてこの場所を卒業する、そんな世界の方がずっと明るい、先生はそれを信じています。だからこうやって卒業を祝うことができます。精一杯生きて、笑って、食べて、寝て、こら新谷、糞をしてはいらないです。せっかくうまくまとめようとしているのに。まあいいか、糞をして、そうやって毎日を過ごしてください。卒業式、立派でした。みなさん本当に立派な姿でしたよ。そしてこんなに楽しい卒業式の日も初めてでした。なあ、みんな!今から先生は大きな音で音楽をかけます!踊りませんか!覚えてますか!疫病から自由になって、みんなで文化祭で聴いたあの曲です!いきますよ!
せーーーーのっ!
みなさん、最高ですよ。笑顔で踊って、声を上げて
みなさん、ご卒業おめでとうございます
心から、ご卒業おめでとうございます
【完】
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