バンビーノ しゅぃなほぷ。uno
ゆっくりとビーノが目覚めていくのを見ていた。そっと頬に触れて前髪をかきあげると、おれを見てひと呼吸おいて微笑む。
おはよ。と口が動く。
声はいつも出ないんだ。
このおはよ、も、きれいな形の耳も首を傾げるクセも全部おれのものだけど、こんな朝は今日で終わりだ。一緒にいるのをやめる。話し合ったわけじゃない。そうしよっか、そんな感じだった。あれからずっと胸がきゅっとしてる。会えなくなるわけじゃないのにさみしい気持ちがあふれてくる。
おまえは平気なのか。おれと一緒じゃなくても大丈夫なのか。
ビーノはいつも通り甘いパンとチョコミルクの朝ごはんをにこにこと食べてる。
明日まで休みだろ、何するんだ。
んー、映画でも見に行こうかな。雨になったらうちでぼーっとしてるかも。
うち、ってのが、この部屋じゃないことも気を重くさせる。今までならどの映画見に行くか相談してただろ。
おまえはもう、ひとりになる覚悟ができてるのか。
荷物はほとんど運び出して部屋の中は基本的な家具と家電だけになってる。ほとんどはジュノがそのまま使う。今日鍵をジュノに渡しておれたちはこの部屋を出る。
僕、先に出るね。
え、
ジアンがねえ、今日お昼に仕事入ってちょっと時間余裕ないかもなんだって。だから。
平気、なのか、な。そうか。
じゃあねえ。
腕を引いて少し見開いた目をのそきこむとビーノはにこっと笑った。
打ち合わせ、あさってだっけ?
うん、ああ。
またその時にねえ。
なんの余韻もなく、さっさと歩いていく。
じいちゃんちに着いてからも、見送ったビーノの後ろ姿をぼんやりと思い浮かべていた。いつの間にあんなリュック買ったんだ。どんな映画見たんだ。ポップコーンちゃんと注文できたのか、こぼさなかったか。
久しぶりにおれだけのものになった部屋で、日が落ちて薄暗くなっても動けなかった。なんでおれのほうが泣くんだよ。どうしたら涙は止まるんだ。
(続)
