恋患い
重い、重い扉
それを開くと、祭壇の前には
「アドルフ」がいた。
ステンドグラスを光が通り
彼のことを照らしている。
私が来たのを見て
柔らかな笑みを浮かべると
大きくと息を吸い込んで歌い始める。
讃美歌は、大層に美しく
私は息を呑んだ。
実際に、息をするのを忘れていて
苦しいと感じてようやくと
肺に空気を送り込んだのだ。
脳が痺れるようで
そこで、私のこの心が
彼、「アドルフ」への恋を患っているのを
自覚した。
恋というには、濁っており
気味の悪いものである。
だから、鍵を掛けて
しまっていないといけない。
こんなものを、私が持っているなど
誰にも知られてはいけないのだ。
「アドルフ」の歌は続く。
心の底の、隠してなければいけないものが
激しく、激しくのたうつ。
「アドルフ」は、私に一歩近づいた。
熱を持った瞳が、貫くようで
堪らず、私は後退る。
それでも、なお
近づくものだから
とうとう、私の背中は
先ほど入ってきた扉の感触を受け取った。
手が伸びる。
瞳から続く視線は、私を逃さなかった。
頭を抱くように腕を絡める。
そして、「 」
名前を呼んだ。
……
それから先のことは覚えていない。
ステンドグラスから落ちる光が
角度を変えているのだけは、わかった。
「アドルフ」は、もうどこにもいなかった。
もう、どこにもいなかった。
『恋患い』
