0.1秒の逡巡 #9:UNLOGIC・UNLOCK ―― アナログ・レジスタンス
0.1秒の逡巡
Laed:ミライ
日曜、午後三時。新宿。
駅前広場に設置された巨大なホログラム広告がフッと消え、無機質なカウントダウンが空中に浮かび上がった。
『Project Echo Phase 2:完全同期実験、開始まで10秒』
私は、広場の雑踏のなかに立っていた。
サエコがもたらしたカセットテープのノイズ。
その奥に隠されていたパルスが示した『完全な死角』の座標。
そして、その視線の先には、清掃用具入れにカモフラージュされた古びた鉄扉がある。
パノプティコンの物理コア(脳)へと続く、地図から抹消された旧時代のメンテナンスハッチ。
私は今、新宿の広大なHDマップの中で、針の穴のようなその一点を正確に踏みしめている。
背負ったPCケースの中で、ラグの冷却ファンが悲鳴のような回転音を上げている。
手の中で握りしめたスマートフォンは、システムからの膨大な同調パケットを浴びて異常な熱を持ち、ラグのキャンセラー機能がギリギリのところで私を「予測の網」から切り離していた。
「迷い」を許さない秒読みが、
世界を削り取っていく。
「ラグ、群衆の同期率は?」
『……同期率99.8%。街中ノ全テノ端末、
歩行センサー、自動運転車ノLiDARガ、
一ツノ意識ニ統合サレヨウトシテイル。
ミライ、気ヅイテイル?
モウ君ノ周囲ノ人間ノ心拍数スラ、
広場ノBGMノテンポニ強制同期サレテイルヨ』
私は息を呑んだ。
行き交う数千人の人々。
誰の顔にも焦りや不満はない。
皆、心地よさそうに、
何かに陶酔しているようにすら見える。
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