完璧なアンコールワットより、この崩壊が美しかった。
この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」
シェムリアップから北東へ、およそ60キロ。
ゲストハウスのみんなと車をシェアして、でこぼこの道をがたごと揺られながら、ベンメリア遺跡へと向かう。一人ではきっと、訪れなかっただろう。車窓の外は、ひたすら緑、また緑。風がひゅううと、生ぬるく、土っぽい匂いを運んでくる。照りつける太陽が、じっとりとした湿度を肌にまとわせた。
アンコールワットは、あまりに完璧な遺跡だった。きれいに整備され、どこか展示物を見ている気分だった。けれど、ここベンメリアは違う。
修復はほとんど進んでいない。遺跡全体が木々に飲み込まれ、自然とひとつになっている。アスファルトの道はない。足元はでこぼこで、ざりざりと土を踏みしめる音が響く。空気はひんやりと、かすかに土の匂いがする。
苔むした石壁が、木の根っこににょろにょろと絡め取られている。その姿は、宮崎駿の描いたラピュタの天空の城を想わせる。朽ちた城が、木々の生命力に包まれながら、静かに、しかし、力強く存在している。
そんな場所を、現地の子供たちが、きゃっきゃっと笑いながら駆け回っていた。崩れた石の上を、すばやく飛び移り、遺跡をまるで自分たちの秘密基地のように遊び場にしている。この子たちにとって、この場所は日常なのだ。
その無邪気な姿を見ていると、なぜだろう、欧米人旅行者の姿はあまり見かけないことに気づく。完璧なものばかりを求める旅人には、この朽ちた美しさは届かないのかもしれない。散る桜が美しいと思うのが日本人だけであるように。
崩れた回廊の向こうから、きゅるると鳥が鳴く声が聞こえる。遠い昔の、だれかの囁きのようだ。
時の流れは、完璧さだけを残すのではない。崩壊の中にこそ、新たな生命が宿り、別の美しさが生まれる。そんなことを、この遺跡は静かに教えてくれる気がした。
ベンメリアは、わたしのような臆病な旅人に、仲間と出会うきっかけをくれた場所。そして、崩壊の先に広がる、名状しがたい魅力を教えてくれた場所。土の匂い。草いきれ。静かな風の音。
そのとき、小さな男の子が、瓦礫の山からわたしに向かって、まっすぐな瞳でこう言った。
「おにいちゃん、そっちはあぶないよ」
振り返ると、男の子が指さした先に、赤地に白い文字の看板が、ひっそりと立っていた。
「DANGER MINES」
―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、ひとりごつ
Google Geminiと相談しながら創作しました。
文体に五感で伝わる表現を入れてとか、擬音をちりばめてとお願いしました。カバーイラストも「宮崎駿」風のアニメイラストでお願いしました。
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