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石の温度、饅頭のぬくもり、古城の静けさ。

この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」


麗江の古城は、石畳が多い。歩いていると、靴底に伝わる石の感触が妙に印象に残る。丸みを帯びた石が敷き詰められていて、少し歩きにくい。でも、その石と石の隙間から、時々、花が顔を出している。

ピンク、黄色、オレンジ、紫。カラフルな花がそこかしこに咲いている。誰が植えたのか分からないが、石畳の脇に、プランターに、壁際に、思い思いの場所で咲いている。昼間の太陽の下で見るそれは、とても明るくて、少し派手だった。でも、悪くなかった。

水路が流れている。玉龍雪山から流れてくる水。その水路に沿って、古い木造の建物が並んでいる。瓦屋根が続く景色は、確かに絵になる。その建物の一つがカフェになっていた。

中に入ると、天井が高くて、梁が見える。木の匂いがした。古い建物をそのまま使っているらしく、窓枠も扉も年季が入っている。でも、椅子は新しくて、コーヒーマシンもピカピカだった。コーヒーを飲みながら、窓の外を眺めた。太陽の光でキラキラしていた。

夜になると、街が変わる。

ライトアップされた古城は、昼間とは違う顔を見せる。提灯が灯り、水路が光を反射して、幻想的な雰囲気になる。でも、人が多い。とにかく多い。昼間より多い。

人混みを避けようと、少し脇道に入ってみる。でも、そこにも人がいた。どこに行っても人がいる。世界遺産とは、こういうものなのかもしれない。

翌朝、早起きして外に出た。まだ観光客は少ない。路上に、おじさんが立っていた。手に籠を持っている。饅頭を売っていた。

蒸したての饅頭が、籠の中に並んでいる。湯気が立っている。一つください、と言って、財布を出した。おじさんは無言で饅頭を渡してくれた。温かかった。

歩きながら食べた。
ふかふかしていて、ほんのり甘い。
中には何も入っていない、ただの白い饅頭。

特別な味ではない。
けれど、朝の空気の中で口にすると、それだけで十分だった。

石畳を歩きながら、饅頭を食べる。まだ静かな古城。花はまだ眠っている。水路の水音だけが聞こえる。

この時間が、一番良かった。ライトアップも、カフェも、石畳の花も良いけれど、朝の饅頭が一番良かった。

理由は分からない。でも、そういうものだと思う。旅というのは、予想外のところに落ちている何かを拾う作業。饅頭を買ったおじさんの顔も、もう思い出せない。でも、饅頭の味は覚えている。

―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、ひとりごつ。


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