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タルタロスはどこにある?九日九夜落ち続ける鉄床の考察

ヘシオドスの「神統記」を読んだ。
文中に、地上からタルタロス(ギリシャ神話における冥界の最奥)がどれほど遠く離れているかについて言及した文章を見つける。曰く「鉄床が九日九夜落ちつづける距離」。
そして、うっすらよみがえる、学生時代の物理の授業の記憶。

あれ…?
なんか、それっぽい公式習った気がする。

おりしも8月。世は夏休み真っ盛り。
ちょうど良い、やってみようか。『自由研究』というやつを…


本自由研究テーマの出典

タルタロスとその住人達
というのも 大地から 藹々たるタルタロスまではそれほど遠く隔たっているのだ。
すなわち 青銅の鉄床が天から 九日九夜落ちつづけて やっと十日目に大地にとどくだろうから。
〔大地から藹々たるタルタロスまでは また同じほど隔たっているのだ〕

ヘシオドス『神統記』廣川洋一訳、岩波文庫(赤 107-1)

上記が今回の自由研究の切っ掛けとなった文章である。
『九日九夜落ちつづける』、果てしない距離を表すのに相応しい表現と言えよう。

でも、アタイ知ってる。
落下時間がわかれば、落下距離がわかる公式があったよね。
公式があって、変数に入る値がわかっていたら、計算してみたくなるよね。

本自由研究では、神話表現の距離感を実際の数字で表現してみたらどうなるの?を楽しみながら考察することを目的とする。
もちろん、空気抵抗だの自然界のさまざまな事象はガン無視した都合のよい考察である。それでいいのだ。だって遊びだもん。

ただし、私はちょっと理数系が残念な人である。
察しのよい方ならお気づきでしょう。

そう、私は初手から誤っている。

そんな悲喜こもごもあわせ、面白おかしく考察だ。
さぁ、楽しい自由研究のはじまりはじまり〜

考察A:自由落下の公式で計算

式:h = ½ g t²
落下時間:t = 9日 × 24時間 × 3600秒 = 777,600秒
重力加速度:g=9.8 m/s²

まずはおなじみ、高校でならった自由落下の公式にご登場願おう。
シンプルな公式でうれしい。さっそく t と g を式にぶち込んでみる。

h ≒ 29.6億km(約19.7 AU)
※AU:天文単位。1AU = 地球と太陽の平均距離(約1.5億 km)

AU…なにこれ、初めて見たかもこの単位。
どこぞの通信キャリア、または金属の元素記号じゃないよね?
地球と太陽の距離が単位って、規模がでかすぎでございます。

ちなみに、この途方もない距離、具体的にどれぐらいかというと……
天王星よりもちょい先くらい。

太陽系における惑星間の相対的な距離
出展:Wikipedia Commons「Solar_system_distances.JPG」

案外知識として知っている宇宙の範囲に納まったな、と思うと同時に、さすがに物理音痴の私でも気が付いてしまう。
『g=9.8』って、地表における重力加速度だよね…

こんな宇宙規模の話になってくると、自由落下の公式って無意味よね。
もっと早く気づきなさいよ……orz

さぁ、どうしよう。ここから先、私の知っている公式なんてないぞ!?

たすけて、Chat-GPTえも~~~~~ん!(のび太風に)

考察B:万有引力の法則を用いて計算

いや~便利な世の中になった。
私に知識がなくても、AIに質問したら計算してくれるからね!
※理数系が残念な人なので、ここから先はファクトチェックができていない。間違いがあっても気付けない。(´・ω・`)ショボーン

いや、でもなんとかなる!考察Aのとんでも結果に比べたら誤差よ誤差!
さっそく質問してみよう。

地球中心から半径 r の静止点から地表までの自由落下時間が9日間になる、r の距離をもとめて。

これに対する、Chat-GPTの回答は以下の通り。

地表からの高さは約57.4万kmです。
月までの平均距離(約38.4万km)よりかなり遠く、月軌道の約1.51倍にあたります。

※以下、計算式も丁寧に説明してくれたが私にはワケワカメなので省略

万有引力の法則(質量が大きいほど引力は強く、距離が近いほど引力は強くなる)を考慮して計算してくれたようです。
そして、中心からの距離 r を求めてとお願いしたのに、地表からの距離を回答してくれている……だと……!?
そう、私が真に知りたかったのは地球の中心からの距離じゃなくて、落下点から地表にドンッ!と着地したときの距離よ!
質問の流れから、言わなくても先回りして応えてくれるなんて。
さてはあなた、かなり賢いわね!

計算結果としては、だいぶ地球に近づいた感がハンパない。
考察Aの結果(天王星よりちょい先)に比べたら、月軌道の1.5倍なんて生活圏内な気すらしてしまう(最初の計算結果のインパクトのせいで距離感がバグっている)。

まとめ:「タルタロス」はどこにある!?

物理の試験などでよく見かけた『前提条件:抵抗無視』など、厳密な計算ではないものの、考察Bでは鉄床の落下点は月軌道の外側にあることがわかった。
一方、神統記では「地からタルタロスまでも、天から地までと同程度に隔たる」と書かれている。古代ギリシャにおいて、冥界は「地下」あるいは「西の果て」とされているが、この距離感で地面の下を掘ると間違いなく地球を貫いてしまう。
人々の世界=地上を仮に地球上と定義する場合、

タルタロスは、間違いなく人の世界の内側には存在していない。

では、古代ギリシャ人たちの感覚はどうだったか?
そもそも、彼らは自分達の生活する世界の範囲を、どのように考えていたのだろうか?

ヘシオドス(紀元前8世紀)からさらに500年ほど時代が下ると、エラトスネテスという人物が地球の外周計算を実施する試みをしている。
計算結果は、地球の外周約4万kmと非常に近い値となっていたらしく、紀元前3世紀の科学の凄さがわかる。
というかこの人たち、既に地球が丸いことを前提として計算してるのよ……ほんとヤヴァイ(紀元前6世紀のピタゴラス学派が『地球が丸い』と提唱)。

紀元前3世紀の古代ギリシャ人たちは、自分たちの「世界」の広さを正しく測る科学をすでに持っていた。一方で神話の中では果てしない時間を具体的な数字ではなく、感性に根ざした「九日九夜」という文学的な表現として愛し続けた。

科学と感性、その両方のまなざしで──タルタロスは人の世界には存在しない。目に見える世界のうちにないのならば、「もっと遠く」「もっと深く」「人知の及ばぬ別世界」にあると彼らは感じ、信じてていたのかもしれない。

タルタロスはどこにあるのか?
もし、ヘシオドスが現代科学における宇宙の姿を知ったならば
──彼はどんな「九日九夜」を描いただろうか。


#古代ギリシャ #自由研究 #ギリシャ神話

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