銃の冷たさと、キリンのまなざし。あの日の味はいまも酸っぱい。
この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」
アジスアベバに着くまで、アフリカをわかったつもりでいた。
ケニアからエチオピアへ。
陸路で、国境を越える。
だが当時、公式のバスは、なかった。
トレーラーの荷台に、乗せてもらう。
屋根は、ない。
むき出しの荷台。
そこに、わたしを含めて、何人も乗った。
トレーラーが、動き出す。
三十時間、荷台に乗る。
砂埃が、舞う。顔に、体に、降りかかる。
目を閉じても、口を閉じても、砂が入る。
顔にタオルを巻く。しんどい。
途中で、キリンが見えた。
荒野に、キリンが立っている。
首が長い。
ゆっくりと、歩いている。
それだけが、救いだった。
エチオピアに入った。
国内を北へ移動する。
たびたび、検問があった。
兵士が、銃を抱えて、立っている。
バスを止める。
パスポートを見せる。
兵士は、じっと見る。
そして、通す。
また走る。
また、検問。
また、銃を抱えた兵士。
検問だからよかったものの、反政府組織の襲撃だったら終わっていた。
不穏だった。
アジスアベバに着いた。
ガイドブックを開き、安宿の住所を確認する。
だがそこに、宿はなかった。
建物が、違う。番地が、合わない。
ガイドブックの情報が、古いのだろう。
困った。
すると、男が近づいてきた。
「宿を探してるのか?」
「俺が案内してやるよ」
男について、歩く。
小さな宿に着いた。
「ここだ」
部屋を見せてもらった。
悪くはない。だが、多少高い。
「他も見てみます」とわたしは言った。
男の顔が、変わった。
そして、腰から、何かを取り出した。
銃だ。
それをわたしに、向けた。
「ココに泊まれ。他に行くな」
声が、低い。
冗談ではない。
本気だ。
わたしは、固まった。
「わかりました。ここに泊まります」
男は、銃を下ろした。
そして笑った。
やれやれ。
部屋に入ってカギをかける。
荷物を置いた。
手が、震えていた。
銃を、突きつけられた。
初めてだった。
彼がいないことを確認して外に出た。
食堂を見つけた。
インジェラを注文した。
エチオピアの主食だ。
運ばれてきたのは、グレーのクレープのようなもの。
その上に、カレーのようなものが載っている。
ひと口、食べた。
すっぱい。
クレープ生地が、すっぱい。
発酵させているらしい。
口に、合わない。
もう一口、食べた。
やっぱり、すっぱい。
不味い。
外国人が日本で納豆や梅干しを食べると、こんな反応になるのだろう。
無理やり、飲み込んだ。
残りは、残した。
食べられなかった。
エチオピアには、良い思い出がない。
三十時間のトレーラー。
砂埃。
兵士の検問。
銃を突きつけられた。
すっぱいインジェラ。
命がありパスポートもあり金が盗られたわけでもない。
まだマシなほうだろう。
翌日、朝早く宿を変え、次の国へ向かうバスを予約した。
そそくさと、エチオピアを出ることにした。
やれやれ。
―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、ひとりごつ。
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