姉自慢
3つ上の姉とは大の仲良し姉妹でした。私にとって姉は自慢の存在。近所の人からは「器量良しのお姉さん」、私の友人らも「美人」と口を揃え、従兄妹たちは陽気で優しい姉を慕っていました。
小学生の頃、夏休みは2駅先の市民プールに2人でよく出掛けました。服の下に水着を着て、帽子を被れば準備OK。最寄り駅に着くとプールまでの道のりを黙々と歩き、ようやく着いても入場券売り場で行列していることが多く、炎天下にさらされて待つことも少なくありませんでした。
当時は姉の立場や胸中など知る由もありませんでしたが、3歳下の妹を連れて電車で行き来するのは、さぞ気の重い役目だったと思います。母の言いつけとはいえ、扱いにくい妹との道中が楽しかったはずはありません。親に逆らわない真面目な子供だった姉は、せっせと私を連れていき、諸々の世話を焼いてくれました。電車の切符や入場券、ロッカー選びや鍵の所持など全て姉任せ。私は何も気にせず、何も考えず、付いていって遊んでいればよかったのです。そして帰り道は、決まってソーダ味のアイスを買い、食べながら帰路に着きました。途中にあったドブ川の、澱んだ水中にゆらめく水草やコケ、ゴミの吹き溜まりが記憶の隅に焼き付いています。容赦なく肌を射すジリジリした日差しと夏の光景は、蜃気楼のような気だるい空気に満ちていました。
時は流れ、自宅から会社に通っていた独身時代のこと。同じく会社員で都内に勤めていた姉は、会社帰りによく手みやげを買ってきてくれました。老舗の甘味や有名店のスイーツなど、いずれ劣らぬ美味絶品で、大食漢の弟と私が豪快に平らげていく様子を、姉は楽しそうに眺めていたものです。何処どこの何々が美味しいという評判を聞くと、昼休みや帰宅時に足を伸ばして購入し、家族みんなを笑顔にしてくれました。
地方にはまだ珍しかった小洒落たパン店「サンジェルマン」「アンデルセン」のカナッペやクロワッサン、チョコレート専門店「トップス」の濃厚なチョコケーキ、「ヨックモック」のクッキーや「ユーハイム」のビッグプリンなど、思い返すとその時代の匂いや街の喧噪が、味覚と一緒に蘇ってくるようです。
結婚して、家族を家で待つ立場になって初めて、おみやげがどんなに嬉しいものか、つくづく身に沁みました。頼んで買ってきてもらうのとは根本的に違うから、おみやげは心をパッと明るくしてくれるのでしょう。あの頃の姉の心遣いが、今更ながら無性に懐かしく、ありがたく感じられるスイートな思い出です。
また、夫の転勤で地方に住んでいた時、2児の母であるママ友がぼやいたことがありました。彼女の娘たちは競争心が強く、何かと競い合って喧嘩が多いということ。私にはそういった経験はなく、姉妹も色々だと感じました。姉の真似っこはよくしたがりましたが、ライバル視することは皆無。姉は常に姉らしい姉で、私はいつも妹らしい妹だったと思います。
今でも私は姉に絶対服従。誰よりも何よりも姉の顔色が気になります。ある種の怖さも無論ありますが、一番は役に立ちたいということ。それが最高の恩返しで不義理の罪滅ぼしだと思っています。
