無価値の歩き方 #02「珈琲タイム」 ――第1章:優しい時間の使い方
Laed:サエコ
珈琲タイム
カイは、スマートグラスの奥の怯えた目で、背後を見回してから、恐る恐る見えない境界線の向こうから細い手を伸ばした。
泥だらけの指が、
シェラカップの縁に触れる。
「……これ、何ですか」
「コーヒーよ。
初めてみるのね?
…そうね…ただの苦いお湯よ」
私は自分用のカップにもコーヒーを注ぎ、
立ち上る湯気を顔で受け止めた。
今日の風は、少しだけ冷たい。
カイはカップを両手で包み込むように持ち、唇をつけた。
そして、小さくむせた。
「苦っ……」
「言ったでしょ。
別に、とびきり美味しいものじゃないわ」
「でも……」
カイはカップを見つめたまま、不思議そうな、それでいて泣き出しそうな顔をした。
「なんだか、ホッとします。
……どうして?」
「さあね」
私はストーブの火力を少しだけ落とし、カイを見た。
「君……キャンプの子?」
「……はい」
「いくつ?」
「もうすぐ……16です」
私はゴリ、と最後の一粒の豆を挽き終えた。
「16か。
……何かあった?」
カイは、両手で包み込んだカップの縁を強く握った。
「僕の、誕生日に……」
「うん」
「……事故で」
「ご両親……かな」
「……うん」
冷たい風が、荒野の砂を低く巻き上げていく。
彼の首の後ろで、赤い数字が彼の絶望を数値化し続けているのが見えたような気がした。
「そっか。
……誰か助けてくれる人は…
いなかったんだね」
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