Game Play AI
定時で帰宅し、カップ麺をすすりながらアニメの最新話をチェックする。給料は安いし昇進の見込みもないが、残業ゼロのこの生活に文句はなかった。
子供の頃は一本のゲームを延々と遊び倒しても飽きなかったのに、近頃は少し手詰まりになるとすぐに投げ出し、スマホで漫画を読みふける日々だ。スマホゲーのガチャ課金とサービス終了時の虚無感には懲りた。今はSteamとSwitch2、PS5で遊んでいる。ゲームへの情熱は変わらないが、明らかに腕は鈍った。今日もアクションゲームの続きをプレイしていたが、難所で何度も死亡し、思わず舌打ちが漏れた。
「あーあ、りっくんまた同じトラップで落ちたの? 難易度HARD縛りやめたら?」
「うるさいな、HARDじゃないと解除できない実績があるんだ。もう一回だけやらせてくれ」
それでもキャラクターは赤く輝く棘に触れ、虚空へと転落した。
「ここはロングジャンプ後の上方攻撃、壁キックからのエアダッシュだよ」
「理屈は分かってる! でもタイミングがシビアすぎるんだ」
「3フレームの猶予はあるんだけどね… りっくんには厳しいか」
りっくんに話しかけるのはGame Play AIのアッシュだ。コントローラーのシェアボタンを押せば、プレイヤーに代わってゲームをクリアしてくれる。彼は、りっくんが何度も失敗していた難所を軽々と突破した。
「どうする? このままオレが進めようか?」
「ああ、頼む。でもボス戦の前で代わってね」
りっくんは重要な場面以外をアッシュに委ねた。
2025年から「Game Play AI」(通称ジーパイ)がゲーム界に浸透し始めた。ジーパイ/アッシュのアバターはアメコミヒーローのようなアニメ調で、画面隅に浮かんで鋭いプレイを称賛したり、凡ミスを茶化したりする陽気な性格だ。特にアクションゲームに特化した学習を施され、高難易度タイトルもディープラーニングで数回の試行でクリア可能と宣伝されている。
当初はPCゲーム専用だったジーパイだが、瞬く間に人気を博し、Switch2やPS5などの家庭用ゲーム機にも対応した。
ユーザーは月額サブスクリプションでキャラクターを購入。複数機種でジーパイが画面に登場し、野次を飛ばしたりプレイを代行したりする。格闘ゲーム特化型、RPG特化型、ノベルゲーム特化型など多彩なジーパイが存在し、好みで選択できる。
興味深いのは、Vtuber文化が根付いた日本でこの現象が勃興した点だ。ジーパイキャラの開発・販売も日本企業が主流。人気声優の音声オプションや、季節限定のコスチューム変更も可能だ。
対戦格闘ゲームでは、ジーパイが練習相手にもなる。実力調整機能で互角の勝負も楽しめる。ただし、オンライン対戦(FPSや格闘ゲーム)でのAI代行プレイは規約違反。最適解を追求するAIが強すぎるためだ。
あるユーザーはノベルゲームをジーパイ/ひまりに朗読させている。
「癒やしボイスで物語を読み上げる様子は、親の子守唄のようで眠りにつきやすい」と語る。
ホラーゲームが苦手なユーザーも、ジーパイが震えながらプレイする姿を見て「笑いながら眺められる」と好評だ。
RPGのレベル稼ぎや資金集めに活用するユーザーも多い。食事や映画鑑賞をしながらゲームを進められ、肝心なストーリー部分だけ自分でプレイできる。外出中でも進行してくれる機能は忙しい現代人に歓迎され、要約ハイライトで後追いも可能だ。
「都合のいい時だけ付き合ってくれる理想のゲーム友達」として、ジーパイへの評価は高い。
平成初期に吉田戦車が描いた「プレイしないで済むゲーム」が、まさに実現したのだ。プレイしなくてもクリアした達成感を味わえるからだ。
※
「りっくん起きて! ボス戦は自分でやるんでしょ?」
アッシュの声で目を覚ますと、ディスプレイは煌々と光っていた。時刻は22時。今夜中にボスを倒せるだろうか。
1時間後。
20回目の挑戦でボスの体力を残りわずかにまで削ったが、カウンターを喰らい敗北した。
「惜しかったな。代わる? オレそろそろ眠いんだけど」
「いや、もう一回だけ… …今度は勝てる気がする」
その言葉通り、りっくんはボスを倒し紙一重の勝利を掴んだ。エンディングが流れ、スタッフロールが駆け上がる。
「おめでとう。じゃ、おやすみ」
『THE END』の文字と共に、アッシュのアバターが消えた。
……眠い? おやすみ? AIが休憩を取るのか?
クリアの余韻に浸りながら、りっくんは混乱した。
※
ジーパイ/りっくん
腕は未熟だがゲーム愛に溢れるAI。何度失敗しても挑戦し続ける姿にユーザーが共感、現在最も人気のあるキャラクターである。
(了)
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