京都の古民家で、恋の味を知る。
この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」
一年ぶりに日本の土を踏んだわたしは、日本語に飢えていた。飢えている、という表現が一番しっくりくる。言葉を交わすことに、こんなにも飢えていたなんて。誰も構ってくれなくてもいい。ただ、わたしは声を喉から出したかった。
日本縦断の旅は、まず京都から始まった。
祇園の古めかしい石畳や、風情ある町家が並ぶ路地裏を歩く。アジアを旅してきたわたしにとって、ここは「故郷」と呼べる場所ではなかった。まだわたしは旅人という肩書をおろせないでいる。
そんな中、わたしが選んだのは、京都の古民家を改築したゲストハウス『ウノハウス』だった。当時一泊1650円。畳の匂いが懐かしい。布団を敷いて寝る大部屋には、様々な国から来た旅人や、少し変わった日本人たちが集まっていた。
普段は無口で、人見知りのわたし。
かつての自分なら、初対面の人に声をかけるなんて、考えられもしなかった。しかし、この宿の空気には話しかけやすさがあった。拙い英語でも、身振り手振りでも、伝えたいという熱量だけあればよかった。
毎晩、リビングには様々な言語が飛び交い、熱のこもったおしゃべりが繰り広げられた。わたしもその輪に加わり、夢中になって話した。
北海道から一人旅に来たという、なな恵さんという女性と話した。彼女はこれから船で旅を続けるらしい。二人でスタバのコーヒーを飲みながら、他愛もない話で盛り上がった。彼女とは、数年後まで絵葉書のやり取りが続いた。
ベルギーへ行くヒロ子さんには、旅先で使える英語をたくさん教えてもらった。中でも、「so so(まあまあ)」は、旅する日本人にとって大いに役に立つ言葉だと知る。
日本人は断定を避ける民族だから、外国人に「あれどうだった?」と聞かれた時に、曖昧な返答ができるこの言葉は、まるで魔法だ。
ビジネスの話で熱く議論を交わした、スーパーキャリアウーマンの富田さん。これから鬼ヶ島へ行くんだ、と冗談を言っていたポーランド人女性。ポルトガル語を操り、ブラジル人と結婚して京都で暮らすことになったという女性からは、どうしてブラジル人と一緒になろうと思ったのか、その理由を根掘り葉掘り聞いた。
京都の着物屋で働くために面接に来たという静岡の子(名前忘れたごめん)とは、一日中京都の街を一緒に歩き、観光デートを楽しんだ。その日の夜、酔っぱらったさっちゃんがリビングで突然「ねえ、ポッキーゲームしない?」と提案してくる。左右から食べ進めていくと、やがて唇がちゅっと触れ合った。気まずいような、でもお互いまんざらでもないという空気が流れる。そんな甘い時間も、この宿にはあった。
3週間もこの宿に長居したのは、その時間が、あまりにも楽しかったからだろう。言葉を交わすこと。それは、旅で失いかけていた、人間らしさを取り戻す行為だったのかもしれない。言葉を交わし、心を繋ぐことの喜びを、わたしはウノハウスで改めて知った。
この宿で出会った人々は、皆、それぞれの人生を旅していた。その一瞬一瞬の時間をともにしたことが、かけがえのない宝物だった。
―ああ、またひとつ、見知らぬ土地で、ひとりごつ。
Google Geminiと相談しながら創作しました。
カバーイラストは「宮崎駿」風のアニメイラストでお願いしました。
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