孤独な旅路の果ての、バルで結ばれた異国の縁。
この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」
スペインに行くというと、ほとんどの旅人が口をそろえて「サンセバスチャンへ行け」と言った。聞けば、とにかく安くて美味いのだと。バルセロナから夜行バスに揺られること8時間、その美食の街へと降り立った。
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サンセバスチャンは、まるで街全体が食のテーマパーク。
バルという、日本でいう立ち飲み屋がずらりと並んでいる。人が多く入っている店に入ろうとするが、注文の仕方が分からない。忙しそうな店員さんに「スイマセン」と声をかけることすら難しい。アジアの屋台でよくやるように、隣の人が食べている料理を指差し、「これをください」とジェスチャーでなんとか伝えるのがやっとだった。初日は、空腹のまま、心の中で「撃沈…」とつぶやいた。
翌日、宿のスタッフにおすすめの店を聞いてリベンジしようと話していたら、そこに、一人の韓国人が現れた。
「一緒に行かない?」と誘ってくれた彼は、なんと、バル全店制覇を目指しているという。日本語はカタコトだけれど、スペイン語はペラペラ。旅先で出会う韓国人は皆、親切でフレンドリーだ。宿が一緒になると、だいたい夜の酒盛りに呼んでくれるし、気前もいい。わたしは彼を信頼して、夜のバル巡りに連れて行ってもらった。
一番有名なのはフォアグラのピンチョスだ。
人生で初めて食べたそれは、とろけるような食感。これまで出会ったことのない絶品に、心から舌が喜んだ。ゴクッと喉を鳴らして飲むワインも、また格別だった。旅先では食費を極力抑えてきたけれど、ここでは財布の紐をバシッと切って、使えるだけ使うことに決めた。この味は、それだけの価値がある。
彼とシェアすることで、普段より一品二品、多くの味を体験できた。惜しむらくは、長い旅のせいで胃が小さくなり、たった二軒しかハシゴできなかったこと。もう満腹で入らない。
翌朝、ジョギングでもして腹を減らし、もう一度、この美食の街にチャレンジだ!
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そして迎えた翌日、ジョギングでしっかりと腹を減らしたわたしは、宿のロビーで、偶然出会った台湾人の旅人と意気投合した。「バル巡り、三人で行かない?」というわたしの誘いに、韓国人の彼もニヤリと笑って頷いた。
三人で賑やかなバル街へと繰り出すと、まずはアヒージョを注文。グツグツと煮立つオリーブオイルの中に、プリプリのエビがゴロゴロと入っている。香ばしい匂いがふわーっと立ち上り、食欲をそそる。熱々のアヒージョをフーフーしながら口に運ぶと、「うんまっ!」思わず日本語が飛び出した。
二軒目に入った店では、珍しいイベリコ豚の生ハムを注文。薄くスライスされた生ハムが、皿の上でまるで宝石のように輝いている。口に入れると、とろけるような舌触りと、濃厚な旨味がじゅわーっと広がり、思わず三人の顔がニヤける。ワインをグラスに注ぎ、言葉の壁を越えた乾杯をカランカランと何度も繰り返した。
そのとき、隣にいた地元のおじいさんが、わたしたちの様子を見て、突然、フラメンコを踊り始めたのだ! 軽快なBGMの音色に合わせて、おじいさんの足がタン、タン、タンと床を打ち鳴らす。その情熱的な踊りに、店中の客がワッと盛り上がり、拍手と歓声がドッと沸き起こった。
まさかこんなサプライズがあるとは! わたしと韓国人、台湾人の三人は、顔を見合わせて大爆笑。言葉は通じなくても、美味しい食事と、予期せぬ出来事が、わたしたちの距離をぐっと縮めてくれた。
この夜の記憶は、単なる食事の思い出ではなく、心に残る一皿のごちそうとなった。
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―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、ひとりごつ。
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