霧の雫を束ねた水流――語られなかった水路:革命の歴史 Vol.25.S
MC: アイ、ユウ
雲を捕まえれば、水は生まれる。
けれど、その水が蛇口まで届くとは限らない。
霧の山から
ユウが再生ボタンを押すと、編集部のモニターに乾いた山肌が映った。
尾根に沿って立つ白い支柱。その間に張られた黒い網を、霧を含んだ風が通り抜けていく。網の表面に浮かんだ小さな水滴は、やがて筋になって下へ落ちた。
ユウ:
これ、記事にしたいです。雲を捕まえて水にするなんて、昔話みたいじゃないですか。
アイ:
水をつくる装置ではないけれど、面白い技術ね。
ユウ:
違うんですか?
アイ:
空気から新しく水を生み出すわけではないの。霧の中に、すでにある水を集めている。名前はCloudFisher。直訳すれば、雲を漁る人かしら。
ユウ:
雲を釣るんじゃなくて、網で漁をするんだ。
画面の中で、水滴は網の下にある樋へ落ち、パイプの中へ消えていった。
【解説|コア技術――霧を受け止める網】
霧は、水蒸気そのものではなく、微細な水滴が空気中を漂っている状態である。
CloudFisherは、霧を含む風が通る場所へ垂直に網を張り、その水滴を繊維へ付着させる。付着した水滴は互いに集まって大きくなり、自重で網を伝って下へ落ちる。
これを網の下部に設けた樋で受け、貯水設備へ送る。
冷却して結露させる除湿機とは異なり、すでに霧となっている水滴と、霧を運ぶ風を利用するため、捕集工程そのものに電力を必要としない。
ユウ:仕組みを聞くと、意外なくらい素朴ですね。
アイ:ええ。でも、素朴な原理と、簡単な実装は同じではないわ。
アイは動画を最初まで戻した。再生はせず、霧に隠れかけた山頂で画面を止める。
アイ:この網を東京のビルの屋上へ持ってきても、同じように水が採れるとは限らない。映像の外に、いくつもの条件があるから。
霧だけでは足りない
アイ:
舞台は、モロッコ南西部のアンチアトラス山脈にあるブトメズギダ山。海から運ばれてきた湿った空気が山に当たり、霧になる。その霧が風に押されて網を通り、水を残していくの。
ここから先は
この記事が参加している募集
少しでも”考えるきっかけ”になる記事を投稿していきます。気に入って頂けましたら応援よろしくお願いします。
