無価値の歩き方 #01「境界付近」 ――第1章:優しい時間の使い方
Laed:サエコ
境界付近
『――本日午後、衆議院本会議において「感情資源管理法」の改正案が賛成多数で可決。これにより来月1日より、指定SNSにおける承認・共感パルスに対し、感情所得税を従来の8%から10%へ引き上げます。今後、1回の承認アクションにつき、約1EU(現金100円)が皆様の銀行口座から自動課税されることに――』
「へえ。
また税金、上がるんだ」
未換価地域との境界付近。
私は小さなアルコールストーブに火を点けながら、
どこか他人事のように呟いた。
ラジオの向こうでは、
国会の紛糾を伝えるアナウンサーの早口が続いている。
手元の年代物のコーヒーミルが、ゴリ、ゴリ、と低い音を立てて豆を砕く。
風にあおられてお湯の温度が下がる前に、この少し焦げ臭いブラジル産の豆を挽ききること。
今の私にとって重要なのはそれだけだ。
ゴリ、ゴリ。
豆の割れる手応えが、ハンドルを握る手のひらにじんわりと伝わってくる。
いい匂い。
私の首の後ろのリム・タグは、この程度の「穏やかな感覚」ではピクリとも反応しない。
ふと、すぐそばの空気に気配を感じた。
「……あ……」
ひどく乾いた、ひび割れた声だった。
顔を上げると、何もない荒野の真ん中に、一人の少年が立っていた。
彼の目元には、分厚いスマートグラスが装着されている。
そのグラス越しに、彼は自分の足元――私と彼を隔てる「何もない空間」を、ひどく怯えた目で凝視していた。
「あら。
えっと…お名前聞いていいかしら?
あぁ、私はサエコ、サエコよ」
「………カイ」
ここから先は
807字
/
1画像
この記事のみ
¥
100
Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで
この記事が参加している募集
少しでも”考えるきっかけ”になる記事を投稿していきます。気に入って頂けましたら応援よろしくお願いします。
