貧しくても、そこに咲く小さな笑顔。
この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」
シレットの町へは、首都ダッカから北東へ電車で数時間、ガタンゴトンと揺られてたどり着いた。車窓に広がるのは、見渡す限りの緑の絨毯。それは、茶畑の広がる高原の町、シレットへと続く道だった。
車内では、意外なことにソーサーとカップに入った温かいティーが提供された。熱い紅茶をひと口啜ると、ふわっと心地よい香りが鼻腔をくすぐる。その温かさが、旅の疲れをじんわりと癒してくれるようだった。
やがて電車は速度を緩め、村落のなかへ入っていく。
窓の外に目をやると、線路のすぐそばで4人の少女が遊んでいた。彼女たちは、みな幼く、そして上半身は裸だった。バングラデシュの暑い気候を思えば、裸でいることは自然なことのようにも思える。しかし、彼女たちのくすんだ肌や、汚れの目立つ腰巻を見ると、それは暑さのせいだけではないのだろう。
列車が止まると、わたしは彼女たちのそばへ寄っていった。言葉は通じないが、スケッチブックを取り出すと、彼女たちは興味深そうに集まってくる。わたしは身振り手振りで「絵を描いてくれないか」と頼んだ。戸惑いながらも、そのうちの一人がクレヨンを受け取ってくれた。
彼女は紙の上に、ためらいがちに線を引いた。それは、彼女たちの住む粗末な家屋や、線路を走る列車のようにも見えた。でも、その絵には、彼女たちが日常で目にしているはずの、明るい緑の茶畑や青い空は描かれていなかった。ただ、くすんだ色と単純な線で描かれた、棒人間や花だけがそこにあった。
描き終えた彼女は、恥ずかしそうに顔を伏せた。
わたしはお礼に持っていた小さなキャンディーを渡すと、彼女たちの目がキラキラと輝く。たったそれだけのことで、彼女たちの表情には、つかの間の明るさが戻ってきた。線路脇の貧しさのなかにも、ささやかな喜びが確かに存在していることを、彼女たちの笑顔が教えてくれた気がした。その時、遠くから汽笛の音が、静かに響いた。
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―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、ひとりごつ。



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