#シロクマ文芸部 まだ見ぬ私へ、コーヒーを。~短編フィクション小説~
小牧幸助さんのお遊び企画「待ち合わせ」に参加です。
締切は2/18(水)23:59だそうです。よろしくお願いします。
独立したばかりの私と、少し先を生きる私。
ふたりの間に流れるのは、苦くもやさしい時間。
それぞれのコーヒーから立つ湯気が、やがてひとつになる。
※この物語はフィクションです。
まだ見ぬ私へ、コーヒーを。~平行線の向こう側~
待ち合わせの場所は、駅前の小さなカフェだった。
夕方の光がガラス越しに差し込み、コーヒー豆の香ばしい匂いが空気の奥でゆらめいている。
通りを歩く人たちの笑い声が遠くで溶け、時間だけが一定の速度で流れていた。
コーヒーを一口。
苦みのあとに、ほのかな甘さが残る。
その味に心が落ち着くと、目の前の席にもうひとりの自分が座っていた。
未来の私。
少しだけ姿勢が良く、少しだけ目が柔らかい。
でも完全に違う誰かではなく、昨日の私につながる延長線上に確かにいる人だった。
しばらく互いに黙っていた。
静寂に包まれたこの空間は、不思議と心地よかった。
窓の外の光がゆっくりと傾き、薄い金色が机の縁をなぞっている。
未来の私が、笑った。
「やっと来たね。少し遅れると思ってた」
声は今の私と同じなのに、響きが違う。
迷いのない音だった。
「あなたは、成功してる?」
不安を隠せないまま、問いが口をついた。
返ってきたのは、少し考え込んだような微笑みだった。
「成功って、いつも後ろからしか見えないものだと思うよ。
ただ、ここまで来て分かった。
焦らなくても、線はちゃんとつながってる」
その言葉に、胸の奥で何かが溶けた。
私はただ頷き、カップを両手で包み込む。
指先が震えている。
この不確かな日々の中で、どこかへ向かっているという確信を、ようやく手に取るように感じられた。
「ねぇ」
未来の私が視線を向けた。
「あなたは、いま幸せ?」
少し考える。
正直に言えば、不安も寂しさもある。
けれど、それでも進みたいと思えていること。
明日をもう一度信じたい気持ちがまだ残っていること。
それを言葉にすると、未来の私は目を細めて微笑んだ。
「それなら、大丈夫。幸せって、たぶんそこから始まる」
外では夕焼けが滲んで、街の輪郭を金色に包んでいた。
私たちはそれを眺めながら、同じリズムでコーヒーを飲む。
カップの中でわずかに揺れる黒い液体が、未来と現在の境を映している。
やがて、未来の私は立ち上がった。
「そろそろ行くね。焦らなくていい。
線は、どこかで必ず交わるから」
背中が光の中に溶けていく。
それを見送りながら、私はカップを握りしめた。
まだ温度が残っている。
それは確かに、自分が未来とつながっている証のようだった。
外に出ると、風の匂いが新しかった。
私は深呼吸し、足元の影を見つめる。
それは、これまでの私と、これからの私を結ぶ一本の平行線。
でも今は信じられる。
平行線の向こうにも、ちゃんと光がある。
~ 終 ~
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