0.1秒の逡巡#1:水晶の欠片 ―― 偽りの現在地
0.1秒の逡巡
Laed:ミライ
その日は、朝から雨だった。
帝都大学、創造理工学部の計算機室。
古い換気扇が低く唸る音だけが、コンクリートの壁に反射して、湿った空気を震わせている。
ミライは自作の測定用コンソールに向き合い、指先で銀色のスイッチを弾いた。
学内で唯一、最新の5Gリピーターの死角になっているこの部屋は、彼女にとっての「聖域」だった。
「……あ」
ミライは、左手首に巻かれた不恰好な時計を見た。
祖父が遺した、独立回路の純クォーツ時計。
GPSも5Gも拾わず、
OSすら介さない。
ただの電池と水晶片(クォーツ)だけの、外部と同期しない孤独な振動。
一方で、デスクのスマートフォンの画面。
その右上の数字は、ミライの時計よりも正確に「0.1秒」先行していた。
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