【創作童話】メーソン教授とりすのチェリー⑥(全10話)
それからというもの、しまりすのチェリーは毎日のようにメーソンの家にやってくるようになりました。
チェリーはとても満足していました。
家に帰るときには、いつもたくさんのどんぐりをもって帰れるからでした。
これには、しまりすの兄さんたちも本当におどろいて、目をまるくするのでした。
けれども、メーソンはなんだかおもしろくない顔をしていました。
なぜなら、チェリーはまだ、どんぐり以外の絵をなにも描いていないからでした。
「だってしらないんですもの」
チェリーは、すました顔でそう言いました。
しまりすの家では、電化製品なんてありません。
洋服も着ません。
机やイスだって使いません。
だからしらないのは、あたりまえのことでした。
あるときメーソンは、チェリーにそうじきの絵を描くようにたのみました。
けれどもチェリーは、ほうきの絵をかいてしまって、メーソンにおこられました。
「だって、そうじするものだと思ったから」
チェリーが答えると、メーソンはあきれたように言いました。
「じゃあ、冷蔵庫は?」
「しらないわ」
「洗たくきは?」
「しらないわ」
「ストーブは?」
「しらないわ」
チェリーは、メーソンが言うものをみんなしりませんでした。
チェリーに絵を描かせて、メーソンは自分がラクできると思ったのに‥‥‥。
これでは、なんのために発明品を使わせてやっているのか分かりません。
「タダで、しまりすにどんぐりを作らせてやっても、なんのとくにもならない。役に立たないようなヤツに、発明品を使わせるつもりはないからな」
次の日のことです。
メーソンはチェリーがくるまえに、屋根にのぼって、かなづちで木の板を取りつけました。
なんのしかけもない、ただの板でした。
その上に、いつか近所の子供が忘れていったボールを、しっかりとくっつけました。
これはもともと白いボールだったのを、メーソンが黒いペンキでぬっただけのものでした。
ちょうどそこへ、チェリーがやってきました。
このところ、毎日どんぐりの絵を本物にして、もってかえるのがあたりまえのようになっていました。
『メーソンのために絵を描く』と言ったことなんて、すっかり忘れているようにも見えます。
ときには、
「今日のどんぐりは、絵のできばえがいいんです。本物にすれば、きっとすごくおいしいと思うわ!」
とか、
「昨日のどんぐりは、兄さんのひろったものよりもおいしかったんですよ。もううれしくて!みんなに自慢しちゃいました」
なんて話もしました。
けれど、そんなことメーソンにとっては、どうだっていいのです。
それよりも、少しは人間の生活に必要なものを覚えたらどうなんだと、言いかえしてやりたくなるのでした。
そんなメーソンのことなんて、なにもしらないしまりすのチェリーは、屋根の上にいるメーソンに、のんきに声をかけました。
「あら、メーソン教授。今日はそんな高いところにのぼって、なにをなさっているんです?」
「おお、チェリーか。今日は家に入る前に聞いてもらいたいことがあるんだ。そこでまっているんだぞ」
メーソンは、あわてて屋根をおりました。
今日にかぎって、チェリーはいつもより早く家にやってきたのです。
メーソンがやろうとしていることは、チェリーが家に入ってしまったあとではダメなのです。
先に、言いきかせておく必要があったのでした。
「実はな‥‥‥」
メーソンが屋根からおりると、チェリーは家の前でおとなしくまっていました。
なにごとだろうと、首をかしげていました。
「この家の屋根には、ばくだんがあるんだ」
声をひそめて、メーソンは言いました。
「ばく‥‥‥だん⁈」
チェリーは、目をまるくしました。
それを見たメーソンは、少しニヤリとしましたが、またすぐに、しんけんな顔になりました。
「いやぁ昔、こまったお客がきてね。そいつは発明に必要な部品を売る男なんだが、どうも忘れっぽくて、たのんだ部品をもってこなかったり、注文しようとしても『そんな部品しらない』なんて言ったり、まったく役に立たないヤツなんだ。何度もそんなことが続いたもんだから、とうとう頭にきてね。そこでオレは考えたんだ」
メーソンは紙に『しらない』という文字を書いて、チェリーに見せました。
「この言葉を、この家の中で言ったときに、この家の屋根は、ばくはつするようにしかけたのさ。上を見てみろ。ポッカリ穴があいているだろう?あれは、このばくだんでできた穴なんだぞ」
メーソンの言う通り、屋根にはポッカリ穴があいているのです。
けれど、本当は‥‥‥。
もちろん、ばくだんなんかじゃありません。
メーソンが発明に失敗したときに、薬品がばくはつしてあいた穴なのですが‥‥。
この穴を、メーソンはうまく利用したのです。
「あれ以来、男は部品を忘れなくなったんだが、その男がまた来るというから、もう一度ばくだんをしかけたというわけさ。だからお前も気をつけるんだぞ」
メーソンは、また『しらない』と書いた紙を、チェリーに見せました。
もちろん、これはみんなウソです。
部品を売る男の話も、ばくだんの話だって、メーソンがついさっき思いついたでたらめでした。
チェリーに、どんぐり以外のものを描かせるために、これ以上人間の生活に必要なものを『しらない』と言わせないために、ただそれだけのために、こんなことを考えたのです。
ウソつきのメーソンをよく知っている町の人たちなら、そんなのウソに決まっていると、すぐに分かったことでしょう。
けれど、メーソンがウソばかりつくことなんて、全然しらないしまりすのチェリーは、すっかり信じておどろきました。
「ばくだん‥‥‥ですかぁ」
チェリーは、おそるおそる屋根を見あげました。
たしかに昨日まで見なかった、黒くてまるいものが、屋根にとりつけてあります。
まさか部品をしらないとか、忘れたとか言うだけで、ばくだんで家をこわすなんて‥‥。
(もしかしたら、メーソン教授って、ものすごくこわい人なんじゃないかしら)
チェリーは、不安になりました。
体がふるえて、両手にあせをかきました。
(もし、言うことをきかなかったら、どうなるんだろう?)
つづく
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