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心の在りか ――落日の刻 4Days / Day4

落日の刻 4Days
MC: ユウ

▶️不自由な選択/ Day3

── 生き延びたいのではなく、ただ、
忘れられたくないだけなのかもしれない。


西暦2250年。

本当の空の色を、私は知らない。

ここは深度3,000メートルの海底研究都市。
巨大なサーバー群を冷やすための、絶え間なく続く液冷システムの低周波だけが、この閉ざされた空間に残された、最後の心音みたいに響き続けている。


「いよいよですね、教授」

私が声をかけると、白茶けた白衣を着たその人は、無機質なコンソールの前からゆっくりと振り返った。
かつて人類最後の天才と持て囃された彼も、今ではひどく疲弊した老人の顔をしている。

彼がその生涯を賭けて組み上げた『方舟計画』が、あと数分で実行されようとしていた。


それは、選ばれた人間を別の星に逃がすような、ヒロイックな計画ではない。


生活の保障という名目で火星へ送られ、
赤い砂にまみれて死んでいく棄民たち。

絶対安全圏である地底のジオ・フロントで、
尽きることのない娯楽に溺れながら静かに腐敗していく富裕層。

そして地上に取り残された、かつての権力の亡霊たち。


不自由な選択の果てに、全方位に散り散りになったこの滑稽な人類の、全DNA情報、言語、芸術、歴史。 私たちが紡いできたすべての記録を、永遠に劣化しない特殊なクリスタルにエンコードし、無人探査機に乗せて深宇宙へと射出する。


ただ、それだけの計画だ。


「ああ。あと少しで、最終のエンコードが終わる。
 これで我々は、永遠になる」

教授の言葉は、ひどく乾いていた。

永遠。

なんて傲慢で、滑稽な響きだろう。
私は少しだけ、意地悪な口調になってしまった。


「私たちは、結局どこにも行けなかったんです。
 暗い宇宙の海に放り出されるのは、
 ただの冷たい数字の羅列にすぎません。
 ……そのデータの中に、本当に『私たち』の
 心は居るんですか?」


少し賢すぎる助手からの冷や水。
けれど教授は怒ることもなく、ひび割れた唇で力なく笑った。


「君は優秀だが、たまに見誤る。
 我々人間が、その本能の奥底で本当に
 恐れているのは、
 肉体の死ではないんだよ」

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