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この熱帯の空に、新しい年が昇っていく。

この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」


日本を発ってから、11カ月が過ぎていた。年越しの瞬間は、遠く離れた東マレーシア、コタキナバルで迎えることになった。

わたしが泊まっていたのは、一泊わずか15リンギット(約600円)という、驚くほど安いバックパッカーズロッジだった。朝食は食べ放題で、リビングには日本の文庫本がずらりと並んでいる。その居心地のよさに、気づけば3泊もしてしまった。長く旅をしてきたなかで、ここはアジアで一番快適な宿だったかもしれない。

大晦日の夜には、そんなオーナーが、宿泊者みんなのために「NEW YEAR DINNER」という特別な夕食を用意してくれた。きっと、もてなすことが好きなオーナーなのだろう。豪華な料理ではない。それでも、皆でわいわいと食卓を囲み、言葉は通じなくても、にこにこと笑顔を交わし合う。その時間は、旅の疲れを忘れさせてくれるほど温かかった。

食事が終わり、賑やかなウォーターフロントへ向かった。
人々でごった返し、熱気に包まれて新しい年を待っている。潮風に混じって、甘い焼きとうもろこしの匂いや、揚げ物の香ばしい匂いがふわりと漂ってくる。露店からは、ちゃかちゃかと賑やかな音楽が流れ、人々は皆、笑顔で話し、笑い合っている。

ここは南国だ。
日本の大晦日とは、まるで違う。寒い冬の空に鳴り響く除夜の鐘も、家族で食卓を囲む温かさもない。それでも、この熱気に満ちた雰囲気に、わたしの心はうきうきと浮き足立っていた。

カウントダウンの時間が近づき、会場の熱気は最高潮に達する。司会者の声に合わせて、皆が声を張り上げ、時計の針を見つめる。

「スィー!」「トゥー!」「ワン!」

そして、日付が変わった瞬間、夜空にまばゆい光の花がどっかーんと咲き誇った。色とりどりの花火が次々と打ち上がり、夜空を鮮やかに染め上げる。花火の音が鼓膜をがんがんと叩き、その光が水面に反射して、きらきらと輝いている。

新しい年が始まった。

しかし、不思議と、感慨深さのようなものはなかった。大晦日という特別な日も、元旦という特別な日も、ただの「一日」として、当たり前のように過ぎていく。日本では、年の節目にたくさんの意味を見出し、過去を振り返り、未来に思いをはせる。けれど、この熱帯の空の下では、そんな重い感情は、まるで意味を持たない。

花火が終わり、人々は皆、それぞれの場所へ散っていく。わたしも、宿へ向かう道すがら、立ち止まって空を見上げた。満点の星空が、きらきらと輝いている。その星の光は、何億年も昔から、この空で輝き続けてきたのだろう。

時間や季節が移り変わっても、ただそこにあるだけの空と、この海。その前では、わたしたちが勝手に作り出した「年」という節目など、取るに足らないものなのかもしれない。

―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、ひとりごつ。

Google Geminiと相談しながら創作しました。
カバーイラストは「宮崎駿」風のアニメイラストでお願いしました。


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