カチカチと、鳴る。リトアニア、十字架の丘。
この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」
十字架の丘に着くまで、墓場をわかったつもりでいた。
リトアニア、シャウレイ。
十字架の丘。
丘が、十字架で埋め尽くされている。
大きな十字架。
小さな十字架。
木の十字架。
金属の十字架。
何万本。何十万本。
すべてが、十字架。
圧倒的だった。
近づいた。
風が、吹いた。
カチカチと、音がした。
十字架が、ぶつかり合っている。
カチカチ、カチカチ。
金属の十字架が、触れ合う音。
また風が吹く。
カチャカチャ、カチャカチャ。
たくさんの十字架が、一斉に揺れる。
音が、重なる。
チリンチリン。
小さな鈴のついた十字架が、鳴る。
カンカン。
大きな金属の十字架が、ぶつかる。
風が、止まない。
ずっと、音が鳴っている。
カチカチ。
カチャカチャ。
チリンチリン。
カンカン。
不思議な音だ。
神聖な音。
そして、少し不気味な音。
十字架の間を、歩く。
足元にも、十字架。
目の前にも、十字架。
どこを見ても、十字架。
人々が、祈りを込めて、立てていった十字架。
十九世紀から。
ロシア帝国への抵抗。
ソ連への抵抗。
何度も壊されても、また立てられた。
そして、今、ここに、何十万本もの十字架がある。
風が、また吹く。
カチカチ、カチャカチャ、チリンチリン。
音が、響く。
まるで、祈りの音。
丘を降りて遠くから、十字架の丘を見る。
風が、まだ吹いている。
音が、かすかに聞こえる。
カチカチカチ。
忘れられない音。
―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、ひとりごつ。
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