ラストキス (即興小説 ショートショート)
「じゃあね」
と言って、彼は出て行った。
彼と初めて出会ったのは、だいぶ前のことになる。
当時の私はポロポロで、もう限界まで来ていた。その時、急に彼が現れた。私はその姿に一瞬我を忘れた。
彼は生き生きとしていて、けれど、ものすごく怒っていた。それが、私にとても明るく眩しいものに見えた。
私は一瞬で彼の虜になった。昼も夜も彼のことが頭から離れず、時間さえあれば彼のそばにいた。彼なしの人生はとても考えられなかった。今まで私はどうやって生きていたのだろうと思った。
私は彼のために生き、そして日々を送っていた。
最初無愛想だったけれど、だんだん打ち解けて笑顔を見せるようになった。
それはとても魅力的で、暇さえあれば彼の写真を撮った。他
の人がそれに呆れても私は行動を改めなかった。こんなに素晴らしい彼を少しでも目に留めていたくて、写真もあっという間に増えていった。
彼は私のすべてだった。彼のために働き、ご飯を作り、世話をした。
『働きすぎだ』
『ちゃんと寝てるの?』
周りの人はそれを知って心配したけれど、私はちっともそれが苦ではなかった。彼のために働くことが喜びだった。彼は私を愛してくれ、私も彼を愛した。
けれど、そんな時期はあっという間に過ぎ去ってしまった。しだいに塞ぎ込むようになり、家から出なくなった。
心配して部屋の外から声をかけても
「うるさい!」
と言うだけだった。そのうちに私を無視して出歩くようになった。
私の知らない彼が増えていく。けれど、ただそれを見ていることしかできなかった。
やがて、彼は別れを告げた。
「ここを出て行くよ」
内心ではとても引き止めたかった。けれど、私の言葉はもう彼には届かない。それが彼の態度から感じられた。
「──わかった。じゃあね」
そう返すと、彼は私を抱きしめ、頬にキスをすると外へ出て行った。
「じゃあね、母さん」
私はいつまでもそのドアを見つめていた。
了
なみさんの企画に参加させていただきました。また遅刻した…すみません!
ほとんど推敲できてません。30分はなかなかきつかった… でもおもしろかったです☺️
ありがとうございました。
