人間では、なかった。ポーランド、アウシュビッツ。
この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」
アウシュビッツに着くまで、収容所をわかったつもりでいた。
門をくぐった。
「ARBEIT MACHT FREI」
働けば自由になる。
そう書いてある。
嘘だった。
収容所の中を、歩く。
レンガ造りの建物が、並んでいる。
展示がある。
靴が、山のように積まれている。
メガネが、山のように積まれている。
髪の毛が、山のように積まれている。
すべて、殺された人々のものだ。
言葉が、出ない。
ガス室に、入る。
狭い。
天井が、低い。
ここに、何百人もの人々が、押し込められた。
シャワーを浴びると、言われて。
だが、出てきたのは、水ではなかった。
毒ガスだった。
何分かで、全員が死んだ。
死体は、隣の焼却炉で、焼かれた。
トイレを、見る。
壁も、仕切りも、ない。
ただ、穴が並んでいる。
何十個も。
そこで、人々は、用を足した。
プライバシーは、なかった。
人間として、扱われていなかった。
ビルケナウに、行く。
第二収容所だ。
広大だった。
線路が、続いている。
列車で、人々が運ばれてきた。
到着すると、選別された。
働けるか、働けないか。
働けない者は、すぐにガス室へ送られた。
子ども、老人、病人。
すぐに、殺された。
第二次世界大戦中。
ここで、百十万人以上が殺された。
ユダヤ人、ロマ、政治犯、同性愛者。
さまざまな人々。
アウシュビッツを出た。
陽射しが、まぶしかった。
空が、青かった。
鳥が、鳴いていた。
だが、胸が、重かった。
ゴレ島で、奴隷貿易の歴史を見た。
ルワンダで、虐殺の歴史を見た。
そして、アウシュビッツ。
人間は、こういうことをする。
歴史は、それを教えている。
―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、ひとりごつ。
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