夢想堂企画:みんなで探偵 part2③ 灰色の語り部
皆さん、素敵な朝をお迎えになっていますでしょうか?
今回も、本屋カフェ「夢想堂」の企画:みんなで探偵第二弾 #失われた物語
田野緋海が担当いたします。

『記憶の回廊』の奥へ進むたびに、空気が変わっていくのがわかった。
乾いた紙の匂い、蝋燭のような灯り、そして目には見えない誰かの〈記憶〉の気配。僕の胸は高鳴っていた。不安と興奮が混ざったような、言葉では言い表せない感情だった。
「ここには、誰の手にも触れられなかった物語が眠っています。語られることがなかった言葉は、やがて形を失い霧となっていくのです」
老作家はそう言って、古く塗料が変色している大きな扉を押し開けた。
そこには、灰色の霧が広がっていた。書架も壁も天井も曖昧で、まるでこの空間だけが夢の中に取り残されているようだった。
その中央に、誰かたっている。
それは人のようで人ではなく、輪郭の滲んだ影だった。けれども、声だけははっきりと聞こえる。
「私は名を忘れた語り部。あなた方のような人たちを、ずっとお待ちしておりました」
声は男性とも女性ともつかない、若いのか老いているのかさえも検討がつかなかった。不思議な響きで、直接頭の中に届くような声だった。
「どうして、ここに?」
と僕が訊ねると、語り部は微かに笑ったように見えた。
「私は語ることしかできない。語る相手を失った物語たちは、語り部である私と共にこの霧に変わっていく。でも、あなた方は、探しに来てくれた。それだけで、この場所に風が吹き込まれる」
その時、僕の足元に一冊の本が現れた。表紙は灰色。タイトルは書かれていない。手に取ると、文字は滲んで、ところどころ白紙だった。
「これは?」
「君がまだ知らない物語。しかし、それを読むことで、いや、語ることで、この本に生命が宿る。たとえ一瞬でも、忘れ去られた記憶に明かりを灯すことができる。それができるのが、君ら読者であり、作家なんだ」
僕は、語り部が示す言葉の意味を、すぐには理解できなかった。それでもページをめくるたび、僕はなぜか涙が止まらなかった。読んだことのない物語のなずなのに、心の何かに反応していたのだろう。僕自身が忘れていた何かが、確かにそこにあった。
「豊一郎くん。物語は、誰かの〈生きた証〉だと思わないか?」
老作家の声が、静かに響いた。
『記憶の回廊』は、単なる図書館の書架ではなかった。そこは、世界からこぼれ落ちた〈声〉の墓標であり、そして、再生の地でもある。
僕ら物語の探検者は、この場所を残していかなければならないと切に願った。


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無職で色無し状態だニャ~ン😭
