ふと振り返るとそこには、小さな (#noteでBL)
あらすじ: 主人公の前に突然現れた少年。家に一泊させてくれと頼まれ、承諾するもずるずる同居してしまう。しかし少年には秘密があって家には帰れない。2人の行く末は…?
ジャンル:ほんのり恋愛(BL)
それでは本編の方をどうぞ。
ふと振り返るとそこには、小さな男の子がいた。令和だというのに野球帽をかぶり、日に焼けて真っ黒で半ズボンだ。
「──なあって」
その子は僕を睨みながら口を開いた。
「おまえ、│縁《ゆかり》だろ」
「えっ…」
僕は言葉を失った。見た事がない子なのに、何で僕の名前を? 我ながら間抜けな顔をしていたと思う。
彼はニヤリと笑った。
「やっぱり…! オレだよ」
さっぱり訳がわからない。小学生の知り合いも、それより小さな子も知人にはいない。友達は同世代だし、兄弟も上だけだ。
首をひねっていると
「あーもう! │《らち》埒があかねえな」
と彼は言った。
「│楓《かえで》だよ。忘れたのか」
名前を聞いても誰なのか心当たりはない。いや、違う… どこかで聞いたことがあるような。でもどこでだろう…
「ったく、しょうがねえな。まあいいや。
お前ん家に行こうぜ」
そう言って僕の先をスタスタ歩いていく。
「ちょっと待って」
とその手を引き止めた。
「君、誰?」
彼はあんぐり口を開けると、弾けたようにげらげらと笑い出す。
「マジ? ウケるー」
今度はこっちがポカンとする番だった。
まあいいや、と彼は再び歩き出す。
「そういうつもりなら別にいいけど、今夜泊めてくれよ」
「は?」
僕は耳を疑った。どうして見ず知らずの人、それも男のガキを家に泊めなくてはいけないんだろう。
「一体誰? 早く家に帰りなよ」
「いいからいいから」
知った風な口をききながら家路をたどる。そうこうしているうちに、アパートの前まで来てしまった。
「ほんと、お前のとこボロいよな」
僕はますます混乱する。
「じゃ、僕はここで」
1人で入ろうとすると
「待て待て待て」
と引き止められた。
「意地悪しないでくれよ。な?」
と言って僕を拝む。「…じゃ、」
「待って待って、ホント。なんかさ、気づいたらこんなとこに居るし。ショーウィンドウを見たら俺小学生だし、まじで困ってんの。
だから、ね?」
何がだから、ね? なのかよくわからない。
「…家、帰れないの」と聞いてみる。
「そう! なのでお願い!」
と土下座までする始末だ。僕はただ立ち尽くすしかなかった。家の近所は人通りはそうないけど、1人2人くらいは歩いている。通りすがりにチラチラとこちらを見ていくので、さすがに肩身が狭かった。
「ねえ、顔上げなよ」
そう言ってもコメツキバッタみたいに顔を伏せたままだ。年下の小さい子にそんな格好をさせ続けるのも大人気ない気がする。仕方なく、ため息をついた。
「わかったよ。今日だけだから」
「本当?」
顔だけ上げてこちらを見る。しぶしぶうなずくと、ようやく体を起こした。
「さすが! いやー恩に着るぜ!」
サンキューなと言って抱きついてくる。
「待って! 今日だけだからね。明日になったら出てってよ」
「わかった。約束する!」
なんかとんでもない事に巻き込まれたなあと思いながら、2人で部屋の中へ入った。
次の日起きると、ソファーで眠る子どもの姿が目に映る。
「はあ…」
夢じゃなかったのか。思わずため息が出た。
彼はうーんと言ってぱちりと目を開ける。「おはよう」
「うん」と返した。「何か食べる?」
「じゃあご飯と味噌汁」
と満面の笑みで言う。
「パンくらいしかないけど。トーストでいい?」
「えー」
不満の声を上げるが、ジト目を向けると渋々口を閉じた。
「聞いた意味…」
などとぶつぶつ言っている。僕は聞こえないふりをしてトースターに2枚放り込んだ。
やば、時間が…
あわてて口に詰め込むと、家を出ようとする。
「あ、鍵だけどドアのポストに入れておいて」
「あいよ」
と言うのを背中で聞きながら外へ出た。
僕の仕事はそれほど忙しくないが、月末や年度末だと締めでバタバタする。その日もすっかり日が暮れてから帰宅すると、ドアの鍵が開いていた。
「……」
嫌な予感を覚えながらノブを回すと
「あっ、おかえりー」
と声がする。昨日の子どもだ。
「…なんでまだいるの?」
不機嫌そうな声がつい出てしまう。
「いやー」
視線を逸らしながら返した。
「帰ろうと思ったんだ。でもさ…」
彼が言うには、住んでいた部屋へ行ったら別の人が住んでいたらしい。で、念のために鍵を持っていたので戻ってきたそうだ。
「何それ…?」
「いや、おかしいと思ったんだけど…」
と首をひねっている。
「部屋を間違えたとかじゃなく?」
「うん。確かめたけど確かに〇〇マンションの202号室だった」
と言いながらうーんと腕組みをした。
「実家は?」
「…ちょっと離れてるんだ。だから…」
そうか。文無しぽいしなと察する。
「じゃあ、今度君が住んでいた所に一緒に行くよ」
「えっ、いいのか?」
僕はしぶしぶうなづいた。このまま放置という訳にはいかないし、なんだかこのまま彼を放って置けない気がする。
「…悪いな。何から何まで」
彼はペコリと頭を下げた。
次の休みに、一緒に彼のアパートへ行ってみる。三駅離れたところで駅から少し歩いた場所だった。まあまあ立派な作りで、こんなところで1人で住んでいたのか? と思う。
「ここ?」
「そう。この2階」
階段を上がって行く。
「この部屋だ」
たしかに誰かが住んでいる気配がする。
「でもおかしいんだ。オレのじゃない物が置いてあって」
玄関の前に、子どものらしき自転車が置いてある。
「君のじゃないの?」
「オレは男だぞ。大体年齢が違うし」
「どういうこと」
「だから、オレはお前とほとんど同い年なの!」
「…そんなこと言ってたっけ」
彼はもう、という風にため息をついた後、意を決したように部屋のチャイムを押した。
「はーい」
と声がして、30代半ばの女性が顔を出す。楓はあわてて僕の後ろに隠れた。
「…すみません、こちらに……苗字、なんだっけ?」
と楓に聞く。
「島田」
「島田さんって方は住んでいらっしゃいませんか」
女性は首をかしげた。
「うちは中井ですが…」
「――そうですか」
「はあ」と言って、では、とドアを閉められた。僕はなすすべもなく立ち尽くす。
「おかしいなあ」
楓は首をひねっていた。
「数年は住んでいる感じだったぞ」
と僕は言う。「別のアパートじゃないの?」
「確かにここなんだけど…」
彼は隣の部屋と見比べながら呟いていた。
「とりあえず、周辺のアパートも探してみよう」
隣の建物にも行ってみたが、エントランスに入ると
「明らかにここじゃない」と言う。
「見た覚えがないよ」
結局、彼の住んでいた家は見つからなかった。
楓の実家へ行くことも考えたが
「オレ、年齢が変わってるみたいなんだ」
と言う。この間も言っていたけれど、僕とそう変わらないはずなのに、なぜか小学生になっているようだった。
僕が仕事に行っている間、彼は家にいた。家事をしてくれたりするので初めは驚いた。聞けば、一人暮らしが長くて身についたものらしい。
「どのくらい?」
「たぶん2、3年はやってた」
と言いながらカレーの皿を置く。見かけはそうじゃないけど、高校か大学を出てからなんだろう。
僕はいただきます、と言ってひと口すくった。
「! 美味しい…」
「だろ? 甘めが好きだからそんなに辛くしてないぜ」
なんで僕の嗜好を知ってるんだろう。
そう思ったけど、にこにこしている彼を見ていると、理由なんて必要ない気がした。
でも、時々1人になりたい時は近くの高台へ行った。
ここは沈んでいく夕日がよく見えるお気に入りの場所だ。昼間も僕の住む街が一望できて、晴れ晴れとする。
おもちゃのような電車が小さくカタカタと音を立てて走っていた。
せわしない気持ちがしだいに落ちついていく。僕は深呼吸をした。
と、何かを思い出したような気がする。
「ここ、前に誰かとよく来ていた…?」
とつぶやく。けれど、それが誰なのかわからない。
「んー…」
しばらく記憶を探ってみたけど、頭に靄がかかったみたいに何も思い出せなかった。
「まあ、いいか」
そのうち分かるだろうと思い、家路についた。
「君さ、なんで子どもになっちゃってるの」
ある日、楓に気になっていた事を聞いてみる。
「それが、よく分かんないんだ」
と頭をかいた。何かの拍子になってしまったらしいが、覚えてないらしい。
「気づいたらこんな風になってて」
住んでいた家も別の人が住んでいたしな…
「今度実家に行ってみようよ」
「えー、でも…」
楓は迷うような素振りをした。まあそりゃそうか、姿が変わってしまってるし。
「何か手がかりがあるかもよ」
という事で、次の休みに行くことにした。
当日、朝から彼は具合が悪そうだった。
「大丈夫?」
「ああ、問題ねえ」
なんだか顔が赤い。
「熱あるんじゃない?」
「いいから。行こうぜ」
体温計を持ってこようとする僕を振り切って外へ出る。ちょっと待って、と言いながら後を追いかけた。
「君の家ってどこらへん?」
「◯◯県」
2つ隣の県だ。
「じゃあ、JR線かな…」と検索する。
「たぶんこれに乗れば大丈夫」
「わかった。サンキュー」
と先に歩き始めたが、へなへなと崩折れた。
「えっ⁈」
あわてて体を支え、額に手をあてる。
「熱い…」
彼は目を閉じて息を切らしていた。
「行かなきゃ…」
それでもそう漏らす彼に、声をかける。
「今日はもう止めよう」
「でも…」
薄く目を開けてこちらを見た。
「いいから。また機会はあるよ」
と彼を背負い、家へ戻った。
結局、楓は3日間寝込んでいた。時々苦しそうに何かうわごとを言っている。
僕は家にいられる間はおかゆを食べさせたり、着替えさせたりした。服があまりないので、子ども用のを買って着がえさせたりした。
しばらくすると、起き上がれるようになった。
「ユカリ、ありがとう」
「気にしないで」
見ず知らずの仲なのに、自然とそう返していた。あの日初めて会ったはずなのに、なんだか前から知ってるような気がしたのだ。
「だからそう言っただろ」
と楓はわらう。
でも、なんで思い出せないんだろう。
不思議に思ったけど、結局それは分からなかった。
彼の実家には、電話をしてみたけど繋がらない。
「2人ともアクティブだからな」
とため息をついた。
彼が家に来て、わりと時が過ぎていた。楓はそろそろ家を出ると言っていたが、行く当てがあるか聞くと、黙ってしまった。
それにしても、なんで彼の事が分からないのかと物思いにふけっていると、
「あぶない!」
と腕を引かれる。
ハッとして前を見ると、鼻先を車が通っていった。
「気をつけろー!」
と中から罵声が飛ぶ。
「すみません!」
と彼が答えた。
「楓…」
「何やってんだ、バカ!」
と怒鳴られる。
「お前はいつもボーッとして、危なっかしいんだよ。だいたいあの時だって…、」
と言いながら、途中で言葉が止まる。
あれ? と思うと、なんだか妙な顔をしていた。
「どうし…」
声をかけようとすると、ダッと走りだす。
「え、何?」
後を追いかける僕も、だんだん記憶が蘇ってきた。
そうか。だから…
「待って、楓!」
呼びかけても止まらない。
だけど、コンパスの差でなんとか追いついた。
「……」
そこは、一緒によく来ていた夕陽が見えるあの高台だった。
「懐かしいな、ここ」
彼がつぶやいた。
「何かあるとすぐ来てたよな、ユカリは」
「覚えてたんだ」
「ああ」
「なら、なんで…」
「言えなかった」
その目は、大人だった楓が僕によく向けていた優しい眼差しだった。
「俺の事を忘れて、幸せそうだったから」
「そんな事――」
言いかけて、胸が詰まる。
君を忘れていた方がずっと嫌だった。大事な人だったのに。ずっと一緒にいようと思って…
「でもまあ、しょうがないか」
そう言って、ふっと笑う。
「ごめんな、ずっとそばにいてやれなくて」
そんな事ないと口にしようとすると、胸が詰まった。代わりにぶんぶんと首を振る。
「僕こそ、ごめん…」
こらえきれなくて、ポタポタと雫が地面に落ちた。
あの時、僕がぼんやりしていなければ。
楓が事故に遭う事もなかったのに。
「でも、また会えてよかった──」
そうつぶやく彼の姿が、だんだん薄くなっている。
「…! 楓…」
「そろそろタイムオーバーだな」
「待って、やっと思い出せたのに」
「――じゃあな」
だんだん形が崩れ、光の粒になって空中へ舞っていく。
「やだ! まだ…」
たくさん話したい事があったのに。ずっと一緒に…
手を伸ばしても、もう触れられない。
「かえ…」
全てが光になって、それも少しずつ消えていく。
「〜〜〜〜〜っっ!!」
僕は言葉にならない声で叫び、その場にうずくまった。
──元気でな。
そう、楓が言ったような気がした。
空は赤く染まり、日の光が優しく降りそそいでいる。
姿の見えない│雲雀《ひばり》の声が、高く、どこまでも高く昇っていった。
了
こちらのお題に参加させていただきました↓
#noteでBL 4990字くらいでした。ギリギリだった…
大遅刻ですみません。回想と過去回帰はNGだったのに、記憶喪失の話を書いてしまったので苦戦しました。でも、こんな風に書けば大丈夫かな?とあれこれ考えながら書くのはとても楽しかったです。
なみさんの仰ったNGをしでかしてないかとても不安ですが(そうだったらすみません、直します)。ざっと書いたのでまたあちこち直したりするかも。
どうぞよろしくお願いします。
