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「旅人に親切にせよ」、コーランの教えが守られる街で。

この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」


コルカタの喧騒を後にし、わたしは夜行バスに乗り込んだ。バスは、ごうごうと音を立てて暗闇を走り、やがて巨大な河のほとりにたどり着く。ここから先は、バスごと船に乗って、河を渡るのだ。

汽笛が大きく鳴り響き、バスはゆっくりと船の中へ滑り込んでいく。闇夜に浮かぶ河は、どこまでも深く、大きく、その水面は、泥のように汚れていた。船は、ゆらゆらと河を進み、わたしは、その揺れに身を任せながら、ダッカという新しい地への不安に飲み込まれていた。

ダッカ。
ここは人口密度が世界一とも言われる、人があふれる街。バスを降りた瞬間、むわっと熱気に満ちた空気が体にまとわりつく。排気ガスと、汗と、スパイスの匂いがごちゃまぜになり、肺の奥までずしんと響く。

バングラデシュは、他のアジア諸国に比べてひどく貧しい、という印象はあまり受けない。もちろん、放置されたゴミで清潔とは言えない路地や、簡素な店構えは多い。がそれ以上に活気がある。

ダッカの街を歩いていると、突然のスコールによくあう。ザーッと音を立てて降り出す雨に、わたしは仕方なく軒先で雨宿りをしていた。すると、どこからともなく声がかかる。「ちょっとこっちへ来て、チャイを飲まないか?」

誘われるままについて行くと、あっという間に人だかりができた。まるで家族の一員であるかのように、あれを食え、これを食えと、次々に食べ物を勧めてくれる。甘くて香ばしいチャイの匂いが、雨に濡れた体を温めてくれる。

インドであれば、親切の裏に商売や見返りを期待するギラギラした視線を感じることが少なくなかった。この後、「フレンド価格にしておくから、これを買わないか」と、まるでピラニアのように食いついて離れない商売根性を発揮する人たちに何度も出会った。

だが、バングラデシュでは違う。
ひとしきりおしゃべりをして、雨が上がれば、「じゃあバイバイ。またこの国に来たらぜひ連絡頂戴ね」と、あっさりと別れを告げられる。お礼をしようとしても、彼らは笑顔で首を横に振るだけだ。その寛大さは大地を包む空のように限りがなかった。

まだ観光客や旅行者が少ないということも理由の一つなのだろう。だが、それだけではない。この国がイスラム教徒の国であることも大きい。経典『コーラン』には、旅人には親切にせよ、と書かれていると聞く。彼らの親切は、信仰に根ざした、心の底からのものなのだ。

親切とは、こんなにも純粋なものだったのか。
見返りを求めない優しさが、こんなにも心を温めるものだったのか。ダッカの街で、わたしは、忘れかけていた人の心の温かさに触れた気がした。そして、この国が持つ、真の豊かさとは何かを、垣間見た気がした。

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―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、ひとりごつ。


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