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第2話「13戦9勝の不沈艦が『猛獣ゴルシ』に豹変した日――強さと脆さの二面性」

賢い馬だから、当日の気分でどうなるのか、プレッシャーはあった。でも、ちゃんと走ってくれた
――2014年宝塚記念、横山典弘。

プロローグ 「不沈艦」が、本物の「自由」を手にした季節

第1話で語ったように、ゴールドシップは3歳で皐月賞・菊花賞・有馬記念を制し、最優秀3歳牡馬に輝いた。デビュー当初は「優等生」、3歳春に「荒々しさが目覚め」、そして年末には日本一の称号を手にした。

13戦9勝、2着2回。ここまでの戦績は、堅実そのもの。連対率は驚異の数字を誇った。「不沈艦」――決して沈まない船。その異名にふさわしい安定感だった。

しかし、この第2話で語る時期――4歳から5歳にかけてのゴールドシップは、それまでとは少し違う顔を見せ始める。

勝つときは、誰よりも強い。負けるときは、目を疑うような負け方をする。「真面目に走れば最強。でも、走る気がないと、とことん走らない」。

そんな「強さと脆さの二面性」が、いよいよ全開になっていく。

人はこの時期のゴールドシップを、愛と畏敬と若干の呆れを込めて、こう呼ぶようになった。

「猛獣ゴルシ」と。

これは、最強の二冠馬が「規格外のカリスマ」へと変貌していく物語だ。さあ、不沈艦の航海の続きを、じっくり見ていこう。

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第一章 異様な支持率――阪神大賞典2013

2013年3月17日。阪神競馬場。阪神大賞典(GⅡ)。

4歳になったゴールドシップの始動戦。前年に皐月賞・菊花賞・有馬記念を制した二冠馬であり日本一の馬。当然のように、彼は圧倒的な支持を集めた。

単勝オッズは1.1倍。これは前年のオルフェーヴルと同じ数字だった。しかし、支持率はそのオルフェーヴルをも上回り、**阪神大賞典史上最高となる78.0%**を記録した。

10人のうち8人近くが、ゴールドシップの単勝を買っていた計算になる。「ゴールドシップを包む空気は、異様なものだった」と当時の記録は伝えている。

生産者である出口牧場の出口俊一さんは、レース前から落ち着かなかったという。「たくさんの方に支持いただいて、とてもうれしかったですが、生産者としては、もし負けてしまったらたくさんの方に迷惑をかけてしまうと思って……」。

期待が大きすぎるというのも、それはそれで重圧なのだ。

(生産者さんが「勝ってくれ」やなくて「負けたら申し訳ない」って思てしまうレベルの人気。アイドルの親みたいな心境やな笑)

レースは9頭立て。逃げるマカニビスティーが飛ばす縦長の展開。ゴールドシップはいつものように後方待機で前半を終えると、向こう正面から徐々に加速。1頭、また1頭と交わすロングスパート。4コーナーで先頭を射程圏にとらえると、あっさりと突き抜けた。

重賞6勝目。圧倒的人気に、圧倒的な内容で応えた。

出口さんは振り返る。「完全にゴールするまではハラハラでした。嬉しいというよりも、ほっとしたというのが正直な気持ちです」。

そして、こう続けた。「強い馬になってくれたと、馬に感謝です」。

最高のスタート。春の大目標・天皇賞春に向けて、視界は良好に見えた。

――この時までは。

第二章 最初の「裏切り」――天皇賞春2013、まさかの5着

2013年4月28日。京都競馬場。天皇賞(春)。淀の3200メートル。

ゴールドシップは単勝1.3倍という圧倒的1番人気に推されていた。阪神大賞典を完勝し、誰もが「春の盾は堅い」と思っていた。長距離は得意。母父はあのメジロマックイーン。血統的にも、これ以上ない舞台のはずだった。

ところが――。

レースは、どこか歯車が噛み合わなかった。

ゴールドシップはスタートから2周目の3コーナーまで、15番手前後の後方で待機。そして3コーナーの坂の途中から、鞍上の内田博幸が手を動かして、得意の捲りで進出を開始した。

しかし、いつもの伸びがない。

4コーナーですでにムチが入る。それでも反応は鈍い。5、6番手で直線を迎えたものの、伸びを欠いた。さらに直線半ばで、外にいたジャガーメイルに進路を遮られるという不利も重なった。すぐさま外に持ち出して体勢を立て直したが、前との差は詰まらない。

結果、5着。

勝ったのは、日本ダービーで先着を許したフェノーメノだった。

何が起きたのか。当時を振り返った競馬ライターの小川隆行氏は、こう分析している。「4コーナーを回った直後、内田はそれまでのレースと異なりムチを数発入れた。恐らくはいつもより反応が鈍かったのだろう」。

明確な故障があったわけではない。ただ、何かが違った。

これが、ゴールドシップの「4歳秋から始まる変化」の、最初の予兆だったのかもしれない。「真面目に走れば最強。でも、その日の気分次第」――そんな二面性が、少しずつ顔を覗かせ始めていた。

(圧倒的1番人気で5着て。馬券を買ってたファンは「は?」ってなったはず。でもこれがゴルシなんですよ。これくらいで驚いてたら、この先ついていけません笑)

レース後、ゴールドシップは滋賀県信楽町の吉澤ステーブルWESTへ放牧に出された。次なる目標は、夏のグランプリ・宝塚記念。雪辱の舞台が待っていた。

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第三章 女帝との対決――宝塚記念2013

2013年6月23日。阪神競馬場。第54回宝塚記念。

このレースには、特別な相手がいた。

ジェンティルドンナ。前年の牝馬三冠を達成し、ジャパンカップであのオルフェーヴルを破った、現役最強牝馬。前年の年度代表馬でもある「女帝」だ。

ファン投票1位のオルフェーヴルは運動誘発性肺出血で回避。そのため、このレースは同世代のゴールドシップ、ジェンティルドンナ、そしてフェノーメノによる「3強対決」と位置づけられた。

人気はジェンティルドンナが単勝2.4倍、ゴールドシップが2.9倍、フェノーメノが3.2倍。僅差で女帝が支持を集めていた。天皇賞春で5着に敗れたゴールドシップへの評価は、少しだけ下がっていた。

11頭立てのレースが始まった。

シルポートがハイペースで大逃げを打つ展開。内田はゴールドシップに気合を入れ、いつもより前の4番手につけた。これは珍しい積極策だった。各馬の位置取りが3コーナーまでほとんど変わらない中、ゴールドシップは虎視眈々と好位をキープ。

残り800メートル付近で、内田が仕掛けた。

3、4コーナーから直線にかけて、ジェンティルドンナと馬体を併せて上がっていく。最強牝馬との直接対決。やや接触する場面もありながら、直線中ほどまで激しい叩き合いが続いた。

そして残り200メートル手前――。

ゴールドシップが、一気に伸びた。

女帝ジェンティルドンナを、力でねじ伏せるように突き放す。前で粘るダノンバラードもまとめて捉え、そのまま後続を引き離した。

ゴール。2着ダノンバラードに3馬身半差。3着にジェンティルドンナ。

GI4勝目。前年の年度代表馬であり、オルフェーヴルを破った三冠牝馬に対して、3馬身半差以上の完勝。これはもう「力でねじ伏せた」としか言いようがない、圧巻の勝利だった。

天皇賞春の5着など、まるで悪い夢だったかのように。やはりこの馬は強い。誰もがそう確信した。

この時点でのゴールドシップの戦績は、13戦9勝、2着2回。GIは5勝。堂々たる「不沈艦」の航跡だった。

しかし――競馬ファンはまだ知らなかった。この宝塚記念の勝利を境に、ゴールドシップが本格的に「謎の馬」へと変貌していくことを。


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第四章 「何かが変わった」――4歳秋の迷走

競走馬というのは、一般的に4歳の秋に充実期を迎える。心身ともに完成し、最も強い時期に入る。

ところが、ゴールドシップは違った。

「競走馬が充実するはずの4歳秋から、ゴールドシップの何かが変わる」。後にJRA-VANの記録は、そう表現している。

秋初戦の京都大賞典。単勝1.2倍という圧倒的支持を受けながら、まさかの5着。圧倒的人気を、あっさりと裏切った。

続くジャパンカップでは、さらに衝撃的な結果が待っていた。

15着。

二桁着順の大敗。あの不沈艦が、見せ場もなく沈んだ。日本のトップクラスが集う舞台とはいえ、二冠馬でGI5勝の馬がここまで負けるとは、誰も予想していなかった。

そして年末の有馬記念。前年の覇者として臨んだこのレースで、ゴールドシップは初めてライアン・ムーア騎手とコンビを組み、ブリンカー(馬の視野を制限して集中させる馬具)を着用して出走した。

結果は3着。掲示板は確保したものの、勝ったオルフェーヴルからは9馬身半差という完敗だった。

オルフェーヴルのラストランを彩る圧勝劇の前に、ゴールドシップは見せ場を作れなかった。

何が起きていたのか。

故障ではない。明確な不調でもない。ただ、「気分次第で我が道を行く姿勢」を強めていった――関係者の証言を総合すると、そういうことだった。

走る気があるときは、誰よりも強い。でも、その気がないときは、とことん走らない。

これこそが、ゴールドシップという馬の「二面性」だった。

(充実期に入るどころか、自由気ままになっていく二冠馬。普通は逆やろ!? でも、これがゴルシ。みんな段々と「まあ、ゴルシやしな」で受け入れていくんですよ。一種の悟り)

ブリンカーを着けたのも、陣営が「なんとか集中させたい」と試行錯誤していた証拠だ。あの手この手で、この賢くて気まぐれな怪物をなだめようとしていた。

第五章 須貝調教師の「闘い」――円形脱毛症になった男

ここで少し、ゴールドシップを管理し続けた須貝尚介調教師の苦労に触れておきたい。

第1話でも書いたが、ゴールドシップは3歳の春に「荒々しさが目覚めて」以降、とにかく手のかかる馬だった。調教助手を振り落として右肩脱臼の大怪我を負わせ、須貝師に噛みついてシャツを破る。厩務員の今浪隆利を何度も振り回す。

そして4歳、5歳と歳を重ねても、その気性は穏やかになるどころか、ますます「王様気質」を強めていった。

須貝師は、後の引退後インタビューでこう振り返っている。

「真面目な時もあるかと思えば、変なことをして……。気が休まることがなかった。最後の年(2015年)は円形脱毛症になってしまったよ。 在厩している頃は、色々と考えさせられていたんだろうね」。

担当馬のせいで、調教師が円形脱毛症になる。

競馬史上、こんな話があるだろうか(笑)。それだけゴールドシップという馬は、関係者の神経をすり減らす存在だった。賢すぎて、気が強すぎて、そして何を考えているのかわからない。

でも、不思議なことに、誰もこの馬を嫌いにならなかった。むしろ、振り回されながらも、深く愛していた。

なぜか。

それは、この馬が見せる走りに、いつも「人智を超えた何か」が宿っていたからだ。15着に負けた後に、また

平気で勝つ。圧倒的人気を裏切ったかと思えば、最強牝馬を3馬身半ねじ伏せる。

予測できない。だからこそ、目が離せない。だからこそ、愛おしい。

(須貝先生の毛根を犠牲にして、ゴルシ伝説は作られていったわけですね…。先生、ほんまにお疲れ様でした。これは労災おりるレベルやで)

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第六章 区切りの10勝目――阪神大賞典2014

2014年。5歳になったゴールドシップ。

迷走の4歳秋を経て、再び春がやってきた。始動戦は、得意の阪神大賞典。

前年秋は未勝利に終わっていたとはいえ、実績の違いから、ゴールドシップは単勝1.7倍の圧倒的1番人気に推された。鞍上は、この年から岩田康誠騎手。前走に続いてブリンカーを着用しての出走だった。

レースでは、まずまずのスタートから前目の位置を取りに行こうと押して促すと、ゴールドシップは珍しく行きたがる素振りを見せた。逃げるバンデの後ろで岩田が落ち着かせ、道中2番手で追走する。

先頭から縦長の隊列のままレースは進み、2周目の3、4コーナー中間付近で後続が一気に差を詰めてくると、それに合わせて先頭との距離を詰めていく。そしてその勢いのまま、直線入口で早々と先頭に立つと、後続との差をさらに広げた。

2着に3馬身半差をつける完勝。

阪神大賞典2連覇。そして、これがゴールドシップにとって通算10勝目という区切りの勝利となった。

得意の阪神コース、得意の長距離。ここでは滅法強い。「やっぱりゴルシは阪神では本物だ」。そんな評価が改めて広がった。

そして向かう先は、またしても天皇賞春。前年5着に泣いた、あの舞台だった。

第七章 ゲートの中の「猛獣」――天皇賞春2014の大事件

2014年5月。京都競馬場。天皇賞(春)。

このレースで、ゴールドシップはまたしても乗り替わりとなった。前走騎乗の岩田康誠が、ライバルのウインバリアシオンに騎乗予定だったためだ。代わってオーストラリアの名手クレイグ・ウィリアムズが手綱を取ることになった。

ゴールドシップは、前年の東京優駿馬・キズナに次ぐ2番人気に支持された。

そして、ここで「事件」が起きる。

ゴールドシップは、他馬の本馬場入場に先駆けて、パドックから1頭だけ先に入場した。落ち着いた様子でゲートに入る。ここまでは良かった。

ところが――ゲートに入った直後。

ゴールドシップは、突如立ち上がって、うなり声を出すほど怒り出した。

ゲートの中で暴れる芦毛の巨体。うなり声を上げる競走馬など、そうそういるものではない。完全に「猛獣」と化していた。

後に共同馬主の岡田はこう分析している。隣の馬が騒いだことに怒って立ち上がる。普通の馬はそんなことをしないが、ゴールドシップは「自分が王者」だと思っているから、こうしたことをする。「けんかを売られたと思い、それに応じた」のだと。

王者のプライド。賢さゆえの気難しさ。それがこの「ゲート内の猛獣化」を生んだ。

当然、まともなスタートが切れるはずもない。ゴールドシップは大きく出遅れ、道中は最後方を追走することになった。

それでも、2周目の3コーナーからウインバリアシオン、キズナの進出に合わせて、得意の捲りを見せる。最後の直線でしぶとく伸びは見せたものの、優勝したフェノーメノからは離された7着。

2年連続で、天皇賞春に泣いた。

しかも、レース後にはアクシデントが判明する。脚元に異変を感じたウィリアムズが下馬。検査の結果、骨に異常はなかったものの、右の首筋から肩にかけての肉離れと診断された。

幸い大事には至らず、放牧へ。しかし、ゲートの中で立ち上がってうなり声を上げる二冠馬の姿は、competition「猛獣ゴルシ」の伝説を決定づける一幕となった。

(ゲートの中でうなり声あげて立ち上がる競走馬て…もう馬というより、ほぼ怪獣。「白いの」が「白い猛獣」になった瞬間ですわ。隣の馬、ほんま災難やったな笑)

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第八章 横山典弘という「理解者」――宝塚記念2014

2014年6月29日。阪神競馬場。第55回宝塚記念。JRA60周年記念のサブタイトルが付された一戦。

天皇賞春で7着に敗れたゴールドシップ。しかし、得意の宝塚記念、得意の阪神コースとあって、単勝2.7倍の1番人気に推された。

このレースで、また新たな鞍上が登場する。

横山典弘騎手。

ベテランの名手。馬の気持ちを読むことに長けた、「馬と対話する」タイプのジョッキーだ。気難しいゴールドシップにとって、これ以上ない理解者となる人物だった。

このレースも「3強」と位置づけられた。日経賞1着・天皇賞春2着のウインバリアシオンが2番人気、一昨年の牝馬三冠のジェンティルドンナが3番人気。

12頭立て。梅雨の合間の曇り空の下、ファンファーレが鳴り、精鋭たちがゲートを出た。

ゴールドシップは、シャドーロールとブリンカーを着用。例によって出遅れたが、横山はジワッと行かせて1コーナー手前で4番手につけた。慌てない。前半は折り合い重視で、無理せず追走する。

勝負どころから徐々に差を詰めていき、4コーナーから追い出し開始。

しかし、すぐには反応しなかった。

「またか」と思った瞬間――1ハロン標識の手前で、エンジンがかかった。

グイグイ伸びる。渋った馬場で瞬発力勝負にならなかったのも味方した。前を行く馬たちをまとめて飲み込み、ゴールドシップは突き抜けた。

ゴール。完勝。

宝塚記念史上初の連覇達成。

一方、2番人気のウインバリアシオンは勝負どころからの反応が鈍く7着、3番人気のジェンティルドンナも伸びを欠いて9着。3強と呼ばれたうち、結果を出したのはゴールドシップだけだった。

レース後、横山典弘は印象的なコメントを残している。

「こちらは『頑張って走って下さい』と、馬にお願いする立場。賢い馬だから、当日の気分でどうなるのか、プレッシャーはあったけれど、ちゃんと走ってくれたのでホッとしている。 ファン投票で1位。今日は皆さんの気持ちが伝わって、こうして真面目に走ってくれたよう」。

「馬にお願いする立場」。

このコメントこそ、ゴールドシップという馬の本質を見事に言い表している。普通、騎手は馬を「御す」もの。しかしゴールドシップ相手には、ベテランの名手でさえ「お願いする」しかない。走るかどうかは、最終的にゴルシ次第。

人間が完全にはコントロールできない馬。それでも、走る気になったときの強さは本物。

「真面目に走れば、最強」。横山典弘は、その「真面目スイッチ」をうまく入れてみせた。さすがの職人芸だった。

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エピローグ 愛さずにいられない「反逆児」

第2話で語った4歳から5歳・宝塚記念連覇までの時期。ゴールドシップは、まさに「強さと脆さの二面性」を全開にした。

阪神大賞典では史上最高支持率に応えて連覇。宝塚記念では女帝ジェンティルドンナを力でねじ伏せ、翌年には史上初の連覇。得意の舞台では、誰も寄せ付けない圧倒的な強さを見せた。

その一方で、天皇賞春では2年連続で敗戦。ジャパンカップでは15着の大敗。京都大賞典では1.2倍を裏切る。ゲートの中ではうなり声を上げて立ち上がり、調教師を円形脱毛症にする。

強い。けれど、脆い。いや、脆いというより「気まぐれ」。

JRAは後に、ゴールドシップをこう表現している。「この人間の予想の範疇を超える”気まぐれさ”で、多くのファンから愛されている競走馬」。

そう、ゴールドシップは「気まぐれだから愛された」のだ。

普通、競走馬は「強いから」「安定しているから」人気になる。しかしゴールドシップは違った。「何をするかわからないから」「予想できないから」こそ、ファンの心を掴んで離さなかった。

ある競馬本のタイトルは、ゴールドシップをこう呼んだ。「愛さずにいられない反逆児」。

セオリーに逆らい、人間の予想に逆らい、時には自分の能力にすら逆らう。それでも憎めない。むしろ、愛おしい。

「ゴールドシップのレースを見に行くときは、全身が汗ばんでしまう」「ちゃんと走ってくれると感動してしまう」――そんなファンの声が、すべてを物語っている。

走るか、走らないか。それすらわからない。だからこそ、走ったときの感動は、何倍にもなる。

これが、ゴールドシップという馬の魔力だった。

しかし、物語はまだ終わらない。

5歳の夏以降、ゴールドシップはさらなる「事件」を巻き起こす。フランス・凱旋門賞への挑戦と惨敗。そして6歳、誰もが諦めかけた天皇賞春での、奇跡の戴冠。さらには――競馬史に残る、あの「伝説の大出遅れ」。

栄光と迷走、感動と脱力。すべてが詰まった「不沈艦」の最終章は、次回・第3話で。

13戦9勝の堅実な不沈艦は、いつしか「猛獣ゴルシ」と呼ばれる規格外のカリスマになっていた。強さと脆さ、その両方を抱えたまま、芦毛の反逆児の航海は続く。

YouTube動画もあわせてご覧ください

みつおじの競馬クロニクルでは、ゴールドシップの名レース映像とともにこの物語をお届けしています。

▼ みつおじの競馬クロニクル

チャンネル登録で、第3話(凱旋門賞挑戦〜奇跡の天皇賞春〜伝説の引退レース)もお届けします!

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