わたしはシンデレラになれた少女に、罪を教えてしまったのか。
この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」
バラナシの街は、熱気と喧騒に満ちていた。
ガンジス川のほとりを歩くたび、様々な声が耳にびゅんびゅんと飛び込んでくる。中でも、特にひんぱんに聞こえてくるのが、物乞いの声、「バクシーシ、バクシーシ」だった。
メインガートを歩いていると、みすぼらしい白い布切れをまとった少女、ピリッピが、じっとわたしを見つめている。彼女は、他の観光客と同じように、わたしにもバクシーシを要求してきた。
ただでお金はあげない。
それが、旅を続ける中でわたしが決めたルールだった。
彼女に、絵を描いてくれたらお金をあげると伝えた。最初は恥ずかしがっていたが、日本語が通じるインド人の青年ムケが通訳してくれた。すると彼女は、ぱあっと笑顔になり、スルスルと、一輪の花の絵を描いてくれた。わたしは約束通り、10ルピーを支払った。
ムケは、お金をあげるのは良くない、と教えてくれた。
盗まれるかもしれないし、暴力で奪われるかもしれない。本当にこの子が欲しいものをあげたらどうか、と提案してくれた。彼の言葉に、わたしははっと気づかされた。
ムケがピリッピに尋ねると、彼女は「服が欲しい」と答えた。彼女の着ている布切れは、もはや服とは呼べないくらいのみすぼらしさであった。新しい服を着ることができたら、きっと喜んでくれるだろう。わたしはそう思い、近くの服屋へピリッピと一緒に向かった。
店のショーウィンドウに飾られたドレスを、ピリッピは欲しがった。いくら貧しくても、女の子は誰もがシンデレラに憧れるのだ。だが、それは高価すぎた。わたしはもう少し安価な、それでもこの街ではかなりの額になる、225ルピー(約700円)の、オレンジ色の可愛らしい服を買ってあげた。
せっかくだから、彼女が新しい服を着ている姿を写真に撮らせてほしい、と頼むと、彼女は家に連れて行ってくれた。しかし、そこは家ではなかった。棒とぼろきれでできた、雨よけ程度のテントでしかなかった。中では、具合が悪そうな母親と、病気らしい弟が横たわっていた。
新しい服をまとい、誇らしげに胸を張るピリッピは、とても良い表情をしていた。わたしは、ある満足感に浸っていた。ああ、自分はこんなことがやりたかったんだ、と。
わたしは、一週間もバラナシの路地裏を歩き回ったつもりでいた。
しかし、いつも通っているメインガートの、すぐそばに、こんなにも貧しい暮らしがあったことに、全く気づかなかった。視界にすら入っていなかった。
写真を撮ってから5分も経たないうちに、ピリッピは元の布切れを身につけていた。新しい服は、物乞いをするには目立ちすぎたのだろう。もしかしたら、その服を売って、食べ物に換えた方が良いと考えたのかもしれない。
真相はわからない。
翌日以降、彼女は何度もわたしの前に現れ、「この子にも服を買って」「あれをくれ、これをくれ」と、しつこくせがんできた。
わたしは、安易な援助にすがればものが手に入る、という方法を、彼女に教えてしまったのかもしれない。本当に知ってほしかったのは、絵を描いてお金を得ることができる、という生きるすべだったのに。
援助というのは、なんとむずかしいのだろう。
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―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、ひとりごつ。


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