見出し画像

花びらをつけて、 (#シロクマ文芸部 ショートショート)

 花びらをつけて、その人はわらっていた。
 僕の母はとても美しい人だった。一緒に歩くと、男の人は皆振り返っていった。そんな母が子供心に誇らしかった。
 でも、僕は父に似て太い眉にどんぐり眼だ。彼女は僕を見て、いつもこう言った。

「お父さんに似て素敵ね」
 母はどこか浮世離れしていて、世間に馴染めていなかった。笑って流せばいいようなことを真に受け、沈んだ顔をしていることもあった。
 だんだん笑顔が少なくなり、閉じこもるようになった。

 僕は学校や友達との生活が楽しく、家を顧みることが少なくなっていった。
 高校を卒業して家を出ると、いつの間にか母は心を病んで、現実を直視しなくなっていた。

 ある時、帰省すると、うれしそうに出迎えてくれる。
「母さん、花見に行こうか」
と2人で出かけた。
 近くの公園でゆっくり歩く。桜の花がかすみのように見えた。休日のせいか、木の下でお弁当を広げている人たちもいる。

「こうやって出歩くのも久しぶりだね」
 話しかけると笑顔を返す。どこかでウグイスが鳴いていた。あと3、4日で満開になりそうだ。
 花びらがちらちらと舞っている。そして彼女の頭に止まった。

「髪に付いているよ」
と教えると、手鏡を見てふわっと笑う。
「素敵だね」
 思わずそう言うと
「ありがとう、ただしさん」
と言った。それは父さんの名前だった。

                  了


#シロクマ文芸部  に参加させていただきました。どうぞよろしくお願いします。


いいなと思ったら応援しよう!