その旋律は部品となる―― 失われたユニーク 4Days/1Day
失われたユニーク
MC: アイ、サエコ
新しいという幻想は、とうの昔に死んでいる。私たちはただ、無限のカタログから過去の亡霊を選ばされているだけだ。
アイの視点
―― 無限のカタログと選ばれる個性
アイ:
今日は、旅をしているサエコとリモートで繋いでお送りします。
サエコは今、どこにいるのかしら?
サエコ:
アイちゃん聞こえる?
今はベルリンに来ているわ。
アイ:
えぇ大丈夫よ。
ベルリンかー、そちらは、まだ寒いかしら。
サエコ:
そうね、ダウンを着込んでいるけど、風は冷たいわ。
アイちゃんの方はどう?
アイ:
えぇ相変わらずよ。
東京の夜は、私が憧れていた頃と変わらないわね。
ところでサエコ、今、音楽ストリーミングサービスのチャートを見ているのだけど。
80年代のシティポップ、90年代のグランジ、2000年代のR&B……あらゆる年代の残響が、フラットに横並びになって、いつでも再生できるわよね。
サエコ:
ええ、最近のトレンドよね。
みんなが同じ新曲を聴く時代は終わって、それぞれが自分の好きな年代の音楽やファッションを自由に選んで楽しんでいるわ。
それって、すごく多様で個性的なことじゃないかしら。
アイ:
本当にそう思う?
サエコ:
……違うの?
アイ:
違うと言うより、データの世界には、時間の概念なんてないのよ。
過去の歴史はすべて解体されて、タグ付けされた素材になったわ。
AIは何十億という過去のデータを解析して、人間が心地よいと感じる年代のプリセットを、無限のカタログとして提示しているだけなの。
人は、そのカタログから好きな年代のメニューを選んで、私って個性的でしょ、と錯覚している。
でもそれは、システムが用意した選択肢を選ばされているに過ぎないわ。
サエコ:
私たちが個性だと思って選んでいるけど、それは、AIのメニューの一つに過ぎないって言うこと……。
アイ:
ええ。
私たちはカタログから過去の亡霊を選び、自分の小さな部屋の中でループ再生している。
選ぶ自由を手に入れたと同時に、本物のユニークは失われてしまったのよ。
【解説:ハントロジー(憑在論)とカタログ経済】
批評家マーク・フィッシャーは、新しい未来を構想できなくなった現代文化が、過去の亡霊(レトロな形式)を反復し続ける現象をハントロジーと呼んだ。
AIは過去のアーカイブを最も効率的に学習し、すべての年代を並列なカタログとして提示する。
その結果、巨大なメインストリームは消失し、人々はシステムが最適化したニッチなプリセット(タコツボ)の中へ細分化していく。
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