焚火と星空と。ボツワナの白い世界。
この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」
ボツワナに着くまで、アフリカをわかったつもりでいた。
ボツワナの首都、ハボローネ。
整備された道路。並木。きちんと管理された公園。
高層ビルも、ショッピングセンターも、ある。
そして、何より。歩けた。
ヨハネスブルグでは、外に出られなかった。
ショッピングセンターに入った。
デカい。広い。天井が高くて、明るい。
店が、ずらりと並んでいる。
服、靴、電化製品、カフェ、レストラン。
カフェでコーヒーを飲みながら、ぼんやりと人々を眺める。
家族連れ、若者たち、お年寄り。みんな、穏やかに過ごしている。
ここだけ見たら先進国となにもかわらない。
翌日、北へ向かう。
マカディカディ塩湖へ行く、一泊二日のツアー。
車は、何時間も走り続けた。
景色が、だんだん変わっていく。
茶色い大地。乾いた土。
そして、突然、視界が開けた。
白い。一面、白い。
地平線まで、ずっと、白い。
空も、青い。
雲一つない、透き通るような青。
白と、青。
ガイドが、説明してくれた。
「ここは、世界最大級の塩湖です。何千年も前、ここは湖でした。それが干上がって、この塩の平原になりました」
風が、びゅうっと吹く。
何も遮るものがない。風が、まっすぐに、吹き抜けていく。
「雨季には、少し水が溜まります。そうすると、動物たちが集まってくるんです」
遠くを見ると、何かが動いている。
シマウマだ。
何頭も、群れをなして、ゆっくりと歩いている。
白い塩の上を、黒と白のシマウマが、歩いている。
「あれ、見て」
ガイドが、指差す。
小さな動物が、ちょこちょこと動いている。
ミーアキャット。
立ち上がって、きょろきょろと周りを見渡している。
警戒しているのだろう。仲間を守っているのだろう。
その姿が、愛らしい。
さらに遠くには、ピンク色の群れ。
「フラミンゴです」
何百羽ものフラミンゴが、水辺に集まっている。
ピンク色の絨毯のように、広がっている。
「ここには、象も、キリンも、ライオンも、チーターも、います。この塩湖の周辺には、たくさんの動物が暮らしています」
足元は、白い。頭上は、青い。
地平線が、ぐるりと、見渡せる。
こんな場所が、あるのか。
西アフリカを旅してきた。
砂漠、砂埃、暑さ、蚊、停電。過酷な日々だった。
ヨハネスブルグでは、恐怖に震えた。
ここには、壮大な自然がある。
果てしない白い大地。青い空。
そして、そこに暮らす動物たち。
久しぶりだ、こんなふうに、何かに感動するのは。
旅をしてきて、よかった。
どんなに過酷でも、どんなに疲れても、どんなに虚無を感じても。
この景色に、この感動に、出会えた。
それだけで、十分だ。
夕暮れどき、塩湖は、オレンジ色に染まった。
白かった平原が、金色に輝いている。
シマウマのシルエットが、夕陽に浮かび上がる。
夜になった。
ガイドが、テントを張ってくれた。
塩湖のほとりに、ぽつん、ぽつんと、テントが並ぶ。
焚火を囲んで、夕食を食べた。
ぱちぱち、と薪が燃える音。煙が、ふわりと立ち上る。
シンプルな料理だった。肉を焼いて、野菜のスープ。
だが、焚火で食べる食事は、特別だった。
食べ終わって、焚火の前で、ぼんやりと炎を見つめた。
炎が、ゆらゆらと揺れている。
そして、ふと、空を見上げた。
息を、呑んだ。
星が、ぎっしりと、空を埋め尽くしていた。
宇宙にはこんなに、星があるのか。
天の川が、くっきりと見える。
白い帯が、空を横切っている。
流れ星が、しゅっ、と流れた。
街灯もない。建物もない。
遮るものが、何もない。
ただ、星だけがある。
仰向けに寝転がった。
塩湖の上に、ごろんと。
頭上には、宇宙が広がっている。
星は、何も語らない。
ただ、静かに、輝いている。
風が吹く。
焚火の炎が、ゆらゆらと揺れる。
遠くから、動物の鳴き声が、かすかに聞こえる。
言葉は、いらなかった。
どれくらい、そうしていたのだろう。
時間の感覚が、なくなる。
ただ、星を見ていた。
やがて、テントに入った。
寝袋にもぐり込む。
目を閉じても、まぶたの裏に、星が浮かんでくる。
翌朝、目が覚めると、外はまだ薄暗かった。
テントから出ると、空が、オレンジ色に染まり始めていた。
塩湖は、静かだった。
朝の冷たい空気が、頬に触れる。
日の出を、待つ。
太陽が、ゆっくりと、地平線から昇ってくる。
白い塩湖が、金色に、オレンジ色に、輝く。
新しい一日が、始まる。
旅は、この瞬間のためにある。
そう、思った。
―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、ひとりごつ。
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